自由研究付き! ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』記者会見

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2016.8.15
(前列左より)上田誠、金丸慎太郎、藤谷理子、福田転球、石田剛太、酒井善史(後列左より)角田貴志、諏訪雅、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

(前列左より)上田誠、金丸慎太郎、藤谷理子、福田転球、石田剛太、酒井善史(後列左より)角田貴志、諏訪雅、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

「機械とおっさんの絡みが見れるのが、今回の企画性です」(上田)

9月3日(土)の滋賀・栗東プレビュー公演を皮切りに、10都市で全国ツアーを行うヨーロッパ企画の新作『来てけつかるべき新世界』(関西圏以外の人は「来て」「けつかる」「べき」と区切ると読みやすいですよ、と関西人からのアドバイス)。ヨーロッパ企画メンバー+ゲストの福田転球、金丸慎太郎、藤谷理子が出席した記者会見が、大阪で行われた。


まず今回の作品について、劇団代表で作・演出の上田誠から「関西弁の芝居って本公演ではやったことがなかったんですけど、実はすごくやりたかった」との言葉が。「関西弁というと人情喜劇のイメージがあるけど、それをストレートにやるのもなあ…と考えていたんです。でもたまたま本屋さんでドローンの本を見かけた時に、大阪のおっさんがドローンと戦っているという絵が浮かんで“これで劇になる”と思いました」。さらに、最近は観光地としても人気を集める大阪のレトロタウン・新世界を舞台にしたのは「今〈2045年問題〉といって、その頃には人工知能が人間の賢さを超えて手がつけられなくなるというのが、まことしやかに問題になってまして。そんなテクノロジー的な意味での“新世界”が、レトロな街“新世界”にやって来るのが面白いんじゃないかと。新世界の外れにある串カツ屋で、大阪のおっさんたちがガヤガヤしている所に、ドローンが串カツを買いに来たり、それをおっさんが扇風機で追っ払ったりするという、そういう作品になります

続けて今回のゲストから「前々回の『ビルのゲーツ』で、ヨーロッパさんの作品はチームプレーで作られてることがすごく大事やと感じました。今回は上田さんの演出意図を汲みとって、そういう所をちゃんとやりながら楽しく参加できたらと思います」(金丸)、「周りのおっちゃんを“ハイハイ”となだめる役回りの、串カツ屋の娘役をやります。実は高校生の頃からヨーロッパ企画さんのファンだったので、稽古場で結構ドキドキしてるんですが、それを乗り越えて先輩たちにがむしゃらにくっついて行けたら」(藤谷)、「大阪の劇場で、関西で活動している劇団のチラシ(の束)を見て、その中に今回の公演のチラシもはさんであるのを見た時に、変な話“勝ちたいな”と思いました(笑)。大爆笑を取ってやろうと思います」(福田)と、それぞれの意気込みが語られた。

さらに今回は、ヨーロッパ企画と同じく京都出身の兄弟ユニット「キセル」が音楽を担当。劇団主催のイベントに出演するなど以前から交流はあったが、本公演で絡むのはこれが初めてだ。「かなりおっさんおっさんした劇になると思ったので、キセルさんのノスタルジックだけど未来的な感じの音楽で包んでいただけたらと思いました。『ブレードランナー』と『じゃりン子チエ』の世界観を足して2で割ったような音楽をとお願いしたら、まさにそういう曲が届いてます」と上田。

(上)「だんじりロボ」について解説する酒井善史(下)てっさゼリーの出現を予言する諏訪雅

(上)「だんじりロボ」について解説する酒井善史(下)てっさゼリーの出現を予言する諏訪雅

この後は、ヨーロッパ企画会見ではおなじみの、劇団員が今回の芝居のテーマに沿った「自由研究」を披露するコーナーに。酒井善史は「未来のだんじり」というテーマで、山車が機械制御式になったり、大工方(山車の屋根から引き手に指示を与える人)がロボットになるという話を。諏訪雅は「未来の大阪の食生活」というテーマで、てっさ(フグの刺し身)の代用品の「てっさゼリー」や、タコ焼きを生む新種のタコが現れるなどの話を。本多力は「未来のスパワールド(※新世界にあるスーパー銭湯)」というテーマで、火星の石を使ったサウナやドクターフィッシュロボが登場するという話を。永野宗典は「未来の阪神タイガース」というテーマで、サイボーグのバースやイチローが発明される上、心がくじけた人間の選手を励ます「バーチャルリアリティ川藤」が現れるという話を、それぞれ発表した。ちなみに永野は、宮崎県出身で大阪弁がおぼつかない上に、野球の知識が乏しいにも関わらず熱狂的阪神ファンの役を振られたそうで「二重苦の状態です(笑)」と、役作りの苦労を語る一幕があった。

(上)「ドクターフィッシュロボはナノサイズ」と力説する本多力(下)VR川藤の重要性を説く永野宗典

(上)「ドクターフィッシュロボはナノサイズ」と力説する本多力(下)VR川藤の重要性を説く永野宗典

その後は記者からの質疑応答の時間となったが、主な質問と回答は以下のとおり(回答はすべて上田誠)。

──今回はドローンが見どころになるのでしょうか?

