新国立劇場バレエ団『ジゼル』リハーサル レポート~永遠のロマンチック・バレエ、三組三様の物語に期待
3組の主演。左から渡邊峻郁、木村優里、米沢唯、井澤駿、小野絢子、福岡雄大 撮影:西原朋未
6月24日(土)に開幕する新国立劇場バレエ団『ジゼル』のプレス向け公開リハーサルが、このほど行われた。
『ジゼル』は1841年、パリ・オペラ座で初演されたロマンチック・バレエの名作で、新国立劇場バレエ団では1998年にセルゲーエフ版を初演。以来、主要レパートリーとして上演を重ねている。今回は2013年に続く4年ぶりの上演だ。
リハーサルには、小野絢子と福岡雄大、米沢唯と井澤駿、木村優里と渡邊峻郁の主演3組のジゼルとアルベルトのほか、指導スタッフとして大原永子舞踊芸術監督、ゲスト・コーチのロバート・テューズリー、プリンシパル兼バレエマスターの菅野英男が出演。3組による1幕、2幕の主要シーンのリハーサルが披露された。
■農村と幽玄世界。2つの世界を踊る表現力
フランスで生まれた『ジゼル』はロマンチック・バレエの名作として、170余年もの間、愛され続けている演目だ。当時流行していたロマン主義の妖精譚を取り入れ、ドイツの農村を舞台に村娘ジゼルと身分を偽る貴族アルベルトの悲恋が描かれる。1幕は農村の牧歌的な世界、2幕は死してウィリ(結婚前に死んだ娘の精霊)となったジゼルとアルベルトの愛と別れを軸とした幽玄世界という、異なる2つの情景も見どころだ。主演ジゼルを踊る女性ダンサーにとっては1幕の村娘と、この世のものではなくなった2幕のウィリを踊り分け、さらにアルベルトの裏切りを知り精神が壊れていく1幕クライマックスの「狂乱」を演じるという、高度な表現力と技術、演技力が要求される。女性ダンサーにとっては難役であると同時に「ぜひ踊りたい憧れの作品」(木村優里)でもある。
■小野&福岡の息もぴったりな表現力
小野絢子 (撮影:鹿摩隆司)
まず登場したのはバレエ団の看板ペア、小野&福岡組。昨年1月、2016/2017年シーズンのラインナップ説明会時に大原監督が『ジゼル』上演に際し「小野絢子と福岡雄大がまだこれを踊っていない」と語ったように、この2人にとって新国立劇場での『ジゼル』は初めてとなる。
2人が披露したのは1幕の冒頭、アルベルトがジゼルの家を訪ねる場面から花占いのシーンまで。ジゼルに夢中のアルベルトと純朴なジゼルの初々しい恋の喜び、そして花占いに落胆する少女らしい悲しみの表情がいじらしい。腕や足の角度などもぴったりで、リハーサルであるのを忘れ思わず見入ってしまう。さすがだ。
福岡雄大、小野絢子 (撮影:鹿摩隆司)
一通り踊り終えた後、テューズリーの指導が入る。何度も主演をこなしているペアだけあり、チェックポイントは顔の付け方や動きの一瞬の間といった、心理描写に対する表現が中心。この看板ペアの名に恥じない、深い物語世界が見えそうだ。
■新人ペアのフレッシュな魅力に注目
続いて木村&渡邊組が登場。木村は前回公演『眠れる森の美女』で主演オーロラ姫のほかリラの精を踊り、丁寧な技術と表現力の豊かさで一躍注目を浴び、現在人気急上昇中という。
木村優里 (撮影:鹿摩隆司)
渡邊は今シーズンからソリストとして入団した「新人」ではあるが、2009年からトゥールーズのキャピトルバレエ団でプロとしてのキャリアを積んでおり、カデル・ベラルビ監督作『美女と野獣』(原題直訳は『野獣と美女』)では主演に抜擢されるなど、数々の作品を踊っている。
