石丸幹二&堀内敬子が久々共演、ミュージカル『パレード』日本初演の注目ポイント

コラム
動画
舞台
2017.4.28


1998年ブロードウェイ初演でトニー賞最優秀作詞作曲賞、同最優秀脚本賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカル『パレード』が20年近い歳月を経て、ついに日本で初演となる。20世紀初頭にアメリカ南部で起きた冤罪事件を題材とする社会派作品を演出するのは、気鋭の森新太郎。彼にとってはミュージカル初演出となる。出演は、石丸幹二、堀内敬子ら、ミュージカル界の実力派が勢揃い。石丸と堀内は劇団四季以来17年ぶりの舞台共演となる。

■現代に通底する社会派ミュージカル

トランプ政権の発足により、いまアメリカは新たな分断の時代が始まったと言われる。アメリカには過去に幾度も分断を経験してきたが、その最大のものが南北戦争(1861年 - 1865年)だった。奴隷制の廃止を主張する北部と、奴隷制存続を主張する南部との激しい内戦がおこなわれ、北部軍=共和党リンカーン側が勝利した(敗北した南部軍=民主党は、意外にも当時は人種差別を推進する勢力だったのだ。ちなみにトランプが尊敬してやまないという、1820年代の元祖ポピュリズム大統領アンドリュー・ジャクソンも、共和党ではなく、民主党の初大統領だった)。

さて、ミュージカル『パレード』の舞台となるのは、その南北戦争から約半世紀を経た1913年、南部の中心地だったジョージア州アトランタである。南北戦争の南軍戦没者追悼記念日、そこで行われるパレードには、南軍の生き残りの老兵たちが誇り高い表情で参加し、戦った男たちの誇りを歌いあげていた。

そんな中で、13歳の白人少女の強姦殺人事件が起きる。容疑者として逮捕されたのは北部から来たユダヤ人、レオ・フランク(石丸幹二)。少女が働いていた鉛筆工場の工場長だった。北部出身の彼は南部の風習になかなか馴染めずにいた。

事件の早期解決を図りたい州検事ヒュー・ドーシー(石川禅)は、レオを状況証拠だけで犯人へと仕立てあげる。新聞記者のクレイグ(武田真治)はこの特ダネをものにする。無実の罪で起訴されるフランク。そんなフランクを支えたのはジョージア出身の妻ルシール(堀内敬子)、同じユダヤ人だった。裁判が始まり、ルシールが「レオは正直な人だ」と主張しても、ユダヤ人を眼の敵にしている政治活動家ワトソン(新納慎也)に煽られた南部の群衆はレオへの憎しみがつのっていく。黒人の鉛筆工場の清掃人ジム・コンリー(坂元健児)によるニセ証言もあり、レオの無実の訴えもむなしく、陪審員は次々と「有罪!」と声をあげ、判事は「有罪」の判決を下す。

パレードの日から一年が経ち、夫の帰りを家でただ待っているだけの無垢な女だったルシールは変わっていた。レオの潔白を証明するために夫を有罪に追い込んだ証言を覆すため、ジョージア州現知事のスレイトン(岡本健一)邸のパーティーを訪ね、知事に裁判のやり直しを依頼。彼女の熱意が知事の心を動かす。その結果、レオの無実が次々と明らかになっていく。二人の間の絆は、レオの逮捕により強く固く深まっていた。あらためて愛を確かめあう二人だが……。

白人、黒人、ユダヤ人、知事、検察、マスコミ、群衆……それぞれの立場と思惑が交差する中、人種間の妬みと憎しみが事態を思わぬ方向へと導いていく。そして、また、パレードの日がめぐってくる。「ジョージアの誇りのために!アトランタの町の、故郷のあの赤い丘のために」

『パレード』登場人物相関図

この作品には、人種間の確執、ポピュリズムの危険性、幼い子どもが被害者となる殺人、等々、現代の私たちが今なお直面する様々な事件や社会問題が凝縮している。社会派ミュージカルと称せられる所以だ。日頃ミュージカルをあまり見ない人には、ミュージカルというものが夢あふれる楽観的な娯楽ジャンル、という印象があるかもしれないが、もちろんそういうものばかりではない。社会問題や政治問題を取り扱い、観客に鋭く深刻に問いかける傑作も数多い。この『パレード』も、現代の私たちにとってアクチュアルな問題意識を突きつける作品なのである。そんな一筋縄ではいかない作品の演出に、硬派の鬼才演出家・森新太郎を起用したことは、まさに正解だ。

演出の森新太郎~製作発表会見にて(写真撮影:塚田史香)

演出の森新太郎~製作発表会見にて(写真撮影:塚田史香)

