劇団ジャブジャブサーキット、新作3都市公演がまもなく開幕
前列・はしぐちしん 中列左から・はせひろいち、中杉真弓、咲田とばこ、伊藤翔大、荘加真美、谷川美穂 後列左から・空沢しんか、高橋ケンヂ
看板女優・咲田とばこのラストステージを見逃すなかれ!
劇作家・演出家のはせひろいち率いる岐阜の劇団ジャブジャブサーキットが、約一年ぶりの新作となる『月読み右近の副業』を、5月25日(木)から名古屋の「七ツ寺共同スタジオ」で上演。その後、6月に大阪、7月には東京と3都市ツアーを敢行する。
前作『猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方』では、これまでのスタイルとは異なり、テンポを重視したオムニバス形式の上演を行ったが、今作でもはせは、また別の試みに挑んでいる。ベテランキャストとして長年はせ作品を支えてきたコヤマアキヒロや、なかさこあきこの活動休止に続き、同じく重要な役割を担ってきた咲田とばこも関東へ転居のため一時休団することが決まり、劇団としてひとつの変革期を迎えている状況もあいまってか、新たな方向性を目指しているようなのだ。
今作のストーリー自体は下記の通り、はせお得意のミステリー要素を含んだ人間関係を軸に展開されるようだが、どんな思いのもとこの作品を書き上げ何を試みようとしているのか、岐阜の稽古場を訪ね、はせに話を聞いた。
とある地方都市の郊外、山間にある一見アトリエのような空間。かつてマスコミを騒がせ、《平成のカリスマ占い師》とまで呼ばれつつ、突如メディアから姿を消した彼女の名前は「君塚右近」。いわゆる“月読み”なる特殊能力を駆使し、温泉を掘り当てた金とギャンブルの成果をつぎ込み、終の棲家で悠々自適の余生を決め込んでいたのだが、なかなか世間は彼女を放っておいてくれない。いろいろ難問を持ってくる地元民、旅行がちな同居人、先月拾ってきた家出少女などなど。そんな折、彼女が捨てたはずの出自の源から矢文が投げ込まれ、右近の日常は乱される…。
劇団ジャブジャブサーキット『月読み右近の副業』チラシ表
── まず、今作の構想はどのように思いついたんでしょう?
ずっと長年、劇団員で出たいという人には全員書く、いわゆる“当て書き”というルールでやってきたんですね。それはこの劇団が岐阜にあるし、みんなもちゃんと通ってきてくれるしっていうのとか、僕がやっぱりなんだかんだ言って人が見えてからしか書けない人間なので、「出たい」という人には書こうと。ボリューム的にはもちろんね、セリフ量とか場面数は違いがあるかもしれないけど、なるべくコロス的なことはせずにっていう方針でやってきたんですけど、出演者が10人越して、かといって20人までいかない人数で2時間ぐらいのホンを書こうとして、それでコロスも使わないってやりだすと、逆にそれがパターンというか慣れてきすぎちゃってつまんなくなってきたので、今回は咲田さんもラストステージなことだし、10人以下で、っていう話でまず劇団内で相談して、了承を得て7キャストということになりました。
短編とかを除けば劇団公演としては久しぶりだと思うんですけど、そういうことにさせてもらってワガママいって。だから今回は女性2組のダブルキャストが存在してます。それを決めたのが一番大きいですね。10人以上いてやっていくと、もちろん一人ひとりにあまり時間も掛けられないし、基本的になるべく短めの会話劇でバーっと展開していくしかないんですけど、それからはちょっと解放されて。結果論からいくと、本を音読するようなシーンが3つぐらい放り込んであるんですけど、それも試みとしては久しぶりですね。
稽古風景より
──それは同じ本なんですか?
