市村正親25年目の渾身のファイナルステージ『ミス・サイゴン』開幕!

レポート
舞台
2016.10.21

 
伝説のメガ・ミュージカルとして愛され続ける『ミス・サイゴン』が、有楽町の帝国劇場で初日を迎えた(11月23日まで。のち全国公演もあり)
 
ベトナム戦争末期、陥落間近のサイゴンで、エンジニアの経営するキャバレーで出会ったベトナム人少女キムと米兵クリスの悲恋を軸にダイナミックに展開するミュージカル『ミス・サイゴン』は、1992年、1年半のロングラン公演として登場した帝国劇場での日本初演以来、通算上演回数1373回を数えている大ヒット作品。2012年からはドラマチックさを保ちながら、よりスピーディな新演出版が登場し、全国各地での上演も行われ、更に好評を博している。
 
そんな作品で、初演から一貫してエンジニア役を演じ続けて来たのが、市村正親。その圧倒的な存在感は「ミスター・サイゴン」という称号を与えられるほどのもので、市村=『ミス・サイゴン』日本上演史そのものと言っても過言ではない。
 
その市村が、2014年公演をを病いの為途中降板して以来、2年ぶりとなるエンジニア役に再び挑む今回2016年の公演には、市村と同じエンジニア役に駒田一、キム役の笹本玲奈ら、お馴染みの人気キャストに加えて、3人目のエンジニア役にミュージシャンのダイアモンド☆ユカイ、ロンドン・ウェストエンドでもキム役を務めたキム・スハ、同じくジジ役を演じた中野加奈子が初参加するなど、話題が満載。帝国劇場は高まる熱気に包まれている。
 
上野哲也、市村正親、笹本玲奈

上野哲也、市村正親、笹本玲奈


【囲みインタビュー】
 
そのパワー溢れる初日を前に、エンジニア役の市村正親、キム役の笹本玲奈、クリス役の上野哲也が、エンジニアの歌うビッグ・ナンバー「アメリカン・ドリーム」で登場するキャデラックと自由の女神の頭部が飾られた舞台上で囲み取材に応じ、公演への抱負を語った。
 
──いよいよ初日ですが、意気込みをお願いします。
 
市村 ようやく初日が来たという感じですね。プレビューからずいぶん経っていますのでね。頑張ります。
笹本 8月の頭からお稽古をしていましたので、私もようやく舞台に立てたことが楽しみで仕方がないです。
上野 今回(クリス役が)2回目なんですけれど、演出家も変わって、自分の中ではキャラクターも変わっているので、そういう意味では前回と違う緊張感と高揚感があります。
 
──市村さんとしては『ミス・サイゴン』に復活ということに。
 
市村 前回公演を胃がんで降板しているので、復活でファイナルですね。次の再演の時にもできるようだったらやっちゃうかも知れないけれど(笑)、一応ファイナルと銘打っていますので、今回頑張ります。
 


 
──ファイナルというのは体調の関係で?
 
市村 体調?いや、体調は万全だから。でも明日のことはわからないからね。来年、再来年、3年先までスケジュールが決まっていて、4年後はまだ決まっていないんです。オリンピックの年なので(笑)。だから先のことまではわかりませんが、今回は一応復活と同時にファイナルということで。次にもし元気だったらリターンとかね、本当に復活とか(笑)。
 
──体調はどのくらい戻られたんですか?
 
市村 体調はこのくらい(足を左右交互に肩まで上げて)戻ってる(笑)。別に足上げたから体調が戻ったっていうことはないんだけど(爆笑)。
 
──25年続けるのは大変でしたか?
 
市村 いや、考えてみたら25年あっという間に経っちゃったけれど、その25年がここに詰まりに詰まってるから、少しはのんびりしたいと思っているんだけれど、まだまだですね。
 
──初演の頃のことは覚えていますか?
 
市村 初めてこの作品で帝劇に立った時には、デカいと思いましたね。今の僕にとってはちょうどよいサイズの劇場になりましたが。色々なことを思い出します。(本田)美奈子のこととか、劇団四季を辞めて、初めてオーディションに受かった大作ですから。特にここに1年半いましたからね。「ミス・サイゴンスクール」もいれたら2年半、高校生活くらいの間も皆で共にしていていた。だから初演の1年半はよくぞもったなと言うのと、良い経験をさせてもらったなと。この作品があったから、「アメリカン・ドリーム」僕にとってのミュージカルのドリームを叶えることができたっていうくらいの貴重な作品なので。
 


 
──そういう市村さんとご一緒されていかがですか?
 
