イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.6 柴幸男の『少年B』が大学路へ!

写真提供:劇団ヨンミ ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

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柴幸男の『少年B』が大学路へ!

今回は私が翻訳家として参加した『少年B』という作品をご紹介したいと思います。前回の第5回コラムと同じく、大学路のソンドル劇場で8月23日まで上演中です。劇団「ヨンミ」(극당 연미)により上演される本作は、日本の劇団「ままごと」の主宰であり作・演出家でもある柴幸男の戯曲を原作とした、脚色バージョンです。ちょうど日本では、8月22日~30日まで彼が執筆した『TATAMI』(杉原邦生演出)という作品がKAAT神奈川芸術劇場で上演予定です。

ここで簡単に作家、柴幸男をご紹介しますと、彼は1982年、愛知県出身。日本大学芸術学部の在学中に執筆した『ドドミノ』で第2回せんだい劇のまち戯曲賞大賞を受賞。2010年は、地球の誕生から消滅までの話をある少女の一生に例えて描いたラップ・ミュージカル『わが星』で第54回岸田戯曲賞を受賞しました。特に彼は東京だけではなく地方でもさまざまな公演を手掛けながら、精力的に作品を発表しています。

『少年B』の初演は2009年、東京こまばアゴラ劇場で行われました。当時「キレなかった14才♡りた~んず」といったタイトルで柴を含む1982年と84年生まれの若手演出家6人が合同企画公演したなかのひとつでした。このとき一緒に参加していたのは「柿食う客」の中屋敷法仁、元「快快」の篠田千秋など、いまでは日本の演劇界を担う、気鋭の演出家たちでした。

『少年B』のモチーフとなったのは、1997年の神戸連続児童殺害事件(通称:酒鬼薔薇聖斗事件)だそうです。被疑者と同年代である演出家たちにとってこの事件は、自分の14歳当時を振り返るきっかけになったようです。14歳といえば、いまでは「中2病」という単語もあるほど、自意識が強くなる時期です。自分は特別だと思い込んだその時期、ある人はそれを良い方向に、あるいは歪んだ方向に持っていきます。多くの人々はそのまま普通に生きて満足しますが、本作では、普通に生きられず挫折の日々をおくる30代の主人公が、昔は普通の生き方を拒否していた「14歳の私」と交差する方式で物語が展開します。好きな女の子が話しかけてくれた瞬間。お笑い芸人を夢見ながらネタを作っていた日々。合唱コンクールの指揮を辞めさせられたこと、学校を騒がせた動物虐待行為などなど……。本当は彼にとって恥ずかしかった記憶が膨らまされたり、またそれが暴露されたりします。

主人公は「これはおかしい。ずっと頑張っているのに、何で僕は普通に生きることもできないんだ!?」と思うのです。原作では、彼の慰めとなるのが、昔の合唱曲や歌謡曲なんですが、原作ではスピッツの楽曲などが使われていました。韓国版ではその曲がもつ意味とニュアンスを生かし、演出家イ・ソングォンが丁寧に選んだ韓国の歌謡曲が使われています。

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私が『少年B』を翻訳するきっかけとなった裏話を公開しますと…。私が柴幸男の作品を翻訳したのは、今回が初めではありません。2010年に韓国南西部にある亀尾(クミ 구미)市という地方都市で開催された「 サムゾゴ・アジア演劇祭(現・亀尾アジア演劇祭の前身)」に参加した『反復かつ連続』という作品が最初でした。短編ですが、女優が一人芝居をループさせて大家族を演じる独特な作品でした。個人的には、日本の小劇場演劇を見始めたころ、偶然に下北沢のある劇場に入って観たのが彼のデビュー作『ドドミノ』だったので、不思議な縁を感じたりもしましたが、それよりも、まるで工学のように緻密に計算されている彼の演劇に魅了され、その後も彼を応援してきたのです。それで劇団ままごとのホームページで彼の戯曲が無料公開中であることを知り、『少年B』も読んでいたのです。ちょうどそのころ、演出家のイ・ソングォンさんから、大学入試試験が終わる11月にふさわしい作品を探しているという連絡が来て、「それなら『少年B』だ!」と思い、私はすぐこの戯曲を送り、制作が決まったのです。その後、2014年11月に仁川(インチョン)にある劇場で、韓国版『少年B』は無事に初演を迎え、2回の追加公演まで決まるほど好評を得ることができました。

韓国の地方都市亀尾(クミ)から始まった柴幸男作品との出会いが、仁川~ソウルの大学路へとどんどん上京していく過程がとても嬉しくて、日本の皆さんにもその旅を見守っていただけたらと思っております。

この作品は、例えば、急に気持ちが落ち込んで「あ~もうダメだ!」となったときに見るといいかもしれません(!?)。そんな気分のときは『少年B』をおすすめします!


【公演情報】
演劇『少年B』(소년B)
2015年8月5日~23日 大学路ソンドル劇場 ⇒劇場紹介

出演:イ・ハニ、イ・グァンヨン、キム・ドッカン、ハン・サンワン、チョン・ユンギョン、キム・ヒョジン
演出:イ・ソングォン
主催・制作:劇団ヨンミ(극당 연미)

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