30-DELUXが人形浄瑠璃『国性爺合戦』を大胆にアレンジ! 清水順二、森大、田中精 鼎談
(左から)田中 精、森大、清水順二
「笑って、泣けて、考えさせられて、カッコいい」、そんな芝居とド迫力のアクションが一体となったエンターテイメント作品を発信し続ける30-DELUX(サーティーデラックス)が、2015年7月に新たな試みとして上演したDynamic Arrangement Theater『新版 義経千本桜』。歌舞伎の三大名作を独自の解釈と大胆なアレンジで上演し、公演は好評のうちに幕を閉じた。その後、初の海外公演も果たした30-DELUXがDynamic Arrangement Theater 第二弾として選んだのは、近松門左衛門の人形浄瑠璃の傑作『国性爺合戦』だ。主演は『デスティニー』以来、3年ぶりの30-DELUX参戦となる佐藤アツヒロが務める。いよいよ本格的な稽古が始まろうとする8月某日、主宰の清水順二、主要メンバーの森大、田中精に話を聞いた。
──Dynamic Arrangement Theater第二弾として『国性爺合戦』の上演が決まるまでのお話からお聞かせください。
清水:昨年、『新版 義経千本桜』で、歌舞伎原作、古典と呼ばれる演目に初挑戦しました。それまではオリジナルストーリーを手掛けてきましたが、やはり演劇の基礎にあるのは人形浄瑠璃や歌舞伎です。30-DELUXの作品を創作する力、人材が育ってきて、そろそろそこに挑戦できるのではと思っていた、ちょうどそのタイミングで歌舞伎にも精通している脚本の西森(英行)さんからの提案もあり実現したのが『新版 義経千本桜』です。
──満を持しての挑戦だったのですね。
清水:古典で、我々の色、わかりやすいストーリーラインの中で、笑って、泣けて、考えさせられて、カッコいいというものがどのくらい出せるのかという不安もありましたが、やってみると意外に出せるんだ!という手応えはありました。歌舞伎界や歌舞伎ファンからのご批判も覚悟しているところがありましたが……(笑)。むしろポジティブな反響をいただけました。
──出演された森さん、田中さんも手応えありでしたか。
森:はじめは長い長い物語をかなりのショートバージョンにすることで、お客様にどのように伝わるのだろうかという思いはありましたが、西森さんの脚本のすばらしさもあり、客席の反応がすごくよかったんです。300年続く作品の力、古典の強さを肌で感じ、役者としても大きな経験になりました。
田中:歌舞伎は様式美というイメージが強かったのですが、実際には繊細な人間の心の動きが描かれているんですよね。根底にあるのは人情の機微や人の繋がり。そこに僕らが今上演している演劇との共通点を感じ、歌舞伎はルーツなんだと改めて感じました。
──そして、第二弾へ繋がるのですね。
清水:前作の上演が終わったころ、西森さんから新たに3演目ほどご提案をいただきました。その中で、『義経~』より自由度が高くオリジナル要素を入れやすいこと、そして主人公の和藤内(ワトウナイ)という役が主演に迎える佐藤アツヒロさんにピッタリだということなどいくつかの理由が重なって『国性爺合戦』を選びました。
──30-DELUXの特色としては殺陣やアクションが挙げられますが、今回は。
清水:今回は物語の主な舞台が明国(今の中国)ですので、中国武術をベースにした立ちまわりになります。いわゆる中国雑技団のような動き、あそこまでクルクル回りはしませんけど(笑)。僕は以前、殺陣のひとつの要素として習ったことがありますが、今回は森にも中国武術を学んでもらい、ここからの稽古に備えている状態です。
森:中国武術は深い。何といっても3000年の歴史ですからね(笑)。習得するには長い年月がかかるものですが、僕らがやるのは演劇。中国武術のエッセンスを殺陣、振付に如何に盛り込んでいくかというところがカギになります。見せるための中国武術を劇中での命をかけた殺し合いの表現としてお客様にお目にかける。それを考えながら振付に着手しています。
──和の殺陣と中国武術の一番の違いは。
清水:そもそもの身体の使い方が違うんです。和は下半身を中心に重みのある殺陣、でも、中国武術は全身を使います。よりショー的な要素をもっているとも言えます。武器、剣もくるくる回しますし、違いは舞台上で一目瞭然ですので、ぜひ本番を楽しみしていてください。
