EMON AWARD受賞記念 「働くとは何か」を訴えかける『吉田亮人写真展』レビュー
『吉田亮人写真展』SOLO EXHIBITION “Tannery”
エモンフォトギャラリーが開催する写真コンテスト『EMON AWARD』を受賞した吉田亮人の展覧会が、2016年8月11日(木)まで東京・広尾のEMON GALLERYで開かれている。
吉田はアジア各地を旅しながら、「働くとは何か」をテーマに作品を発表してきた写真家である。
本展覧会は、EMON AWARD受賞を記念して開催されるもので、最新作《Tannery》を中心とした展示で構成されている。2013年~2015年までバングラディッシュにある革なめし工場に通って撮りためられた本作は、現代の資本主義社会の構造に一石を投じるような社会性を孕みながらも、吉田の色彩感覚や光や影の幻想的な描写によって、単なるドキュメンタリー作品を超えた魅力をもつ作品に仕上がっている。
この《Tannery》に写される人物たちは、薄汚れた小部屋で肩を寄せ合って眠り、有害な化学物質でまみれた指でパンをかじる。そしてひたすらに働いている。彼らになめされる皮たちは腸壁のように蠢き、消化しようと取り囲む。しかし、不思議と吉田の写す彼らは不幸ではない。そんな安直な言葉は受け付けないようなリアル感がそこにはある。オレンジや紫、赤や黄色に染められた鮮やかな皮たちは、卑しく己を光らせて、確かな搾取を表しているようだ。しかしその鮮やかな皮たちの間を、軽やかに通り抜けて働く彼らの姿は、未来を担保に輝く皮たちの誇りなどへは見向きもせず、今を生きる真実に満ちている。
展示にあわせて刊行された写真集も、吉田のこだわりがつまった仕上がりになっている。本書は、工場の労働者たちが実際になめした革を吉田が買い付けて制作したブックケースに収められ、100部限定の特装版としてリリースされている。労働のさまを写す写真達が、その労働の"結果"に収められているこの写真集からは、彼らの生きた過程を直接的に感じ取ることができる。
東京というネオンの街に住んでいると、暗闇を忘れてしまう。明日の光を求めて飛ぶ鳥が、闇の中を超えて飛ぶ羽音も、雑踏はかき消してしまう。煌びやかなショーウィンドーのマネキン達の瞳は、まるで何かを訴えるように、一点を見つめる。写真展を見た帰り、玄関でお気に入りの革靴を脱いだ時、思わずドキッとした。この皮は一体どこからやってきて、誰の手でなめされたのだろうか。今まで考えもしなかった、私の生活を支える様々な“皮”の影に、働く彼らの姿がちらつく。ずっと重くなった靴を脱いで、いつもの生活に戻る足はいつまでも軽くならない。
平日11:00~19:00 / 土曜11:00~18:00 / 日・祝日:休廊(ただし8月11日は開廊)
会場:EMON PHOTO GALLERY
106-0047 東京都港区南麻布5-11-12, togo Bldg.B1