「来れば、わしづかみされますよ!」水夏希&藤沢文翁にインタビュー~朗読劇VOICARION『女王がいた客室』

インタビュー
舞台
2016.7.14
水夏希、藤沢文翁

水夏希、藤沢文翁


8月27日(土)から9月5日(月)まで、日比谷シアタークリエにて、『クリエ プレミア音楽朗読劇 VOICARION~ヴォイサリオン~』が上演される。様々な朗読劇を手掛けてきた藤沢文翁が原作・脚本・演出を務めるこの舞台に、宝塚の元トップスター・水夏希が出演する。実はかねてより藤沢作品に出演したかったと願っていた水。水と藤沢の出会いや本作に対する考えを二人に伺ってきた。

★同作品で水と同じ役に挑む、三森すずこと藤沢のインタビューはこちらから!


――水さんにとって藤沢さんの舞台に出演することは念願だったそうですが。

水:そうなんです。最初に観たときに「なんだこの世界は!?」って衝撃でした。そして観る側でなくそっちの世界に行きたい、出演したいと思っていました。

藤沢:水さん、僕の舞台を3作ご覧いただいたんですよね。『HYPNAGOGIA(ヒプナゴギア)』『eclipse(エクリプス)』と『Valkyrie ~ Story from RHINE GOLD (ワルキューレ ~ラインの黄金)』。

水:少ないほうですよね。もっとやっていらっしゃるから。まず友人が出ていたこともあって『HYPNAGOGIA』で楽屋にお邪魔したとき、「朗読劇なのに何この衣裳のクオリティは!」…ものすごい好みの衣裳だったので思わず写真を撮りましたね(笑) 。正直なところ、朗読劇を甘く見ていたんです。動かないし、言ってしまえば衣裳なんて必要ないじゃないですか。私服でもいいくらいなのに本当にすごいんですよ。で、楽屋を出て客席に行ったら舞台装置にまたテンションが上がって! 客席全体がすでに作品の世界で……心をわしづかみされて、それで朗読を聞いたら今まであり得なかった感覚でした。

水夏希

水夏希

藤沢:それを聞いて僕が泣きそうです(笑)。僕もずっと出ていただきたい、と頭の片隅にずっとあって。それで僕も今回ようやく念願かなったというところです。

水:朗読劇ってお客様の想像力にゆだねられる、人によってその想像の形は違うんですが自由に楽しめるところが魅力ですね。好き勝手に想像できるところが。

――そもそも藤沢さんが衣裳や舞台装置にとことんこだわる意味とは?

藤沢:朗読劇だからこそ、普通の舞台にある規制が解けるんです。衣裳なら「重すぎる」「広がらない」とか。朗読劇なら動かないので街を歩くには不適切なくらいの衣裳、見栄えだけにこだわる衣裳も作れるんです。セットもそうですね。舞台の真ん中に照明を置くこともできるし、特殊効果の炎もおける。これぞ朗読劇ならではですよね。

今回参加してくださる東宝舞台の衣裳部さんもめちゃめちゃノリノリで。普段の仕事と違う感覚で作れるって笑顔で現場に来てくださってます。「なにを着せようかって」(笑)

藤沢文翁

藤沢文翁

水:でもメイドなんですよね、私の今回の役って(笑)。

――ちなみに水さんの衣裳​はかわいい系メイド?それともクール系?

藤沢:一応クール系で準備されていますよ。今回のキャストは同じ役の人でも全員違う衣裳が用意されているんです。

――普段「動いて」演技されている水さんが今回「止まって」演技をしなければならないのは大変なことですよね?

水:両手を縛られて、という感じですね。だからこそ勉強にもなるだろうし、自分の翼を取られてどうやってやろうか、という点で新しい自分を出せたらと思っています。

お芝居って「ACT」(行動・動き)ですから、態度で表現する部分がいっぱいあるので、それをしないでどこまでできるのか、は難しいと思いますが、逆に言葉のやりとりだけに集中できるのはいつもよりたくさん表現できるかもしれませんね。ちなみに宝塚の時は、声から役作りをしていました。この役ならこのくらい低くて太い声かな……とか。

藤沢:翼と聞くと、あの(トップスターが背負う)大きな羽根を思い出しますね。

――あの羽根も十分重そうなので、動きが大変そうだな、と想像しているんですが。

水:「羽根の重さは責任の重さ」ですから! あの大きな羽根を自由自在に動かすのが醍醐味ですから!(笑) 特に宝塚のお芝居は、歌と踊りといろいろなもので補い合って表現しているから、何かに特化している訳ではないんです。ですが今回は「声だけ」。
声優の方はそれこそ顔も見えない、声だけで表現されるし、キャリアも素晴らしい方々ですよね。

藤沢:お一方はクイズの女王ですから!(笑)

水:もう……(笑)セリフの中にもこういった笑いをちょいちょい入れてくるんですよ。すごく楽しいです!

――台本を読んでどんな感想を抱きましたか?

