大川興業が14年にわたり世に送り出してきた〈暗闇演劇〉が進化
大川興業総裁の大川豊
〈暗闇演劇〉なのに“光”が主役、とはこれ如何に!?
真っ暗闇のまま、90分もの間上演され世に衝撃を与えた2003年の『Show The BLACK』以降、これまで5本の〈暗闇演劇〉を生み出してきた大川興業が、名古屋では3年ぶりの公演となるシリーズ最新作『The Light of Darkness』を、10月14日(金)から名古屋市の「千種文化小劇場」で上演する。
「ハーフブラックシアター」と銘打たれた『The Light of Darkness』は、基本的には〈暗闇演劇〉でありながら、“光”を主役にした進化形だという。この、一見両極に思える現象をどのように舞台化したのか、先日には東京、神戸でも上演された本作について、作・演出を手がけ、自ら出演もする大川豊総裁に話を聞いた。
── 今回は“光”が主役ということですが、何か着想のきっかけがあったんでしょうか。
今は夜でもコンビニは明るいし、街灯があったり車のライトがあったりという状況の中、光の素晴らしさに気づいてなかったんじゃないかなと思いまして。以前の作品で、役者の気持ちやそのシーンを表現するためにライターを使ったんですが、例えば、「俺の人生なんて、使い捨ての100円ライターみたいな人生だったなぁ」って言った瞬間に光がつくと、「俺、いつもこんなに輝いていたんだ。実はこんなに周りの人を明るくしてたんじゃないか」と思って元気になったり自分の良さに気がつく、というシーンがあって。暗闇だからこそ、微かな光に喜びや怒りや悲しみの感情が、実はすごく表現されてるんじゃないかなと。
── 今までの作品は、上演中は出演者の顔が見えなかったりしましたが今回は?
照明の光は一切使わず、自ら光る光で表現していくので、見える人と見えない人がいると思います。その人の感情によって、例えばなぜか空中で光ってたりとか、その人が使うものや関わったものだけが光る、といった感じで表現していきます。
── 役者さんとしては、これまでの作品と比べて演じやすいとか演じにくいという点や身体的な変化などはあるんでしょうか。
一番最初の頃は、立ち位置が変わったり背中を向けちゃったりしたんですけど、今はほぼ同じですね。もともと、「(暗闇で)どうせバミリ通り立てないんだから、場所を間違ってもいいから気持ち優先でそこに立ってくれ」という演出方法で、感覚は各個人にまかせているんですが、不思議なもので今は立ち位置が1cmも違わないんじゃないですかね。自分の家で真っ暗になったらテーブルとかにぶつかるんですけど、稽古に入るとそこに誰か居るな、ってスッと避けたり。そのシーンに集中してるかどうか、っていう感じですね。移動の時は、「気配を消してくれ」と言ってます。要するに「何も考えないでくれ」と。出番だから行こう、という練習だと、やっぱりどこかにガーンとぶつかったりするんですね。でも、自分のシーンが近づいてきて感情が入って動くと、どこにもぶつからないんです。
── ストーリーについては、いつもどのように発想されるんでしょう。
何でも新しいジャンルになっちゃうんですね。匂い演劇に挑戦しようとか、暗闇スポーツにチャレンジしてみようとか。今回は特にそうなんですけど、“光”が主役になるとやっぱり、時間軸とか、アインシュタインの相対性理論みたいに時空が歪むとか、そういう風になりますね。
舞台は、スキーブームで建てられた一万戸以上のリゾートマンション。所有者の高齢化で維持できず空室ばかり、今やわずか一戸10万円で売られている。そこに住む数人は、過去の思い出の場所、現在の生活場所、未来の希望の場所…と、それぞれの時間軸で暮らしているが、ある日、一瞬にして同時に暗闇となる。太陽が消えたのか、同時に目が見えなくなったのか。光が止まって時間軸が動き出し、過去へのタイムトラベルが始まる…。
── 〈暗闇演劇〉シリーズを毎回ご覧になっている観客もいらっしゃると思いますが、お客さんの変化なども感じられますか?
