スペシャル対談新連載「勝手に新人を語りました」第一弾~湯木慧~
対談新連載「勝手に新人を語りました」湯木慧編
SPICE総合編集長・秤谷建一郎と、元ORICON STYLE編集長で現在フリーランスのライターである田中久勝が、日々数多くのサンプル音源や情報を試聴する中で、特に気になった『新人』という枠で、毎回お互いが少し気になった1アーティストをピックアップして、対談形式でその魅力を語る新連載がスタート。インタビューや取材などもまだ行っていないアーティストを、音源と映像などから紐解いて勝手にしゃべっちゃうという企画。
その名も「勝手に新人を語りました」
第一回目は、2月22日に1st mini album『決めるのは”今の僕”、生きるのは”明後日の僕ら”』をリリースした、女性シンガーソングライター、湯木慧を題材にクロストーク。ネットでも話題となっている、新しい形のマルチクリエイターである彼女とはどんなアーティストなのか。
勝手に”湯木慧”を語りました
湯木慧
数多く輩出される、新人のフックってどこで感じるか
秤谷:単純に好きな音っていうのと、今の時代の流れとかをみて「来るだろうな」っていう2軸があったりしません?
田中:今まで自分が影響受けてきた音楽とか、ルーツに少し触れてたりすると、「おっ」ってなるのは勿論なんですけど、ただそこじゃない部分でいいな、と思わせてくれる音楽を探している気はしますね。今回の湯木さんも、粗削りなところはあるんだけど、とにかく歌が刺さるし、これから絶対に良くなっていくんだろうなと思わせてくれますね。
秤谷:確かにそうですね。特に湯木さんは歌詞が刺さりますよね。生々しいというかなんというか。まだ若いのに(笑)。
田中:そう。まだ若いのにこの歌詞はすごい。僕はビッグアーティストのライブもいいけど、新人のライブを見るのが最近はすごく好きで、この彼女もすごくライブでみてみたいという気持ちになるアーティストですね。
秤谷:この湯木さんって一種の天才だと思うんですけど、こういうどちらかという等身大なテーマで歌っている方って、ライブの会場とかが大きくなっていくと、どこまでメッセージが届くんだろうって思うことがあるんですけど。
田中:確かにアリーナとかになっていくときには、すごく難しいこともでてくるんでしょうけど、この天才感のまま多くの人に浸透していってほしいなって、こういうアーティストさんをみると思いますよね。しかも湯木さんはそうなる気がするから、面白いなと思ったのかもしれません。
秤谷:しかも今は動画やネットの発達で、こうしたメッセージが届きやすくなっているから、昔よりもこうした等身大というか、人に寄り添ったテーマで歌うアーティストの音楽が、届くようになっているのかも。
田中:そうなんですよね。だから楽しみだし、嬉しいことでもあるんですよね。こういうアーティストさんが出てきて、届いていくのは。
秤谷:規模が大きくなったり、状況が変わったりしても、届け続けてほしいですよね。今回もリリースがありますけど、何かの拍子で環境が変わった時に、どういうものを発信するんだろうと、年寄りは勝手に心配したりします(笑)。
田中:勿論伝説になってしまって、だからこそ美化されている音楽もあって、それはそれで良いんですけどね。でもゆずみたいに衝動や想いを維持したまま発信し続けている人もいるから、そういう風になってほしいですよね。
秤谷:たしかに。
田中:僕は女性のシンガーソングライターの取材をすることが、今までもすごく多かったんですけど、そういう方々と比較しても湯木さんはいいですね。言葉の選び方も、若い子のそれじゃないなって思うんですけど、背伸びしている感じはしないんです。でもそれでいてちゃんと引っかかる言葉を選んでこれているから、そういうバランスも天才的なのかなって思います。
MV「一期一会」を視聴しての感想
秤谷:とにかくあのファーストシーンから、最後にあのテーマで帰結していくというのが興味深かったですね、僕は。というのも、今の彼女の年齢でああいった心理に寄り添って、ストーリーラインを構築できるという驚きがあって。
田中:絵も自分で書いたり、デザインしたり、動画もDTMも自分で作ってるんですよね? だからトータルのクリエイティブで自分を表現できている感じがしますよね。そういう脳みそだからこそ、こういう言葉も、表現もでてくるんでしょうね。
秤谷:しかも一聴すると、最近のネットで流行するような、少し鬱な展開によっていくのかしらと思いきや、割とちゃんと希望を見せて終わっていくというのも、僕にはフックした部分でしたね。一旦自分の中に抱え込むんだけど、最終的には何かを提示してくるというか、シェアしてきてくれるというか。道をちゃんと一本置いていってくれるっていうんでしょうか。
