ササノマリイ、1stシングル「タカラバコ」を通して感じた“組み合わさる”ことの強さ
ササノマリイ
“ねこぼーろ”名義で「戯言スピーカー」「ハルニキミト」「自傷無色」などをネット上に投稿し活動してきたササノマリイ。そんな彼がメジャー移籍第1弾シングル「タカラバコ」を11月30日にリリースする。
記念すべき1stシングルは、昔から好きだと語る『夏目友人帳』のオープニングテーマにもなっている。そんな好きな作品とコラボを果たし、何を感じたのか。そして、インタビュー中に溢れ出た彼の真っ直ぐな想いに注目してほしい。
――メジャー第1弾作品となるシングル「タカラバコ」のお話を中心に、ササノマリイさんの人となりも探りたいなと思っております。
僕、普段あまり人と会わなくて。こういう場では、コミュ障すぎてかえってたくさん喋るんですけど……支離滅裂にならないように気をつけます(笑)。
――よろしくお願いします!(笑) なにしろ「タカラバコ」を聴いて思うのは、ササノマリイさんの紡ぐ音と言葉は救いと癒しであり、浄化されるなということで。どうしてそういう音と言葉が生まれてくるのでしょうか。
自分自身、そういう音楽を求めてしまうということがありつつ……いつもの自分の作り方だと、もともと音作りを長くしていたこともあって、先にオケを作っちゃうんですよ。で、そのオケを流しながら、合う言葉とか浮かんだ言葉を並べていくっていう。ただ、「タカラバコ」に関しては、アニメ『夏目友人帳 伍』のオープニングテーマということで、曲調も歌詞も、自分的にはこれまでと雰囲気が変わったなということも思います。
――『夏目友人帳』という作品に寄せたわけですね。
そうです。『夏目友人帳』という作品が好きでシリーズをずっと観てきたので、そういう自分が思う『夏目友人帳』の世界観に合うように、なおかつ、できる限り自分の言葉で表したつもりです。
――大好きな作品のオープニングテーマを担当できるなんて……
嬉しいやら、胃が痛いやら(笑)。作品を好きな人の気持ちがものすごくわかるので、そういう人たちの気持ちを裏切りたくないなという気持ちがすごくあって、5~6曲書けてしまったんですよ。やっぱり好きだったんだなって、改めて思いました。
――最初のオンエアは、それはそれは感動したのではないですか?
しばらく忙しくてリアルタイムで観られず、録画で観ていて。最初は、オープニングを飛ばしていたんですよ……緊張と言い知れぬ恐怖で(笑)。でも、おそるおそるオープニングを観てみたら、自分の曲に大好きな『夏目友人帳』のアニメーションがついているわけですからね。自分が歌詞を書きながら、「ここにこういうシーンがつくのかな」と思っていたりもしたんですけど、その通りに主人公の夏目(貴志)が斑(夏目貴志の用心棒)と一緒に飛んでいたりとかして。いちファンでもあるから、「嬉しい」って言うとファンの方たちに申し訳ないような気もしつつ、本当に感動しました。
――ちなみに、『夏目友人帳』をずっと観てこられてきた中で、特に思い入れの強いキャラクターは?
僕は、人間より妖(あやかし)にばかり惹かれてしまうんですよね。今の第五期で言うと、第一話の壺妖怪とか。かわいい!って。あと、第五話のモジャモジャした妖怪とか。第二話のタオル妖怪にしてもそうなんですけど、彼らの健気なところ、それをどうにもできない夏目のやるせなさとか優しさにも、グっときてしまうっていう。
――音にしろ言葉にしろ歌にしろ、寂しさがあったり、儚さがあったり、でも温かかったり。ご自身が繊細で感受性が豊かだからそうなってしまうのだろうし、優しい人なんだろうなと思います。
どうなんでしょう……そうだったらいいんですけど(笑)。でも、詐欺にだけは引っかからないようにしています。
――優しい人ほど、引っかかってしまいますからね。
実際、セールスの電話をなかなか切れないんですよ。とりあえず話を聞いちゃうっていう(笑)。
――気をつけないと!(笑) すぐに感情移入してしまったりとかもしてしまいそうですね。
アニメやドラマを観ていて、たとえば登場人物が恥ずかしい想いをしていると、自分も恥ずかしくなって、観ていられなくなったりはします(笑)。
――特に好きなキャラクターではなかったとしても?
