下野竜也(指揮) 渾身の音楽に平和へのメッセージを聴く
下野竜也(指揮) ©Naoya Yamaguchi
NHK交響楽団2017年1月定期のAプログラムを指揮するのは、同世代きっての実力者・下野竜也。彼は、05年の初共演以来何度も同楽団に客演し、定期の指揮も6回目となる。
「N響は演奏する全ての音に意味と重みがあり、自分の力がダイレクトに返ってきます。それと同時に、可能な限り曲を選べますので、前回(14年)の定期では、ドヴォルザークの交響曲第6番を取り上げました」
今回は、「その繋がりもあって」前半にチェコの作品、マルティヌー「リディツェへの追悼」とフサ「プラハ1968年のための音楽」、後半にブラームスのヴァイオリン協奏曲を置いた、若干珍しいプログラムが組まれている。
「前半2曲は戦時中の残虐な行為と弾圧への祈りや怒りが込められたメッセージ性の強い作品で、後半は人間賛歌ともいうべき音楽。どちらも同じ人間が作ったものであることに恐怖すら感じます。ただ、希望や平和な気持ちをもって会場を後にして欲しいので、あえてブラームスを後半に置きました」
マルティヌーの作品は、ナチスの将校を暗殺した人々を匿ったことで壊滅させられた村のための追悼曲。
「全編にわたって祈りのような音楽が続きます。クライマックスにベートーヴェンの『運命』の一節が登場し、しかも美しく終わる。そこに怖さがありますし、それが意味するものを感じていただきたいと思います」
フサの曲は、ソ連軍のプラハ侵攻への怒りに充ちた、吹奏楽の傑作の管弦楽版。下野は複数の楽団で演奏し、作曲家自身から手紙ももらっている。
「聴き手を捉えて離さない、エネルギーと緊張感をもった作品。元々吹奏楽曲なので管打楽器が活躍しますし、打楽器だけの第3楽章ではN響のパーカッション奏者たちの演奏も見どころです。それにこうした悲劇によって生まれた作品を聴くと、平和な当たり前の生活を守り、次世代に繋げていくことが我々の責任であるのを痛感します。これらを最高クラスの楽団と取り組み、放送を通じて全国の方々にも聴いてもらえることに感謝したいですね」
ブラームスのソロは、ハンガリーの俊英クリストフ・バラーティ。
「彼は、N響15年5月定期のバルトークの成功によって再登板となった名手で、私も3年前にブラームスで共演しています。今回は音楽の要素が全て凝縮された名作を、ヴァイオリンを高らかに鳴らす王道の演奏で聴けるのが楽しみ。第3楽章ではハンガリー人のもつリズムが生きるでしょう。それにオーケストラが雄弁な協奏曲ですから、独墺音楽のDNAをもつN響の、底鳴りがして温かなブラームス・サウンドを味わっていただきたいと思います」
興味津々の本公演。下野が語る通り「演奏時間は長くはないものの、非常に内容の濃い演奏会」ゆえに、ぜひ足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年1月号から)
2017.1/28(土)18:00、1/29(日)15:00
NHKホール
問合せ:N響ガイド03-5793-8161
http://www.nhkso.or.jp/