ブロードウェイの鬼才演出家マイケル・メイヤーがヒッピー版「お気に召すまま」を日本で初演!

インタビュー
2016.2.25
マイケル・メイヤー Michael Mayer

マイケル・メイヤー Michael Mayer


劇団四季でも上演された「春のめざめ」、パンク・ロック・バンド「グリーン・デイ」の楽曲を用いた「アメリカン・イディオット」など、エネルギーあふれるミュージカルを次々と発表、注目されるアメリカの演出家 マイケル・メイヤー。その彼が、2017年1月、日比谷シアタークリエの開場10周年を祝し、日本初演の舞台を手がけることとなった。シェイクスピアの喜劇「お気に召すまま」を、1967年夏、サンフランシスコのヒッピー・ムーブメント「サマー・オブ・ラブ」に置き換え、「ネクスト・トゥ・ノーマル」などを手掛けたトム・キット作曲によるオリジナル音楽も盛り込んだ、斬新な設定での上演となる。来日した彼に作品への意気込みを訊いた。

――この斬新な設定のアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか。

マイケル・メイヤー(以下、MM): 以前、ニューヨークで「お気に召すまま」を上演しないかという話があったときに思いついたアイディアなんだけど、そのときは結局実現しなかった。それが、東宝から「日本でシェイクスピアを」という案が挙がって思い出し、コンセプトを話すうちに発想がふくらんでいったんだ。

僕は60年代、首都ワシントンD.C.で子供時代を過ごしたんだけど、年長の親戚はヒッピー・ムーブメントに関わっていてね。愛や幸福、平和について訴えかける歌を聴いて育ち、若者が個性を尊重し、表現の自由を讃えようとしているのをテレビでも見ていた。その一方で、政治の街ワシントンは非常に保守的でね。当時はニクソンが大統領に就任したばかりだったんだけど、彼は自分の敵リストを作っちゃうような一種の偏執狂で、50年代を依然引きずっていて、国全体が彼に対して反抗しようとしていた。

「お気に召すまま」に出てくるフレデリック公爵とオリヴァーって、ニクソンおよび彼の取り巻きのように思えるんだよね。となると、フレデリック公爵の宮廷から森へと逃げ出すロザリンドとシーリアは、ケネディ大統領の姪のマリア・シュライヴァー(アーノルド・シュワルツェネッガー夫人)とニクソンの娘トリシアが、グレイハウンドの長距離バスに乗ってサンフランシスコに行くみたいな感じだなと(笑)。きちんとした服装だったのがベルボトムを履いたりして、戯曲にある二人の変装も表せる。

他のシェイクスピア作品より歌も多いので、ママス&パパスに代表されるフォーク・ロックをオリジナルで流して、時代の空気を出そうと思って。フレデリック公爵とオリヴァー、フレデリックに追われた彼の兄の前公爵とオリヴァーに追われたその弟オーランドー、兄弟それぞれとの対立は、アメリカにおける共和党と民主党の対立を思わせるところもあるなと。今はアメリカ大統領選の真っ最中、この作品の稽古のころには結果が出ていて、もしかしたら女性初の大統領のもと誇り高きアメリカ市民として暮らしているかもしれないし、結果によってはアイスランドに移住しているかもしれないけれども(笑)。いずれにせよ、現代にも通じる重要なメッセージを語るところのある物語だと思う。

――シェイクスピア作品とのこれまでの関わり、そして「お気に召すまま」の魅力について教えていただけますか。

MM : 高校生のとき「真夏の夜の夢」のピーター・クインスを、それとニューヨーク大学時代に「お気に召すまま」の道化タッチストーンを演じたな。ニューヨーク大学では「オセロ」の演出もしたんだけど、イアーゴーとロドリーゴを演じた役者二人が傑出していてね。史上初めて、イアーゴーとロドリーゴのカップルがメインに据えられた画期的なプロダクションだったと思うよ(笑)。その二人とは、ジェフリー・ドノヴァンとビリー・クラダップだったんだけどね。

「お気に召すまま」の魅力についていえば、まずは何といってもヒロイン・ロザリンドのキャラクターにあると思う。シェイクスピアが書いた中でももっともすばらしいキャラクターじゃないかな。知性と愛、度量の大きさがあって、世界との関わり方も非常にポジティブ。言葉数は多いけど、ハムレットみたいに要点を外すということがないし、自己中心的でもない。彼女は自分の恋人に、自分をこう愛してくれと教えるわけだけれども、それって僕たちみんなが心の底でしてみたいと願っていることじゃないかな?