そうなんです。最近はだいぶ抑えられるようになってきて、ニュースとかを見ても気持ちが入りすぎないようにしようとはしてます。いちいち「自分がその立場になったらどうする?」って考えても、自分にはどうにもできないし、心がもたないので。できる限り、フラットにいようと思って。
――「透明なコメット」には、そういった葛藤も見える気がして。嘘をつけない人なのかな、とも思います。
嘘をつけたらいいんですけどね(苦笑)。いろいろごまかしたい気持ちはあるものの、なかなかそれが難しいっていう。
――だからこそ聴き手の気持ちも重なるのだと思います。加えて、音に浸る幸せもそこにはあって。
僕自身、そういう音楽が好きだったし、自分が作った音楽を聴いた人が同じような気持ちになってくれたら幸せっていう。ただ、「バイバイ」は文章として成り立たせようと思っていない曲で。直感で音に合わせて歌詞を書きました。
――そういうことでしたか。
はい、そういうことなんです。喋るのがヘタなのが、まんま出ちゃっていますよね(苦笑)。
――一方、その混沌とした中で、真理を突いていたりもするなと。<本当は大体は意外とシンプル それを隠すために一生懸命になってる>というところ、確かに!と思いましたもん。
本当ですか! ただ、さらに言うとその<大体は意外とシンプル>というフレーズ自体、受け手によっては誤解が生まれたり、異論を呼んだりするっていう。
――なんという無限ループ。
そうなんですよ。だから、歌詞を書き始めたころは「こう書いたらこういう嫌な想いをする人もいるかな」って思って、悩んで迷ったこともあったんですよ。でも、世の中にはいろいろな考え方の人がいて……。
――10人いて、全員に合わせることなんて不可能ですもんね。
そう。ということを悟って、“自分はこう思う”っていうことを書くようになりました。曲に対する評価だって、本当にさまざまだし。
ササノマリイ
――そういう意味で言うと、「タカラバコ」は『夏目友人帳 伍』で知ってくれた方はじめ、これまでに増して多くの方が聴いてくれているはずで、反響も大きいのではないでしょうか。
ありがたいことに、いろいろな感想をいただけていて。
――中には、気づかされる言葉もあったりとか?
ありますね。1コーラス目は特に、『夏目友人帳』のシーンを思い浮かべて歌詞を書いて、それ以降には自分自身が思うことを書いたんですけど、それ以降の部分でも、「ここってこういうことだよね?」って言ってくれる方がいたりとか。言われてみれば、確かにそうとも解釈できるなって気づかされたし、それはすごくありがたかったですね。
――という反応をいただけるというのもまた、音楽を作る喜びでしょうし、原動力にもなるのではないでしょうか。
そうですね。そして、自分は濁すのが好きで、自主的活動で作っているときというのは濁りに濁りまくっていたんですけど(笑)、最近は「明確になってきたね」と言ってくれる人もいて。もしかしたら、無意識化で変化が起きているのかもしれないです。
――そうさせているのは、歌を、言葉を届けたいという想いですかね。
かもしれないです。これまではオケの音の組み合わせ、音の広がりを最重要視していて、自分の中で歌詞はオケを完成させるためのひとつのパーツのように思っていたんですけど……自分の声で歌うからには、っていう想いもあるのかな。
――責任感というか。
はい。歌として作るから、言葉も大事にしなきゃなっていう。
――実際、「タカラバコ」の<君のその心が あるべき場所にあればいいよ>とか、「透明なコメット」の<ちっぽけなうたでも 君に届くなら>とかっていうフレーズはじめ、言葉に浸透力があって。ただ「頑張れ」と言われるより、そっと寄り添ってくれる言葉はちゃんと自己肯定した上で希望を見出せます。
僕自身、そういうものが好きなんですよ。すごくハッピーに、前向きに応援してくれる曲も嫌いではないんですけど、ついていけないっていうときもあるし。そうやって言葉も大事にしたいなと思うようになってからは、1曲を作るのに時間がかかるようになりました。早いときはオケも歌詞も含めて3~4時間で曲を作っていましたけど、そこからさらに磨けば、届き方も変わるんじゃないかなっていうところで。
――妥協はしたくないと。
ですね。もともと中途半端は嫌で、自分が思う完璧な状態で世に出したいという想いは強かったんです。なので、最後まで作ったけど、結局ボツにしちゃった曲もたくさんありますから。
――なんてもったいない!
よく言われます(笑)。
――それは、ボツフォルダにとってあったりは……。
しなくて、全部消しちゃっていたんですよ。
――ますますもったいない!
いやぁ、ハードディスクの容量が増えちゃうので。でも、最近はとっておくようにしています(笑)。
――その完璧主義の部分は、音楽制作の場以外でも発揮されるのでしょうか? たとえば、家の中はキレイにしておかないと気がすまないとか。
いやいや、楽器とパソコンのデスクトップ以外はめっちゃ汚いですよ(笑)。だからもう、作業風景なんて絶対に撮影できないですもん。自分的に限界が訪れたらやっと掃除するっていう……眠かったら寝ちゃうし、音楽以外は妥協ばっかりです(笑)。
――根っからの音楽人なんですね。メジャーで新たな一歩を踏み出した今、この先にはどんな夢を描いているのでしょうか。
漠然としていますけど、おもしろいものを作りたいなっていう想いはあります。音楽って、なにかと組み合わさることでより作品の力が強くなるし、受け取る人の感じる力も強くなるなっていうことを、今回の『夏目友人帳 伍』のタイアップで感じたので。そういう組み合わせの面白さも、模索していきたいなって。
――すると、可能性はどんどん広がりますよね。
ひとつの曲の中でも、たとえばすごく感傷的な落ち着いた日本語詞なのに曲調ががっつりEDMとか、そういう意外性のある組み合わせにも、どんどん挑戦していきたし。そうやって作り手が楽しんでいれば……。
――受け手も絶対に楽しめます。
そう、僕も伝わるんじゃないかなと思うので。好きで始めたことなわけだし、楽しんで音楽を作っていきたいと思います。
取材・文=杉江優花
2016.11.30 Release
通常盤
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