同じ本なんだけど、ちょっと魔性を持ってる本みたいな扱いで、みんなが違うことを喋ったりするんです。その動機はどんなことかっていうと、最近の若い世代の演劇を観てると、モノローグを遠慮なくポンポンポンと挟んで、その分テンポを上げておいて次の場面にポーンと行くとかね、そういう手法がある。僕らが会話劇とかワンシチュエーション、ダイアローグで書いていこうと思ってた時には、いや、それやっちゃいけないだろう、っていう環境もあったりしたのをいとも気楽にやられて、でもそれによって結構効果が出てるのもわかってて。そういうちょっとした若い世代への憧れっていうのもあるんです。
とはいえ、お客さんに向かって心情とか状況とかを説明するっていう便利さはやり辛い。って言いながら結構ね、外からの仕事ではやってるんですけど、便利な時は(笑)。でも劇団の新作としてはちょっとキツイので、朗読スタイルというか本を読むっていうことで挑戦してみようかなって。
──それを試されてみて、はせさんが狙ってらっしゃる効果というのは出てきていますか?
いやぁ、まだちょっとよく分からないですね。役者がまだリンクしきってないので。まぁでも、話としてはいつもみたいなトーン。何かが過激に社会派にもなってなければ、わかりやすくもなってないし(笑)。
稽古風景より
──咲田さんは一応、今回の公演で区切りということですが、ホンはその辺りも意識して書かれたんでしょうか。
最初はそうなるかなと思ったんですけど、どうだろうな。一応、〈月読み右近〉という予言とかする主役は彼女なんですが、かといって場面数が一番多いかというとそうでもなかったりして。セリフ量で言ったら、本読んでる人の方が圧倒的に多いぞっていうこととかいろいろありながら、まぁでもそう見えるのも恥ずかしいよねって思いながら、一応バランスよく咲田さんのラストステージにはなってるとは思うんですけど。
── 今回の演出的なポイントとしては?
いつも通り、お客さんの想像力をフルに使わせていただいて仕組んでるっていうのには違いはないんですけど、いつもよりいろんな伏線の回収があまり多くないですね(笑)。えええ~って言ううちに終わっちゃう。演出というより台本の話になっちゃうけど。
── 観客を翻弄したいという感じですか。
翻弄したいのかなぁ。やっぱりベースは、わかりやすい世の中に嫌気がさしてるのかもしれませんけどね。すぐ手元の小ちゃい箱で調べがついて、それが自分の知識だったように錯覚しながら十分生きていける世の中なので。もう少し考えてもいいんじゃない? みたいな。
稽古風景より
──見せ方として、いつもと違っている点などは?
そんなに変わってないと思います。舞台の真ん中になぜだか大きい柱がドーンと立ってるのが特徴(笑)。出ハケが面白いとかそんなことでしょうね。一応、右近さんが急遽メディアから姿を消したっていう現象自体に謎がはらんでるんですけども、どこかの山間の村でSNSが使えない環境みたいになってて、ラジオとかは入るんですけども。そこに敢えて終の棲家として越してきて悠々自適に暮らしてるんですが、その村の唯一の県道にちょっとおかしな土砂崩れが起きて外界と遮断されちゃう。なんか一見、火サスでも始まる? みたいなことが初期設定としては面白おかしくあるんですけど、それ風なだけで。
あとは右近が芸能界に入る前にいた【あわいの里】っていう、どこにも書いてないですけど超能力集団みたいな一族がいて、そこから「帰ってこい」っていう指令が来たり。(企画書やHPの)あらすじには「使者がやってくる」って書いたけど、使者は来れなかったんで矢文が飛んで来ました。ちょっとスケールダウン(笑)。
稽古風景より
──書いていくうちにどんどん変わっていったんですね。
そうですね。最初から劇作家になりたいっていう人って、最近はどうやら本当にいるらしいんですけど、僕らの頃はいなくて。役者やってたら書く人がいなくなっちゃってやるようになったとか、或いは、ずっとつかこうへいばっかりやってたけども、そろそろオリジナルを書かないと集団としてヤバイってことになってしょうがなく書いたとかね、そんな人ばっかりでしょう。映像やりたい人とか、本当は映画をやりたい人とかいろいろいる中で、やっぱり僕は昔から言ってるけど小説を書きたい人間だったので、そういう意味で今回は本を読むシーンがあるから、そこは短編小説を書いてるような気分が味わえてすごい気持ちが良かったんですね。
── 小説は書かないんですか?