田中:そうですよね。それを狙ってやってたとしても、狙ってなかったとしても結構すごいなって思います。おそらく狙ってないんでしょうけど(笑)。
秤谷:やっぱり天才肌なんでしょうね。なんか、本当に嫌でぐちゃぐちゃに悩んでることも、それをしまい込んでしまうことも、逆にそれでも実は誰かと繋がっていたいっていうような方向のことも、全部を隠してないっていう感じを受けるんですよね。それを1度に表現してくるのがすごく面白いなって。
田中:普通は思いつめたりすると、天邪鬼になって隠しちゃうものですもんね。でも湯木さんは伝えようとしてる。しかもそれが、歌だけじゃなくて絵だったり、写真だったり、デザインだったりと、色々なものを合わせて伝えようとしていますよね。なんていうか、良い意味で貪欲ですよね。単純にすごいなって思いますよ。
秤谷:しかも打算とか、そういう考えでやってる感じもしないですしね。
田中:色々な表現方法を使って、自分の言いたいことをアウトプットしている感じがする。全部わかってほしいって思ってるのかなと。真意は勿論わからないですけど、それがすごく良いですよね。インタビューしてみたいなって欲がでてきます。
湯木慧の音楽性と世間へのアプローチ
田中:ベーシックはJ-POPがある気がしますよね。でも他の曲を聴くと少しエレクトロなアプローチもあったり、だけどライブはアコギ一本でやってたりする。どちらにしても歌が立っているなという印象なので、歌謡曲とかJPOPはすごく感じますよね。
秤谷:確かにそうなんですよね。しかも曲のテーマも”若さの衝動”って感じではないんですよね。リンカーネーションだったりというのも出てきますし、18歳でこれを書くかーという(笑)。どういう生き方だとこういう歌詞とか曲になるんだろうって、すごく思って興味深い。
田中:逆にご親御さんにお話聞きたいくらいですね(笑)。
秤谷:確かに(笑)。こういうのって、家の中でかかってた音楽とかに影響受けたりしますもんね。
田中:そうなんですよ。
秤谷:僕も田中さんも、日々物凄い量の音源を聞くじゃないですか、職業柄。そんな中でも、結構ハッとしましたね、今回は。まぁ、だから取り上げてるんですけど。
田中:なんか歌詞が聞き取りやすい歌じゃないですか、湯木さんって。僕、最近そこが色々なアーティストを聞いても気になる部分なんですけど。言葉を伝える能力というか、気持ちをちゃんと渡せる活舌というか。それが好感持てましたね。
秤谷:気だるく歌ってるようでいて、ちゃんと入ってきますよね。退廃的にも聞こえるのに優しくもあるというか。すごくいい意味でスレスレな感じがしていいなと。聴き方によっては、上手くも下手にも聞こえるし、明るくも暗くも聞こえるっていう、儚くて危うくて刹那的な部分が、フックになっているんですよね。
田中:やっぱりマルチクリエイターと称しているだけあって、すべての作品などでそれが一貫してる感じがしますよね。表現者っていう言葉がすごくあっている気がします。
秤谷:そうですね。しかも今の時代って、参加型みたいな要素がキーワードになってると思うんですけど、そういった彼女の創作を、ネットなどを通じて色々な方が最初から見ていたりしたんでしょうね。それが等身大にどんどん伝わっていくみたいな。
田中:ちょっとした弾き語りでやってる、種みたいな曲がアップされたところから、絵だったり動画だったり色んな彼女の表現を見守りたいって思うのかも。
秤谷:そういう人が、いよいよリリースしてライブしてっていうところに今なってきてるわけで、そういった感動もあるんでしょうね。こんなおっさん二人に語られたくないよって感じなのかも(笑)。
田中:画面の向こうの表現だったものが、自分のところまでおりてくるみたいな感覚ですよね。それってすごくいいことですよね。創作からアウトプットまで、一気通貫で自分でできちゃうっていうことの最たる例かもしれません。そう考えると昔よりも本当に表現がしやすくなったなって思います。
秤谷:しかもそういう意味では、湯木さんってある種ポップな存在なのかなって思います。難しいことを歌っているようだけど、声は入ってきやすいし、様々なことを自分でできてしまうという部分も、憧れの対象になりやすいというか、素直にすごいなーって思えるから。
田中:よくある話ですけど、代弁者たりえたというか。あそこまでできたらもっと言いたいこといえるのになという、一つの不消化みたいなものを、彼女は体現してくれているのかもしれないですね。
秤谷:実際、僕ですら共感してしまうテーマを彼女は歌ってたりしますからね。特にこの「一期一会」なんて、結構自分のベーシックな考え方と共通するなと思って、ちょっと感動してしまってますから(笑)。自分と同じことを考えてる人がいるっていうだけで、人間って気持ちが楽になったり、一人じゃない感だったり、シェアできていることの安心感を感じ得たりするじゃないですか。
