銅版作家 平野貴子|こんな日本アーティストがパリで活躍中 【第15回】
銅版作家 平野貴子
パリの最東からほんの少し歩いて郊外に出ると、『モントルイユ』というアーティストが集まる地域があります。「ここがパリ!?」と思ってしまうほど、アラブ系やアフリカ系の移民たちがたくさん住むこのエリアでは、工場だった建物をアトリエとして利用しているアーティストが増えているのです。
今回登場してもらった、銅版画作家の平野貴子さんもこのモントルイユのアトリエで創作活動をされている一人。彼女のアトリエを覗かせてもらいながら、創作活動についてお話を伺ってきました。
平野さんの作品
平野さんの作品
――パリで活動されるようになったキッカケを教えてください。
2002年に、パリに住んで創作活動をしている大学時代の友人を訪ねた旅行がキッカケです。私はもともと古いものが好きなのですが、パリには古いものがそのまま可愛らしく残っていて、自分の作品のモチーフがたくさんあるところに惹かれました。それまで日本で、企業に就職してパッケージのデザインやイラストなどの仕事をしていたのですが、パリに来ればアーティストとして自由に活動できると思い2004年に移住。アーティストとして本格的な活動を初めました。
学生時代から興味があった銅版画のアトリエを発見し、現在の創作メインになる銅版画と石版画(リトグラフ)を学びました。現在はシテデザール(cite international des arts)の共同アトリエに籍を置きながら、リトグラフの勉強(フォーマシオン)のためモントルイユのアトリエに来ています。
平野さんの作品
平野さんの作品
平野さんの作品
――フランスと日本、アーティストとして活動するのに何か違いなど感じますか?
パリではアーティストが社会制度的にとても守られています。アーティスト用の保険制度があったり、美術館に入る時にアーティストのカードがあれば待たずに入れる、という風にです。ほかにも、ごく一般の人たちの「アート」に対する感覚も日本とは違うところがありますね。例えば初めて会った人に自己紹介をしても、アーティストを特殊な職業としてではなく「どんな作品を作っているんですか?」という風に、すんなり質問されます。日本だとアーティスト=大巨匠だとか、ものすごく敷居の高いイメージがあったり、逆に「え? どうやって生活しているの?」なんて心配されたりすることもあるし、本当に日本とフランスでは感覚が違いますね。
――これからの活動予定を教えてください。
いま私が制作している版画には手法が色々あって、作品に合わせてその都度、銅版と石版どちらかの手法を選んで創作しています。こうした版画の作品をカードなどにしてパリや日本で作品販売もしているのですが、今後は作品の媒体をもっと広げて、絵本や商品のパッケージデザインなどにも挑戦してみたいなと思っています。また、来年は日本で開催する展示会も開催する予定です。
石版はこうした分厚くて重い石に加工を加える
あとがき
はじめて平野さんの作品を見た時、その手法が版画といわれてとても意外だったのを覚えています。というのも、版画といえば白い紙に黒いインクで刷られたようなものしか見たことがなかったからでした。彼女の作品は「一版多色刷り」(ヘイター刷り)と呼ばれるもので、カラフルな色が表現に使えるのが特徴。モチーフである動物や花などのが、ふんわりと夢の世界のように繰り広げられる世界が、幼少時代の夢心地を体現させてくれるようでとても気持ちよくなるのです。
平野さんは来年、日本での展示会を予定されています。パリで制作した彼女の作品を観られるこの機会に、ぜひ足を運んでみてください。
埼玉県出身。多摩美術大学で絵画科 油画専攻。卒業後に、文具やパッケージのデザイナー職を8年経て渡仏。2004年よりアトリエ・コントルポワンで一般多色刷りを学ぶ。その後もパリのアトリエで、エッチング、メゾチント、ドライポイント等の技法で銅版画を中心に制作活動中。最近では、アトリエで銅版画の講師も勤める。
http://takakohirano.com/
2018年4月16〜21日
ギャラリー巷房 1・2・階段下
〒104-0061 東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル