マイケル・メイヤーと柚希礼音が明かす、『お気に召すまま』の「とっても大変」な稽古方法
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マイケル・メイヤー、柚希礼音(撮影:荒川潤)
舞台は「Summer of Love」と言われる1967年のアメリカで、主人公が逃げ込んだ先はヒッピーの聖地ヘイトアシュベリー!? ブロードウェイの鬼才マイケル・メイヤーが、シェイクスピアの傑作喜劇を1960年代のアメリカに置き換えて描く音楽劇、『お気に召すまま』の稽古が始まっている。合同取材会でメイヤーと主演の柚希礼音が明かした、シェイクスピアの言葉に血を通わせるための「とっても大変」な稽古方法とは──。
「培った男役を見せるのではなく、自分の感情を使って演じたい」(柚希)
――まずはメイヤーさんから、物語の舞台を1960年代のアメリカに置き換えようと思われた理由をお聞かせください。
メイヤー 1960年代のワシントンDC郊外で子ども時代を過ごした僕にとっては、ごく自然に湧いてきたアイデアでした。僕はニクソンが大統領になってからのアメリカを、理想主義が終わり、反動の時代に入ったと感じていて。『お気に召すまま』の戯曲を読みながら、これを自分の時代に置き換えたらどうなるだろうと想像していたら、宮廷がワシントンDCのように、アーデンの森がヒッピーコミューンのように見えてきたんです。今回東宝さんからお話をいただいた時、そのアイデアが僕のなかで蘇ったというわけ。ただその時点では、トランプが大統領になるなんて予想もしていなかったから、そうなったことにもまた特別な意味を感じますね。悪夢の大統領選の1週間後に日本に来ることができて、いいバケーションになっていますよ(笑)。
――お稽古が始まって、役者/演出家としてのお互いの魅力をどう感じていますか?
メイヤー ちえさん(柚希の愛称)は、まずとても才能豊かで、そしてファニーで勇敢。僕が要求しているのはとても難しくて責任重大で、しかもクレイジーなことばかりなのに(笑)、前向きに挑んでくれる彼女に敬意と感謝でいっぱいです。
柚希 マイケル・メイヤーさんとお仕事をさせていただけるのは本当に光栄なことだと、お稽古が始まる前から思っていたのですが、本っ当にすごい方だなと、今は毎日毎日思っています。どんどん色んなことを思いつかれるだけじゃなく、作品の深いところまで理解されていて、思いつきと計算力が混ざり合っているんです。厳しくしてくださることも、私にはすごく有難いですね。今はやることが山積みで死にそうなんですが(笑)、本番までにここに向かえばいいというものをマイケルさんが示してくださるので、そういう方に出会えて本当に幸せだなと思います。
メイヤー ありがとう。「ここに向かえばいい」というゴールが分かっているかどうかは、僕にはまだ確信がないけどね(笑)。クレイジーなアイデアが浮かんでくると、僕はどんどん変えてしまうから。ただ、ちえさんを筆頭に才能豊かで前向きな方ばかりの、本当に素晴らしいカンパニーだから、皆さんと一緒にゴールに向かっていけたらいいな。
マイケル・メイヤー(撮影:荒川潤)
――宝塚で長年男役として活躍されてきた柚希さんが、今回は男装してギャニミードを名乗るロザリンド役を演じます。
メイヤー ロザリンドを演じることになった役者が通常、まず悩むのは「ギャニミードをどう演じたらいいのか?」。彼女はその点を既にクリアしているから、そのぶん僕もほかの投げかけをすることができて、贅沢な環境だなと感じています。ギャニミードとしての時間のほうが長い作品だけど、ロザリンドとしてドレスを着る場面もあるから楽しみ(笑)。
柚希 お芝居でドレスを着るのは退団後初めてのことなので、初めはとても戸惑ったのですが、マイケルさんがやって見せてくださるのがすっごく可愛いので(笑)、真似してみたりしています。そしてギャニミードになるところでも、長年培ってきた男役をお見せするのではなく、ロザリンドが変装している意図をしっかり見せたいと思っていて。
メイヤー ああ、それは大切だね。ちえさんは本当に頭がいい。
柚希 女の子も男の子も、愛らしくてチャーミングでコケティッシュな、お客様が「分かるなあ」と思えるようなキャラクターとして演じたいですね。そのためには、どの台詞でもどの動きでも、私本体の感情がちゃんと生きていないとダメなんだということを今、痛感しています。
柚希礼音(撮影:荒川潤)
「作品について、アメリカで上演する時以上に多くを学んでいる」(メイヤー)
――メイヤーさんにとって日本でのクリエーションは初めてになると思いますが、稽古の仕方などで違いを感じることはありますか?
