自分たちの本質と時代の音――見事なハイブリッドを実現させたOKAMOTO'Sの新作EP、その誕生まで

インタビュー
音楽
2016.12.20
OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

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6月から10月まで、疾風怒濤の勢いで日本中を駆け抜けた、OKAMOTO'Sの2016年。自ら“度胸試し”と称する初の47都道府県ツアーを成功させた4人が、濃密な1年を締めくくる最新作『BL-EP』を完成させた。リリースはCDではなく、配信、Tシャツ付きアナログ盤の2形態となり、名エンジニア・渡辺省二郎との初タッグなど新たな試みも実現させている。そして、同時代を生きるバンドたちと共鳴するクール&ファンキーなニュー・サウンド。真実の音を求め、新たな挑戦が今始まる。

――全都道府県ツアーって、実際にやった人にしか見えない景色があると思うんですよ。

オカモトショウ(Vo):バンドマンの先輩たちからは「ほんと大変だよ」と聞かされていましたし、度胸試し、力試しという気持ちもありました。もともとデビューする前後は年間100本ペースでライブをやっていましたが、そこからもっと制作に力を入れようという時期があって、今回あらためて基礎体力や、バンドの持っている筋肉量を上げたいという意識でした。結果的に、きちんと体力があって、ライブをたくさんやることが向いているバンドなんだなと再認識できた。

ハマ・オカモト(B):どこにいたって色々なものが見られる世の中で、さらにバンドもたくさんいる中で、僕達を選んでわざわざ足を運んでくれるということ自体が、すごいことだと思っていたので……ものすごく当たり前のことを言っていますけど、それは純粋に感動しました。半分近くが行ったことのない場所でしたが、あれ?っということは、見栄ではなくて、一か所もなかったので。

ショウ:本当にそう思う。

ハマ:日本全国にファンがいるんだ、と胸をはって言えるので。行かないと分からないことでもありますし、そこはやっぱり大きかったです。

オカモトコウキ(G):自分でも正直まだ実感がわいていない部分もあります。ただ全都道府県を回ったことで、ロックバンドとしての今の姿をしっかりと見せられたことはすごく大きかったと思うし、後々になって、「あの時のツアー、行ったんですよ」だったり、「あれでバンドを始めました」と言われたりする気がしていて、時間を経ることで、より意味が大きくなってくる気がしています。全都道府県ツアーがあったからこういう風になりました、という日がくると思っています。

オカモトレイジ(Dr):47都道府県って、俺らぐらいの規模間だと意外とやってる人がいないんです。このぐらいのキャパだと、正直利益面でプラスではないわけだし。それでも俺らは行ったんだぞ、ということを考えるとあらためてすごいことだと思います。あとは単純に、大きなトラブルも無く、仲も悪くならずに終えたのは大きいです。友達同士ですごく仲のいいバンドですら、47都道府県ツアーの途中で仲が悪くなってしまった、という話もよく聞いていましたし。大丈夫かな?と思っていたけど、全然そんなことなかったので、安心しました。それはすごく強みになりましたね。

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

――で、そんなスケジュールの中、今回のEPをいつ作ってたんだ?という話になるんですけど。

ショウ:そうですよね(笑)。本当に数少ない、東京に帰ってきている限られた合間に作ってレコーディングしていました。『BL-EP』もそうですし、「ROCKY」(10月配信リリース)もそう。自分でも驚きです。

コウキ:『BL-EP』は、「Burning Love」以外をツアー中に録りました。

ショウ:そもそも基本的に、「Rocky」も『BL-EP』も予定外だったんです。年内にこういう作品をリリースしようという計画はなくて、ツアーが始まってから決まっていきました。もともとは9月に公開された『にがくてあまい』という映画の主題歌として、「Burning Love」を早めに録っていて。それが自分たち的にすごく満足のいく楽曲であり、同時に、今までのOKAMOTO'Sとは少し違うテンション感の曲になったので、この曲は俺たちにとってどういう立ち位置なのか?という話をしていたんです。「Burning Love」を作ったのも、『BL-EP』の企画を提案したのもコウキなんですが、だったらクリスマスに向けて、踊れるEPをスペシャルな感じでリリースするのはどうだろう、という話になりました。「BROTHER」から「ROCKY」というシングルの流れにドッキングさせるというよりは、また違う一面を見せられたほうが、ファンにとっても、俺らを知らない人にとってもいいアプローチになるのでは?という結論で作ることが決まったEPです。

――なるほど。

ショウ:季節ものというか、今までクリスマスに向けて、という様なことをやったことがなかったので、そういう思いもあって作っていきました。

コウキ:「Burning Love」で、エンジニアの渡辺省二郎さんという方と初めて一緒にレコーディングをして、サウンド的にすごく新しいところへ行けたので。実は、彼と1枚全て作り上げるということもコンセプトに含まれています。

