minus(-)の1stフルアルバム『O』を完成させた藤井麻輝に訊く、新作と未来と森岡賢が残したもの
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
元SOFT BALLETの藤井麻輝と森岡賢のユニット・minus(-)の1stフルアルバム『O』が12月28日にリリースされる。6月に急逝した森岡のPCに残された音源を元に、藤井はどのようにして今作の楽曲へと完成させたのか? そしてminus(-)はこれからどうなっていくのか? 藤井麻輝らしい率直な言葉の数々を、出来立ての音とともに受け取ってほしい。
森岡賢はもういないわけじゃないですか? それは彼が脱退したようなもの。で、1人になった、っていう捉え方をしてもらった方がいい。
――まず音の空間的な配置が気持ちいいアルバムだったね。
ボク、最近の高音圧な音楽って大キライなんですよ。奥行きや広がりがなくって。今回もそれとは真逆に、音圧はありながらもいかに奥行きと広 がりを出すか、という部分には力を注ぎました。ま、そこはボクの作品すべてに言えることなんですけどね。
――最初のミニ・アルバムが『D』。2ndミニアルバムが『G』。そして新作が『O』。このネーミングについては?
なんかタイトルに意味を持たせる気分じゃなかったんですよね。だから曲名も「No_4」とか「No_6」とか付けてきたし。もっとも初のフルアルバムを『O』って名付けるというのは、まだ作品の内容が見えてないうちから決めてた んですけどね。
――そこはなぜ?
O=円として閉じている、みたいなイメージがあったので。だからジャケットも円をあしらってみた。あとは『D』『G』と繋げてDOGと呼んでも良し、GODと呼んでも良し。
――同時発売の映像作品は『V』だった。
あっちはまた別の系統なんですけど、VISIBILITYのVだったりするんです。これは“目に見える状態”っていう意味で、実際、ヤツ(森岡賢)はもういないけど映像としては目に見えてる、ということでこう付けてみたんです。ついでに言っとくと、ジャケットに描かれているヘビはボクの、羊は森岡の干支です(笑)。
minus(-)『V』
――では、収録曲を追いつつ本作の特徴をみていこうかな。まず1曲目、藤井くんがボーカルの「The Victim」は、『D』では女性ボーカルだったよね。おさらいすると過去2作で多数のゲストボーカルを参加させていたのはなぜ?
単純にそのことで曲のクオリティーを上げたかった。でも今回は、『D』と『G』のコンパイル+新曲という成り立ちのアルバムなので、ボーカルが前とおんなじじゃなあって思ったんです。で、自分たちで歌い直すことにしたという。
――歌だけじゃなくオケもけっこう違ってるよね。
はい。全部やり直してます。
――自分たちの声に合わせて?
いや、それはないです。1曲目からしてキーが低すぎて歌うのが大変なぐらいで(笑)。最初の2枚のミニアルバムを出した時点から新作までの間にライブもいろいろやって、曲自体も進化した。今後もライブはあるんで進化していくはず。その進化の2016年10月の時点でのフィックスバージョンが『O』、という感じなんですよね。
――ライブでの進化に追従してるわけか。
ライブって1本ごとに微妙にブラッシュアップしてますからね。そうしないと自分でやってて飽きちゃうから。で、ライブを続けていると“ここはこうした方がいいな”っていうストックがどんどん溜まっちゃうんです。
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
――藤井くんのことだからレコーディングでもかなり集中してると思うんだけど、それでもライブでプラスアルファがそんなに出てくるもんなんだね。
もちろんレコーディングは全力投球してるけど、それほどシャカリキではないんで。
――そうなの?
森岡賢という存在がいるとパーフェクトなものは望めないんですよ。
――不確定な存在ゆえ?
いや、相容れない部分が多いから。たとえばEDMにしてもボクの中にはないというか、忌み嫌ってる感じですからね(笑)。
――ああ藤井くんとEDMってそうかもねえ。
だから、そういう要素が入ってる時点で自分にとってのパーフェクトは追えないという。
――じゃ、何を追う?
