”いつもの堤幸彦”と違う 視線のトリックを組み込んだサイコ・ホラー『サイレン FORBIDDEN SIREN』コラム『ゲームから生まれた映画たち』第1回

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2016.10.30
【DVD】サイレン スタンダード・エディション

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ゲーマーたちの間では、たびたび「最も怖いホラーゲームは何か?」というテーマで議論が交わされる。その中で必ず出てくると言ってもよいのが、2003年に発売された『SIREN』だ。難しい操作性と恐怖を追求したストーリーが評価された同作は、その後3作品にわたってシリーズ化されている。その『SIREN』シリーズ2作目にして、1作目と同様に高い評価を誇る『SIREN2』を基に製作されたのが、2006年に公開した映画『サイレン FORBIDDEN SIREN』である。

主人公の天本由貴(市川由衣)は、父でフリーライターの真一(森本レオ)に連れられて、病弱な弟・英夫(西山潤)の治療のために、夜美島と呼ばれる孤島に移り住む。奇怪な住民たちの挙動に戸惑う由貴に、隣人の里美(西田尚美)は「サイレンが鳴ったら外に出てはならない」という不思議なメッセージを残す。その後、島に不信感を覚えた由貴は、襲い来る住民から英夫を守りながら、響き渡るサイレンの謎を追うのだが…。

堤監督は、テレビドラマ『金田一少年の事件簿』シリーズ、『ケイゾク』シリーズ、そして『トリック』シリーズに象徴されるように、コメディとミステリーを掛け合わせた作風で人気を博してきた。しかし、本作では非常に珍しいことに、お得意のジョークやナンセンスなギャグを一切登場させず、鑑賞者の恐怖を喚起することにだけ注力している。方法論としては、音の演出へのこだわりが伺える。耳にこびりついて離れない不快感MAXのサイレンの音はもちろん、島を襲う台風の轟音、異常化した住民たち(原作ゲームにおける半屍人)のうめき声なども、鑑賞者の不安を絶えず煽り続ける小道具として上手く機能している。

 


奇妙な島の怪しい住民が見せる‟視線”に注目

奇妙な落書き、謎めいた儀式、そして「サイレンが鳴ったら外に出てはならない」という掟…。舞台である夜美島は実に奇妙で、不穏な空気に満ちている。由貴はこの島に響き渡るサイレンの音の意味を探求していくのだが、サイレンの謎を解く上では、島の住民たちの視線がヒントになっている。劇中でたびたび映し出される、「ある対象」に注がれる住民たちの視線は、妙な居心地の悪さを感じさせるもので、勘の鋭い鑑賞者ならば、この視線から生じる居心地の悪さから、一つの疑念を抱くことができるだろう。

その疑念がはっきりとしたものに変わるきっかけが、中盤以降に由貴が見せる行動である。これを機に、物語に対して鑑賞者が抱いていた不鮮明な疑念は、鮮明なそれへと姿を変える。これ以降、鑑賞者はサイレンの謎に対する自身の予測が合っているのか否かを確かめるような感覚で物語を見つめていくこととなるのだが、結末があまりにも鑑賞者の予想通りになってしまっているのが惜しまれる。もうひとひねり、鑑賞者の予想を超える展開が挟まれれば、堤監督はさらにベターなラストを導くことができただろう。

 

あの上田次郎がまさかの狂人化!

とはいえ、キャスト陣が見せる熱演は、プロットの瑕疵をある程度カバーできている。当時売り出し中だった市川由衣は映画初主演を務めたが、典型的ながらも、どこか不安を憶えさせるヒロインの由貴を好演。由貴の父親でフリーライターの真一役を務めた森本レオは、その優し気な雰囲気にそぐわぬ意外な恐怖シーンに挑戦して鑑賞者を驚かせる。また、由貴が頼る島の診療所の医師・南田豊を演じた田中直樹(ココリコ)は、持ち前の「良い人感」が、逆に疑心暗鬼を誘うのが面白い。

一方、数々の堤監督作品でコミカルな姿を披露してきた阿部寛は、29年前に起こった集団失踪事件の唯一の生存者で、狂人と化した土田圭を怪演。『トリック』シリーズにおける名物キャラ・上田次郎とのギャップには驚かされる。そして、島の駐在警官・山中巡査に扮した嶋田久作や、隣人の里美を演じた西田も、終盤では強烈なインパクトを残していた。ただ、やはりホラー映画では有名な俳優を配すると、どうしても恐怖が希薄化してしまう。邦画、洋画問わずにそうだが、本当に怖いホラー映画は、往々にして無名俳優が出演しているものである。堤監督が本作で恐怖を追求するつもりだったなら、要所要所には、無名な俳優をキャスティングした方が良かっただろう。

原作ゲームが、長いプレイ時間を伴う(難易度が高く、クリアには1シーン1シーンを研究することが要求されるため)アクションと謎解きの要素が強いホラーRPGだったことに対して、本作は短時間で終幕を迎えるサイコ・ホラーとして形成されている。そのため、原作ゲームのファンには不評を買うことも多かったし、実際に原作の作風からは大きく逸脱しており、恐怖もかなり薄まっている。しかし、音を中心とする恐怖の演出やキャストの熱演、そして謎解きに視線のトリックが組み込まれているという点には、「おっ」と感じさせるものもある。「怖すぎるホラーは苦手だけど、やっぱりホラーには興味がある」という人が見るのに適した作品と言えるかもしれない。ちなみに、原作である『SIREN2』の主人公・一樹守を演じているのが、今や売れっ子俳優の斎藤工であることは、あまり知られていない。洒落にならない恐怖を味わう覚悟があれば、こちらも併せてプレイしてみてほしい。

文=岸豊

作品情報
映画『サイレン FORBIDDEN SIREN』

出演: 市川由衣、森本レオ、田中直樹、阿部寛、西田尚美
監督: 堤幸彦     
製作:島谷能成、藤原正道、亀山慶二、亀井修、安永義郎    ほか
企画:山内章弘、川村元気    
エグゼクティブプロデューサー:市川南、梅沢道彦、春名慶、釜秀樹    
プロデューサー:阿部謙三、長澤佳也    
脚本:高山直也    
撮影:唐沢悟    
美術:相馬直樹    
編集:伊藤伸行    
音響効果:北田雅也    
音楽:配島邦明    
音楽プロデューサー:北原京子    
エンディングテーマ:石野卓球    『SIREN』
VE:吉岡辰沖    
VFXスーパーバイザー:野崎宏二    
スクリプター:吉田久美子    
照明:木村明生    
録音:白取貢    
助監督:白石達也
販売元: 東宝
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