田中:それが世の中に響いていくアーティストの一番大事な要素ですもんね。当たり前ですけど。
秤谷:でもね、例えばこの歌詞にもある要素の、74億人が地球に生きてて、すれ違うだけで奇跡的な確率で、そこから仲良くなって趣味も共有してなんて人は、天文学的確率でしか会えないから、近くの人間をもっと大切にしよう……なんてところに落ちてくるのなんて、僕が馬鹿なだけかもしれないですけど、もっと歳とってからやっと感じたことですけどね(笑)。
田中:だから育ってきた環境とかが気になりますし、バックボーンに興味が沸くというのも良いアーティストになっていく兆候があるんだろうなぁと。しかも今のこの作品は、"今"の湯木さんじゃないと語りえないアプローチなんだろうと。
秤谷:多くの人にとっての的確感がある気がします。そうそうそう!っていう。
今回の作品も含めた湯木慧
秤谷:歌詞とかでいうと、直接感と比喩のバランスがすごくいいのかなと。しかもその比喩が、一貫して彼女のテイストで導かれているから心地が良い。
田中:あとは、それを伝えている声がとてもマッチしているんだと思います。強烈で粗削りなんだけど、この優しい声で聞こえてくるのが絶妙のバランスで飛び込んでくるんでしょうね。
秤谷:確かに。その表現の方でいうと、僕は彼女の比喩のセンスみたいな部分はすごく好きですね。例えば"死"というものを表現するのに、人間が一生に呼吸する回数といわれている「7億回目でふりだしに戻る」って言っているあたりとか、文学的ですらあるという。これもリンカーネーションに通じる部分も含蓄しつつ書いてあるあたりとか、すごく良い表現だなと。
田中:若いのにね(笑)。
秤谷:ほんとですよ。わりと驚異的です。
田中:そういう、刺さる箇所が本当に多いアルバムだと思います。色々な境遇の人が、色々な生活のシーンで共感できるような言葉が多い。
秤谷:そうですよね。なんか、田中さんと色々なプロデューサーに取材に行って話を聞いても、コード進行とかって出尽くしてるよねって話になるじゃないですか。その上で新しいと思うもの、売れていくのかもしれないと思うのって何だろう?って考えているんですけど、そうなるとやっぱり声と歌詞なのかなって思うんですよね。そこで改めて湯木さんの今回の作品に立ち戻ると、その要素ある気がしますよね。
田中:まだ弱冠18歳で、このおっさん2人も「おっ」と思わせる、歌詞や声やテーマや切り込み方は勝ち組ですよね(笑)。だってもう一回聴きたくなっちゃいますから。全部聴いた後に、もういいかなってならない。また聴いてみたいと思わせてくれる。僕らみたいな職業の人間に「2度目聴こうかな」って思わせてくれるって結構すごいのかなと。
秤谷:特に声は、すごく個性的というわけじゃないのに、とても受け入れやすい声をしているなって思います。確実に個性が存在していて。一聴したら絶対忘れないようなロック歌手のハスキーボイスではないし、なかなか聞き分けられないアイドルの声でもなく、その真ん中にいる感じというか。中途半端じゃなくて主張があるっていう稀有な声だなと思います。
田中:本当にそうですね。そしてとにかく聴きやすい。
秤谷:そうなんですよね。小難しいことを色々言ってきましたけど、とにかく聴きやすいんですよね。第一印象では、ちょっと面倒系なのかもって思うのもかもしれないんですけど、思ったよりキャッチーなんですよね。そのバランスもいい。
田中:一回目から良いテーマでしたね。
秤谷:僕らが結局こういう会話の流れになったってことは、とてもいいってことですね。合格!(笑)
田中:何が合格かわからないですけどね(笑)。
秤谷:確かに(笑)。でも合格なんで聴いた方がいいです、ということですね。
対談=秤谷建一郎、田中久勝
湯木慧/「決めるのは”今の僕”、生きるのは”明後日の僕ら”」
価格:¥1,500(tax-out)
[収録曲]
1. 一期一会
2. 網状脈
3. 迷想
4. 流れない涙
5. 74億の世界
■1st mini album『決めるのは”今の僕”、生きるのは”明後日の僕ら”』特設ページ
http://www.ldandk.com/yukiakira_1st/
■湯木慧YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCGrKkuUsidKWjC7xxxr1UdA
https://twitter.com/reo_guitar
"「脈」~繰り返す命の輪廻~ "
◼️3/21(火):大阪 cafe ROOM
◼️3/22(水):名古屋 鑪ら場
◼️3/26(日):東京 渋谷Starlounge(FINAL)
前売:¥2,500 当日:¥3,000(ドリンク代別)
全公演 開場18:30/開演19:00