ある意味あいまいな落としどころで、わりと第三者的な立場で作ってきた感じですかね。
――新作の2~4曲目は『D』と同じ並びだったね。
あ、そうですか? いい感じに並べたらこうなっただけなんですけど。
――無意識に同じ並びになるっていうのはよっぽどマストな曲順なんだろうな。
たぶん。『D』の時もそんなに考えなかったんですけどね。“ま、いっか、これで”ぐらい。実は深く考えてない。
――側から見るとすごく深く考えてそうに見えるのに(笑)。
ほんと、minus(-)はわりと適当なんです(笑)。
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
――2曲目「RZM」や4曲目「No_4」の森岡くんのボーカルって、原曲のゲストボーカルとすごく似てるように聴こえたんだけど。
ミックスの段階で原曲の歌に寄せちゃってるっていうのはあるかもしれない。声は加工して、ほぼほぼ人造人間化してるし。自分の歌に至っては全くの機械ですからね。ボコーダー(声を鍵盤でコントロールしてロボットボイス化する伝統的なエフェクト)処理、深いし。実際の自分の声って自分が想像してる話し声とは違ったりするじゃないですか? 骨伝導の問題とかで。だから過度にエフェクトしないとちょっとこっぱずかしくなるんです (笑)。
――今はオートチューン(音程を自動的に補正するエフェクター。過度に補正してロボットっぽく聴かせるのがここ10年ぐらいの流行)の時代だけど、藤井くんはボコーダー派なんだね。
ま、ボコーダーの方がテクノですからね。いまどきあんまりいないだろうけど。
――5曲目「Maze」。
これのオケはミックス違いって感じですかね? ミックスはエンジニアの石塚さんと一緒にやってます。
――長い付き合いだよね?
もう20年以上。だから音を渡せば思った感じになって返ってくる。ただ、細かい音のバランスはボクの中にしかないんで、そこだけは伝えるようにしています。
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
「レコーディングするには歌もアップデートしないとだめだ」って言った、その次の日に死んじゃったんでね。だから歌に関しては人造人間状態です。
――さあ、そして「BEAUTY」「LIVE」「No Pretending」という3つの新曲。
「No Pretending」以外は森岡が生きてるときに1回だけライブでやってるんですよね。
――2016年2月の恵比寿リキッドルーム。『V』に収録されてたね。
はい。だからあの時点でのネタはあったんです。その後、アップデートしていたのかなと思って、亡くなった森岡のハードディスクを探してもらったんですけど、それはなかった。だからボクなりにブラッシュアップしています。
――リキッドでは歌は森岡くんが生で歌ってたと思うんだけど、そこの部分は?
「レコーディングするには歌もアップデートしないとだめだ」って言った、その次の日に死んじゃったんでね。だから歌に関してはそれこそ人造人間状態です。ただ、ないものから新しいものは産めないんで、未完成の部分もあり。マスタリングの期日ぎりぎりまで色々やってみたんですけどね。
――ボクらが聴くぶんにはなんの違和感もなく楽しめたけど。どれも森岡くんならではのメロディーにあふれたナンバーで。
音の方もかなり変えたんですけどね。「LIVE」とか原曲は8分近くあったのをバッツンバッツン短くしたりして。8 曲目の「Descent into madness」とかはちょっとミックスを変えたぐらいですけどね。
――森岡くんの好みはリバーブ(残響)多め。藤井くんは反対、的な差があるよね。
ヤツはリバーブ深めにかけないともたないんで。
――これこれ(笑)。
いや、ほんとに(笑)。ボクはリバーブって嫌いなんですけどね。
――9曲目「No Prending」ではギターの音も入ってるけど、あれは誰が?
あれはサンプリングです。ボク、minus(-)ではギター弾かないっていう足枷を課してるんで。
――なぜ?