水:(演じるエレオノーラ)は、やったことのない役だなあと思っていて。

藤沢:宝塚のトップスターに「売れない女優役」ですからね(笑)真逆ですし。

水:人物設定…生きざまや人格が自分に全然ない役なんです。もっと若い頃に自分の中にもこんな一面があったな、と思うところもあるんですが、いまの自分には全然ない役なので昔を思い出しながらやろうと思っています。これが貴族の設定ならばその時代の背景などをすごく勉強するんですが、そうではない役どころなので、人物のメンタルを研究しようと思っています。でも「新人類」って面白い言葉ですよね。私たちが新人のころ先輩たちから「新人類」と呼ばれていたのに、私たちが上級生になったころ、下の世代を「新人類」と呼んでいました。その連鎖だから。

藤沢:「新人類」には、新時代を担う強さがあると思うんですよ。未来を照らしていく…それが正しくても間違っていても、それを照らす力があると思う。水さんは力強さがある。芝居してない状態、いま隣に座っていても何か感じるものがある。水さん演じるエレオノーラは、未来を明るく照らす元気なキャラクターであるとともに、過去の遺物である平田広明さんと山路和弘さんを……。

――そこはなにとぞ役名で(笑)

藤沢:(笑)貴族の方々を消していってしまう存在でもある。その力強さを水さんに担っていただきたいなと。身体の中にないとそういう力強さは出てこないですからね。

水:エレオノーラは最後に感情的になるシーンがあるんですが、最初はなんでここで感情的になるかわからなかったんです。でも台本を何度か読み返して、その理由がすごくシンプルなもので、この人の原点なのかな、と思いました。私自身はあまりシンプルではないので、エレオノーラになれるよう、シンプルに、いらないものをはぎ取っていこうと思います。

台本を読んでいて共感したのは、かつて貴族だった人たちの過去と現在の切ないシーン。宝塚という夢の世界で生きていた自分と、いま現実にSuicaで電車に乗っている自分と(笑)

藤沢:…改札に羽根がつっかえる(笑)

水:(笑)もし、宝塚にいたことを忘れればもっと楽に生きられるかもしれないのに、宝塚にいた過去は絶対に消し去れないし、消したくない自分がいる。男役でいることが許されない世界にいる今、どうやって生きるのがBESTなのか…そんな思いが貴族たちを見ているとよぎりますね。

藤沢:ある意味お客の目線にいちばん近い立場でしょうね。

水夏希、藤沢文翁

水夏希、藤沢文翁

――水さんとコンビを組む相手が平田さんと山路さん。他の組でなくあえてこの二人がいる組に水さんをキャスティングした理由は?

藤沢:「役者経験」のある人たちのグループなんですよ、舞台役者さん。平田さんは劇団昴、山路さんは青年座、そして水さんが宝塚歌劇団。このグループは他とは違う光を放つと思ったんです。

水:お二人とも声が素敵な方ですので、大変ですけどすごい楽しみです。短期間にいろいろなことを吸収したいです。舞台を観るのもそうですが、お稽古の段階でどのように取り組まれるのか、すごい興味がありますね。

藤沢:エレオノーラの芯の強さは「声」にあったりもする。水さんの声は、しゃべっているとどんな話でも明るくしてくれる、何かあったら相談したくなる、大丈夫だよ!って言ってくれたらそう思える声質だなって思ってます。

僕はこの舞台をパフォーミングアートと呼んでいますが、そこで大事なのはいかにお客様に「行間」を想像していただくこと。お客様しか想像できない何かを想像していただく、それは誰にも奪えないものですからそれをもって帰っていただく。そのために必要な情報をこちらから提供し、不必要なものは削ぐことも大事だなと思っています。

イタリアの美術用語で「トルソー」という言葉があります。ミロのヴィーナス像は腕が欠損していますが、その欠損している部分を頭の中で想像する美術…朗読劇もある意味「トルソー」だと思うんです。

――劇場にいらっしゃるお客様には真っ白なままできていただきたいですか?あるいは何か心の準備が必要でしょうか?

藤沢:朗読劇を始めたとき、自分なりに模索して作っていたんです。でも逆風のほうが多かったんです。「つまらない」とか「読むだけでしょ?」とか。そんな中で生きてきたので、どんな悪いイメージを持っている人でもいいので一度観てほしい、イメージはどんなものをもっていても構わないから、と思っています。

水:「(劇場に)来れば、わしづかみ!」ですからね!

水夏希、藤沢文翁

水夏希、藤沢文翁

 
公演情報
クリエ プレミア音楽朗読劇 VOICARION~ヴォイサリオン~

■日時:2016年8月27日(土)~9月5日(月)
■会場:日比谷・シアタークリエ
■原作・脚本・演出:藤沢文翁
■作曲・音楽監督:小杉紗代

■出演
☆8月27日(土)~9月2日(金) 『女王がいた客室』
鈴村健一、浪川大輔、沢城みゆき、中村悠一、山口勝平、石田彰、保志総一朗、三森すずこ、甲斐田ゆき、入野自由、平田広明、山路和弘、水夏希/竹下景子
☆9月3日(土)~9月5日(月)『Mr.Prisoner』
上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一

■公式サイト:
http://www.tohostage.com/voicarion/​

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