メイヤー それはもう、色んなことが違います。例えば、稽古場で靴を履き替えなければいけなかったり(笑)。スナックコーナーが充実し過ぎていて、このままだと帰る頃には巨大なカボチャみたいになってるんじゃないかという心配もあります(笑)。でもそれらは些細なことで、似ているところのほうがずっと多い。人間が人間の物語を語る、という演劇の基本は世界共通で、アーティスト同士の持つ共通点は相違点よりはるかに偉大なものなんです。そういう前提の上で、今回感じている普段との大きな違いを挙げるなら、やはり“トランスレーション”ですね。シェイクスピア英語と現代英語、シェイクスピア日本語と現代日本語とを行き来しながら、最適な言葉を選んでいく作業は、思っていた以上に大変です。
柚希 本当にそうですね。作品全体としてはロックでポップな世界なのですが、台詞は古風な言い回しのままのほうが逆に面白いということで、そのまま取り入れているところが多いんです。でもそれに対して、マイケルさんが責任を持って、「この言い回しで日本のお客様は本当に面白いと感じてくれる?」と私たちに聞いてくださる。字面だと面白くても声に出すと伝わらない箇所を分かりやすくしたり、といった細かい作業の繰り返しなので…本当に、とっても大変です!(笑)
メイヤー でも楽しいよね。「これだ!」と双方が感じる言葉に行き着いた瞬間は、とてもエキサイティング。苦労した甲斐があったなと思えます。
マイケル・メイヤー(撮影:荒川潤)
――つまり今回は、キャストの皆さんご自身が言葉を選んでいるということですか?
柚希 そうなんです。場面ごとに、まずその場面に出ている全員がテーブルについて台本を読みながら、今の日本人に伝わる言葉かどうか、マイケルさんと一緒に確認していっていて。シェイクスピアの素晴らしい表現をきっちりと残しながら、それをリアルにしていくのが、今はすっごく面白いですね。私自身、シェイクスピアというと「ナントカでございますから~!」みたいなイメージだったんですが(笑)、そうではない、血が通ったシェイクスピアになればいいなと思いながらやっています。
メイヤー そうした作業を進めるなかで、頼りになるのが年配の男性キャストの皆さんです。古典作品の経験が豊富で、新しいアプローチに対してもオープンでいてくれる彼らの存在は、僕にとって予想外の喜びですね。もちろんほかの皆さんもそれぞれに面白くて、幅の広さもまたこのカンパニーの魅力かもしれません。
柚希 自分が育ってきたところのお芝居の仕方とは、全く違うお芝居をする方がいっぱいいらっしゃるので、私にとってもすっごく刺激的なカンパニーです。こんな小さな声から始めるんだ!とか、抑揚をつければいいってもんじゃないんだなとか、毎日勉強することばかり。でもロザリンドは、シェイクスピア作品のなかで最も喋る女なんですって(笑)。それは頭が良くて、知恵がどんどん働いていなければいけないということ。この素晴らしい皆さんのお芝居よりもさらに上をいけるように、なんとか頑張らないといけないですね。
柚希礼音(撮影:荒川潤)
――開幕を楽しみにしている皆さんに、一言ずつメッセージをお願いします。
柚希 マイケル・メイヤーさんとトム・キットさん(音楽)のコラボで、ポップでロックなシェイクスピアをやるという、贅沢なことを日本でさせていただいております。自分としても勉強になることばかりですが、勉強するだけではなく楽しみながら挑戦を重ねて、初日には生き生きとしたロザリンドがお客様の前で暴れ回っているようにしたいなと(笑)。ハードルが高いと感じていたシェイクスピアが、表現によってこんなに分かるものになることを私自身が実感しておりますので、皆さんもぜひ楽しみにしていらしてください。
メイヤー 『お気に召すまま』は、史上最も偉大なラブコメディのひとつ。僕はその偉大な戯曲について、日本のこの素晴らしいカンパニーのおかげで、アメリカで上演する時以上に多くのことを学んでいるような気がするんです。僕の望みは、僕が稽古場で感じている喜びを、観客の皆さんにも感じてもらうこと。1月4日、シアタークリエで「Summer of Love」くらい価値のある巨大なパーティーが開催できることを願っています。
マイケル・メイヤー、柚希礼音(撮影:荒川潤)
(取材・文:町田麻子 写真撮影:荒川潤)
■演出:マイケル・メイヤー
■音楽:トム・キット
■出演:
柚希礼音
ジュリアン、橋本さとし
横田栄司、伊礼彼方、芋洗坂係長、平野良、古畑新之、平田薫、俵木藤汰、青山達三
マイコ、小野武彦
日時:2017年1月4日〜2月4日
会場:シアタークリエ
〈大阪〉
日時:2017年2月7日〜2月12日
会場:梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈福岡〉
日時:2017年2月24日〜2月26日
会場:キャナルシティ劇場
■公式サイト:http://www.tohostage.com/asyoulikeit/