Artist HAL_『6SENSE Ex』展インタビュー 音楽から色彩を紡だす“色聴”的な感覚とは

2017.5.5
インタビュー
アート

Artist HAL_

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油彩タッチのデジタル絵画を中心に、さまざまな表現で作品を手がけるArtist HAL_。1999年から2017年までに制作された代表作を集めた展覧会『6SENSE Ex』が、渋谷・eplus LIVING ROOM CAFÉ&DININGにて、2017年5月14日(日)まで開催中だ。幼い頃からジャズに触れて育ち、現在も「作品創造はつねに音楽の中にある」と語るHAL_。彼は、音楽からどのようにして色彩の片鱗を拾い上げ、アートとして紡ぎ出しているのだろうか? 制作背景を紐解いていこう。

——HAL_さんは、いつ頃からアートの道を志すようになったのでしょうか?

絵を描くこと自体は幼い頃から好きでした。デジタルに関しては、小中学生の時に「コンピューターで何か絵が描けるようだ」と知って、面白そうだなって思ったのがきっかけです。でも、当時はまだスーパーコンピューターのような大きなものだったので、実際にパーソナルコンピューターを手にしたのは22~23歳の頃でした。

——デザイン学校にも通われていたそうですが、卒業後はどのようなお仕事を?

学生の時から、金属造形の仕事に携わっていたんです。その縁もあって卒業後も造形の仕事に就き、その後独立しました。現在のような自己表現を主体にするというよりも、手で何かを作るということ自体が好きだったんですよね。

——現在は絵画作品が中心ですが、スタートは造形だったんですね。

はい、最初にPCで取り組んだのが3Dだったんです。コンピューターの中で立体が作れるなんて面白そうだなっていうところから入って、3Dステレオグラム絵本も20冊くらい手掛けました。

——造形と絵画作品の制作に違いはありますか?

「ものを創る」っていうところでは同じですね。よくそこを切り分けて考える方がいらっしゃるんですけど、切り分けられないです。写真も撮りますし、なんでもするので。

——個人制作のほかにも、他のアーティストさんとのコラボレーションもされていますよね。

そうですね。ものすごくめんどくさいですけれど、楽しいですよ(笑)。人間って、楽な思いばっかりしてると良いものはできないんですよね。どこかで大変な思いをすることで、より幸福感が強くなると思っています。他人と関わるのは多少めんどくさい所もありますが、人間ってそういったストレスがないと生きていけないと思っています。だからコラボレーションも個人制作とは違う感覚で楽しいのです。

——HAL_さんの作品はデジタルが多く、iPadなども使用されていますよね。しかし、取り扱うテーマはジャズといった歴史あるものが多い印象です。

知り合いにIT関係者が多いので、新しいツールの情報は自然と入ってきます。ジャズをよく描くのは、生まれて間もない頃から親に聴かされていたのがジャズだったからだと思います。なんとなく体にジャズが染み付いているっていう感じはあります。僕は絵を描く時に音楽が絶対必要なんです、音楽がないと描けないんですよ。

——音楽から受けたインスピレーションをどのようにしてイメージを絵画に落とし込んでいるのでしょうか?

音から発せられる「色のイメージ」というのがあると思います。僕は色聴(音を聴くと色が浮かんでくるという、共感覚の一種)は無いんですけど、それに近いことが起こっていると想像していただけると良いです。音楽を聴きながら頭に浮かんだ色が形になって重なっていきます。音楽が様々な楽器のいろいろな音色で構成されているように、絵もさまざまな色彩を重ねて表現します。音楽もとても似ていると思います。

——音楽以外に、何か大きく影響を受けたものはありますか?

人は自分の外側にあるものすべてから影響を受けています。アンテナはわざわざ立てるものではなくて、自然と入ってくるのが普通だと思うんです。現代社会では自分からアンテナを閉ざしている人がすごく多いですよね。ノイズを除去するという意味では生き方として正しいんですけど、あまりにも閉ざしすぎというか「自分にはこれはできない」と、自ら線を引いている人がとても多いと感じます。それを完全に否定するわけではないですけど、あまり閉ざした状態を続けていると病気になってしまうのではと危惧しますね。

——それでは、今回の展示についてお伺いしたいと思います。初めてeplus LIVING ROOM CAFÉ&DININGを訪れた時の印象を教えてください。

渋谷の街はノイズが多く情報がかなり交錯していますが、この場所はシンプルでストレートな印象を受けました。雑踏の中にいながらも落ち着くことができる良い環境があると思います。そしてWi-Fiが強い(笑)

——一般的なギャラリーや画廊とは異なる複合的スペースで展示をすることに、何か特別な思い入れはありますか?

