古家正亨の「韓 I help you ?」◆アーティスト・インタビュー ~10CM(動画あり)
10CM
今年2016年の韓国音楽シーンの大きなニュースといえば、個人的には、防弾少年団の大ブレイク、TWICE人気の社会現象化、そして、なんといっても10CMが韓国の地上波の音楽番組で1位を取ったこと。長きにわたって、韓国のインディーズシーンを見てきた筆者にとって、インディーズ出身アーティストが地上波の音楽番組で1位を取るということは、いかに難しいことかは、誰よりもわかっているし、それを実現できるアーティストもごく限られていることも十分わかっている。そのようなアイドル主流の音楽マーケットにおいて、10CMが達成した偉業が与えたインパクトは計り知れない。
もちろん、その背景には今年4月に発売されたシングル『3.2』に収録されていた「春が好き??(봄이 좋냐??)」のヒットがある。韓国の各ダウンロードチャートで1位に輝いただけでなく、長きに渡ってTOP10にランクインし続け、今年上半期を代表する大ヒットとなったのは記憶に新しいだろう。春という季節感に合ったさわやかなアコースティックサウンドにのせた、ちょっぴりホロ苦さの残る歌詞に、韓国の幅広い世代から、“新しい春ソングの定番”として認定されたのだ。
2009年に結成、2010年デビューで、今年活動6年目を迎え、すっかり音楽界のメインストリームを歩むようになったボーカルのクォン・ジョンヨルの天才的な歌声と、ユン・チョルジョンの美しいギターが魅力のアコーステックデュオ、10CM。
2013年には日本デビューも果たし、日本限定ライブイベントとなる定期公演「10CM Night~オヌルパメ」も3回目の開催を迎え、10月30日に2年ぶりとなるこのライブイベントを東京・渋谷のLIVING ROOM CAFE & DININGで開催し、は3分で完売。大盛況のうちに幕を閉じた。そんな10CMの2人に、筆者が久々に直接インタビュー。2016年の大ブレイクを振り返るとともに、10CMのこれからのヴィジョンについて訊いてみた。
10CM&古家正亨氏
古家 日本での3度目の単独公演、いかがでしたか?
ジョンヨル 反応は常にいいですが、特に昨日はよかったですね。会場も高級感のある場所で、自分たちの高級感のある音楽とマッチしていて、とても充実した公演になりました。
チョルジョン 本当に久々に日本に来たので、もっと頻繁に日本に来なくてはと感じましたね。言った以上は、もう少し日本に来る機会を増やしたいと思います。
古家 その前に、対馬で行われた音楽祭にも今年は出演されましたよね?
ジョンヨル 対馬には初めて訪れましたが、対馬までの道のりは思っていたより、結構大変でした。ソウルから直接行ける場所ではなかったので。でも、苦労して辿り着いた分、島の美しさには、より感動を覚えました。フェスについてですが、観客の皆さんが、そもそも知り合いで、みんな集まってバーベキューパーティーをするような感覚で楽しんでいたようで、すごくそういう雰囲気の中でのステージが新鮮に感じましたね。
チョルジョン 対馬がこんなに近いところだとは思いませんでした。ソウルからの距離と東京からの距離では、ソウルからの方がはるかに近いんですよね。釣りをしに頻繁に来たくなりました(笑)。
古家 そういえば、今年は台湾でも1000人規模の大規模公演を行って、大成功を収めましたよね?