2人は新国立劇場バレエ団では2016年夏「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」でペアを組んで主演したほか、2017年2月の『ヴァレンタイン・ガラ』でも「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を踊り、ガラとはいえ、まるで全幕舞台のワンシーンのような世界を見せ喝采を浴びた。共にすらりとした容姿で、気持ちのこもった表現力にも期待が持てる。
木村優里、渡邊峻郁 (撮影:鹿摩隆司)
今回披露したのは2幕、ウィリとなったジゼルが墓から現れるシーン。そしてジゼルの墓を訪れ後悔に暮れるアルベルトがジゼルの気配を感じる場面だ。苦悩の渡邊アルベルトの表情に期待が膨らむ。
木村優里、ロバート・テューズリー (撮影:鹿摩隆司)
木村への指導は、ウィリとしての動き方や体の角度、胸の前で組む手の位置など技術面が主。リフトなど、これから合わせていく部分も見受けられたが、「大丈夫!優里ちゃんなら絶対最後はできるようになっているから」という大原監督の厳しくも温かい檄が印象的であった。
■米沢&井澤組はパ・ド・ドゥを披露
最後に登場した米沢&井澤組が踊ったのは2幕のパ・ド・ドゥだ。米沢は今回の公演では唯一の、2013年公演の主演経験者。井澤はヴァリエーションを踊った経験はあるが、全幕を踊るのは初めてとなる。
米沢唯 (撮影:鹿摩隆司)
テューズリーの指導は2人が組んでの、サポートの位置。パ・ド・ドゥの要ともいえるラインをどう美しく見せるかについて、何度も入念な確認が行われた。
米沢唯、井澤駿 (撮影:鹿摩隆司)
技術・演技力ともに定評がある米沢のジゼルは、前回公演よりも一層この世のものでなはい、幽玄さを増しそうな予感だ。井澤もまたその表情から、真面目に、熱心に研究している様子がうかがえる。本番でそれぞれの個性がどう重なり合ってくるのかが楽しみだ。
米沢唯、井澤駿、ロバート・テューズリー (撮影:鹿摩隆司)
■意気込み溢れる主演三組
リハーサル終了後は6人のダンサー達がそれぞれに舞台への意気込みを語った。
まず福岡が「細かい修正はあるが、きちんと仕上げて本番ではいい舞台をお見せしたい」と挨拶。続いて小野が「『ジゼル』はバレリーナにとって大切な作品。団員全員で細かく練っていきたい」と語った。
井澤は「1幕、2幕の世界の違いをしっかり出せるようにしていきたい。どうぞよろしくお願いします」と米沢に深々と頭を下げれば、米沢も「こちらこそ」と挨拶返し。そして「ジゼルは一番好きな作品で、これを踊れることがうれしい。パートナーとどう作るかが大切なので、リハーサルと話し合いを重ねていきたい」と続けた。
木村は「踊りたいと思い続けていた作品なので、こうして踊れることに感謝している。素晴らしい先輩達のリハーサルが見られ、毎日刺激を受けている。この作品は解釈の仕方などで表現が変わるので、渡邊さんとよく話をしていい舞台にしたい」としっかりと語り、渡邊もまた「テューズリーさんの指導は初めてだが勉強になる。一つひとつの動きが自然につながるようにしていきたい」と締めくくった。
踊りはもとより表現力も達者な三組によって踊られる、新国立劇場バレエ団『ジゼル』。三様の世界が楽しめるに違いない。
(文章中敬称略)
取材・文=西原朋未
【日程・出演】
6月24日(土)13:00
ジゼル:米沢唯、アルベルト:井澤駿、ミルタ:本島美和、ハンス:中家正博
ジゼル:小野絢子、アルベルト:福岡雄大、ミルタ:細田千晶、ハンス:菅野英男
ジゼル:木村優里、アルベルト:渡邊峻郁、ミルタ:細田千晶、ハンス:中家正博
ジゼル:木村優里、アルベルト:渡邊峻郁、ミルタ:細田千晶、ハンス:中家正博
ジゼル : 小野絢子、アルベルト:福岡雄大、ミルタ:細田千晶、ハンス:菅野英男
ジゼル:米沢唯、アルベルト:井澤駿、ミルタ:本島美和、ハンス:中家正博