日本全国のおすすめアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)美術館7選

2016.7.27
コラム
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アート

はじまりの美術館『unico file.01 伊藤峰尾展』より 撮影=まにょ

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燃えさかるような情熱を放ち、目にした人の心を捉えて離さない『アール・ブリュット(アウトサイダー・アート)』。欧米などと比較して、日本ではまだそれほど浸透していない美術ジャンルながらも、ここ数年でようやく国内各所にアール・ブリュットを専門とする美術館が開設されるようになってきた。今回は、全国のおすすめアール・ブリュット美術館を、見どころや近隣の観光情報なども交えて紹介したい。

アール・ブリュットとは?
「生の芸術」を意味するフランス語。英語で「アウトサイダー・アート」とも呼ばれる。1945年、フランス人画家のジャン・デュビュッフェによって提唱された美術ジャンルのひとつ。美術の専門教育を受けていない人物が、周囲からの評価を気にせず自らの衝動のままに表現した作品を示す。一部、知的障がいや精神障がいを持つ人物による作品なども含む。

 

1:るんびにい美術館(岩手県花巻市)

るんびにい美術館公式サイトから引用(http://kourinkai-swc.or.jp/museum-lumbi/access/index.html)

岩手県のるんびにい美術館では、知的な障がいや精神に障がいのある作家たちの作品を「ボーダレス・アート」と称して展示している。一階ギャラリーは入館無料で、館内にはカフェとベーカリーも併設されている。二階はアトリエとなっていて、来館者も自由に見学が可能だ。このアトリエで活動しているのは、美術館の運営母体である社会福祉法人光林会の施設利用者ら。こうしたアトリエが併設されているタイプの美術館は、国内でもとても珍しい。ぜひこちらで、個性的な表現が生まれる現場を目の当たりにしてみてはいかがだろうか。

 

2:はじまりの美術館(福島県耶麻郡)

はじまりの美術館 撮影=まにょ

福島県・猪苗代湖からほど近い場所に位置するはじまりの美術館は、震災後の2014年にスタートしたばかりの施設だ。障がいのある人びとの支援事業を行う安積愛育園に所属している作家や、東北地方にゆかりのある展示テーマを取り扱うことが多い。

『unico file.01 伊藤峰尾展』展示風景 撮影=まにょ

また、築130年の酒蔵『十八間蔵』をリノベーションし、建築家・竹原義二(無有建築工房)によって設計された建物も見どころのひとつ。館内は木材をふんだんに使用したあたたかみのあるデザインとなっていて、この建物目当てに訪れる建築ファンも少なくないのだそう。ちなみに、竹原義二はこの後紹介する、鞆の津ミュージアム、藁工ミュージアム、ボーダレス・アートミュージアム NO-MAの設計も手掛けており、これらもすべて味わい深いリノベーション建築となっている。

 

3:もうひとつの美術館(栃木県那須郡)

もうひとつの美術館公式サイトより引用(http://mob.sblo.jp/index-4.html)

日本初のアール・ブリュット専門美術館として、2001年にオープンした、もうひとつの美術館。「みんながアーティスト、すべてはアート」をコンセプトに、年3回の企画展を開催している。里山の自然に囲まれたロケーションで、最寄りのJR・氏家駅からバスで約45分、そこからさらに徒歩で約25分かかる。アクセスしにくい立地ではあるが、明治時代に建てられた小学校の木造校舎を再利用したとてもめずらしい設計となっているので、わざわざ訪れてみる価値ありだ。校舎内にはカフェ・ギャラリーも併設されている。また、近隣には「美人の湯」と呼ばれる馬頭温泉郷も。

 

4:ボーダレス・アートミュージアム NO-MA(滋賀県近江八幡市)

ボーダレスアートミュージアム NO-MA外観 撮影=まにょ

2004年、「障がい者の作品を常設できるギャラリー」として誕生したのが、滋賀県のボーダレス・アートミュージアム NO-MA。
NO-MAは早い段階から海外のコレクションや美術館と連携し、過去にはパリでの展覧会も開催している。こうした活動が海外から高い評価を受け、日本のアール・ブリュット発展の礎となった美術館だ。

