マリオ・ブルネロ(チェロ) 「プログラムで大事なのは作品の“対話”です」
マリオ・ブルネロ(チェロ)
チェロ奏者として、指揮者として、マリオ・ブルネロにとって紀尾井ホールは日本でのホーム・グラウンドのような場所。今年の秋もそこに戻ってくる。2年ぶりのリサイタルのプログラムはシューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」、マーラー「亡き子をしのぶ歌」、イザイ「無伴奏チェロ・ソナタ」、ペルト「フラトレス」、ストラヴィンスキー「イタリア組曲」。
「プログラムで大事なのは作品の“対話”です。たとえば前半はシューベルトとマーラーの対話。巨大な交響曲を書いたマーラーも、その音楽の中の一番大事な要素は“歌”です。シューベルトに始まる19世紀のウィーンの歌の時代を背景に、その時代の最後の偉大なリート作曲家マーラーに至る、両極に位置する2つの作品の対話。『亡き子』の素晴らしい旋律は、チェロで弾いてもその悲劇、絶望の声を十分に伝えてくれるでしょう。その時、歌詞は必要ありません」
しばしば歌曲も取り上げる彼の、その選曲眼やセンスにはいつも唸らされる。
「もちろん歌詞がないと成立しないと感じる作品もあります。たとえば大好きな『冬の旅』。以前全曲をヴァイオリンやチェロ、ピアノに割り振って演奏したことがあるのです。でも、歌詞がないとどうしても意味が伝わらない曲があって、実験的に、俳優さんを呼んで歌詞の朗読を入れました。朗読の部分は音楽なしでしたが、そうすると彼の言葉はもちろん、歌詞の意味さえも音楽になる。興味深い体験でした。いつかチェロで全曲を弾くのが夢なんですけどね」
ピアノのキャサリン・ストットとは初共演。ヨーヨー・マとの共演や小川典子とのデュオで日本でもおなじみだ。
「お互いが同じように学び合えるのが理想的な共演者。キャサリンと私の間にはシンパシーがあるというか、お互い一緒にやってみたいという気持ちが強かったのです。もちろん彼女はチェロのレパートリーを熟知していますから、いろんなアイディアをもらえるでしょうし、たぶん彼女も非常にオープンに、新しいものを吸収して変わっていくのではないでしょうか。ヨーヨーも焼きもちは焼かないでしょう、たぶん…。そう望みます(笑)」
家庭では息子のギターとブルースをセッションして楽しんだりもするそうで、音楽の守備範囲は広い。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」をチェロで弾くのが次のプロジェクトなのだと、「Mama〜」とその一節を歌いながら笑って教えてくれた。静かな渋い語り口も、なんとも魅力的な人だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)
11/19(土)青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)
11/20(日)豊田市コンサートホール(0565-35-8200)