上原ひろみ インタビュー 「道のないところに行ってもなんとかなるよね、ふたりなら」 “ラーメンな女たち”の抑えきれない好奇心

インタビュー
2017.4.8
上原ひろみ

上原ひろみ

2004年にNHKの音楽番組で初共演して以来、国内外の音楽フェスやお互いのアルバムで共演の回数を重ね、2011年にはライブ盤『Get Together –Live in Tokyo-』をリリースした矢野顕子と上原ひろみ。ふたりが5年ぶりとなるレコーディング・ライブ『矢野顕子×上原ひろみ Recording LIVE IN TOKYO ~ラーメンな女たち~』を行なったのは昨年9月15日のことだ。そしてその模様を収めたライブCD『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』が3月8日にリリースされ、4月からは全国ツアーも行なわれる。ピアノを弾き、東京とニューヨークを行き来し、何よりラーメンを愛するという点を共通項にしてますます通じ合う、そんなふたりのプロジェクト「矢野顕子×上原ひろみ」について、上原ひろみに話してもらった。

──上原さんはこれまでいろいろな方と共演されていますが、そのなかで矢野さんとの共演の醍醐味は、どこにありますか?

歌があってピアノが2台というのはなかなかないので、そこでしょうね。私がこのプロジェクトでとても力を入れているのは、編曲の部分なんです。“88鍵あるものがふたつある”ということの意味を考えて編曲する。2台のピアノのための作品として編曲するということに、いちばん気持ちを入れてやっています。

──本作『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』においての編曲もすべて上原さんが手掛けているんですよね。

“おちゃらかプリンツ”だけは出たとこ勝負でやっているんですけど、それ以外の曲は綿密にアレンジしました。

──矢野さんの歌は極めて自由度の高いもので、ジャズ的とでも言えそうなほど、歌うたびに変わるじゃないですか。そのことを想定しつつ編曲するのは、難しくはないですか?

一緒にやるようになって長いので、難しいとは思わないですね。むしろ一緒にやれることのワクワク感のほうが大きいです。

──上原さんが編曲されたものを初めて聴く際の、矢野さんの反応は、どんな感じなんですか?

2台あるということで、一緒にやってみないと成立しない部分もあるんですね。一緒にやるまではとにかく私が書いたパートを矢野さんが練習して、で、合わせたときに『かっこいいね!』『私、今回のアレンジが一番好き!』って喜んでくれていたので、それはアレンジャー冥利に尽きるなぁという気持ちでした。

──喜んでいる顔を見ると、やはりホッとする?

はい。『すべての曲のアレンジが、前回より今回のほうがよくなってるね』って言ってくださったので。『私が弾けて、ちゃんと合わせられたら、かっこよくなるのはわかった』と言いながら、ずっと練習されてましたね(笑)。

──上原さんとしては、矢野さんのポテンシャルをさらに引きだせる編曲をしたいというような気持ちもあったりするんですか?

そうですね。練習しても弾けないような無茶なアレンジはしてないので。ある程度の練習は必要だろうという曲もありましたけど、そこはとにかくもう練習に次ぐ練習。どれも押し引きを大切にしたアレンジで、書いてあることをふたりでバシっと合わせるパートと、書いてなくて自由にふたりが解き放たれるパートと、1曲のなかに両方ある。セクションごとに潮の満ち引きが訪れるような感じなんです。つまり緊張と解放がずっと繰り返されるわけで、緊張感のあるパートに関してはすごく練習を要しました。

──「『やのぴあ』(矢野顕子ソロデビュー40周年記念ブック)という本があって、このなかで上原さんはこんなことを語っていますね。『一緒に演奏するようになってわかったのは、矢野さん本人が“自分に驚きたいんだ”ということです。だから常に新しいプロジェクトを起こすし、曲に関しても常に新しくしていく。そうやって“自分が知らない自分にどんどん出会いたい”っていう彼女の生きざまを私たちは見ているんだなって思ったんです』と。これを読んで、なるほどと思ったんですよ。

常にサプライズを探してますからね、矢野さんは。音楽において自分がまだ出会ってないもの、未知なるものに対する期待がすごく大きい方なので。また、そういうサプライズを大歓迎してくれる方なので、そこが一緒にやっていて一番楽しいところです。

──上原さんもそういうところ、ありますよね。自分の知らない自分に出会いたいという。

はい。そこが一番共感できるところですね。

──そういう人は、ほかになかなかいないものですか?

そういう人じゃないと一緒にできません。

──そういう人とやるのは、ひたすら楽しい感じですか? 怖さみたいなものも多少は含まれていたりしますか?

怖さはないですね。どこに行こうとしているんだろな?って、お互いに探り合って、ときどき飛びついて、一緒に急降下して、また急上昇して。乗り物に乗って一緒に冒険しているような感じですね。

──『やのぴあ』のなかで、矢野さんは上原さんとの共演について『ちょうどシーソー乗っているみたいにバランスが取れていますね。時々、ボーンとすごく遠いところにいきますが、それでもちゃんと戻ってくる。そういう“いいバランス”があると思っていますし、そこが楽しいところです』と語っています。そんな感じですか?

そうですね。

──どちらかが遠いところに行っても、ちゃんと戻ってこれる場所を作っておく?

