三鷹市芸術文化センター演劇担当・森元隆樹氏に聞く(下)──MITAKA “NEXT” Selection 17th

インタビュー
舞台
2016.9.26
オイスターズ 第17回公演『その妹』(愛知県芸術劇場小ホール、2015年11月)

オイスターズ 第17回公演『その妹』(愛知県芸術劇場小ホール、2015年11月)


今年で17回目を迎えるMITAKA “Next” Selectionの特色は、まだそれほど人気の出ていない新進気鋭の劇団をいち早く見つけて、強力にプッシュしてくれる驚くべき先見性にある。そして、その先見性は、演劇に対する深い愛情に結びついている。今年選んだ3つのカンパニーの紹介と、MITAKA “Next” Selectionがどのように企画・運営されているのかについて、三鷹市芸術文化センター演劇担当・森元隆樹さんに聞いた。


オイスターズ『ここはカナダじゃない』

──10月下旬には、3つめの劇団オイスターズが上演されます。これは名古屋の劇団ですが、関東地方以外にも足を運んで、ご覧になるんですか?

森元 オイスターズを初めて見たのは、東京の公演でしたね。でも、行けるときは、京都や大阪をはじめ、地方へ行ったりもします。

──いろんな劇場で森元さんをお見かけしますが、関西方面やさらに遠方までも。

森元 三鷹市芸術文化センターでの会館自主事業は、わたしと、もうひとりの担当者である森川の2名で手掛けているのですが、年間だいたい150公演から170公演ぐらいあります。その合間を縫っての観劇ですから、東京で見たい舞台に行くだけで精一杯なところもありますが、どうしても気になるときや、そこでしか見られない公演のときには、遠方にも行きます。

 オイスターズは、平塚直隆さんが脚本と演出を手掛けていらっしゃいますが、いまナンセンスな劇を書かせたら、かなりのクオリティだと思います。別役実さんに近い……あるいは、シュールな笑いを追求したときのKERAさんかな。平塚さんの脚本は、登場人物のあいだで饒舌に語りあっているはずなのに、とにかく会話が交わっていかないことが多くて、その微妙に会話がすれ違っていくイライラ感は半端ないです(笑)。

 なので、“Next” Selectionのチラシには「清も濁も賢も愚も全て愛おしく呑み込んで、繊細且つ饒舌に吐き出された、会話の双曲線。一筋や二筋の縄では絶対に捕えきれない、手練手管の不条理劇。癖になるオイスターズ」というコピーを書きました。

 ほんとに、見ているうちに脳内が「ぐにゃぐにゃ」と掻き乱されて、「世の中の何が正しくて、何が間違っているのか、いや、もうなんか、そんな言い尽くされたフレーズどうでもいいや、たぶん俺の知らないところで全てがありなんだろ?」とか、ふだんは考えもしないことを思ってしまったりする舞台です(笑)。だから、癖になる人は、癖になると思います。もちろん、全員とは言いませんが(笑)。

オイスターズ『ここはカナダじゃない』のチラシ。

オイスターズ『ここはカナダじゃない』のチラシ。

──オイスターズのホームページには、過去に上演された舞台の動画がアップされています。『音 男子校版』では、女子校だった高校が、ある年から男女共学になったのに、まったく女子生徒がいないことを先生に抗議しているうちに、ふとしたきっかけで合唱部が結成される。まったく先の展開が読めない笑いで、ありえない状況に置かれた人々の異議申し立てが面白いと思いました。今回上演される『ここはカナダじゃない』は新作ですか。

森元 新作です。

──タイトルからはKERAさんの『ウチハソバヤジャナイ』を連想させますが、『ここはカナダじゃない』と言いきってしまう理由が見えるような舞台なんでしょうか。

森元 そうですねえ。いまの段階では台本を読んでいないので、はっきりしたことはわからないんですが、平塚さんが書かれたチラシの文面には「そいつは初めての海外旅行へ行ってきた……だけど、京都のお土産を買ってきた」とは書いてありますけど。どうなんでしょうかねえ(笑)。一筋縄では捕まえきれない脚本ですから(笑)。

 オイスターズを三鷹にお呼びしようと決めた公演では、居酒屋のバイトが主人公なんですけど、ちょっと頭にきたことがあって「こんな店、辞めてやる!」と口にしたら、もうひとりのバイトも「かっこいい! じゃあ、僕も辞める!」と。で、なんだか知らないけど、憧れられてしまったのか、店を出ても、とにかくそいつが付いてくる。いろんな理由をつけて「じゃあ、また」と振り切ろうとしても、そいつは「うん、また」とは言うんだけど、とにかく付いてくる。それで結局、家まで付いてこられてしまい……

