2人芝居で問題作を演じる! 地人会新社第6回公演『豚小屋』 北村有起哉・田畑智子 インタビュー
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北村有起哉・田畑智子
第二次世界大戦中、ソビエト軍から脱走し、41年間、豚小屋に隠れて生きていた実在の人物の物語を、北村有起哉と田畑智子が2人芝居で演じる舞台『豚小屋』。この注目作が、年明けの1月7日から15日まで新国立劇場 小劇場で上演される。
本作の作者は、まだ南アフリカにアパルトヘイト(人種隔離政策)が残っていた時代に、その現実を描いた名作、『シズウェは死んだ!?』をはじめ、数々の話題作を発表してきたアソル・フガード。演出はフガート作品に詳しい栗山民也が手がけている。
物語の登場人物は、軍隊から脱走して、家畜小屋で豚と隣り合わせに暮らしているパーヴェル・イワーノヴィッチ(北村有起哉)と、その妻で未亡人と偽って暮らしているプラスコーヴィア(田畑智子)。2人がこの状況からの脱出を夢みながらすごす長い歳月を、季節や取り巻く世界の移り変わりとともに描いている。
この2人芝居で、夫婦役で共演する北村有起哉と田畑智子に、稽古場で作品への抱負を聞いた。
北村有起哉・田畑智子
人間という生き物の不可解さにスポットを
──この戯曲を演じることになってまず感じたことは?
北村 2人芝居ということで、これはたいへんだなと思いました。以前、同じ栗山(民也)さんの演出で『ハロー・アンド・グッドバイ』(04年)という2人芝居を経験していますから、どれだけエネルギーが要るかわかっているし、覚悟はしているんですが。でもタイトルが『豚小屋』ですからね。正直、正月早々、なぜこれを選んじゃったのだろうと(笑)。
田畑 (笑)。
──でも北村さんは、今年7月の『BENT』もそうですが、あえて負荷がかかる舞台を選んでいるように見えます。
北村 なんででしょうね。きっとそういう病気なんでしょうね(笑)。でも、栗山さん演出で田畑智子さんとの共演ですからね。これをやらなくてどうするんだと。
田畑 私も有起哉さんと一緒だと伺って、それならぜひと。2人芝居は初めてなのですが、ひとり芝居(『バッタモン』08年)は演じたことがあって。
北村 そうなんだ!すごいね。
田畑 でも80分1人きりという、あの恐さはもう二度と味わいたくないです(笑)。今回もすごい台詞量なのですが、誰かがいてくれるというだけで安心感があって、しかも有起哉さんですから、それなら大丈夫だなと。演出も栗山さんですし、大変さよりも一緒にお芝居をしたいと思っていた方たちとできる。しかも舞台で有起哉さんとご一緒したいという念願が叶ったので、これは断る理由はないと思いました。
──2人芝居は、相手役が誰かというのは大きいでしょうね。
北村 芝居への向き合い方とか、演技の質とか、それが合うか合わないかありますから。いわば直感なんですが、そこはすごく大事だと思います。
北村有起哉
──今回の役柄ですが、北村さんのパーヴェルは軍隊を脱走して、豚のいる家畜小屋に隠れているわけですね。
北村 物語はすでに10年経ったところから始まるんです。でも10年も経っていると、逃亡当初の怯えとか、見つかることの恐怖は薄れてきて、たぶん「もう豚小屋には我慢できない」という感覚になっていると思うんです。やっぱり汚いし臭いし、啼き声もすごそうですから。でもそこに居続けるしかないということは、それだけの状況があるわけで。
──フガートさんがこの作品で訴えたかったのは、そういう状況が現在もあるということでしょうね。
北村 栗山さんもそういう話はしてらっしゃいました。この戯曲は、ロシアを描きたいわけでも、戦争を描きたいわけでも、農夫を描きたいわけでもない。そこに起こった人間という生き物の不可解さで、マイノリティの立場からフガートさんはそこにスポットをあてて描いていると。そういう意味では、誰もが自分に置き換えて考えられるし、まったく理解できないではないと思います。
田畑智子
女性の現実的な部分に救われる
──田畑さんは妻のプラスコーヴィアの立場をどう捉えていますか?