ショウ:そもそもハマがずっと、渡辺省二郎さんとやりたいと言っていて。

ハマ:僕は別のところで、一緒にお仕事をしていたので。その当時は、僕らの作っている音と合うか合わないかが分からなくて。だんだん今の自分たちのモードなら合うんじゃないか、と思うようになってたので、ちょうどタイミングが合ったという感じです。

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

――エンジニアの存在は、やっぱりデカいですか。

ハマ:そうですね。今回は音作りありき、という様なところがありまして、“この曲があるからこういう音にしてほしい”というやり方ではなく、スタジオに楽器を並べて、渡辺省二郎さんのディレクションで音作りをした方がいいだろうと。そもそもチェックの音の質感が良すぎて、この音を生かすためにはどうするか、という思考で進めていきました。エンジニアのセンスに乗せられたアレンジメントもたくさんあると思うんです。それを、以前ご一緒した時からすごく感じていたので、バンドでやったら面白そうだなと。人としても、僕らとものすごく波長が合ったので、よかった。

――すごく精密で知的な、ファンク/ヒップホップ感ががっつり出たトラック。かっこいい。

ショウ:うれしいです。実は今回はコウキが作った曲が多いよね?

コウキ:ライブでも盛り上がるし、パワーでねじ伏せる「BROTHER」があって、それとは別の方向でOKAMOTO'Sの歌と楽器隊を生かすために、これはハマるんじゃないかと思って持ってきたのが「Burning Love」なんです。これはこれで、正解をひとつ見つけた感じがして。こういうファンク感のようなものが、今まではどうしてもうまくパッケージングできないな、と歯がゆく思っていたので。

ショウ:そうだね。

コウキ:ライブなどでフリーな時間があると、ファンキーなセッションをよくしているんです。その感じがOKAMOTO'Sの特色だと思いつつ、なんとかしてそれを音源としてパッケージできないか?と常々思っていて、色々な作品を聴き直しながら参考にしました。「Burning Love」は、ファンキーでありつつ、ニューウェイヴの方向から攻めたり、うまいこと入れ込むのに初めて成功したという手ごたえがあったので、この方向性でもっと曲を作りたいと思いました。アルバムまでは行かないけど、このタイミングでリリースするならEPがいいと思ったんです。

――時代性もあると思うんですよ。フューチャービートとか言われたり、R&Bやヒップホップ、ファンクシーンでも、新しい感触の音が出てきてるじゃないですか。そういうことも考えたんだろうな、と。

コウキ:考えましたね。それこそSuchmosだったり。

ショウ:同世代で、インディシーンから出てきた人たちが、どんどん洋楽を感じさせるかっこいい音楽を鳴らして、それが年下の世代にも人気になってきている状況で。今までの音楽シーンでもそういう場面はあったと思いますが、俺らにとっては初めて洋楽テイストな楽曲が受け入れられる時代が来ていると思っています。ただ、どのバンドも俺たちの様にギターが主張しているバンドではないし、もっとムードがよくてきれいなところがある音楽が多いと思っていて。俺たちは、大勢の人たちにわかってもらいたいという、泥臭い叫びのようなものをかかえているバンドなので……コウキが作ってきた曲を聴いた時に、これは俺たちのテイストでもあるし、今の時代に受け入れられる音楽にも近いものがあるのではないかと思いました。

――確かに。

ショウ:そういう同世代のバンドが出てきていなかったら、こういうサウンドになったかというと、また違ったものになっていたかもしれない。ファンクはファンクでも、もう少し70年代の様なファンクになっていたかもしれないですし。そういう意味では今の時代の影響を受けていますが、どこからどこまでが俺たちの本質で、どこからどこまでが時代の影響かというのは、なんとも言えないところですね。とにかく、何かシャレた作品を作れたらいいな、とは思っていました。

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

――レイジさん。ビートに関しては。

レイジ:かなりシンプルにしました。うるさくない感じで、クローズのハイハット、バスドラ、スネアだけ。シンプル・イズ・ベストです。渡辺省二郎さんのサウンドは、シンプルにしたほうがより良く聴こえるというか、かっこよく音が録れると思ったので。ドラムは打ち込みと思われるかもしれないけど、打ち込みじゃないんですよ。基本は全部生で叩いていて、少しだけ足しているぐらい。

――音を聴いてると、ループにしか聴こえなかったので。てっきり打ち込みのほうが割合が多いとばかり。

ショウ:そういう音になってますよね。そのぐらい極端に音を作り込んで録ったので。

レイジ:1曲通して、まったく動かないでずっと同じパターンを叩いているので、ループを組んでるように聴こえると思いますが、全然普通に叩いてます。「NEKO」も、サンプリングでループ組んだ様な音ですけど、同じく普通に叩いてます。

