東京フィルハーモニー交響楽団 2017/18シーズンの聴きどころ 3人の指揮者が牽引する意欲的なプログラミング
2016年10月より新体制がスタートした東京フィルハーモニー交響楽団。来期2017/18シーズンのプログラム(17年5月〜18年3月)が発表されたが、同団にポストを持つ指揮者たちとの共演で固め、より掘り下げた演奏を追求する。
首席指揮者のアンドレア・バッティストーニはオープニング(5月)とクロージング(3月)の2プログラムを担当する。サウンドを整える嗅覚に天賦の才を持ち、ホールの特性を的確につかみオーケストラをバランスよく鳴らして、音楽を空間ごとプロデュースする。そこにラテン系の躍動感が加わると“バッティストーニ・マジック”の完成だ。5月はお得意のヴェルディ、20世紀前半のイタリアの作曲家ザンドナーイの舞曲を並べ、「春の祭典」へとつないで、キレのあるリズムやバトンテクニックを披露する。3月はジャズとクラシックを往還するピアニスト小曽根真を独奏に迎え、グルダのピアノ協奏曲。クラシックのイディオムがジャズやポップスと融合した、いかにもグルダらしい作品だ。ラフマニノフ「交響曲第2番」の分厚いオーケストレーションでも“バッティストーニ・マジック”を実体験したい。
最も多くのコンサートを振るのがチョン・ミョンフン。現在も名門シュターツカペレ・ドレスデンの首席客演指揮者を務めるなど国際的スター指揮者だが、東京フィルではスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザー(01〜10)、桂冠名誉指揮者(10〜16)を歴任、16年9月には名誉音楽監督に就任した。もはや東京フィル・ファンにはおなじみだろう。緊張感の漲るリードと、歌心あふれる解釈は同じアジア人の私たちにも深く訴えるものがある。マーラー「復活」(7月,9月)、ベートーヴェン・プロ(9月)、「ジュピター」&「幻想」の名交響曲プログラム(1月)と王道をいく選曲で、同フィルの屋台骨を支える。
最後の一人は2015年より特別客演指揮者を務めるミハイル・プレトニョフ。長らく遠ざかっていたピアニストの仕事も近年再開し、八面六臂の活躍を続けているが、その音楽の独特な雰囲気や間合い、意外性をはらむ解釈は指揮にも遺憾なく発揮されている。これまで東京フィルでは知られざるロシアの名曲を積極的に取り上げてきた。10月定期でもグリンカ、リムスキー=コルサコフのオペラからの抜粋をはじめとする色とりどりのロシア作品が並ぶ。同月はハイドン、マーラー、シューベルトの独墺作品プログラムも絡み、レア感があって面白そうだ。また、2月にはグリーグとシベリウスに絞った北欧プログラムを披露する。
6月定期ではバレエで共演機会の多い渡邊一正が、リストとブラームスのロマン派プログラムを振る。先日、ニーノ・ロータ国際指揮コンクールで優勝したばかりの俊英・伊藤翔はカバレフスキー&チャイコフスキーのロシア・プログラムで登場(12月)。
魅力的なアーティストだけでなく、一つひとつのプログラムのコンセプトも分かりやすく、しかもシーズンを通して聴くと古典から現代まで、定番曲から知られざる名曲までバランスよく耳にできる。よく考えられたラインナップで、通にも初心者にもお薦めしたい。また、学生定期会員券という、学生にとってはかなり魅力的な会員券もあることも加えておきたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年1月号から)
2017/18シーズン新規定期会員券&学生定期会員券
2017.1/28(土)発売
問合せ:東京フィルサービス03-5353-9522
※東京フィルハーモニー交響楽団 2017/18シーズンの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tpo.or.jp/