多摩ニュータウン×演劇プロジェクト『たまたま』の全貌に迫る! 瀬戸山美咲×吉田能×浅井要美×亀島一徳 座談会

インタビュー
舞台
2017.7.7


街も人も「たまたま」が面白い!

開館30周年を迎えたパルテノン多摩は、“わが町”の演劇化に挑みます。劇作家・演出家に迎えたのは、人気劇団「ミナモザ」を主宰する瀬戸山美咲さん。ここでは、音楽担当で、俳優として舞台にも立つ吉田能さん、オーディションで100人以上から選ばれた浅井要美さん、亀島一徳さんとの座談会をご紹介。多摩ニュータウン×演劇プロジェクト『たまたま』の全貌に迫ります!

計画外の「たまたま」を描きたい

——瀬戸山さんは今回のオファーを聞いて、まずどう思われましたか。

瀬戸山 私はこれまで、世田谷パブリックシアターで地方の方と演劇を作ったり、広島の子どもたちと原爆のことを芝居にしたりしてきたので、その流れで声をかけていただいたと思いました。報道で、多摩ニュータウンの高齢化や過疎化といった社会的問題を聞いていたので、これは私がやる意味がある、というふうにも感じました。自分が主宰する劇団で社会的なテーマをやることが多いので。

——それまで多摩ニュータウンを訪れたことは?

瀬戸山 生まれは東京都なんですけど、まったくなかったんです。今回のお話をいただくまで、多摩センター駅に降りたこともなくて。

——実際に来てみて、いかがでしたか。

瀬戸山 駅の周りはとにかく賑やかで、子どもたちもたくさんいて。報道されていたイメージとずいぶん違っていたので、びっくりしました。あとは「歩車分離」にも驚きました。歩道に車が乗り入れないように設計された、すごく安全な街。子育てをするにも本当にいい街だろうな、と思いました。

——今回のプロジェクトに向けて、まず行ったのはどんなことでしたか?

瀬戸山 そもそも多摩ニュータウンとは何なのか、ニュータウンマニアの方にお話を聞きに行きました。実はパルテノン多摩の学芸員だった方なんですけど(笑)。

——そのとき印象に残ったことは?

瀬戸山 都市計画についての話です。報道を見て、「そもそも計画段階で、高齢化や過疎化を想定してなかったのか?」と考える人もいると思うんです。でもそのニュータウンマニアの方は、「町づくりの計画は何年かで終了するし、人間は何十年も先のことまで完璧に想像することはできない」と。私はそれを聞いて、「ああ、そうだな」と思ったんです。もちろん長いスパンで物事を考えるべきだけど、考えた通りになることはほとんどない。だから30年後のことは30年後の人が引き継いで、もう一回ちゃんと考え直さなきゃいけないんじゃないか、と。そういう計画していなかったことの面白さを芝居にしたいなと思って、今回のタイトルを『たまたま』にしたんです。

オーディションで多摩ゆかりの2人が合格

——浅井さんと亀島さんは、なぜオーディションに応募しようと思ったんですか。

浅井 私は去年、パルTAMAフェスの野外劇に出演させていただいたんですけど、そこで知り合った文学座の山森大輔さん(今回の『たまたま』にも出演)から「今年もパルテノン多摩で演劇があるから、受けてみたらいかがですか」と言われて。

瀬戸山 私の劇団公演も見に来てくださったんですよね。

浅井 ええ。そのお芝居が、すごく良かったんです。舞台がきれいで、緊迫感もあって。それで瀬戸山さんとご一緒できればと思ったのがきっかけです。また、私は多摩市に住んで30年。パル多摩には演劇や映画などの恩恵をいっぱい受けてきましたので、今年も何か関われたらと思ったんです。

瀬戸山 浅井さんは、文学座のシニアクラスに通われていたそうですね。

浅井 私、60歳までは中学校の教員をしてたんですよ。

瀬戸山 え、そうなんですか!

