建築の面白さは体験にあり! 『安藤忠雄展―挑戦―TADAO ANDO: ENDEAVORS』記者発表会レポート
安藤忠雄
元プロボクサーで建築を独学で学ぶという、原点からして“挑戦”の数々を繰り返してきた建築家の安藤忠雄。半世紀に及ぶこれまでの歩みと未来への展望に迫る『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―TADAO ANDO: ENDEAVORS』が2017年9月27日(水)から12月18日(月)まで東京・六本木の国立新美術館で開催される。本展に先駆けて記者発表会が開催され、過去最大規模となる展示の概要を安藤本人が語ってくれた。
建築は公共性があるもの
若い頃に世界中を旅し、さまざまな建築物を見ていく中で、自身の建築に対する観念を築いていったという安藤。その原点は、奈良の東大寺にあるという。「どうやってこんなに大きなものをこの時代の人たちが作ったのか。建築のすごさを実感した」と語る。また、広島平和記念公園や香川県庁舎など丹下健三が手掛けた建築を通して、建築の「公共性」について考えさせられ、「建築における公共性とは、公共的に使えると同時に、歴史という過去、現在、そして未来をも考えるものだ」と悟ったとのこと。ヨーロッパでは、ル・コルビュジエによる仏・ロンシャンの礼拝堂にもいたく感動し、「建築は公共的に人が集まる場所をつくるものだ」という考えに至ったと話す。
建築とは体験
代表作「光の教会」を原寸大で再現
こうした自身の経験からも「建築の面白さは体験にある」と信じる。その言葉を実践するかのように、本展では代表作「光の教会」を野外展示場に原寸大で再現。「教会は宗教施設なので一般に開けた場ではない。入りにくい場所ではあるが、建築は体験することが有用。ふだん見ることができないものを見てもらいたい」と話す。実物と同じコンクリートを使って再現することについては、「木でもできるが、建築は重さや手触りなどもあるもの。だからこそ、コンクリートでつくる」と説明した。実物と異なるのは、光が差し込む十字架部分。実物にはガラスが張られているが、今回の展示では光だけでなく風も感じてほしいとの安藤の希望で、ガラスなしでつくられる。
また、「自分たちのつくっている意欲がモノに伝わるような展覧会にしたい」との思いから、住宅などの各種模型は建築模型製作会社でなく、学生たちと共に自分たちの手で作ったものを展示するというこだわりも。さらに、「建築には生命力があるということを伝えたい」と、模型は写真撮影も触れるのもOKという太っ腹ぶり。会期中は自ら出演するギャラリートークも多数実施する予定だという。こうした空間をじかに体験することにこそ、本展の醍醐味があると言えそうだ。
古いものを大切にし、新しいものをつくり出す
国立国会図書館国際子ども図書館や、イタリアの「プンタ・デラ・ドガーナ」、フランスで現在進行中の「ブルス・ドゥ・コメルス」など、歴史的建造物の保存・再生プロジェクトも手掛ける安藤。「古いものを大切にする心と新しいものつくり出す心の両方が必要だ」と語る。
そのポリシーは、何も歴史的建造物に限ったことではないように思える。実質上のデビュー作「住吉の長屋」も、30年余りに及ぶ「直島プロジェクト」も、そこにあるものを生かして新たなものを生み出してきたからだ。建築は生活文化を色濃く反映するものだからこそ、その土地の歴史抜きには成立しないものであり、そこに安藤は公共性の一部を見出しているように感じられる。
「未来は公共性にある」と語る安藤は、今後の展望として東北3県で子ども図書館をつくることを考えていると明かした。その際も、地域の民家を使って、子どもたちが歴史を学び、未来を考える場所にしたいと話す。
本展の空間デザインは安藤自身によるもの。模型やスケッチ、図面、ドローイングなどの総計200点余に及ぶ資料を「過去」だとすると、展覧会が「現在」、そしてそこから発信されるメッセージや可能性を「未来」ととらえることもできる。概念的には、展覧会そのものが、安藤の言う「公共性」をはらんだ建築だと言ってもいいのかもしれない。そうした意味では、今回の展覧会も安藤にとってはやはり“挑戦”の一つ。この秋、その“挑戦”の場をぜひ目の当たりにして体験してほしい。