ミュージカル『魔女の宅急便』 上白石萌歌と阿部顕嵐が表現する“思春期のノスタルジー” ~ゲネプロ・レポート

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ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

 

角野栄子が作り上げた児童文学の傑作『魔女の宅急便』。スタジオジブリでアニメーション映画化もされたこの作品が新たな脚本・演出によるミュージカルとして舞台化された。6月1日に行われたゲネプロをレポートする。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

主人公のキキ(上白石萌歌)は魔女のコキリ(岩崎ひろみ)と民俗学者のオキノ(横山だいすけ/中井智彦 Wキャスト)の間に生まれた女の子。魔女は13歳になったら満月の夜に旅立ち、魔女の住んでいない街で独り立ちするという掟があった。掟と女の子としての間に揺れるキキ。しかし新しい世界を夢見て彼女は旅立つのだが……。まず、なんといっても上白石萌歌が素晴らしかった。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

『魔女の宅急便』というと、どうしてもジブリアニメの印象が強いのは仕方ない。それくらいに大ヒットした作品なのだが、上白石が演じたキキはまるで原作の小説から飛び出てきたようにどこか柔らかく、優しい印象がある。お供として旅をする黒猫のジジ(夏鈴)は擬人化され、原作のように会話するのだが、このやりとりがなんとも童話的で温かい気持ちになる。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

そして上白石の歌唱となるのだが、とても透明でありながら、十代の繊細な気持ちが伝わってくるような繊細さを併せ持つ彼女の声は、童話的なこの世界観に思春期の“ゆれ”のようなものを与えている。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

旅立ちのとき、ほうきにまたがったキキがフライングで空を飛ぶと、プロジェクション・マッピングで満月が映し出され、キキの旅の道程が描かれる。まるで観客も一緒に飛んでいるかのような気持ちにさせられる。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

キキが到着するのはコリコの町。魔女のいないこの街では、少年のトンボ(阿部顕嵐)が空をとぶことに憧れていた。空からやってきたキキに興味津々のトンボはキキに近づこうとするが、トンボのせいで町の人に怖がられてしまったキキは彼にいい印象をもたない。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

阿部は好奇心の塊であるトンボをフレッシュに熱演。憧れている“空”を飛べるキキに対する思いが少しづつ近づいたり離れたりする感覚は、見ているこっちが少しむず痒くなるようだ。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

田舎から都会に出てきたキキは現実に直面する。人付き合いの距離が圧倒的に違うのだ。ジジと共に街に取り残されるキキ。都会は人もたくさんいるし、おしゃれだし、面白いことも沢山ある。だがあっという間に孤独にもなってしまうのだ。独り夜のベンチに佇むキキは、鹿児島から上京してきた上白石だからこそ出せる哀愁を感じた。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

そんな危機を助けるのがパン屋のおかみさんおソノ(白羽ゆり)とその夫であるフクオ(藤原一裕/なだぎ武 Wキャスト)。快活に笑い、妊婦とは思えないエネルギッシュなおソノと、寡黙な(舞台上では咳払い一回のみ!)フクオの二人がキキを助ける。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

元宝塚女優の白羽はさすがのステージングと歌唱。コキリを演じた岩崎とは対称的な“母”の表現は見比べるのも楽しい。稽古中に実子が生まれた藤原も台詞が無いながら、そっと階段を降りるおソノに手を添えるところなど、リアリティある演技を見せていた。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

思春期にさしかかる少女から見た“世間”を描いたこの作品は、寓話的でありながらもリアリティのある作品として観客の胸に突き刺さるものがある。それは演じる上白石と阿部がリアルに思春期を超えるかどうかの世代であるからであり、そういうどうしていいかわからないようなモヤモヤした心を感じたことがあるからなのかもしれない。筆者のような年配者は、どこか懐かしく、かつ少しだけ寂しい気持ちを感じる。これがノスタルジーというものなのだろう。

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

ミュージカル『魔女の宅急便』より (撮影:taro)

挫折も希望も人一倍感じられる世代だからこそ、輝いて見える世界がある。そんな忘れていた感覚を筆者に思い出させてくれた『魔女の宅急便』。そういう時代を過ぎていった人も、今まさにそういう季節を生きている人もぜひ観劇してもらいたい。ハートがチクチクするような痛みを優しい世界観で包んだ本作は、少しビターなチョコレートのようなごちそうだ。

ミュージカル「魔女の宅急便」は新国立劇場 中劇場で6月4日まで、大阪は梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで8月31日から9月3日まで上演。

左から、横山だいすけ、岩崎ひろみ、上白石萌歌、白羽ゆり、藤原一裕(ライセンス) (撮影:taro)

左から、横山だいすけ、岩崎ひろみ、上白石萌歌、白羽ゆり、藤原一裕(ライセンス) (撮影:taro)

取材・文=加東岳史

公演情報
ミュージカル『魔女の宅急便』
 
<東京公演>
■会場:新国立劇場 中劇場 (東京都)
■日程:2017/6/1(木)~17/6/4(日)
 
<大阪公演>
■会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ (大阪府)
■日程:2017/8/31(木)~17/9/3(日)
 
■原作・監修:角野栄子 (「魔女の宅急便」福音館書店刊)
■脚本・演出・振付:岸本功喜 
■作曲・音楽監督:小島良太
 
■出演:
キキ:上白石萌歌 
トンボ:阿部顕嵐(ジャニーズJr.) 
コキリ:岩崎ひろみ 
オキノ(Wキャスト):横山だいすけ/中井智彦 
フクオ(Wキャスト):藤原一裕(ライセンス)/なだぎ武 
おソノ:白羽ゆり
 
■公式サイト:http://www.musical-majotaku.jp/
 
■ストーリー: 13歳になった魔女のキキは、古くから伝わる習わしにのっとり相棒の黒猫ジジと共に満月の夜に旅立つ。自分で新しい町を見つけ、一年後には自力で暮らせるようにならなければいけないが、空を飛ぶ魔法しか知らないキキは、新しい町コリコでも様々な壁にぶつかる。皆が家族同然の小さな街で育ったキキは、大きな町での価値観の違いに驚き、また魔女であることに対する好奇の目や偏見にも苦しむ。自分という小さな存在に葛藤しながらも、飛ぶことに憧れる少年トンボとの交流や、パン屋のオソノさんに励まされながら、思春期の少女は少しずつ成長していく。オソノさんの提案で飛べることを生かしお届けもの屋さんを始めたキキだが、なかなかうまく町に馴染むことができない。何かとちょっかいを出してくるトンボへの淡い恋心も、まだまだ子どものキキにはその気持ちを整理することができない。そんな中、町長からある依頼がくる。それは町の一年で一番大きな行事に関わる重要な仕事。キキは無事にその依頼を果たせるのか。そしてトンボとの淡い恋の行方はどうなっていくのか。
 
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