高校生料金を作ったからかもしれませんが、若い人の方が積極的に観に来てくれますね。
── 中には見方が熟練してきているお客さんも?
そういう方からは、(今回は)「明るすぎる」というお叱りを(笑)。そうか、暗闇の中で自分で光を想像して観ていたんだ、と反省してますね。お客さんに教えられることがあります。東京公演の時には謎なことがありまして…。シーンによってその人に関わるモノが光るんですけど、毎回光り方が違うんですね。必ず本番前に光量チェックをしているので本来だったら途中で変わるはずがないのに、役者のセリフに合わせて、明らかに暗くなったり明るくなったり…。どういうことなんだ! っていうことがあって、これって、光自身が演技してるんじゃないかなと。あと、光ってないシーンなのに、「ナントカの光が上手に見えた」とお客さんから言われて、光らせてないんですけど…みたいな。人間の脳とかわからないですね。神経も電気信号ですからね。夢でも明るいじゃないですか。目を瞑ってるけど、夢は真っ暗ではないですよね。匂い演劇をやった時は、コーヒーのシーンで、その匂いで泣いてしまった人がいましたね。全然泣くシーンじゃないんですけど、カフェで別れ話をしてしまったんじゃないかと。これはあくまでも私の想像ですけど(笑)。暗闇に教えていただくことがいっぱいあるな、という感じですね。
── 今後もまだまだシリーズは続きそうですね。
やりたいですね。パラリンピックでも視覚障害者柔道やブラインドサッカーがあったり、視覚障害者の方でもスポーツをやられる時代なので、新しい競技も作りたいと思ってるぐらいなんですよ。スポーツ自体の概念が変わるようなものを。やりたいシーンもまだまだあって、実験もいろいろしているのでストックがたくさんあります。水の音とか暗闇で聴くとすごく良いので水中系のものとか、暗闇といえば私の大好きなエッチな世界もありますしね。やりたい事はいっぱいありますね。
見えない”からこそ見えてくるものや鋭敏になる感覚…人間の持つ能力の可能性やそれが生み出すものを追い続け、新たな試みに挑んだ「ハーフブラックシアター」だが、総裁の野望はまだまだ尽きない様子。その通過点でもある今作は、いつもの男所帯に紅一点、元劇団そとばこまちの女優・小椋あずきが客演で加わり、寺田体育の日と夫婦役を演じるのも見どころのひとつだ。また、16日には「大川興業約3分の1世紀記念ビッグ3トークライブ~大川豊×寺田体育の日×江頭2:50~」を開催し、30年の歴史を振り返るスペシャルトークも。
大川興業『The Light of Darkness』チラシ表
■作・演出:大川豊
■出演:大川豊、寺田体育の日、鉄板■魔太郎、Jonny、牛越秀人、俺はゴミじゃない 他 特別出演:小椋あずき
<名古屋公演>
■日時:2016年10月14日(金)19:00、15日(土)13:00・18:00、16日(日)13:00 ※16日(日)はトークライブのみ
■会場:千種文化小劇場(名古屋市千種区千種3-6-10)
■料金:本公演/前売3,800円、当日4,000円 学割・前売のみ2,000円 視覚障がい者割引・前売のみ2,000円(介助者も2,000円) トークライブ/前売・当日共3,500円 ペア(本公演2名分)前売のみ7,000円 本公演+トークライブ 前売のみ6,000円 学割セット(本公演+トークライブ)前売のみ5,000円 ※学割、視覚障がい者割引、ペア、セット券はパシリッツのみ取り扱い。学割・視覚障がい者割引は、当日受付にて学生証、身体障害者手帳を提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「吹上」駅下車、7番出口から北へ徒歩3分
■問い合わせ:パシリッツ 090-1096-6361(林) http://pashiritz.jimdo.com/
■暗闇演劇サイト:http://www.kurayami.info