渋谷でアートに「一目惚れ」体験はいかが? ファッションイラストレーター・Kumiko Kikuchiインタビュー
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Kumiko Kikuchi《Panacea》
アパレル雑誌やブランド広告などで、美しく華やかな世界を紡ぎ出すファッションイラスト。最近では、ブログやInstagramといったネット上で話題になる日本人アーティストも増えてはいるものの、著名なファッションイラストレーターというと海外出身者のほうが多い印象だ。そんな、日本では珍しい「ファッションイラストレーター」として活動するアーティスト・Kumiko Kikuchiの個展『PANACEA(パナシア)』が、渋谷・道玄坂にある「eplus LIVING ROOM CAFE&DINING」にて、2016年7月中旬から開催されている。若者×ファッションの街・渋谷において、彼女はどのような意図を持ってこの展示会に臨んでいるのだろうか。
Kumiko Kikuchi
――Kikuchiさんがイラストレーターとして本格的に活動を始めたのは、2015年4月と比較的最近ですね。どういったきっかけでこの道を志すようになったのでしょうか。
去年までアパレル会社でグラフィックの仕事をしていました。その仕事と並行して、5年ほど前から趣味で絵を描いていたんです。その頃から女性やファッションをテーマにした作品を描いて、地元の愛媛で展覧会をしていたのですが、田舎での人脈や仕事の幅に限界を感じまして。それで、勢いで東京にやってきました。いまでも時々グラフィックの仕事もしていますが、やっぱりイラストのほうが好きですね。
――アパレル会社でのグラフィックのお仕事とは?
当時は、店頭で設置されるポップやカタログの仕事が多かったです。人物イラストというよりも、いま流行っている手書きのフォントなどを提供していました。
書き下ろし作品(Works for Living Room Cafe & Dinning)
――過去にはグラフィック系の学校や美大などに通われていたのでしょうか。
いえ、独学です。IllustratorとPhotoshopのソフトを学べる通信教育のようなものは受けていましたが、グラフィックは会社に入ってから始めました。学校で学ぶことと会社に入ってから手掛ける仕事は別ものなので、グラフィックをやりたければ、私は会社に入ってから経験したほうが効率がいいと思いますね。
――これまでに影響を受けたアーティストはいますか?
もともと、70~80年代ファッションの世界観やイラストが好きなんです。その頃に活躍されていた、ファッションイラストレーターのアントニオ・ロペスやトニー・ヴィラモンテスから刺激を受けて、ドローイングを始めました。私は描き込みすぎないシンプルな絵が好きなので、一本の線で美を表現している彼らの作品はとてもかっこいいと思います。
――「ファッションイラスト」というジャンルは、イラストのなかでも比較的ニッチな印象があります。
日本ではそうですね。私が好きなのも、ほとんど海外のアーティストです。なので、「ファッションイラストレーター」と名乗るよりも、「イラストレーター」と言っていたほうが仕事の依頼も受けやすいんですよね。
書き下ろし作品(Works for Living Room Cafe & Dinning)
――制作において、画材はどのようなものを使われていますか?
水彩の透明感が好きで、イラストを描き始めた時も水彩画からスタートしたんですけど、今回の個展ではほぼ全部、画用紙にアクリル(ガッシュ)で描いています。仕事でタブレットを使うこともありますが、今回の展示ではリアル感を楽しんでいただきたいと思いまして、すべて原画にしています。
――全作品を「一目惚れ」というテーマで制作されているそうですが、このコンセプトにはどのような意図が?
私自身が人やものを好きになるとき、あまり深く考えずに、ファーストコンタクトで「いいな」と思うことが多いんです。そうやって好きになったものは長く大事に使ったり、好きになった人とも関係が長続きするんですよ。なので自分が描く絵も、アートにまったく興味がない人であっても、パッと見て「あ、素敵だな」って思えるような作品を目指しています。気難しい絵よりも、瞬間的に「いいな」となる絵を描きたいです。
――今回の個展のタイトル「PANACEA(パナシア)」とは、どういった意味なのでしょうか。
「PANACEA(パナシア)」は、「万能薬」という意味のギリシャ語です。LIVING ROOM CAFEには、アートだけでなく音楽(日々のライブ演奏)や食事もそろっているので、足を運んでくださるお客様がこの空間に癒しを感じてもらえればと思って、このタイトルを選びました。絵のタイトルというよりも、このカフェ空間全体をイメージして名付けています。
――なるほど。そんな『PANACEA』の見どころを教えてください。
この展示のために初めて描いた、大きいサイズの絵を見てほしいなと思います。日本は部屋が狭いということもあって、部屋に絵を飾るという習慣があまりないじゃないですか? なので、これまでは玄関にでも飾れるように、なるべく小さいサイズでお手頃価格の絵を描くようにしていたんです。でも、今回の展示のために初めてチャレンジしてみまして、大きい絵もいいなと思うようになりました。
Kumiko Kikuchi《Pisces -魚座-》
――LIVING ROOM CAFEは、普通のギャラリーなどとは異なる空間ですよね。実際に展示をしてみて印象はいかがですか?
アーティストの山下良平さんと友人なのですが、以前彼がこちらで個展をしていたことで、この場所を知ったんです。すごく素敵なところなので、ここで展示をすることは本当にプレッシャーでした(笑)。ギャラリーなどでの展示会だとお客さんは絵を見にきてくれるものですが、こういったカフェだと絵がメインではないじゃないですか。なので、アートとお客さんの距離感をもっと縮められるような工夫ができたらなと思っています。
――今後、挑戦したい制作テーマなどはありますか?
切り絵ですね。といっても、切り絵をたくさん使うのではなくて、絵の中のちょっとした線などを切り絵で表現できればと考えています。いま試行錯誤しているんですけど、うまくいったらかっこいい絵ができると思うんです。もっともっと線を省略して、色も最大三色くらいで表現できるようにして、よりシンプルなものを目指したいですね。
――最後に、会期中のLIVING ROOM CAFEに足を運ぶ方々へメッセージをお願いします。
ファッションって、女の子が特に好きなもののひとつだと思うんですよね。渋谷という場所柄、ファッションに敏感な若い女性も多いと思うので、そういった層にもアート作品に興味を持っていただけたら。せっかくこの空間に来ていただけるのであれば、アート・音楽・食事と、ぜひ五感を使って楽しんでみてください。
Kumiko Kikuchi《Street Fashion》
インタビュー・文=まにょ
日時:2016年7月15日(金)~8月12日(金)
会場:LIVING ROOM CAFE by eplus (東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F)
詳細:https://livingroomcafe.jp/art/kumiko-kikuchi-art-exhibition-panacea