笹本 本当に長く続けてこられた役者さんなので、市村さんが舞台に立つだけでベトナムの空気が流れるというか、市村さんと一緒にお芝居で立っているだけでグッと引き込まれていく感じがあるので、カンパニーが1つになって『ミス・サイゴン』の世界で生きる絆が強くなります。不思議な存在感だなといつも感じております。
上野 僕は2012年のアンサンブルに最初に入ったのですが、市村さんは覚えていらっしゃらないと思いますが、当時憧れの役者さんだった市村さんが本番中の袖の中で、僕の名前を呼んで「お前真面目だな」って一言声をかけてくださって。
市村 覚えてる!青山劇場でしょ?
上野 そうです!あれがすごく嬉しくて、見てくださっているんだというのが印象的で励みになりました。それで前回共演できて、今回またご一緒できるのが嬉しいです。
市村 本当に色々なこと考えてちゃんとやっているなと思って、真面目だなって言ったの。
 
──光るものがあった?
 
市村 いや、光ってはいなかった(爆笑)、ただ土の中で真面目に生きていたから。
 


 
──後輩たちに贈る言葉はありますか?
 
市村 贈る言葉?俺、武田鉄矢さんじゃないから(爆笑)。いや、でも贈る言葉は特にないですね。僕と同じで、皆好きな仕事をやっている訳だからね。一生懸命楽しんで良い作品を創ることが大事なんじゃないかと思う。
 
──改めて『ミス・サイゴン』の見どころを教えてください。
 
市村 まず曲の良さですかね。それと今の時代でもどこかで必ず戦争が起きている訳で、そうした悲惨、人間が起こすことなのに、1番ひどい目にあうのも人間であるという、戦争に対する厳しい見方を示していかなければならないと思います。お客様にもそれを観て頂くことによって戦争が起きない世界にならないかなと思いますけれど、なかなかね。でもそうした悲惨な中にも、僕の役は生き延びていくというバイタリティーの元祖みたいなものなので、生きる力みたいなものをこの作品から皆に届けられたらいいなと思っています。
笹本 いまおっしゃってくださったことが全てですけれど、1つのミュージカルとして歌もあるし、ダンスもあるし、華やかなので、ミュージカルをあまり観たことがないお客様でも、楽しめる作品なのではないかと思います。また登場人物それぞれに人生があって、メインキャストの私たちもそうなのですけれども、その裏で出演しているアンサンブルの方達にも役名もあるし、人生もあるというのがすごくリアルに描かれているので、客席に座って舞台を観た時に、メインキャストだけじゃなくて後ろの方を見ても、すごくリアリティーがあって、お客様がベトナムにタイムトリップしたような感覚になる作品なので、とても魅力的だと思います。
 


 
上野 音楽が素敵だということもあるのですが、役者としてはその音楽に同じように乗っかってはいけないというか、ある種、曲と戦うところが『ミス・サイゴン』の面白みかなと思っています。わかりやすいのは「世界が終わる夜のように」というすごく素敵なメロディーのキムとクリスのデュエットがあるのですが、あの素敵なメロディーに2人自身はムーディになってはいけない。切なさとかというもので演じきらなければいけない緊張感を、客席と共有できた時の楽しさはあります。
 
──初演の思い出をもう少し。
 
市村 初演の時は皆オーディションに受かった連中で、すごい奴ばっかりで、危ないのも、大人しいのも、ふざけたのもいて。集まったそのメンバーで1年半演じて、『ミス・サイゴン』というものが日本に定着できた、その時のアンサンブルの子たちの顔まで今でもしっかりと覚えています。一緒に作った戦友だと思っています。
 
──本田美奈子さんについては?
 
市村 美奈子は隣の楽屋でね「お父ちゃん、お父ちゃん」って僕のことを呼んでました。公演回数も2人でやることが多かったので、2回公演の間では2人で一緒にご飯を食べたりとか。また、美奈子が舞台の上で怪我をしたことも、その場に一緒にいた人間としては、生々しかったなと思うと同時に、今思うのは、美奈子がやりたくてやりたくて仕方がなかった『ミ・サイゴン』を僕はまだいくらでもやれている訳だから、お前の分も頑張るぞというというような気持ちで、帝劇で美奈子の思いも込めて『ミス・サイゴン』を演じたいと思います。
 


 
──お客様にメッセージを。
 
市村『ミス・サイゴン』今日からはじまって、来年の1月の名古屋の千秋楽まで旅公演もあります。このスタイルの『ミス・サイゴン』は全国に持っていける作品なので、初演の時には帝劇でしかでませんでしたが、今はこちらの方から皆様の町まで行きます。僕は800回以上やっているのですが、未だに飽きなくて毎回毎回が楽しく新鮮にやれるこの『ミス・サイゴン』僕は自信を持ってオススメしますので、是非、とりあえずは帝劇に来てください、と言っても結構チケットがないのですが、でも当日券があるので、是非いらしてください。お待ちしています!
 
