デヴィッド・ボウイ回顧展『DAVID BOWIE is』 展示会場がロックンロールする、前代未聞の展覧会をレポート
『DAVID BOWIE is』
2017年4月9日(日)まで開催中の展覧会『DAVID BOWIE is』では、60年代後半から2016年の逝去に至るまで、約半世紀にわたりロックシーンで活躍したデヴィッド・ボウイのクリエイティブワークを展示している。展覧会は世界各地で好評を博し、ドキュメンタリー映画も製作された。企画はイギリス国立ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館。テクノロジーを駆使した最先端の会場構成で、デヴィッド・ボウイのアートワークを通し文化背景、音楽、衣装(ファッション)、舞台など、あらゆる角度から観賞できる。いわば、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の学芸員達がボウイとコラボした超一流のエンターテイメントだ。
撮影=Shintaro Yamanaka(Qsyum!)
ボウイの芸術的な創作プロセスを辿る
入場すると一人ひとりにヘッドフォンが配られる。こちらから流れる解説や音楽を聴きながら、展示品を見ていくという流れだ。場内には、ボウイの出世作『ジギー・スターダスト』を連想させるオレンジをキーカラーに、ロックステージのようなスポットライトを多用したスタイリッシュな空間が広がる。展示量が多く内容も多岐にわたるので、各展示室入口の黒い解説ボードに英語で書かれているテーマを軸に鑑賞していくとよいだろう。たとえば、白色の「WEARING MANY MASKS」、オレンジ色の「STAGE AND SCREEN」のような言葉だ。
展示を効率よく見るために白とオレンジの太文字のテーマを頭に入れておく。
また本展にはオリジナルの映像コーナーも多く、ボウイ作品が制作されるプロセス、時代背景をわかりやすく理解できる。終盤にあらわれる、ボウイのライブ会場を再現したかのような空間『ショウ・モーメント』は美術展としては最先端の試みだ。大きな部屋の壁4面に万華鏡のように映像が映し出され、音楽を楽しめる。このように、エンターテイメントを楽しみながら芸術的な創作プロセスを理解できるのが本展の特色である。
『ショウ・モーメント』時間制で映像と大音量の音楽が始まる仕組み。
「デヴィッド・ボウイ」を演じたデヴィッド・ボウイ
ボウイによる綿密なラフスケッチ、絵コンテ、衣装、PV、舞台模型など、雑多な資料も良く整理されている。順を追ってゆくと、ボウイはその時代その時代の作品として「デヴィッド・ボウイ」を客観的に表現していたことが見てとれる。華やかなロックシーンの裏側で、地道にアートワークを積み重ね、巧みにメッセージを発していたということだ。
初期の絵コンテだが、左上の街のイメージはブラックスターのPVを連想させる。
また、本展の見所は何といってもコスチュームだ。山本寛斎をはじめとする一流デザイナーが制作した衣装は、ボウイの体型そのままのマネキンで展示されており、まるで本人が目の前に立っているかのような空気を醸し出す。
色あせない魅力を放っている山本寛斎の衣装。裏地やボタンの位置にも注目。
特に、『ジギー・スターダスト』時代の衣装は圧巻だ。それらを見ると、ボウイの体型は女性モデルに近く、顔立ちも女性的で一般的にはアンバランスなものだったことがよくわかる。ボウイは自分の特殊な容姿を最大限に活かしていたのだ。神秘的な衣装と派手なメイクを施し、早変わりや引き抜きなど歌舞伎の要素をステージに取り入れて、オーディエンスを熱狂させる。この『ジギー・スターダスト』の手法は、ボウイの創作を理解する上で最大の鍵である。
人の意識の世界をかきまぜるピエロ
天井にも本のディスプレイ。細部にわたり楽しめる。
ボウイの生き様を、「歌舞伎」になぞらえた切り口で考えてみよう。
ボウイは歌舞伎の座頭(主役)で、脇役達とともにワンシーズン限りの演目を興行してきた。彼の舞台は「時代」である。現実と虚構の境界線で演じられる、難解でケレン味が売りの歌舞伎だ。どんなに奇異に、またはどんなに自然に見えたとしても、全ては彼の仕掛けた演目。そう考えると、彼が演じた様々なキャラクターやコンセプトの点が線となり、面白い発見ができる。
その上、彼はステージを降りた後も「ロックスター デヴィッド・ボウイ」として生き続けねばならなかった。どれが素のボウイで、どれが演技なのか? この複雑さは多くの人を混乱させた。彼は舞台の主役でありながら、意識の世界をかきまぜたピエロでもあったのだ。
「Life on Mars?」のスーツ。縫製や裾、背中、靴にも注目してほしい。
“パペットプレー(人形芝居)”を楽しむ
工夫をこらした展示のベルリン時代。三島由紀夫の肖像画もある。
東京でこの展覧会が始まった2017年1月、あるニュースが世間を騒がせた。ボウイが肖像画を描いた人物のひとり、三島由紀夫による未発表テープが発見されたのである。その中で三島は、ボウイを連想させるような言葉を述べていた。
「生きているうちは人間はみんな何らかの意味でピエロです。われわれ人生でね、ひとつの役割をね、パペットプレー(人形芝居)を強いられているんですね」
ボウイはロックカルチャーのピエロだった。彼が反転させたイメージの中で観客は自由を知り、熱狂し、共に歌い踊り、舞台は消えたかと思えば突然現れた。
ラストアルバム『★』もそうだ。本作は、発売直後の彼の死によって、生前成し得なかった全米首位を獲得。ボウイを聴いたことのない若い世代までその音を耳にした。決してビギナー向けとは言えないこのアルバムを、世界中の人々に聴かせるとは、最後の最後まで彼の舞台は見事としか言いようがない。
華やかなイメージが先行するボウイだが、実際はいい時ばかりではなかった。低迷し輝きを失った時もあった。だが彼はどんな時もこつこつと忍耐強く、芸術を探求し続ける内観的なアーティストだった。その証がこの展覧会『DAVID BOWIE is』である。
半世紀にわたって続いてきたデヴィッド・ボウイのパペットプレー。花吹雪舞うシリアスムーンライトのもと、ショーの幕が下りるその瞬間まで思う存分楽しもうではないか。私たちも思い思いのピエロになって。
期間:2017年1月8日(日)~4月9日(日)
休館日:毎週月曜日(但し3月20日、3月27日、4月3日は開館)
会場:寺田倉庫G1 ビル(天王洲)
住所:東京都品川区東品川二丁目6 番10 号
開館時間:10:00~20:00
※3月29日(水)は17:00まで。
※毎週金曜日は21:00まで。
※入場はいずれも閉館1時間前まで。
※入場時間枠等に関する詳細はこちらをご覧ください。
料金:一般/2,400 円、中高生/1,200 円、小学生以下は無料。