「あいちトリエンナーレ2016」参加アーティスト 制作レポート② 佐藤翠&ルアンルパ 

レポート
舞台
アート
2016.8.15
佐藤翠/長者町会場 八木兵錦6号館 2階  「空間を自由に使わせていただき、とても嬉しかったです。見る方が作品の中に入り込めるかのような錯覚を感じていただければ」

佐藤翠/長者町会場 八木兵錦6号館 2階  「空間を自由に使わせていただき、とても嬉しかったです。見る方が作品の中に入り込めるかのような錯覚を感じていただければ」

〜クローゼットをモチーフに絵画を描く佐藤翠と、アートスペースを拠点にさまざまな学びを提供するジャカルタのアーティスト集団・ルアンルパの制作現場より〜

制作レポート第2回は、名古屋の長者町会場で作品を発表する2名のアーティストをご紹介。名古屋の中心部・栄と名古屋駅の中間に位置する長者町は、戦後から繊維関係の問屋街として発展してきた街である。一時は不況のあおりを受けシャッター街と化したが、2010年の「あいちトリエンナーレ」初回から空きビルや駐車場などが展示会場として活用され、今や“アートの街”のイメージも定着しつつあるエリアなのだ。

トリエンナーレの情報発信基地である「アートラボあいち長者町」のほか、今回は7つのビルや店舗が展示会場となるが、名古屋を拠点に活動する佐藤翠(1984年愛知県・名古屋市生まれ)は「八木兵錦6号館」で作品を発表。クローゼットをモチーフとした絵画を手がける佐藤にふさわしいエリアでの展示となる。

今回の展示にあたり大作に挑んだそうで、青を基調に大きなクローゼットを描いた2点をはじめ、2階の大展示室に並ぶ新作14点は大きな作品がほとんどだ。絵の背景となる壁一面には紺色の別珍が貼られ、この部屋全体がひとつのクローゼットのような雰囲気を醸し出し、彼女の作品世界をいっそう際立たせている。

また、キャンバスだけでなく鏡に描いたものもあり、こちらは昨年から本格的に描くようになったのだとか。展示空間そのものが作品になる〈インスタレーション〉として、鏡の奥にも空間が作られることや鑑賞者や作品も映し出すことに興味を持ち、新しいことを伝える装置として鏡を使用しているという。

こちらは鏡に描かれた作品《Mirror Royal blue closet Ⅰ》。よく見ると、床や人が映りこんでいるのがわかる

こちらは鏡に描かれた作品《Mirror Royal blue closet Ⅰ》。よく見ると、床や人が映りこんでいるのがわかる

今や、描きたいものを明確に表現し深化させている佐藤だが、名古屋芸術大学在学中は「何を描けば良いのか悩んでいた」と言い、フランスに短期留学した際、自分自身について考えたという。服屋でアルバイトしていた経験も持つ彼女は、そこでファッションへの興味や変わらない価値観を再認識し、絵を描く気持ちを取り戻したのだ。

こうしてクローゼットの作品を描いていくうち、洋服のモチーフとして花や植物が多用されていること、そして装飾的なものに惹かれていた大元の“美しさの核”がそこにあったのだと気づき、植物も描くように。それらは今回の新作にも何点か含まれているが、抽象的な表現のものが多い。その理由として、「限定的にならずに想像の余地を残すことができれば」と語った。

植物を抽象的に描いた新作のひとつ《Mirror green garden or carpet》

植物を抽象的に描いた新作のひとつ《Mirror green garden or carpet》

大展示室の隣には小部屋があり、ここでは棚にディスプレイした39点の小品を中心に展示している。個別に描かれた煌びやかなジュエリーや美しいハイヒールなどがきれいに整列している様は、まるで大切なものが詰まった宝箱のよう。思い出の品や、イギリスの「大英博物館」に収蔵されているヴィクトリアン・ジュエリーなど、彼女の心を捉えて離さないもので埋め尽くされているのだ。