力強く語った市村の言葉の通りに、この後、25年目の新鮮な初日が幕を開け、数々の名曲に彩られたダイナミックなステージが熱く展開された。
 


そして、鳴りやまぬ拍手に応えて行われた、初日特別カーテンコールでメインキャストたちが挨拶。その最後に市村正親からの挨拶があった。
 


【初日特別カーテンコール・市村正親挨拶】
 
2年前に胃がんで『ミス・サイゴン』を降板させていただきました。その時に本当にたくさんのメッセージをいただきました。そのメッセージのおかげで、再びやろうという気になり、病気も完治してトレーニングに励んで今回また復活することが出来ました。本当に応援してくださった皆さんに心から感謝します。復活したと思ったら今回がファイナル公演ですが、今日やってみて、かなりイケてたんじゃないかなと。(会場拍手)ファイナルだけど、出来るならば体が続く限り、健康である限り、この『ミス・サイゴン』のエンジニアは演じていきたいなとは思っています。
 
24年前に初めて帝劇の舞台に立たせていただいて、この『ミス・サイゴン』で僕はアメリカン・ドリームを歌いながらミュージカルの夢を掴むことが出来ました。この帝劇にはたくさんの思い出があります。(初演は)1年半、よくここで頑張れたなと今でも思っております。これからも健康に注意をして、いつかまた皆さんとこの帝劇で、許してくれるならば、またエンジニアで皆さんとお会い出来るように、これからも精進して健康に気を付けて、頑張っていきたいと思っております。本当にありがとうございました。
 
園岡新太郎、入絵加奈子、市村正親、岸田敏志、安崎求

園岡新太郎、入絵加奈子、市村正親、岸田敏志、安崎求

 
そこに、サプライズゲストとして1992年初演キャストである4人、入絵加奈子、岸田敏志、安崎求、園岡新太郎が登場、市村に祝福の花束を贈って25年目のステージをねぎらった。その中で、岸田から「あと20年はイケる!」と言葉をかけられた市村は、「感無量だよ」と、心中を吐露。また、「世界一のアメリカン・ドリームを見せてもらいました!」との入絵からの感動の言葉には「(本田)美奈子.ちゃんが(公演で)怪我をした時に、公演を続けてこられたのはあなたのおかげです」と語り、25年前の初演に思いを馳せていた。
 


尚、この初日終了時点での市村主演回数は811回を数え、『ミス・サイゴン』は、帝劇の後、岩手、鹿児島、福岡、大阪、名古屋で公演を行い、2017年1月22日の大千穐楽時点で、通算上演回数1463回、市村の主演回数は853回となる見込みとなっており、『ミス・サイゴン』旋風はまだまだ長く続きそうだ。
 


【取材・文・撮影/橘涼香 特別カーテンコール舞台写真提供/東宝演劇部】
 
 〈公演情報〉

ミュージカル『ミス・サイゴン』
オリジナル・プロダクション製作◇キャメロン・マッキントッシュ
作◇アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
出演◇市村正親、駒田一、ダイアモンド☆ユカイ(交互出演)、笹本玲奈、昆夏美、キム・スハ(交互出演)、上野哲也、小野田龍之介(交互出演)、上原理生、パク・ソンファン(交互出演)、知念里奈、三森千愛(交互出演)、藤岡正明、神田恭平(交互出演)、池谷祐子、中野加奈子(交互出演) ほか
●10/19~11/23◎帝国劇場
〈料金〉S席13,500円、A席9,000円、B席4,000円
●プレビュー公演10/15~18◎帝国劇場
〈料金〉S席11,000円、A席8,000円、B席3,500円
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777 (9時半~17時半)
全国公演情報
●12/10~11◎岩手県民会館 大ホール
●12/17~18◎鹿児島市民文化会館(第1)
●12/23~25◎久留米シティプラザ ザ・グランドホール
●12/30~2017/1/15◎梅田芸術劇場メインホール
●2017/1/19~22◎愛知芸術劇場 大ホール
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