“Kalafina with Strings” ライブレポート クリスマスイブにKalafinaがくれた“小さなしあわせのひかり”
Kalafina
“Kalafina with Strings” Christmas Premium LIVE TOUR 2016
2016.12.24(sat)オーチャードホール
Kalafinaにとって2016年というのは変革と挑戦の年だったと思う。5月に開催された『上海之春国際音楽祭』に日本人アーティストとして唯一招聘された『Kalafina LIVE 2016 “far on the water” in Shanghai』。9月に開催された初のアリーナツアー、『Kalafina Arena LIVE 2016』など、国内外を問わずテレビ・ライブなどフル稼働の1年だった。
そんな2016年の締めくくりとして開催された『“Kalafina with Strings” Christmas Premium LIVE TOUR 2016』。毎年恒例のクリスマス・コンサートも今までと違い、全国11ステージのツアー形式。全国を回ってきたKalafinaは今年最後のライブで何を見せてくれるのか。
舞台は春に行われたストリングスツアーよりもさらにシンプル。今野 均Stringsとピアノを奏でる櫻田泰啓、そして舞台に点々と置かれたライトが遠くから見るとまるで街の明かりのようにも見える。特殊なものもないのに暖かさを感じるようだ。そう、まさに今日はクリスマス・イブ。観客だってどこか少しだけおしゃれして来場している様に見えるのは気のせいだったのだろうか。
事務所の先輩である神田うのデザインのドレスに身を包んで現れたKalafina。今までにないゴージャスさにプレミアム感を感じつつ、一曲目「In Duici Jubilo」を静かに歌い出す。ヨーロッパの伝統的なクリスマス・キャロルから始まった音楽の時間は、続いて「fairytale」と続けられる。
オーチャードホールの高い天井に響き渡る歌声はいつもどおり伸びやかだ。シンプルな編成だからこそ小さなミスが目立ってしまう環境。ある意味の緊張感があるかと思ったが、終始Kalafinaの3人は楽しげだった。
「今日は特別な編成でお送りします」とKeikoが語り、「Eden」「ひかりふる」「君の銀の庭」と立て続けに披露。本人たちがMCで語ったとおりKalafinaの歌の構成、ハーモニーの妙を楽しめる三曲、まずは自己紹介というところだろうか。
筆者は今年の夏、『Kalafina Arena LIVE 2016』を出来る限り追いかけてみようと独占取材を試みた。稽古場、最終リハ、単独インタビューなどあらゆる側面から一つのライブを作るということを見続けてみた。それはこのアリーナライブがKalafinaにとってとても重要で、これからを決める勝負のライブだと思ったからだ。
追いかけ続けたそのライブは素晴らしく、“新しい扉”を開いたと感じたが、やはりそこにはある一定以上の緊迫した空気があった。バックステージも客席も、Kalafinaがやろうとしていることを見届けようという空気でいっぱいだった気がする。
それに比べて今日はどうだろうか。満員の客席の隅々まで感じることの出来る暖かな空気。肩の力を抜いてゆったりと楽しめる雰囲気は2016年のKalafinaのライブで感じ得なかったものだ。明らかな成長を得て、自信をもった彼女たちはたおやかに、豊かに音楽を紡いでいく。
「lirica」「Magia」「五月の魔法」と少し激しい曲をストリングスアレンジで聞かせてくれた彼女たちだが、聞き慣れたはずの「Magia」も今回のアレンジは抜群だった。編成やアレンジが違うだけでその楽曲が持つ別の一面も見えてくる。
「タイアップなどの作品モノを歌うときは、イメージを持つようにしてるんです」とHikaruが語り、歌いだしたのはアコースティックアレンジとしては初披露となる「blaze」。激しい曲調のこの曲もアレンジが変われば深みを増して聞こえてくる。「アップテンポをバラードにするためには掘り下げが必要で、その為に歌詞を朗読したりするんです」とHikaruが楽曲に対するこだわりを話してくれた後はクリスマスソングの時間だ。
12月になればどこの店に入ったってクリスマスソングが流れてくるし、当たり前なBGMの一つになっているかもしれない。でもこうやって改めてコンサートホールでクリスマスソングを聞くというのは、とても素敵な時間だという事にKalafinaは気づかせてくれた。「from heaven above」「we wish you a merry Christmas」「もろびとこぞりて」から「moonfesta~ムーンフェスタ~」「storia」「into the world」と冬の景色を映し出していく。