■脚本アルフレッド・ウーリー、作詞作曲ジェイソン・ロバート・ブラウン

本作で脚本を手掛けたアルフレッド・ウーリーは、ジョージア州アトランタ生まれのユダヤ人。そんな彼が自分の出身地を舞台にした『パレード』は、『ドライヴィング・ミス・デイジー』 (1987) や『ザ・ラスト・ナイト・オブ・バリフー』(1996)と共に「アトランタ三部作」と呼ばれる作品群の三作目にあたる。この『パレード』でトニー賞最優秀脚本賞を受賞した。

作詞・作曲のジェイソン・ロバート・ブラウンは、ニューヨーク生まれのユダヤ人。『パレード』がハロルド・プリンスの演出で上演され、一躍注目を浴びる。ブラウン自身もこの作品でトニー賞最優秀作詞作曲賞を受賞した。その後も彼は数々の作品を手掛けている。映画にもなった『ラスト・ファイブ・イヤーズ』や、無名時代のアリアナ・グランデも出演していた『13』、そして『マディソン郡の橋』や『アーバン・カウボーイ』等々、いずれも珠玉の名品ばかり。2015年に日本で世界初演が行なわれたハロルド・プリンスの自伝的ショー『プリンス・オブ・ブロードウェイ』においては、ブラウンも音楽スーパーバイザー・編曲者として来日したことが記憶に新しい。

しかし、なんといっても彼の代表作はやはり『パレード』だろう。先日の製作発表で披露されたミュージカル・ナンバーのごく一部を動画でチェックしていただきたい。


■石丸幹二と堀内敬子が夢の共演

主人公レオ・フランクを演じる石丸幹二と、その妻ルシールを演じる堀内敬子は、17年ぶりの舞台共演となる。石丸は1990年から2007年まで劇団四季に17年間在籍し、数々の名作で大役をつとめてきた。堀内敬子も石丸と同じ時期に劇団四季に入団、1999年に退団するまで『キャッツ』、『美女と野獣』、『ウエストサイド物語』など数々のミュージカル作品でヒロインを演じた。往時の劇団四季をよく観ていたファンにとっては、この二人が再び同じ舞台に立ち、しかも夫婦を演じるとは、夢のようだ(……ということを、石丸本人も製作発表会見で語っていたが)。それだけでも、観る価値のある舞台といっても過言ではないほどだ。

石丸幹二、堀内敬子~製作発表会見にて(写真撮影:塚田史香)

石丸幹二、堀内敬子~製作発表会見にて(写真撮影:塚田史香)

この二人をとりまくキャストたち(武田真治、新納慎也/安崎求、未来優希、小野田龍之介/宮川浩、秋園美緒、飯野めぐみ、莉奈/坂元健児、藤木孝、石川禅、岡本健一)も、いずれ劣らぬ個性と実力を兼ね備えた面々で、これを“演劇界の技のデパート”との異名をとる森新太郎がミュージカル初演出で、どのような手さばきを見せてくれるのか、大いに期待したい。

東京公演は5月18日(木)~6月4日(日)、大阪公演は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで6月8日(木)~6月10日(土)。

公演情報
ミュージカル『パレード』

■作:アルフレッド・ウーリー
■作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
■共同構想およびブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
■演出:森新太郎
■キャスト:
石丸幹二、堀内敬子、武田真治、新納慎也/
安崎求、未来優希、小野田龍之介/宮川浩、秋園美緒、飯野めぐみ、莉奈

坂元健児、藤木孝、石川禅、岡本健一

■日程・会場
<東京公演>
2017年5月18日(木)~6月4日(日)
東京芸術劇場プレイハウス(豊島区西池袋1-8-1)
:S席 13,000円/サイドシート 8,500円(全席指定・消費税込)
問合せ:ホリプロセンター Tel.03-3490-4949(平日10時~18時、土曜10時~13時)
http://hpot.jp/stage/parade
 
<大阪公演>
2017年6月8日(木)~6月10日(土)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪市北区茶屋町19-1)
:全席 12,500円 (全席指定・税込)
一般発売:2017年3月11日(土)
問合せ:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ Tel.06-6377-3888
http://www.umegei.com/schedule/620/
 
<名古屋公演>
2017年6月15日(木)
愛知県芸術劇場 大ホール
:S席 13,000円 A席 10,000円 B席 7,000円(税込)
一般発売:2017年3月4日(土) 
問合せ:キョードー東海 Tel.052-972-7466 月~土10:00~19:00(日・祝休)
http://www.kyodotokai.co.jp/events/detail/1317
 
■主催:ホリプロ
■共催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
■企画制作:ホリプロ
■公式HP:http://hpot.jp/stage/parade
■公式ツイッター:https://twitter.com/parade_musical

シェア / 保存先を選択