田中:今、プレ稽古をしていていますが、森くんからの細かい指示が飛びまくっています。普段は「もっと腰を落として!」と言われるところが、今回は「そこ足伸ばして! 左手が伸びてない!」とかだから(笑)。まずは基礎を身に付けて、そこから芝居と融合させる作業に入っていくのですが、日々試行錯誤しています。
森:さらに劇中では明国と対立する韃靼国、つまりモンゴルの兵も登場します。若手メンバーはその二つの動きの差も表現しないといけないので、必死ですよ。
──中国人を父に持ち日本人を母に持つ和藤内については。
清水:父である老一官(ロウイッカン)に武術を学んだということで、どちらかというと中国武術よりになりますが、持っているのは日本刀。そこが難しい。
田中:でも、そこが決まると、和でも唐(藤)でもない(内)、和藤内というキャラクターがアクション=視覚で分かると面白くなりそうですよね。
(左から)田中 精、森大、清水順二
──ここからは、みなさんの役についてお聞きします。まず、森さんは“虎”。原作でも虎退治の場面は有名です。
森:“虎”役ってなかなかないですよね。和藤内との立ちまわりもありますし、ちょっと頑張らないと! どんな風貌で登場するのかも含めて何だこいつは……というところを見せられればと思っています。
清水:森は立ちまわりの技術はすでに僕を抜いているとも言える。今回は、この“虎”という役にしっかりと向き合って芝居の面でもどんどん先に行ってもらいたい、それが30-DELUXの将来へも繋がると思うんです。
──田中さんは明の将軍だった呉三桂(ゴサンケイ)。
田中:思いのほかカッコいい役でびっくりしています。明の国の窮状を伝え、和藤内を呼び寄せるきっかけを作る男です。
──原作の第一場では大活躍ですよね。
森:前半の主役ですよ!
清水:いやいや全編通しての主役でしょ!
田中:もう、それはないですから! でも、そうやってみんながハッパをかけてくれるんです。中国武術の習得も含めて頑張りどころがいっぱいです。今回、ほかにも仲間うちが物語を背負っている場面が多いんですよね。僕らもようやくこういった役をいただけるようになったんだなと感謝し、それに応えようと思っています。
清水:田中はいろんなことができる人。外部出演した『ドラゴンクエストライブスペクタクルツアー』ではとにかくよくしゃべる役どころ(パノン役)で多くの方が興味を持ってくださった。あの面白かった人が今度は殺陣も含め、こんなにカッコイイ役をやるんです。そのギャップに期待しています。今回はカッコよさに徹してほしいですね。
──そして、清水さんは裏切りの将軍・李蹈天(リトウテン)です。
清水:簡単に言ってしまうと、悪の根源のようなポジションになります。常に自分の利のために相手をだましていく、役者としてやりがいがある役です。でも、自分がやるからにはただの悪で終わったら違うかなという思いもあります。どういう要素を入れていこうかなと、まさに今、考えている最中です。
──ここからはゲストのみなさんについてうかがいます。まずは主人公・和藤内に佐藤アツヒロさん。
清水:アツヒロさんのキャリアの中でも、これまでになく豪快な役になるでしょう。まずは葛藤をすっ飛ばしてとにかく前進するところが、今の舞台人佐藤アツヒロと重なるんです。舞台人としての経験を重ね、ここからは俺が好きな芝居を思い切ってやるんだ!! おれが引っ張っていくぜというアツヒロさんが見られると思います。
──30-DELUXご出演経験のある馬場良馬さんの今回の役どころはかつての明の将軍・甘輝(カンキ)。
田中:今までの馬場くんは熱さが前面に出ている役のイメージが強かったのですが、今回はだいぶ違いますよね。双剣だし。
森:馬場さんは最初の『デスティニー』では普通の剣、二回目(『義経千本桜』)は薙刀、そして今回は二刀流に挑戦していただきます。
清水:馬場さんは普段から元気があって、テンションの高い方なんです。どちらかというとテンションだけで持っていくタイプなところがあって(笑)。そこが大好きなんですが、今回はちょっと引いた、でも情熱は秘めている大人の役をお願いしました。そして立ちまわりは中国武術で双剣、馬場さんはすごく勘のいい人ですがこれは相当むずかしい。先ほど話に出た、今、田中が直面している立ちまわりの大変さ、ビックリ加減、そこにこれから馬場さんが突入することになります(笑)。