そう、これはまさしく“コンサート”だ。行き慣れているライブではなく、ちょっとだけ背伸びをして、大切な人と一緒に素敵な音楽を楽しみ、共に過ごす時間。そこで豪奢なドレスに身を包み歌う彼女たちは魔力を持ったビスクドールのようにも見える。
「私たちの始まりの作品、『空の境界』からお届けします」そう言って奏でられたのは「dolce」「アレルヤ」「sprinter」。厳かながら力強く響く歌。「ツアー最終日なので伝えたい言葉や気持ちがあるんですが、この曲に込めさせてください」といって本編ラストに披露されたのは、この冬に発売されたコンセプトアルバム『Winter Acoustic “Kalafina with Strings"』より「やさしいうた」。
この「やさしいうた」を聞いて実感したことが一つだけある。とても暖かく、柔らかなコンサートだったからこそ気付いたことなのだが、Kalafinaがステージで観客に対して“ただ歌う”ということはとても難しく、だからこそ凄いことなのだ。
曲を想い、歌詞を紡ぎ、聞く人の心の最短距離で送られる歌。雑味も、余計なものも何もない。ただ歌い、ただ感じ、楽しむ。そんなプリミティブな経験ができる場所がKalafinaのライブなのだと思う。
アンコールではそれぞれのドレスに触れ、自身の緑のドレスに対して「どうも! 樹木です!」と会場中の笑いを誘ったWakana。KeikoもHikaruもこれには爆笑。Kalafinaのライブではよく見られる3人の掛け合いトークもどこかいつもよりほのぼのとしている。
「ring your bell」「胸の行方」と披露した後は、スタンダード中のスタンダードナンバー「Jingle Bells」を客席とともに歌う。天井から舞い降りる無数の風船を観客が自発的に後ろに投げ込みだす、そう、幸せは一人よりみんなで分け合う方がいい、皆がハッピーでありますように。クリスマスくらいはそんなベタな願いを心に持っても許される、そんな気持ちになる。
ライブの最後には2017年4月15日から全国10都市 を巡るホールツアー『Kalafina “9+ONE”』を行うことも発表した彼女たちが最後に披露したのは「have yourself a merry little Christmas」。最後まで暖かくきらびやかに歌いきった。12月24日に集った観客の心に小さな希望と夢を灯すような“コンサート”。ちょっとした聖夜の奇跡。まるでクリスマスそのものみたいな極上の体験を元に家路に向かいながら、Kalafinaとの2017年を思った。
春からはじまるツアータイトルである『Kalafina “9+ONE”』には、2018年のデビュー10周年に向けて、普通ならば10周年で「集大成」とするところだろうが、「10周年を全く新しいスタートと位置づけ、9年目で集大成を見せる」との思いが込められているらしい。9年目での総決算と、未来を感じさせるプラスワンという意味合いのタイトル、Kalafinaの交響曲は未だ第2楽章にも入っていないということだろう。まだまだ観客には音楽に対する“体験”が眠っている。きっと最短で最速で、Kalafinaはそれを揺さぶりにやってくる。
レポート・文:加東岳史
2016.12.24(sat)オーチャードホール
01.In Duici Jubilo
02.fairytale
03.Eden
04.ひかりふる
05.君の銀の庭
06.lirica
07.Magia
08.5月の魔法
09.blaze
10.from heaven above
11.we wish you a merry Christmas
12.もろびとこぞりて
13.moonfesta~ムーンフェスタ~
14.storia
15.into the world
16.dolce
17.アレルヤ
18.sprinter
19.やさしいうた
<Encore>
En1:ring your bell
En2:胸の行方
En3:Jingle Bells
En4:have yourself a merry little Christmas
[千葉公演] 2017年4月15日(土)・16日(日) 森のホール21
[北海道公演] 2017年4月23日(日) わくわくホリデーホール
[愛知公演] 2017年4月30日(日) 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
[大阪公演] 2017年5月2日(火)・3日(水・祝) フェスティバルホール
[神奈川公演] 2017年5月7日(日) 神奈川県民ホール 大ホール
[埼玉公演] 2017年5月13日(土) 大宮ソニックシティ 大ホール
[富山公演] 2017年5月14日(日) オーバード・ホール
[東京公演] 2017年6月3日(土)・4日(日) 東京国際フォーラム ホールA
[宮城公演] 2017年6月10日(土) 仙台サンプラザホール
[福岡公演] 2017年6月17日(土) アルモニーサンク 北九州ソレイユ