田畑 妻も共犯ですから、見つかったら一緒に銃殺になるわけですよね。そこまでして匿うという、ある意味で究極の愛だと思います。女性としてはとてもわかりやすい人です。女性の現実主義者の部分とかよく出ているなと。
北村 パーヴェルはロマンチストですからね。
──その違いは、遠くへ逃げようと踏み出すシーンで見えてきますね。
北村 そのまま逃げようと言うパーヴェルに、プラスコーヴィアは「外の現実をあなたは知らない」と。
田畑 女性はすごくリアルに生活のことを考えるんですよね。具体的にどこでどうやって生きていくつもりなのか、今あるものを全部捨てていけるのかといったら、それは無理だと。そこはわかります。
──彼らは最後にある決心をしますね。そこはさまざまな解釈ができそうですね。
北村 「死」を覚悟しているし、本当に死ぬかもしれない。でも、もしかしたら本当に解放されるかもしれない。そこは今回、栗山さんがどう演出するのかで、お客様の捉え方も違ってくると思います。
田畑 私は、この最後は、色々なものから解き放たれるのだなと受け取りました。ある意味、彼らは自分たちで自分を縛ってきた部分もあると思いますから。
──演出の栗山さんは、戯曲の読み解き方がとても明晰な方だと聞いています。
北村 面白かったのは、「妻はパーヴェルの自己陶酔にあまり付き合う必要はないから」と(笑)、2人に温度差があったほうがいいとおっしゃってて。確かにそのほうがリアルですよね。妻が優しすぎて夫に振り回されていたら、一緒にダメになっていたでしょうから。プラスコーヴィアのからっとした現実的な部分が、色々な意味で救いになっているなと。
田畑 栗山さんにそう解説していただいたことで、具体的にプラスコーヴィアがイメージしやすかったです。
北村有起哉・田畑智子
2017年の一番印象に残る芝居にしたい
──これまでも栗山さんの演出は体験しているお二人ですが。
田畑 私はまだ2度目ですが、続けて出演できて嬉しいです。私は翻訳戯曲そのものに経験が少ないので、今回は台本へのアプローチにちょっと戸惑いがあったのですが、でも栗山さんの演出自体は、翻訳劇だからといってそんなに大きな違いはない気がしました。登場人物のことも深く理解して、寄り添って解説してくださるので、あとはプラスコーヴィアという女性に、私がどう近づいて、具体的に表現できるかだけだと思います。
北村 僕は確か3年ぶりくらいになるのですが、その間に僕なりに色々なことがありましたから、その経験がこの作品を通してにじみ出ればいいなと。こういう3年でこういうふうに歳を重ねましたという、そこを背伸びせずに見せていければと思っています。そして栗山さんに少しでもワクワクしてもらえたら嬉しいですね。
──こういう難度の高い作品だからこそ、見せられるものがあるでしょうね。
北村 「来た!」と思いましたから。がっかりさせないように(笑)。歳を重ねると技術も付くけど、余計なものまで付いてたりしますから。なるべく無防備でいたいなと思っています。
北村有起哉
──北村さんはどんどん自然体になっていますね。田畑さんは天性そういう女優さんかなと。
北村 僕の知っている日本の女優さんで5本の指に入る方だと思っています。最初に共演させていただいたときから、ポテンシャルはすごいし、感情のうねりとか自然に出てくる。こういう人こそ良い女優だよなといつも思いますから。だいたい久世光彦さんと相米慎二さんという凄いお二人に鍛えられていますからね。飛び抜けていて当然ですよ。
田畑 いえいえ!(笑)有起哉さんとドラマでご一緒したのは20歳くらいで、共演はそれ1作だったのですが、この10数年の間、有起哉さんのお芝居を観に行ったり、一緒にお酒を飲んだりはしていました。有起哉さんはお世辞とか言わないし、いつも自分の言葉で自分の考えとか思いを、ちゃんと伝えてくれるので、そこは信じられるんです。そういう方だから、私の舞台も観にきていただいて、意見を言ってもらったりしていました。
北村 口でうまく説明はできないんですけど、この人には本当のことを言っていいんだなという人が僕には何人かいて、それはとても大切な存在なんです。でも、いきなり2人芝居をやることになるとはね。もうちょっとソフトな作品でもよかったかもしれない(笑)。
──そんなお二人だからこそ、この夫婦を演じられるのだと思います。最後に観に来られるお客様へメッセージを。
北村 観にいらした方に、年明け早々いいスタートを切っていただくためにも、この作品でものすごいエネルギーを伝えたいし、刺激を与えられたらと思っています。できれば2017年に一番印象に残る芝居にしたいですね。年明けの『豚小屋』は凄かったなと。
田畑 人間って色々な面を持っていて、壊れやすかったり、強かったり、今この戯曲と向き合いながら、私自身の中にも色々な感情があって、その色々な面と色々な感情がうまく伝わればいいなと思っています。そういう時間であってほしいし、ずっと脳裏に焼き付くような、そういうお芝居になればいいなと思います。
田畑智子
北村有起哉・田畑智子
きたむらゆきや○東京都出身。1998年、舞台『春のめざめ』と映画『カンゾー先生』で俳優デビュー。その後、舞台と映像の両面で活躍中。最近の主な出演作品はドラマ『ちかえもん』『怪盗山猫』、映画『駆込み女と駆出し男』『太陽の蓋』(主演)『オーバー・フェンス』、TVはドラマスペシャル『狙撃』、舞台は『十一ぴきのネコ』『戯作者銘々伝』『ロンサム・ウエスト』『シレンとラギ』『BENT』など。第15回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2017年4月にジョン・ケアード演出『ハムレット』に出演予定。
たばたともこ○京都府出身。1993年、相米慎二監督『お引越し』で主演デビュー。第67回キネマ旬報新人女優賞をはじめ多数の新人賞を受賞。2000年NHK連続テレビ小説『私の青空』のヒロイン役で幅広い世代から注目を集める。映画、ドラマと幅広く活躍。日本アカデミー賞優秀助演女優賞、毎日映画コンクール女優助演賞、同女優主演賞など受賞多数。映画・ドラマのほか、舞台やナレーションなど幅広く活躍中。最近の出演作品は、映画『ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判』『鉄の子(主演) 、ドラマNHK BSプレミアム青森発地域ドラマ『進め!青函連絡船』、舞台『幕末太陽傳(2015年本多劇場)『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(2016年パルコ劇場)など。
【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり】
地人会新社第6回公演 『豚小屋』
翻訳・演出◇栗山民也
出演◇北村有起哉・田畑智子
●2017/1/7~15◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉 A席6,500円 B席5,000円 25歳以下3,000円(全席指定・税込)
プレビュー公演は全席3,500円 25歳以下2,000円
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http://www.chijinkaishinsya.com/