──振り切ろうとするんだけど、それを上まわる粘着力で付いてくる。

森元 あの年に見た舞台のなかで、あれだけ観劇中にイライラした作品はなかったですね(笑)。見事な不条理劇でした。

──じゃあ、かなりパワフルですね。

森元 かなり、針は振りきれてます。不条理に徹する感じがいいですね。

 ある舞台では、美術の先生が絵を描いていると、代わる代わる3人の女子生徒がやってきて、先生に何かを告げて去っていく。なんかよくわからないので、適当に返事をしていたら、やがて、そのうちのひとりに、椅子に縛られてしまう。で、困っていると、ひとりがやってきて「先生、○○したって本当ですか?」と訊くので返事をすると、いきなり「先生のバカ……」と言って駆けだしていく。で、しばらくすると、別の生徒がやってきて、「先生、○○したって本当ですか?」と訊くんですが、○○の内容が、最初の子の話から、少しねじれている。で、また「先生のバカ……」と走り去り、やがて次の生徒が来て、ますます……。3人の女子生徒は、おたがいのことを知らないようで、どこかで流れている噂話を聞いては、次から次へと先生のところに来て、一様に「先生のバカ……」を言って駆けだしていく。それをくり返していくうちに、どんどん想像を超えた別の話になっていくので、先生はもう、なにがどうなっているのかという……

──先生に関する噂を女子生徒たちが聞きかじって、それを確かめに、それぞれひとりずつやってくる感じですね。

森元 それです。

──そして何が事実かわからないほど混乱していき、先生はさらに困った状況に置かれていく。

森元 それでいて、いつのまにか、話が元に戻っていたりもするんです(笑)。だから、いま摑みきれない不条理劇を書かせたら、たぶん若手では、平塚さんがいちばんうまいんじゃないかなって思いますね。

オイスターズ『この声』(2016年2月、東文化小劇場)

オイスターズ『この声』(2016年2月、東文化小劇場)

 

MITAKA “Next” Selectionに来てくださる観客のみなさんへ

──主催者として、MITAKA “Next” Selectionの見どころを教えてください。

森元 このMITAKA “Next” Selectionだけでなく、他の公演も、いま、演劇担当のわたしと森川で、年間で150本見させていただいたなかで……

──それぞれ150本ですから、おふたり合わせると年間300本を超えますね。

森元 そのなかで、ここがいいと思う劇団を選んだつもりでいます。ときには、お好みに合わないことがあるかもしれませんが、これから伸びていくアーティスト、演劇人たちの姿をぜひ見ていただければと思います。これからもMITAKA “Next” Selectionを続けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

──まずは20回、このシリーズが二十歳(はたち)の成人式を迎えるまで、あと3回。

森元 でも、たとえば、10回を迎えたときも、あまり考えていなかったんですよ。

──重ねられた回数は、イチローの安打数のように通過点にすぎないと……

森元 でも、10回目のときが、実は、柴幸男さんの『わが星』を上演した年なんです。だから、あれは「よく10回がんばったな」と、神様が……無宗教ですけれど……ご褒美をくださったのかなって。

──演劇の神様がね。

森元 まさか『わが星』が岸田國士戯曲賞を受賞するとは思ってもみませんでした。ただ、『わが星』の最終通し稽古を見たときに「これは面白い」と思って。

 『わが星』も、初日、2日目は、お客さんはそれほどいませんでした。3日目ぐらいからお客さんが来始めて、最終日は当日券だけで50、60人も。当日券のお客さんがたくさん来たからではなく、この先、もっとお客さんに見てほしいなと思って、上演終了後、すぐに再演することに決めました。でも、もう20年ほど……MITAKA “Next” Selectionは17回目ですけど……三鷹市芸術文化センターで演劇担当をしていますが、初演した舞台を再演したのは『わが星』だけなんです。

 だから、この作品は再演して、どんどん見てもらいたいと思える舞台、そういったお客さんの支持をいただけるような作品が、これからも三鷹から誕生してくれたらと思います。

三鷹市芸術文化センター演劇担当の森元隆樹氏。

三鷹市芸術文化センター演劇担当の森元隆樹氏。

(取材・文/野中広樹)

公演情報
オイスターズ『ここはカナダじゃない』
■作・演出:平塚直隆
日時:2016年10月22日(土)〜30日(日)
会場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
出演:田内康介、川上珠来、芝原啓成、木暮拓矢(流山児★事務所)、ヤストミフルタ(ノックノックス/ユニークポイント)、平塚直隆他
■三鷹市芸術文化センター公式サイト:http://mitaka.jpn.org/ticket/1610220/​
■オイスターズ公式サイト:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/next/
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