東京都現代美術館が清澄白河をアートでつなぐ 『MOTサテライト 2017春 往来往来』をレポート

レポート
アート
2017.2.22
『MOTサテライト 2017春 往来往来』

『MOTサテライト 2017春 往来往来』

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2017年2月11日から、清澄白河エリア(東京・江東区)にて『MOTサテライト 2017春 往来往来』が開催中だ。『MOTサテライト 2017春 往来往来』は、清澄白河エリアに開館して20年あまり地域のランドマーク的存在であり続けてきた東京都現代美術館(現在は大規模改修のため休館中)がキュレーションするアートプロジェクトである。深川資料館通りを中心とした様々な箇所に7カ所の展示拠点を作り、現代アーティストはもとより、建築家や詩人など総勢11組による作品を展示。今回はそれらの作品群の一部を紹介しよう。

 

詩人が紡ぎ出す、清澄白河エリアの文化遺産

2階建ての「グランチェスター・ハウス」というギャラリーに展示されているのは現代詩の巨匠、吉増剛造の作品だ。

吉増は、松尾芭蕉による『おくのほそ道』の旅の出発点がこの清澄白河エリアであること、そして、世界的に評価が高い映画監督・小津安二郎が生まれた場所が清澄白河を包括する深川エリアであることに着目。芭蕉や小津、そして清澄白河エリアを捉え直すことで生みだされた作品群を展示している。

1階部分には吉増が「裸のメモ」と呼ぶ、思考の変遷を書き留めるメモが掲示されており、そこには芭蕉についての思索が書き綴られている。また、その「裸のメモ」を読みたどる吉増自身の目の軌跡を映像化した作品も観ることができる。

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

2階部分には小津安二郎をテーマとした映像作品などを展示。吉増によると小津安二郎は「音」の考え方に独自の感覚があるという。小津安二郎の手がけた映画の環境音に着目してみると、なかなか一言では説明がつきにくいような音がシーン毎に載せられているのだそう。

吉増は、小津のポートレイトや貝殻などで作られたオブジェを持ちながら清澄白河を散策。会場ではその散策の中で浮かんだ新たなポエトリーを、自身の声で紡ぎ出した映像記録作品などを目にすることができる。

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

『エクリチュールの洞窟の心の隅の染の方へ』展示風景(会場:MOTスペース2) 吉増剛造プロジェクト

作品について語る吉増剛造氏

作品について語る吉増剛造氏

 

詩人 カニエ・ナハとデザイナー 大原大次郎が
清澄白河エリアの営みを表現

また、17か所もの地域の商店の軒先や店内などには、詩人のカニエ・ナハが手がけた言葉の作品が掲示されている。ナハは2016年に詩集『用意された食卓』で中原中也賞を受賞し、現在最も注目される若手詩人の一人だ。展示されている詩は、掲示先の店舗を象徴するような言葉で綴られたものとなっている。

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットN) カニエ・ナハ + 大原大次郎

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットN) カニエ・ナハ + 大原大次郎

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットH) カニエ・ナハ + 大原大次郎

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットH) カニエ・ナハ + 大原大次郎

また、同作品群のタイポグラフィーは大原大次郎が手がけている。大原大次郎は星野源のアルバム『Stranger』のジャケットデザインなどを手掛けるデザイナーだ。中でも、デザインの中にタイポグラフィーを印象的に取り入れる手法で知られており、言葉や文字の新たな可能性を探るプロジェクトを多数展開している。

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットC) カニエ・ナハ + 大原大次郎

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットC) カニエ・ナハ + 大原大次郎


『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットK) カニエ・ナハ + 大原大次郎

『旅人ハ蛙、見えない川ノ漣』展示風景(会場:MOTスポットK) カニエ・ナハ + 大原大次郎

点在する軒先の言葉に導かれるようにして散策すると、地域の人々が培ってきた営みに自然と目を向けることができる。

 

建築家・佐野文彦が作り出す清澄白河エリアの「中心」

建築家・佐野文彦は、現在の清澄白河を象徴するインスタレーション作品を展示する。佐野は、この場所が様々な祭りや人の気質、しきたり、職人の技などのいわゆる「無形の財産」を多数蓄えながらも、震災や戦災で多くの物質的遺産が失われてしまった歴史的経緯に着目している。また佐野は、清澄白河の人々が「この場所(清澄白河)には中心がない」と発言したことをヒントに、現在の清澄白河の「無形の中心」となる空間を作りたいと考えたという。

『139.804083, 35.681083』展示風景(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

『139.804083, 35.681083』展示風景(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

『139.804083, 35.681083』は、深川資料館通りの商店街協同組合の事務所という地域の人々にとって重要な場所をロケーションにした作品だ。神が宿ると言われ崇められてきた「磐座(いわくら)」が中心に据えられている。また、この「磐座」の中には『MOTサテライト2017春 往来往来』会期終了時に醸造が終わるように熟成を開始した酒の様子を映像で投影。この酒は、今年の夏に行われる深川八幡祭りに奉納されるという。この地域をテーマとしたアートをきっかけに作られた酒が地域の祭りの中に入っていき、人々をつないでいくのだ。

『139.804083, 35.681083』展示風景 / 中央部「磐座」(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

『139.804083, 35.681083』展示風景 / 中央部「磐座」(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

また、壁面にあるモニターには様々な地元の商店や地域住民の人々の様子がライブ中継で映し出されている。空間全体から、清澄白河の現在と未来をつなぐような芳醇な物語性を感じとることができるだろう。

『139.804083, 35.681083』展示風景(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

『139.804083, 35.681083』展示風景(会場:MOTスペース3) 佐野文彦

佐野文彦

佐野文彦

 

清澄白河エリアをアートでつなぐ

様々な領域の視点を取り込むことで、清澄白河という街の歴史や文化的背景、そして魅力を浮き彫りにする『MOTサテライト 2017春 往来往来』。地図を片手に作品を巡れば、今まで気づかなかったこの街の姿や歴史的背景、地域の人々の営みなどにしみじみと思いを馳せることができよう。奇をてらうことなく、誠実に地域と向かい合ってきたことが想像できるキュレーションだ。

本企画はアートファンだけでなく、深川の文化に興味のある方など、幅広い人々が楽しめるだろう。アートが紡ぐ街歩きを是非楽しんでみてほしい。

深川資料館通り

深川資料館通り

 

イベント情報
『MOTサテライト 2017春 往来往来』

日時:2017年2月11日(土・祝)~3月20日(月・祝)
会場:清澄白河駅周辺
※メイン会場であるMOTスペースは木・金・土・日・祝の11:00~18:00
詳細:http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/mot-satellite-1.html
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