書きたいんですけどね。生涯に1冊ぐらい短編を出せたらいいなと思ってるんですけど、なかなかね。芝居と生活の間に入り込んでくるのは、むしろ麻雀とかなんで(笑)。
現代社会へのアンチテーゼを込め、若手劇団の昨今の風潮も意識しながら、より自身の欲求に素直に描かれた本作。我々観客は、全てが明かされない伏線の謎に立ち向かいつつ、想像力をフル稼動しながら変わりゆくジャブジャブの今を見届けよう。尚、各都市で以下の通りゲストを招いてアフタートークも予定されている。
名古屋公演/5月27日(土)18:30の回終演後 火田詮子(女優)
大阪公演/6月17日(土)18:30の回終演後 佃典彦(劇団B級遊撃隊主宰)
東京公演/7月29日(土)18:30の回終演後 大西一郎(ネオゼネレイター・プロジェクト主宰)
また、咲田とばこの劇団での活動はこれが一旦最後となるが、11月には昨年9月に当サイトで紹介した沖縄シマコトバによる朗読劇『ホタラ綺譚(パナス)余滴』(こちらの記事を参照)の沖縄公演出演が決定しており、これが実質のラストステージとなるので、現地へお出かけの予定がある方はぜひご高覧を。
朗読劇『ホタラ綺譚(パナス)余滴』 沖縄公演
作/崎山多美
朗読/火田詮子、咲田とばこ
日時/2017年11月11日(土)・12日(日)
会場/未定(那覇市内の予定)
問い合わせ/公演制作 daryuta2010@yahoo.co.jp
■作・演出:はせひろいち
■出演:咲田とばこ、はしぐちしん(コンブリ団)、荘加真美、空沢しんか(◇W)、中杉真弓(☆W)、伊藤翔大、まどかリンダ(◇W)、谷川美穂(☆W)、高橋ケンヂ ※☆印&◇印はそれぞれWキャスト(空沢&中杉、まどか&谷川が同役)
<名古屋公演>
■日時:2017年5月25日(木)14:00(◇)・19:30(◇)、26日(金)14:00(☆)・19:30(☆)、27日(土)14:00(◇)・18:30(☆)、28日(日)11:00(☆)・15:00(◇)
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:前売一般2,800円(当日3,000円)、前売U22 1,800円(当日2,000円) ※U22は当日年齢を確認できるものを提示
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
<大阪公演>
■日時:2017年6月16日(金)14:00(☆)・19:30(◇)、17日(土)14:00(◇)・18:30(☆)、18日(日)14:00(◇)
■会場:ウイングフィールド(大阪市中央区東心斎橋2-1-27 周防町ウイングス6F)
■料金:前売一般2,800円(当日3,000円)、前売U22 1,800円(当日2,000円) ※U22は当日年齢を確認できるものを提示
■アクセス:地下鉄堺筋線「長堀橋」駅下車、7番出口から南へ徒歩3分
<東京公演>
■日時:2017年7月28日(金)14:00(◇)・19:30(☆)、29日(土)14:00(☆)・18:30(◇)、30日(日)14:00(☆)
■会場:駅前劇場(東京都世田谷区北沢2-11-8 TAROビル3F)
■料金:前売一般3,300円(当日3,500円)、前売U22 2,300円(当日2,500円) ※U22は当日年齢を確認できるものを提示
■アクセス:小田急線・京王井の頭線「下北沢」駅下車、南口改札の正面
■問い合わせ:劇団ジャブジャブサーキット 090-9922-8274
■公式サイト:http://www.jjcoffice.com