テクノロジーというか、機械とおっさんの絡みが見れるのが今回の企画性ですね。僕らの芝居は、演劇の世界ではあまりやられていない技術を使うというのがあるんですけど、そこはやっぱりコメディなので、ドローンを飛ばすにしても上手く笑いにつなげないと。実際に(舞台で)自立飛行でドローンが飛ぶかどうかは、今の段階ではお約束はできないんですが、どうやったらドローンを笑いに変えることができるのか、面白く使えるかを検証しているところです。

──「大阪のおっさん」に着目した理由を教えて下さい。

最近のヨーロッパ企画はシュッとした話が多かったんで、この辺りでちょっと逆の方の話をしたいと思ったんです。おっさんって言葉は、本当に標準語に翻訳不能なんですね。親父とかおじさんという言葉とはニュアンスが違っていて、やっぱり“おっさん”としか言い様がない…誤解を恐れずに言うと、ある種動物的というか、人間からある一皮をむいたらおっさんになるというか(笑)。それでおっさんの話をやるには、新世界って場所が本当におっさん天国なんですよ。普通商店街って女の人が歩いてることが多いんですけど、こんなにおっさんが歩いてる街はあまり他にないような気がして。そういう意味で、ヨーロッパ企画メンバーの獣っぽい、ある種本能が見え隠れするような部分をお見せできるかなと思いました。

「テクノロジーにワタワタする、悲喜こもごもの人間模様が描かれるのも見どころ」と語る上田誠

「テクノロジーにワタワタする、悲喜こもごもの人間模様が描かれるのも見どころ」と語る上田誠

──「ヨーロッパ企画版吉本新喜劇」みたいなイメージでとらえて良いのでしょうか?

当然、土曜のお昼に毎週TVでやってるのを見て育ったので、大阪のコメディをやるとなった時に、そうならざるを得ないところがありまして。それで僕らなりの大阪のコメディをするにはどうしたらいいんだろうという所で、テクノロジーのことも本格的にやろうと思い、今テクノロジーの進化の未来予想図みたいなことをいろいろ調べています。その辺の科学的な所をグイッと、いわゆる新喜劇的な世界にしのばせていくことで…たとえば1人の女性に2人の男性が求愛するという人情喜劇的な展開も、テクノロジーが入ってきたら「私、どっちも選べないからクローンを作る」とか、だいぶ違う話になってくる。登場人物も割と新喜劇のようにコテコテになると思いますけど、プラスそれにSFの要素、科学テクノロジーの要素が入ってくることで、何か新しい色が出せるかなと思っています。

──そういう新しいテクノロジーと人間はどう付き合っていけばいいのか、上田さんなりに思うところはありますか?

今脚本考えながら、普通にそこの問題を「どうしようかなあ」と考えてしまうんですよ。たとえば僕は今ガラケーを使っているんですけど、今の奴から新機種に乗り換えねばならなくなりまして、次はスマートフォンにするかガラケーにするかで迷っているんです。というのも、きっとスマフォに変えたらガラケーには戻らないと思うし、進化ってそういうものだろうと。絶対便利になっていくんだろうけど、大事なのは絶対そこから戻りはしないということ。なので、それにいち早く着いていくのがいいのか、遅れながら着いて行くのがいいのか、あるいは前の時間にとどまるのがいいのかという選択は、何かあるような感じがするんです。それはまさに「来てけつかるべき」という言葉にあるんですけど…「来たるべき世界」ではあるけど、(「けつかる」には)ちょっとそれが腹立つというニュアンスがあるんです。そういうものに対してどう立ち向かっていくかは、今ペンディング(保留)中ですね。いずれにせよガラケーとスマフォのどっちかに変えなきゃいけないんですけど、まだ決められないというのが今の僕の現状です(笑)。この公演が終わった頃ぐらいに決めようかと思っています。

どうやら吉本新喜劇的な世界観を借りながら「おっさんVS最新テクノロジー」から生まれる、ヨーロッパ企画ならではの笑いが楽しめる舞台となりそうな『来てけつかるべき新世界』。特に終演後のおまけトークが入っている回は、すでに前売完売&残席わずかとなっているものも。今回も「前代未聞」という言葉がふさわしいものになるであろう“新世界”の目撃者となるために、早めにを手配しよう。

※後日、作・演出の上田誠とゲストの福田転球が、エチュード芝居についてがっつりと語り合いました!

公演情報
ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』
 
■日時・会場:
《栗東プレビュー公演》
2016年9月3日(土)  栗東芸術文化会館さきら 中ホール
《京都公演》 
2016年9月8日(木)~11日(日)  京都府立文化芸術会館
《東京公演》 
2016年9月16日(金)~25日(日)  本多劇場
《広島公演》 
2016年9月29日(木)  JMSアステールプラザ 中ホール
《福岡公演》 
2016年10月1日(土)・2日(日)  西鉄ホール
《大阪公演》 
2016年10月5日(水)~11日(火)  ABCホール
《四日市公演》 
2016年10月15日(土)  四日市市文化会館 第2ホール
《高知公演》 
2016年10月21日(金)  高知県立県民文化ホール グリーンホール
《横浜公演》 
2016年10月27日(木)~30日(日)  KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
《名古屋公演》 
2016年11月2日(水)  名古屋市東文化小劇場

 
■作・演出:上田誠
■音楽:キセル
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/金丸慎太郎、藤谷理子、福田転球(転球劇場)
■公演特設サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/e35/

 
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