ジョンヨル ええ、反応は台湾でもとても熱かったです。日本のファンの皆さんもそうですが、台湾のファンの皆さんも、どうすればこれだけ韓国語が理解できるのかっていうくらい、僕らの歌の歌詞をわかってくれていましたし、ノリも良かったですし。まるで韓国でステージに立っているようでした。違いといえば、顔の持っている雰囲気が、韓国人とは違うって感じたことぐらいでしょうか。
クォン・ジョンヨル
古家 台湾での人気は、10CMそのものの人気はもちろんのこと、台湾で人気のある少女時代のユナさんとのコラボ「徳寿宮の石垣道の春(덕수궁 돌담길의 봄)」を通じて知ったという人も多かったようですね。
ジョンヨル ええ、そうみたいですね。
古家 ユナさんだけでなく、今年はジョンヨルさん、様々なアーティストとのコラボレーションもとても多かった1年だったと思いますが、特にアイドルとの共演がずいぶんありましたね。それって、持ち込まれた企画が多かったんでしょうか?それとも、自ら進んで、こういうコラボをやっていきたいと考えての1年だったんでしょうか?
ジョンヨル 実際のところ、自ら進んでということではなく、近しい人がいたとか、音楽的に面白いとか、いろんなきっかけがあって実現したコラボがほとんどでした。でも、気づいてみたら、ずいぶん、僕ら、コラボしていましたね(笑)。どのコラボもとても興味深いものでした。古家さんは「アイドル」という風に言ってましたが、正確に言うと「女性アイドル」なんですね(笑)。とても幸せな時間でした。
チョルジョン これまでのコラボはジョンヨルの単独が多かったんですが、アイドルとのコラボは、僕自身ユナさんが初めてだったんですね。長く音楽をやっていますが、僕自身は、芸能人を見る機会っていうのが、これまでほとんどなかったんです。なので、アイドルに会えてうれしかったです。このコラボに関しては、まず歌があって、それを聴いた上で「じゃ、このコラボをやってみよう」っていう話になって「どうしようか……」ってなった時に、「ユナさんとのコラボ?!お~O~K~!」っていう……(笑)
ジョンヨル おいおい、まず曲ありきでしょ?(笑)どんなに親しい中であっても、会いたい人であっても(笑)、曲が良くなければコラボはできませんよ。結果的に、ユナさんとのコラボだったわけで……でも、良かったです(笑)。
古家 驚いたといえば、今年は地上波の音楽番組で1位、取りましたね!おめでとうございます。いや~びっくりしました。インディーズ出身アーティストが1位を取ることって、なかなかなかったわけですが、驚いたでしょ?
ジョンヨル めっちゃ、びっくりしましたよ。こんなこと初めてだったので。しかも、その瞬間、僕らは番組に出演していなかったんですね。そんな話聞いていなかったので、出演予定もありませんでしたし。ちょうどその時、僕らは音楽フェスに出演していたんですね。僕らはステージの上に、でもその瞬間、テレビでは僕らの1位のセレモニーが行われていた……。とても不思議な経験でした。インディーズのアーティストが1位を取ることって、そうあることではないですし。
チョルジョン 嬉しかったですけど、「僕らがこれ、もらっていいの」っていう感じでしたね。「春が好き」っていう曲で1位を取ったわけですけど、この曲が出来たときに、もちろんいい曲だとは思いましたけど(笑)、ここまで支持を得るとは正直想定できませんでした。
古家 もうすべてを手に入れましたね(笑)
ジョンヨル ちょっと待ってくださいよ(笑)正直、いい数字を残せたということは、次への大きなプレッシャーになるんですね。韓国のチャートで“パーフェスト冠”というものがあって、すべての音源配信チャートで1位を達成すると、その表示が出るんですが、今回、初めてその表示を見たんですね。当然嬉しいですよ。でも、すぐに無くなるんですよ(笑)当然なんですよ、当然。でも、それって悔しいし、寂しいし、悲しいし……。だから、チャートで結果を残すのは良い反面、すごくプレッシャーにもなるんです。
古家 確かにこの「春が好き」っていう曲は、最終的に今年を代表するヒット曲と言えるほど、ダウンロードチャートで1位に輝いたり、長きにわたって、ランキングのTOP10にずっと入っていましたよね。僕が最初にこの曲を聴いたときに、10CMの曲ではあるんだけど、歌詞の世界が、これまでとは、少し違うなって感じて。エロも少し弱まったような(笑)。
ジョンヨル 今回は、大きく何かを変えたというわけではないんですが、歌詞が強い印象だからそう感じたのかもしれませんね。それから、エロが弱まったという話ですが、曲のエロさは弱まりましたけど、ギターの演奏と歌い方のエロさは増していますよ。
一同 大爆笑
チョルジョン そんな話初めて聞いたけどなぁ(笑)。ま、でもジョンヨルが言うのなら……ええ、ギターの演奏はエロかったです(笑)。
ユン・チョルジョン
古家 そんな「春が好き」ですが、どういった経緯で生まれた曲なんですか?