戻ってこれる場所を作るというよりは、“どこに行ってもふたりなら大丈夫さ”って気持ちのほうが強いですね。開拓しながら進んで行く感じ。“道のないところに行ってもなんとかなるよね、ふたりなら”って、そう思えるパートナーです。

──今回のライブ盤『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』についてお聞きしますね。まず選曲に関してですが、童謡もあればジャズ曲もあって歌謡曲もある。2011年のライブ盤『Get Together -LIVE IN TOKYO-』もそうでした。ひとつのジャンルに偏らないよう配慮しているんですか?

配慮しているとかではなく、お互いの曲と好きな曲をやろうという単純な発想です。それでやってみたら、こうなったっていう。

──童唄を自由に歌うのは矢野さんの得意技ですよね。『Get Together –Live in TOKYO-』では“あんたがたどこさ”を、今回は“おちゃらかほい”をそれぞれ別曲とのメドレーで演奏されていますが、これはそもそも童唄のメロディ自体に自由さがあるから繋げやすいということなんですか?

そうですね。日本の童唄でマイナーキーのものは、コード感がモード(旋法)なので、スタンダードと合うんですよ。なので今回は“おちゃらかほい”をウェイン・ショーターの“フットプリンツ”と合わせて、“おちゃらかプリンツ”という1曲にしたんです。童唄はジャズの要素がすごく多いので、最初から最後まで丁々発止で遊んで終われるという。

──「おちゃらかほい」に「フットプリンツ」を繋げると合うな……というのは、スタジオで弾いてて、ふと思ったわけですか?

いや、これは“フットプリンツ”ありきでしたね。“フットプリンツ”をやりたいねって言ってて、そこに繋げるとしたら何がいいかと試しているときに、『かっこいいリフのある童唄がいいね』って言って、『あ、あの曲、リフあるよ。せっせっせーのよいよいよい!』みたいな感じで決まりました(笑)。

──これとこれを合わせたら面白いぞ……みたいなことを、普段からよく考えているんですか?

そうですね。遊び弾きしていて、そこから違う曲に繋がることもありますし。

──でも、近い曲を合わせることはしないですよね。このアルバムに入っているメドレーは、3つとも出自の異なる曲どうしを繋げて1曲にしている。ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」と美空ひばりの「真赤な太陽」を繋げて「真赤なサンシャイン」という曲にしたり。

“真赤な太陽”を矢野さんに歌ってもらいたいとは前から思っていて、アレンジもなんとなく考えていたんですけど、ある日“エイント・ノー・サンシャイン”を弾いていたら、アイノー・アイノー・アイノー〜って歌詞のところがポリリズムになっていて、4拍子の上で3連が続くことに気づいて。当時私は“真赤な太陽”のアレンジを8分の6でやっていたので、“これは合うな、しかもサンシャインだし!”って思って。で、採用(笑)。

──発見したぞ! と。

いたずら成功! みたいな感じですね(笑)。

──「東京ブキウギ」と「ニューヨーク・ニューヨーク」を繋げて「ホームタウン・ブギウギ」にしたのも、そんな感じですか?

私が矢野さんの歌う“東京ブキウギ”を聴きたいと思っていたので、歌ってほしいとリクエストしたんですけど、曲のアレンジ的にフィナーレにふさわしい感じになったので、だったらもうワンステップ上がりたいねって話をして。そこで矢野さんから出てきたのが“ニューヨーク・ニューヨーク”。東京からニューヨークみたいな感じで面白いね、ってことで。

──そうして曲どうしの親和性に意味がくっついていくのが楽しいところですね。

はい。まあ、遊び心です。

──おふたりのオリジナル曲も平等に演奏されています。矢野さんの曲は上原さんがやりたいと思った曲を選んでいるんですか?

そうです。矢野さんの曲は全部私が決めて、私の曲を矢野さんが決めてくれて。

──「東京は夜の7時」で始まるのが新鮮でした。これも好きな曲だったんですね。

はい。歌詞が私のツアー人生を代弁してくれているように思えて。“行ったことのないとこ、会ったことのない人たち、手を伸ばしてごらん。届いた”っていう歌詞で、いろんな都市の名前が出てくるんですけど。2016年が終わった段階で、私の行ってないところはアンカレッジとカイロだけになったんですよ。そうやってひとつひとつやっていく自分のツアー人生が、そのまま描かれているような曲だなって思って。それで今回やるにあたって、もっとその曲について調べてみたら、矢野さんが発表したのが1979年だったんです。私と同い年! それでますます運命的なものを感じちゃって。

──そんな運命的な曲で始まり、最後は「ラーメンたべたい」。タイトルにもなるぐらいですから、最早おふたりのテーマソングのような1曲で。

この曲は前回もやったのでやるつもりはなかったんですけど、ふとこの新アレンジが浮かんで、矢野さんにすぐメールしたんです。『すごいかっこいいラーメンができちゃいました』って(笑)。そしたら矢野さんも『いいねー』って。矢野さん、私のアイディアに対して絶対ノーって言わないんですよ。全部ウェルカムなんです。で、『ラーメンな女たち』というタイトルは矢野さんがポンと決めてくれて。『異議なし!』『決定!』みたいな。

──ちなみに一緒にラーメンを食べたことはありますか?

何度もありますよ。日本でもニューヨークでも。

──好みは一緒?

いえ、矢野さんは中華そばが好きで。私はラーメンと名のつくものならなんでも。ひとつの器に入っているラーメンならば。ふたつに分かれてるラーメンは好きじゃないです。

──つけ麺はダメだと。

はい。ラーメンが好きなんです。


取材・文:内本順一 写真:石井 健
ヘアメイク:神川成二 衣装協力:MIHARAYASUHIRO

 

 
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