1点1点じっくり鑑賞したい小品の数々

1点1点じっくり鑑賞したい小品の数々

この真向かいの壁には、美しいハイヒールがずらりと並ぶ作品も

この真向かいの壁には、美しいハイヒールがずらりと並ぶ作品も

そんな佐藤の作品は、岡崎の六供会場・石原邸でも縁側で鏡を使った作品が展示されるほか、トリエンナーレの関連企画として、名古屋駅の「JR名古屋タカシマヤ」でも期間限定で展観。1階メインステージにて、同店で取り扱う靴とコラボレーションした展示が行われる。


一方、インドネシアを拠点に活動するルアンルパは、「堀田商事株式会社」1階で私設の学校〈ルル学校〉を開校する。ルアンルパは、アーティストが主導し2000年に設立した非営利団体で、インドネシアにおける現代の都市問題に批評的観察眼を持って対峙し、社会学、政治、テクノロジー、メディアなどあらゆる分野の思考や実践を横断しながらアートの創造性を駆使して、都市やその文化的課題に応答する活動を展開している。

ジャカルタで拠点となるアートスペースを運営し、展覧会やワークショップ、アートフェスティバルの企画運営、各種リサーチプロジェクトなど多彩な活動を展開しているが、2015年からは、公的な学校とは異なるお互いに学び合うプロジェクト〈institut ruangrupa〉をスタート。今回の〈ルル学校〉もその活動の一環となるものだ。

ルアンルパ〈ルル学校〉/長者町会場 堀田商事株式会社 1階  内覧会では、メンバーが今回の活動内容について語った

ルアンルパ〈ルル学校〉/長者町会場 堀田商事株式会社 1階  内覧会では、メンバーが今回の活動内容について語った

プロジェクトメンバーは会期中の2ヶ月半の間、延べ9人が入れ替わり来日するが、報道陣に制作現場が公開されたこの日は、ルアンルパ中心メンバーのひとり、サレ・フセイン(1982年生まれ)が登場。
「今回の〈ルル学校〉では11人の参加者をウェブサイトで募り、自身について語ってもらいます。芸術のプロである必要はなく、各自が持っている知識や技術を学び合えばいい。何らかの知識を与えてくれる人も呼びたいと思っています。それぞれの知識を包括したところで、文化的エージェントが構築できれば。提供してもらったスペースも独占するつもりはなく、シェアして有効活用していきたい。何かを生産するというより、ネットワークを作ることが中心になっていきます」と、プロジェクトの詳細について語った。

堀田商事の堀田勝彦代表取締役とサレ・フセイン

堀田商事の堀田勝彦代表取締役とサレ・フセイン

また、第1回「あいちトリエンナーレ」から会場を提供する堀田商事は、海外作家の受け入れをサポートすべく、同ビル内にメンバーがレジデンスするスペースも新設。それについて堀田勝彦代表取締役は、
「第1回の開催以降、長者町ではアートに対する理解者が増え、トリエンナーレを大切に扱うようになりました。町としても進化していくことを考え、一過性のものではなく引き継いで根付いていくために、町のビルの中でやれることをやってみようと。アーティストが動きやすく過ごしやすい環境でアートを制作してもらい、最高のパフォーマンスをしてもらいたい」とエールを送り、
「飲食店も巻き込んで、アーティストを歓迎する店を作ろうと考えています。マグネットのように人が引き寄せられてくれれば」と、町のさらなる活性化への意欲も語った。

ルアンルパのメンバーが滞在する、堀田商事内のレジデンススペース

ルアンルパのメンバーが滞在する、堀田商事内のレジデンススペース

 
イベント情報
あいちトリエンナーレ2016

■テーマ:虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅
■芸術監督:港千尋

■会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日) 74日間
■会場:名古屋地区/愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、栄会場、名古屋駅会場 豊橋地区/PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場 岡崎地区/東岡崎駅会場、康生会場、六供会場
■料金(国際展):◆普通チケット/一般1,800円、大学生1,300円、高校生700円 ◆フリーパス/一般3,600円、大学生2,500円、高校生1,200円  ※中学生以下は無料、パフォーミングアーツ及びプロデュースオペラは別途チケットが必要。詳細は公式サイトで確認を
■問い合わせ:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局 052-971-6111
■公式サイト:http://aichitriennale.jp/

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