それに、彼女が男装して見せる両性具有性によって、男性からも女性からも共感を得られるという普遍性がある。ヴァイオラやポーシャのようなシェイクスピアの他の男装役と違って、利己的に感じさせるところも一切ないしね。ロザリンドと従妹シーリアとの、姉妹を超えた親密な関係も非常に素敵だなと思う。シェイクスピア作品の中でもっとも魅力的な人間関係じゃないかな。60年代にはフェミニズム活動も盛んだったわけで、そんなことも思い起こさせる二人の関係だよね。第五幕になるとシーリアがあまりしゃべらなくなっちゃうのが残念でならないよ(笑)。

――トム・キットさんが音楽を手掛けるそうですね。

MM : 彼とは「エヴリデイ・ラプチュア」や「アメリカン・イディオット」で一緒に仕事をした(※トム・キットは両作品で編曲を担当)。また、彼自身で作曲を手掛けたものとしては、「ネクスト・トゥ・ノーマル」「ブリング・イット・オン」「ハイ・フィデリティ」などがあるし、ニューヨーク市セントラルパークの「シェイクスピア・イン・ザ・パーク」で「シンベリン」の音楽も彼が担当したんだ。そんな彼と仕事をするのが私はとても好きだ。彼は作品のアイデアをきちんと尊重しながら、それでいて自分の個性を打ち出すことに長けている。今回コンセプトを彼に説明した際も、「どんな楽器が必要か」「役者に楽器をもたせたい」といった話をすると、「やりたいことがわかって来たよ」とすぐに理解してくれた。

――その作品を、今回東京で世界初演されます。

MM : 言葉の問題はあるとは思う。「春のめざめ」をドイツで上演したとき、ドイツ語が全然わからないながらも、笑いが起きる箇所がいつもとあまりにも違うので、ドイツ人にはユーモアセンスがないと常々思ってきた理由がよくわかった。ドイツ語って動詞が文章の終わりに来るんだけど、その文法だとジョークが語れないんだよ(笑)。

それはさておき、シェイクスピアの韻文のリズムの流れというものが原語ではあるんだけれども、それが日本語ではどうなるかだよね。それを無視してしまうと、物語だけになってしまう。シェイクスピアは物語を他から借りてきていたりするから、彼のオリジナリティは何よりそのセリフの詩としての美しさにあると思うんだよね。もちろん、翻訳によって雰囲気が変えられるのもまた日本での上演の特性だとも思うから、そのあたりはこれから翻訳家と考えていきたいな。今は21世紀で、今回は60年代、20世紀半ばの話として上演するわけだから、そのあたりの時代の違いを言葉の上でも出したいと思うし。

物語自体は、黒澤明監督がシェイクスピアをもとに「蜘蛛巣城」と「乱」を撮ったくらいだし、日本人にも受け入れられるものだと思う。戯曲において、現代ではちょっとピンとこないなと思う箇所はカットし、表現をわかりやすいものにしたり、場面も入れ替えたりしようと思っている。シェイクスピア自身、この作品に出てくるアダム役が他の作品に出るため抜けなきゃいけないから途中で登場させなくしたりしているし、そのあたり柔軟な人だから許してくれると思う(笑)。

それにしても、「この世界はみな舞台、男も女もみな役者にすぎぬ」の有名なフレーズに続く、人生を七幕に分けたジェークイズのセリフなんて、今日でも非常に普遍性のある根源的な言葉だと思うよ。シアタークリエはブロードウェイの劇場のようにプロセニアム・アーチがないという意味で、観客に先入観を与えず、作品世界にすっと入っていきやすいニュートラルな魅力のある劇場。大きすぎない親密な空間もとても気に入っていて、そんな劇場の開場10周年のオープニングを飾れることを非常に光栄に思っているよ。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

公演情報
『お気に召すまま』

■上演時期:2017年1月
■会場:日比谷シアタークリエ
■作:ウィリアム・シェイクスピア
■演出:マイケル・メイヤー
■音楽:トム・キット
■出演:未定
■製作:東宝株式会社
■公式サイト:
http://www.tohostage.com/asyoulikeit/​


マイケル・メイヤー(Michael Meyer)
1960年6月27日、アメリカ生まれ。ミュージカルの演出をはじめ、演劇やオペラの演出、映画やテレビドラマの監督としても幅広く活躍。2007年トニー賞で最優秀ミュージカル作品賞など8部門を受賞した『春のめざめ(Spring Awakening)』で最優秀ミュージカル演出賞を受賞。2010年には『アメリカン・イディオット』でドラマデスク賞最優秀演出賞を受賞。また、2014年には、ニール・パトリック・ハリス主演『ヘドウィグ・アンド・ジ・アングリーインチ』の演出を手掛け、トニー賞4部門(ベストリバイバル賞、主演男優賞、助演女優賞、照明賞)受賞に導いた。2012年にはアメリカ3大ネットワークの一つ、NBCで放送されたS・スピルバーグ総指揮のドラマ『スマッシュ(SMASH)』の第一シーズンで監督を務め、大ヒットとなる。オペラの世界では、2012年にメトロポリタンオペラ(MET)で『リゴレット』の新演出を手掛け、その斬新で大胆不敵な演出は大喝采を浴びた。
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