大竹しのぶ、キムラ緑子ら実力派の演技バトルを堪能! 愛憎溢れる古典劇『フェードル』稽古場レポート
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大竹しのぶ、キムラ緑子 (撮影:矢野智美)
日本演劇界を代表する女優と演出家である、大竹しのぶと栗山民也が“人間精神を扱った最高傑作”と名高い古典劇『フェードル』に取り組んでいる。4月8日(月)の初日開幕に向けて、着々と準備が進行中の稽古場を訪ねてみた。
物語の舞台となるのはギリシャ・ペロポンネソス半島の町、トレゼーヌ。アテネの王・テゼの妻であるフェードルを中心に、禁断の愛、複雑に絡み合う人間関係から生じるそれぞれの愛憎をドラマティックに描く、五幕構成の悲劇だ。
その稽古場は、ほどよい緊張感と和やかな笑い声とが共存する空間だった。シーンと静まり返った中でセリフだけが聞こえる時間がしばらく続くと、「10分、休憩!」との声が響いた途端、キャストもスタッフもみな、リラックスしながらお菓子を食べたり、最近お気に入りの飲食店の話で盛り上がったり。特に主演女優の大竹しのぶは差し入れのチョコレートを栗山やスタッフに配って歩いたり、旧知の仲でもあるキムラ緑子や今回初共演の門脇麦らキャストたちと和気藹々とおしゃべりをしたりしながら、実に楽しそうに過ごしている。
(撮影:矢野智美)
そんな和やかな休憩時間が終わると、再びピリッと緊張感が戻り、稽古がスタート。この日、見学したのはちょうど幕開きのシーン、一幕一場から。ステージは傾斜のある八百屋舞台、中央右寄りに椅子(玉座)があり、赤い布がかけてある。舞台上に段がいくつか重なり合ってできた斜めのラインが独特だ。よく見ると背後の壁も斜めになっていて、なんとなく不安感が煽られる。波の音が聞こえる中、テゼの息子・イッポリットに扮した平岳大と、彼の養育係・テラメーヌ役の谷田歩が登場。黒いロングコートをはおった平は立ち姿が非常に美しく、谷田の品のある存在感も目を引く。一場ラストまで芝居が進むと「確認しまーす」とスタッフの声が入り、栗山が自らステージに上がり、セリフのニュアンスや発声のタイミング、立ち位置や身体の向きなどを細々と確認していく。
(左から)門脇麦、平岳大 (撮影:矢野智美)
その際、栗山が「○○のように」と例を挙げて演技のリクエストをするのだが、例が具体的でわかりやすいためか、それを耳にした俳優たちからは頻繁に笑顔がこぼれている。ひととおり“確認”が終わると再び頭から演技スタート。今度は一場が終わってもそのまま二場へ突入。こうして、じわじわ、じわじわと稽古は進行していく。
二場に「あぁ!」と嘆きながら現れるのが、フェードルの乳母・エノーヌに扮したキムラ。最近どうも様子がおかしいフェードルを心配して嘆いているのだが、この激しい嘆き具合も“確認”作業の際に栗山は自身が演じてみせていた。二場の“確認”が終わると、今度は「5分、休憩!」とスタッフ。すかさず「え? 25分?」とツッコむお茶目な大竹に、稽古場の雰囲気があたたかくゆるむ。
続いて、いよいよ三場からフェードルが登場。黒い布をすっぽりとかぶった状態で、深く悩み、弱々しい状態のフェードル。死にそうなほどの苦悩に身悶えするフェードルを、まだ稽古が始まったばかりの段階にも関わらず、大竹は迫真の演技で表現。それに応える形でキムラもどんどん物語世界へと入り込んでいく。この大女優二人の徹底してシリアスな演技バトルを見ていると、ついさっきまでニコニコとチョコを口にして盛り上がっていた女性たちと同一人物とは思えないくらいだ。
(左から)キムラ緑子、大竹しのぶ (撮影:矢野智美)
そして、狂おしいほどの恋をしていることをフェードルは告白。それが義理の息子であるイッポリットのことだと知り、エノーヌは激しいショックを受ける……というシーンでは、熱の入ったセリフの応酬が圧巻。あらゆる感情をぶつけ合うフェードルとエノーヌ、大竹のほんの小さな囁き声での告白には心がぎゅっと掴まれる。ふと気づくと、大竹もキムラも本当に涙を流しながら演技をしている様子だ。
大竹しのぶ、キムラ緑子 (撮影:矢野智美)
すると、告白を受け衝撃を受ける場面の稽古中に、たまたまキムラが大竹のセリフを飛ばすというハプニングが発生。お互いにポロポロと涙を流すほど集中して演技をしていたはずが、その一瞬で素に戻ってケラケラと大笑いする大竹……しかし、それが一瞬でスーッと表情が変わり、次の自分のセリフ(おそらくこの場では最も長く重要なセリフ)を口にする姿には、「もしかして今、すごい瞬間を見てしまったかも……!」という気持ちになった。
(撮影:矢野智美)
こうして丁寧に何度も“確認”を重ねながら繊細な演出を加えていく栗山のもと、少しずつ、だが確実に完成形へと向かっている『フェードル』。大竹やキムラ、さらにはこの後の場面から登場する門脇も含め、稀代の俳優たちによる演技バトルはかなり見応えがあるはずだ。ごく自然に“神”が会話に出てくるような物語のわりには、結局不倫や好きになってはいけない相手への想いをものすごく深刻に語っていたり、まるでなんだかメロドラマのようなアッと驚く展開が待っていたりもするので、古典劇とはいえ決してお堅く難解なのだろうと身構える必要などなさそうだ。日常を離れた劇空間で、名優たちの演技を堪能しつつ、この道ならぬ恋の行方をドキドキしながら見守ってみてほしい。
(左から)門脇麦、平岳大 (撮影:矢野智美)
取材・文=田中里津子
■翻訳:岩切正一郎
■演出:栗山民也
■出演:大竹しのぶ、平岳大、門脇麦、谷田歩、斉藤まりえ、藤井咲有里、キムラ緑子、今井清隆
【東京公演】
■日程:2017年4月8日(土)~4月30日(日)
■会場:Bunkamuraシアターコクーン
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※未就学児童入場不可
※コクーンシートは、特にご覧になりにくいお席です。ご了承の上ご購入ください。
【新潟公演】
■日程:2017年5月3日(水・祝)14:00
■会場:りゅーとぴあ
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※U25席は観劇時25歳以下が対象。当日指定席券引換。座席数限定。要本人確認書類。
※未就学児童入場不可
【愛知公演】
■日程:2017年5月6日(土)18:00、5月7日(日)13:00
■会場:刈谷市総合文化センター大ホール
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※U-25
(観劇時25歳以下が対象。当日指定席券引換。座席数限定。要本人確認書類)
※未就学児童入場不可
【兵庫公演】
■日程:2017年5月11日(木)~5月14日(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
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※未就学児童入場不可
■公式ホームページ:http://www.phedre.jp/