シュウ:曲を聴いて、渡辺省二郎さんが真っ先に「生のほうが面白い」「ループを組まないグルーヴのほうが絶対いい」と提案してくれました。なので、実はバンドだからこそのグルーヴになっているんです。

――これをライブで再現したら、ほんとかっこいい。まったく新しいグルーヴになると思う。

ショウ:肩の力を抜いて作った、というと語弊があるかもしれませんが、特に「ROCKY」や「BROTHER」で出しているような、コウキが言っていた“力でねじ伏せるような”ロックな感じは、今回出さずにおこうというコンセプトで作ったので。ライブでも、お客さんと一緒に歌える画を考えずに作った曲が多くて、それが逆に響くのではないかと予感しています。“こういうライブの画が作りたい”と思って書いている曲は、押しつけがましいところを感じる人もいると思っていて。そういう要素が少ない自由な音楽なので、それがライブで新しい武器になったらコントラストが出てより良いライブが出来ると思うのし、今から楽しみです。あと、KANDYTOWNのメンバーも今回参加してもらっていまして。

――彼らはもう、身近な仲間というか。

ショウ:そうなんです。もう長い付き合いになりますし。

レイジ:ラップもものすごくうまかった。ほぼワンテイクで決めて、純粋にすごいなと思いました

ショウ:もともとフィーチャリングをする予定はなかったのですが、「NEKO」という曲ができた時に、レイジが「絶対リミックスを作ったほうがいい」と言って、すぐラッパーの呂布とMUDに連絡して。ツアー中の少ない時間の中でスタジオに来てくれました。KANDYTOWNは、メンバーの何人も俺たちの中学や高校の同級生だったり、気心の知れている仲ですし、KANDYTOWNもこの間メジャーデビューを果たしたばかりで、俺らのEPもこのタイミングで出るというのも何かの縁で面白いなと思いつつ。KANDYTOWNのメンバーと一緒に制作したミュージックビデオもなかなかクールなものに仕上がっているので、ぜひチェックしてほしいです。

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

――今回、リリース形態がちょっと変わっていて。CDは無くて、リリースは配信とアナログ盤のみ。

ショウ:最近は普通にCD、アナログ、配信でリリースされている、だけではないものが話題になることが多いと思っていて。お客さんがどれを手にするか、人それぞれに分かれていっている時代だと思うからこそ、こんなコンセプトがあってスペシャルなEPだったらこういうことに挑戦してみるのも面白いのではないかという、バンドからの提案です。

――アナログ盤はTシャツつき。というか、Tシャツがジャケットの代わりになってる。

ショウ:Tシャツにできるジャケがいいね、というアイデアから始まっていまして。レコードは限定発売だし、これを着ている人はレコード持ってる人だと一発でわかる。遊び心です。

――最後に、2017年に向けて。バンドからのメッセージをぜひ。

ショウ:ライブばかりの1年を終えてみて、やっぱりライブは自分たちのパワーになるなと改めて思ったので、また色々なところでやりたいです。あと、前作の『OPERA』が自分たちにとってはあまりにも壮大な作品だったので、1年に1枚アルバムを作ってきた俺らが2016年はアルバムを作らなかった。ただ、曲はどんどんできてきているし、2017年はアルバムをリリースして、それを引っ提げてがっつり全国ツアーをまわりたいと思っています。

――ライブとリリース。まさにバンドの基本形。

ショウ:それが一番だなと思いました。それを長く続けるための、全都道府県ツアーだったと思いますし。新しい楽曲を東京から発信しつつ、パワーアップして戻ってきましたというライブを、また全国で展開できたらいいなと思っています。あまり奇抜なことをしようとせずに、基本形を大事にやっていきたい。ただ、もともと奇抜な人たちでもあるので、どうなることやら(笑)。そういう面も含めて楽しんでもらえたらいいなと思います。


取材・文=宮本英夫 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

OKAMOTO'S 撮影=菊池貴裕

リリース情報
ミニアルバム『BL-EP』
2016.12.21 wed on sale!

 

-収録曲-
SideA
1.Burning Love
2.Border Line
3.NEKO
SideB
1.Phantom(By Lipstick)
2.NEKO(Remix) feat.呂布/MUD
3.Burning Love(Instrumental)
Tシャツ付きアナログ盤 5000円(税抜)/ iTunes他サイトにて配信同時リリース
 
「NEKO(Remix) feat.呂布/MUD」MUSIC VIDEOはこちらhttps://youtu.be/ZH-oDsA-kQM
「BL-EP」AUDIO VIDEOはこちらhttps://youtu.be/5vsF8uDy5ks
iTunes予約はこちらhttp://hyperurl.co/bl-ep
特設サイトはこちらhttp://www.okamotos.net/special/bl-ep/

 

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