僕の中では、「人が来るところ」というのが展示場所選びで一番の核になっているんです。絵画はたいそうな額縁に入ってうやうやしく飾ってあるよりも、人が常に来る場所にあって、自然に受け入れられる存在であった方がいいと思っています。生活の中に自然に作品がある状態が一番いいですね。

——とはいえ、一般的には「絵画はかしこまって鑑賞するものだ」という印象がどうしても強いですよね。

それが一番嫌なんです。僕自身も肩の力を抜いて描きたいと思っています。所詮、絵画作品といってもキャンバスの上にある絵の具のしみですからね(笑)。あまり堅苦しく考えずに、フラットな気持ち見てもらえるのが一番だなって思ってます。作品を見ようとして見るというよりも、空間全体の一部として感じていただけたらいいですね。

——今回の展示では、どのような作品を軸に選ばれたのでしょうか?

音楽が要になっている場所での展示なので、見ただけで音楽を感じられるような作品をメインに選びました。「ここにあるのが当たり前」という顔をしているようなものを展示しています。

——タイトル「6SENSE Ex」に込めた思いを教えてください。

人間の五感を超えたところで何かを感じてほしいと思ってタイトルを考えました。日本語でいう「第六感」というのがありますが、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を超えた日常生活にはないけれど、自然に受け入れられる新しい感覚のある空間を作りたいという思いも込められています。LIVING ROOM CAFEの中でくつろぐ方自身が自分自身に新しい感覚を感じてほしいと願っています。

——5月14日(日)には、ラジオナビゲーター&作家のロバート・ハリスさんと作曲家の上畑正和さんを招いたクロージングイベントも開催されますが、その見どころを教えてください。

音楽が基軸になったポエトリーリーディング、ライブミュージック、ライブペイントの即興イベントになっています。作曲家の上畑さんは、ピアノの即興もすごいんですよ。僕が引いた線や色に合わせて、その場で新しい音を紡いでくれるんです。ロバート・ハリスさんも、詩自体は事前に書いてきますが、読むテンポや間の取り方などは即興で、とても良い感じで音楽に絡んできます。ライブペインティングでは、デジタルとアナログ両方の作品を仕上げる予定です。

——音楽も完全に即興のライブペインティングというのは、なかなか珍しいように感じます。

一人ひとりのパフォーマーが集まっているのではなく、ひとつの空間を作るために3人が集まっているという考え方でやっているんです。それぞれが共振しあって、何が起きるかわからない。なので、打ち合わせも全然していません。それが楽しい!

——では最後に、会期中eplus LIVING ROOM CAFE&DININGに訪れる方々へ、一言メッセージをお願いします。

気持ちのいい空間なので、是非ゆったりとくつろぎに来てほしいと思います。ちょっと目を動かせば、その先には僕の作品があります。じっと見つめなくてもいいですから「そこに作品があること」を、ぜひ感じてみてください。

 

プロフィール情報
Artist HAL_
独特な表現手法による「ジャズマン」「擬人化した犬」など、油彩タッチのデジタル版画を制作し続けている。デジタルを使った版画表現の世界を構築するために作品を作り続け、デジタルツール本、デジタル絵画本を執筆。3Dステレオグラムでは10 冊以上の絵本を出版し、コマーシャルアートにも多数使用される。これまでに40 冊以上の出版に関わり、うち独自の3D 絵本の世界では30 万部以上の発行部数を誇る。愛犬達の肖像版画展(Lei Ohana)、Jazz 香る・版画展(SAKURA GALLERY) 等々、他コラボレーション展示20 回以上開催、ワークショップや展示イベントプロデュースも手がける。デジタルハリウッド大学准教授。
公式サイト:http://hal-i.com/

 

イベント情報
6SENSE Ex

 日時:2017年4月14日(金)〜5月14日(日)
 会場:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING

Bohemian Lounge Vol.2 「sixth sense」クロージングイベント 
 日時:2017年5月14日(日)
 料金:ライブチャージ¥500(※別途ご飲食のオーダーを頂きます)