近江八幡の町並み 撮影=まにょ

NO-MAがあるのは、近江八幡市の重要伝統的建造物群保存地区。美術館は古民家を改修した造りとなっているほか、周囲にも歴史的な建造物や資料館、オシャレな古民家カフェなども多い。アール・ブリュット専門美術館の多くは、アクセスが悪く、周囲に観光名所も少ないので、わざわざ遠出しても時間を持て余してしまうことが多い。しかし、近江八幡はNO-MA以外に見どころや食べどころも豊富なので、観光がてら訪れるのにもぴったりだ。

 

5:みずのき美術館(京都府亀岡市)

みずのき美術館公式サイトより引用(http://www.mizunoki-museum.org/exhibition/)

今回紹介するなかで、おそらく一番足を運びやすいのが、みずのき美術館だろう。こちらは、京都駅から電車で30分ほどの亀岡駅に佇む、アール・ブリュット専門の美術館。障がい者支援施設『みずのき』にちなんで名付けられ、2012年にオープンした。美術館設立から日はまだ浅いものの、『みずのき』では1960年代から積極的に入所者の芸術活動を支えていたため、多くのアーティストから注目されていた。みずのき美術館の設計は、こちらも建築ファンのあいだでは有名な建築家・乾久美子。京都観光の際には、ぜひ亀岡駅まで足を伸ばしてみてほしい。

 

6:鞆の津ミュージアム(広島県福山市)

鞆の津ミュージアム公式サイトより引用(http://abtm.jp/)

鞆の津ミュージアムがあるのは、ジブリ映画『崖の上のポニョ』の舞台にもなった、広島県の港町・鞆の浦。こちらも先ほどの近江八幡と同様、周囲には歴史的で情緒あふれる町並みが広がっており、観光にもおすすめだ。

『極限芸術~死刑囚の表現~』展フライヤー 撮影=まにょ

鞆の津ミュージアムでは、障がいを持つ人々だけでなく、型破りな作風・境遇の作家による作品展示も精力的におこなわれている。なかでも、2013年に開催された、死刑囚たちの作品展示『極限芸術~死刑囚の表現~』はネットを中心に大きな話題となっていたため、名前を目にしたことがある人も多いのではないだろうか。ほかにも『ヤンキー人類学』展など、前衛的な企画が豊富だ。過去のイベントでは茂木健一郎や都築響一、根本敬といった豪華な顔ぶれも登壇しているので、現代アートやサブカルチャーファンもぜひチェックしてほしい。

 

7:藁工ミュージアム(高知県高知市)

藁工ミュージアム公式サイトより引用(http://warakoh.com/museum-blog/?paged=2)

高知県・江ノ口川のほとりに位置する、アートゾーン藁工倉庫。歴史ある倉庫群を改築し、美術館『藁工ミュージアム』やレストラン、演劇ホールなどを併設した複合施設として、2011年にオープンした。藁工ミュージアムでは、障がいのある作家を中心に、専門の美術教育を受けずに自由な制作をおこなうアーティストの作品を紹介。高知県にゆかりのある作家や作品についても、積極的に取り上げている。施設内のレストラン『土佐バル』ではご当地ならではの食材を堪能できるほか、先ほども紹介した竹原義二による土佐漆喰やヒノキの木組みを使った建築も見どころとなっている。

 

地方観光では一足伸ばして、アール・ブリュット美術館へ行こう

日本でもアール・ブリュットを扱う美術館が増えてきたものの、まだまだ小規模で知名度も高くないところがほとんどだ。しかし、関連イベントやワークショップに力を入れていている施設も多く、お手頃価格で充実した内容を堪能することもできる。展示を見るためだけに遠方から訪れるのはハードルが高いという方も、こうしたイベントごとや、近隣の観光情報とあわせて足を運ぶといいだろう。

 

文=まにょ