ジョンヨル もともと今年の春に、ミニアルバムをリリースする計画だったんです。その準備をしていたんですが、実は僕らの所属している韓国の事務所のスタッフが、独身女性が多いんですけど、その日がホワイトデーだったんですね。男性が女性にキャンディーを贈る日ですよね。で、スタッフにとっては、非常に気分の悪い日だったみたいです。そんな日に、事務所に行ってみたら、まあ、いろいろ話していたんですよ……スタッフが。その話を聞いていたら、生まれたんですね、この曲が。なので、歌詞は、彼女たちが話していたことです(笑)。
古家 今年は、カバー曲も出していますよね? これまでも、プロジェクトの一環でカバー曲は出していたかと思いますが、アイドルの曲をカバーしました。あのJewelryの2003年のヒット曲「あなたが本当に好き(니가 참 좋아)」を。どういったきっかけだったんですか?
ジョンヨル 4年前にCOOLの「哀想(애상)」という曲をリメイクしたことがあるんですが、この時は、作曲家のユン・イルサンさんからお話をいただいたんですが、このJewelryの曲に関しても同じで、作曲家のパク・クンテ先輩からお話があって、記念アルバムに参加してもらえないかということだったので……。
チョルジョン 原曲がすごく強いイメージをもった曲だったので、これをどう新しいイメージにするかというよりも、アコースティックなサウンドにどう構築していけるかということに重点をおいてアレンジしてみたんです。
古家 原曲を知らない世代の人が聴いたら、確実に10CMの新曲じゃないかって思うくらい、10CMの曲になっていて、驚いたんですね。
ジョンヨル 嬉しいですね、それは最大の誉め言葉ですね。
古家 最近OST(オリジナル・サウンド・トラック)にも積極的に参加していますね?それにしても、こうして今年あった出来事を話しているだけでも、相当忙しかったと思いますが、もともと「今年は忙しい1年にしよう」という気持ちで、いろんなプロジェクトに、計画的に参加したんですか?
ジョンヨル そういうつもりではなかったんです。もともとプロジェクトやOSTには参加していたんですけど、確かに「春が好き」のヒット以降、お話が次々に来ているのは間違いありません。自らすすんで「OSTに参加したい!」っていう気持ちでいるわけではなくって、やっぱり良い曲と出会えることが一番大事ですね。『キャリアを引く女(캐리어를 끄는 여자)』のOSTで、「If You Come (와준다면)」という曲で参加したのも、この曲は自分たちで書いたものではないんですが、良い曲だったので、参加することにしたんです。
古家 10CMがOSTに参加するのは、良い曲との出会いはもちろんあると思いますが、OSTにどんな魅力を感じるからですか?