ギターを入れるとSCHAFTっぽい世界になっちゃうんで。
――ある時期、並行してやってたしね。
思いっきり食い込んでましたからね。とはいえ名前ちがってるのに同じことやってたんじゃminus(-)やる意味ないし。
――9曲目「Peepshow」。
これは歌を録り直すにあたって、森岡がJの歌をさんざん聴いていたのを覚えてます。
――へぇ、そんなことがねえ。そしてラストの「B612」。泣ける曲だよね、これ。
これは共作なんですよ。そもそも森岡からハッピーなEDMチューンが届いて、そこにボクがメロを乗っけてアレンジしていったらこうなったという。
――これが元ハッピーなEDMチューンって想像つかないな。
「The Victim」もそうだったんですよ。ベルハ(BELLRING少女ハート)に提供したのとも違うハッピーなEDMで(笑)。
――この2曲ってどちらも“ここではないどこかへ”的な詞だよね。
まあ、ボクの書く詞ですからね。
――それが今となっては森岡くんの死と重なって聴こえてしまう。
それは心外です。書いたのは生前だし。
――どんなアーティストも、亡くなると過去の詞が別の意味を持って語られて当然。残った者はそのことも踏まえて進んでいくことになると思うけど。
ボクはそうならないようにしようと思ってます。
――じゃ、どういう形に?
もういないわけじゃないですか? それは彼が脱退したようなもの。思いっきりの脱退、ですよね。で、1人になった、っていう捉え方をしてもらった方がいい。
――新作をまとめるにあたってもそういう心持ちだった?
これに関してはある程度の所まで奴がいたんで、普通にキレイにまとめようと思いました。その中で彼の死が影響したことがあるとすれば、新曲の中に彼が作ったものが残ってることでしょうね。いつもだったらカケラすら残らないぐらいにブラッシュアップするけど。
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
――今後はメンバーが脱退して1人になった状態。それはソロ活動とはどう違うの?
ソロだったらこういう音楽はやらないですからね。脱退したとはいえ2人で始めたものなんで、その流れは残っていくと思います。
――その流れというと?
踊れる、という流れです。
――藤井くん自身の中に“踊れる”はないんだっけ?
minus(-)で残そうとしている、基本4つ打ちで誰でも踊れる音楽。そういう意味での“踊れる”はないんですよね。ボクもビートは大事だと思うけど、ドローン(長く伸ばした音)の中にもビートはある的な解釈なので。
―― 一方、踊れる音楽の中に森岡賢は残っていくと。
少なくともライブが決まっている間はその方向でいこうと思っています。
取材・文=今津 甲 撮影=北岡一浩
minus(-)藤井麻輝 撮影=北岡一浩
minus(-)『O』
AVCD-93573 ¥3,240(税込)
<収録曲>
1.The Victim
2.RZM
3.No_6
4.No_4
5.Maze
6.BEAUTY
7.LIVE
8.Descent into madness
9.No Pretending
10.Peepshow
11.B612-ver1.1
LIVE Blu-ray/DVD『V』
minus(-)『V』
【Blu-ray】AVXD-92434 ¥5,940(税込)
【DVD】AVBD-92432~3 ¥4,860(税込)
<収録曲>
[DISC 1]
minus (-) LIVE 2016 “ecru”
2016.02.22 (MON) LIQUIDROOM
1.No_9
2.No_6
3.The Victim
4.LIVE (Prototype)
5.No_4
6.RZM
7.Maze
8.BEAUTY
9.Descent into madness (with Susumu Hirasawa)
10.Close (with Susumu Hirasawa)
11.Peepshow (with Susumu Hirasawa)
12.Dawn word falling (with Susumu Hirasawa)
13.B612 (with Susumu Hirasawa)
[DISC2]
minus (-) LIVE 2016 summer “Voltaire”
2016.08.13 (SAT) AKASAKA BLITZ
1.No_9
2.No_6
3.The Victim
4.LIVE
5.No_4
6.RZM
7.Maze
8.BEAUTY
9. Descent into madness
10.No Pretending
11.Peepshow
12.Dawn words falling
13.B612
encore
1.AFTER IMAGES
※Blu-rayは1枚組