──続いては女性陣について、和藤内の母、渚役には緒月遠麻さん、甘輝の妻・錦祥女(キンショウジョ)に大湖せしるさんという二人の宝塚歌劇団出身の女優さんがご出演です。
清水:前回ご出演された水 夏希さんと同じ、宝塚の男役だった方ですが、緒月さんには水さんとは違うタイプの魅力を感じます。水さんは「俺について来い!」というようなカッコよさ、緒月さんは一歩引いた淡々としたなかにある潔さがあるんです。それが芝居でも活きていて、当然、出るときはグイッと出る、その一方で受けの芝居も得意とされているような。今まで会ったことのないタイプの男役さんです。大湖さんに関しては、森が殺陣指導をした『るろうに剣心』で、一人、すごい存在感の人がいる、何だこの人は!と思ったのが大湖さんなんです。今回、ご出演していただけることになってうれしいですね。
田中:和藤内の妻・小むつのダブルキャストもカラーが違うお二人で楽しみです。
清水:名塚さんは声優さんですが、外部公演で舞台共演した際に「この人は完全に“舞台人”だ」とピンときました。身を削るような役作りをされる方で、小むつの繊細さやおせっかいさにすごくはまると思います。もうひとりの加藤さんは4年ぶりの出演で大人になって柔らかさのある小むつになるんじゃないかな。
森:今回はいつになく女性キャストが多いですね。
清水:どの世界も女性の活躍が目覚ましいし、女性は強いからね。でも、僕ら男たちも負けずに頑張らないと!
──では、最後に清水さんから楽しみにされているみなさんへメッセージを。
清水:伝統という重みをエンターテインメントとしてわかりやすくしているので、いろんな人、とくに歌舞伎や浄瑠璃をあまり見ない若い方に見てほしいです。古典に触れることで、俳優としても人間としてもルーツがわかるってあると思うんです。インターネットの動画やゲームじゃなく、劇場に足を運ぶことで感じられる芝居のパワーが詰まった骨太な作品にします! 開幕は30-DELUXにとって初めての地、北千住ですが、僕にとっては昔住んでいた場所という馴染みある土地です。劇場でお待ちしています、お楽しみに!
(左から)田中 精、森大、清水順二
■あらすじ
その名は、和藤内(ワトウナイ)。
「俺はいつかデカいことをする」という野望を抱きながらも、恋女房の小むつと共に、平和な日々を過ごしていた。和藤内は、幼い頃から、自分にしか聞こえない声を聞いていた。
「お前は、世に比類なき天下人になるのだ…」
ある日、老一官は、唐土より流れ着いた明の皇女・栴壇皇女(センダンコウニョ)から、祖国・明の危機を告げられる。裏切りの将軍・李蹈天(リトウテン)により、明は韃靼国の侵攻を受け、滅亡の危機に瀕しているという。和藤内は、明朝復興の為に、父母と共に海を渡る。そして、かつての明の将軍・甘輝(カンキ)に助けを乞うべく、甘輝の妻・錦祥女(キンショウジョ)に会うため、獅子ヶ城へ向かう。
その全てを、一匹の虎が見つめていた…。果たして和藤内は、父が渇望する明朝復興を成し遂げられるのか?
海越えた地に、祖国の旗を再び掲げるための戦いが、今、幕を上げる。
インタビューの中で清水は、役者を目指す若手へ送るメッセージとして「中国武術の取り入れ方などを通して、今度は殺陣に空手を、合気道を取り入れるにはどうしようかなどというような芝居作りのヒントも提示できると思っています。役者を目指している若手にもパワーを与えたい!」と熱を込めて語ってくれた。30-DELUXの将来、演劇の未来をも見据えた活動から目が離せない。
■THEATRE1010 (東京都)
2016年9月14日(水)~9月18日(日)
■東海市芸術劇場大ホール (愛知県)
■福岡市民会館 (福岡県)
作:西森英行
演出:伊勢直弘
<出演>
佐藤アツヒロ/馬場良馬/緒月遠麻/
大湖せしる/名塚佳織(Wキャスト)・加藤雅美(Wキャスト)
森大/田中精/林明寛/山口大地
武藤晃子/谷口敏也/川口莉奈
湯田昌次/大山将司/金田瀬奈/中村悠希/村瀬文宣/大成翔輝/大塚晋也/安藤佳祐
清水順二/陰山泰