ジョンヨル 「If You Come (와준다면)」という曲に関しては、実際の映像は事前に観ることはできず、シノプシスは見せてもらって、なんとなくドラマについて把握した上でレコーディングしたんですが、この曲は、歌詞は僕の方で書いたんですね。なので、ドラマに関するキーワードを事前に関係者から聞いて、歌詞を書く作業を行いました。OSTの魅力って、そこですよね。ドラマの重要な部分で、歌が、登場人物の感情的な部分を表現するというか補助するというか、それがドラマをより感情豊かなものにできるのならば、それほど素晴らしいことはないし、自分たちの歌が、その役割を果たせるのならば、やっぱり嬉しいですよ。
チョルジョン OSTは、機会があれば、やってみたいという気持ちは常にもっています。僕らが各曲以外にも、良い曲は当然たくさんありますし、僕らの色に合わせて書いていただける曲もあります。僕自身も与えられた曲をジョンヨルが歌うと、どんな色の曲になるんだろうっていう興味もありますし。これからも機会があれば、積極的に取り組んでいきたいです。
古家 今回、単独公演「10CM Night~オヌルパメ Vol.3」が開催されたわけですけど、Vol.4の開催が早くも決定しましたね。これだけ早い段階での発表には、きっと日本のファンも驚いたんじゃないかと思いますが……。
ジョンヨル もう4回目になるわけですが、これまでやってきたスタイルとは少し違った姿をお見せできればと思っています。
チョルジョン 今回、ライブが終わって、ファンの皆さんから「次はぜひ大阪に来てください」っていう声をたくさんいただいたんですね。なので、来年は、この4回目の公演はもちろんですが、日本の地方でもライブが出来たらと思っています。
古家 僕が知っている10CMは、インディーズアーティストとしてデビューして、今やインディーズ、メジャーという垣根を越えて、クロスオーバーに活躍していて、しかも大きな成功を収めた、そんなアーティストというイメージなんですね。言い方を変えると、すでに10CMというブランドを確立したといえばいいでしょうか。そんな10CMがこれからどんな風に10CMであり続けるのかっていうことにすごく興味があるんです。
ジョンヨル もちろん、これからも活躍の場にこだわりなく、10CMというアーティストのもつ音楽的アイデンティティが、いまよりもさらに強いものになるよう活動していきますし、そうなれば。もっと多くの人に「この音楽は10CMにしかできないよね」っていうものを確立できるんじゃないかと思うんです。
チョルジョン メジャーだ、マイナーだ、音楽ジャンルはこうだっていう括りなしに、常に新しくて、独特な、そして何よりいい音楽ができる、それが10CMだって言われ、人々の記憶に残る音楽をやっていきたいですね。10CMですから、まずアルバムは10枚までは出したいですね。あとは、無難に過ごしていければ……。
ジョンヨル 無難に……(笑)いや、日本のチャートでも、TOP10入りを果たすのは、ぜひ目標としたいです。
クォン・ジョンヨル
古家 その日本での活動ですが、日本でのオリジナル作品の発表って念頭にありますか?
ジョンヨル まずは、来年春にリリース予定のアルバムを日本でも韓国と時期同じくして出したいと思っています。オリジナルを作るとしたら、それ以降になると思います。でも、来年はより多くの人に、僕らの音楽が伝わるように頑張っていきたいです。そのためには、来年春に行われる「10CM Night~オヌルパメ Vol.4」を成功させたいと思っています。
チョルジョン 次のライブでは、ニューアルバムの曲をできるだけやりたいと思っています。そのためにも、いい音楽を準備できるように、頑張ります。
ユン・チョルジョン
古家 ニューアルバムは、来年の春、具体的にいつぐらいになりそうですか?
ジョンヨル 4月を目標に作業しています。頑張っていますが……古家さん、わかっていると思いますけど、よくわかりません、正直はっきりとしたリリースに関しては(笑)。目標として4月です。一生懸命頑張ってはいます。
(取材・文:古家正亨 スチール&動画撮影:大野要介)
■日時:2017年4月22日(土) 18時開演(開場 17時)
■会場:彩の国さいたま劇場小ホール
■出演:10CM
■先着順先行予約:2016年12月29日(木)12:00~2017年1月9日(月)18:00
■一般発売:2017年1月28(土) 12:00~
■公式サイト:http://www.10cm-kjmusic.com/
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