浅井 定年退職してボーッとしてるのももったいないので、学生時代にやっていた演劇をやってみようと。今はそこの卒業生で作った「プラチナネクスト」という演劇集団のメンバーになって、年に2本ほど公演をしています。

——亀島さんは劇団ロロの所属ですが、今回はなぜオーディションに?

亀島 僕も多摩センターが地元なんです。小学生から19歳まで住んでいて、10代前半の初デートも、パル多摩4階にあった「ミラクルラボ」でした(笑)。

瀬戸山 何ですか、ミラクルラボって。

亀島 昔、おもしろ化学実験室みたいな施設があったんですよ。

瀬戸山 健全な初デートですね(笑)

亀島 今は多摩を出て、役者の仕事を始めて8年くらい経つんですけど、ここ数年、多摩センターで演劇が盛り上がっているという話は聞いていて。「何で俺が呼ばれないんだ!」と思っていたわけです(笑)。だから今回、ようやくパル多摩の芝居に関われて嬉しい。

ツイッター経由で参加した俳優&音楽家

——吉田能さんは、瀬戸山さんが声をかけられたとか。

瀬戸山 今回の音楽は、なるべく多摩の音楽家の方にお願いしたかったんですけど、なかなか適任の方を見つけられなくて。そんなときに、私が書いたツイッターのオーディション情報を見て、反応してくださったのが吉田さんだったんです。

——吉田さんのことはもともとご存知で?

瀬戸山 はい。吉田さんは俳優とピアニストの両方の活動をされているんですけど、俳優としては舞台で何度か見ていて、ピアニストとしてもYouTubeで見て、カッコイイなと思ってました。

——吉田さんのツイッターの反応は、どんなものだったんですか?

瀬戸山 「出たかったー! 俺、多摩センターに住んでたのに!」みたいな。それを見て、「吉田さんなら私が求めていたものにすべて当てはまる!」と思ったんです。実は多摩ゆかりの音楽家と同時に、20代に見える男性キャストも探していて。「吉田さんはどっちも揃ってる!」と思いました。

——オファーが来て、どう思いましたか?

吉田 実は僕も1割くらい、瀬戸山さんの目に留まらないかなと思っていたんです(笑)。だから嬉しかったですね。

瀬戸山 吉田さんは実家を出てからも、この近辺に住んでいらっしゃったそうですね。

吉田 兄弟3人で永山に住んだり。やっぱり、空が広いところがじゃないと、と思って。

——多摩の魅力は、空の広さですか?

吉田 それはありますね。僕の実家は、昔、落合五丁目のサンピア多摩のすぐ近くだったんです。

浅井・亀島 ああ~。

瀬戸山 サンピア?(笑)。

吉田 坂のてっぺんに施設があって、昔はそこのプールで遊べたんです。

浅井 スライダーがあってね。

亀島 僕もよく遊んでました。

吉田 中央公園も宝野公園もすぐそばで、周りに高層マンションが一切ない時代。だからすごく見晴らしが良くて、空も広かった。

亀島 宝野公園の桜、すごくきれいですよね。

吉田 有名な桜の名所に行かなくても全然いいくらいに。

浅井 多摩にはきれいなところがいっぱいありますね。だから1回市外に出ても、戻ってくる人が多いんです。「やっぱり多摩がいい」って。

吉田 絵になる場所が多くて、歩くだけで勝手にセンチになれますから(笑)。あと、この20年くらいで、すごく町の景色が変わったと思うんですよ。その移り変わりにも、僕はグッときます。

多摩中央公園(多摩市)

多摩中央公園(多摩市)

人が生きるためのすべてが揃う町

吉田 そういえば鶴牧東公園の野外コンサートって、まだやってるんですか?

浅井 ああ、昔、ありましたね。チック・コリアが来たりとか。

瀬戸山 そんなすごい人が来たんですか!?

吉田 そうなんですよ。僕の父親が実行委員をしていたので、テントを立てるのを手伝ったりもして。

亀島 鶴牧東公園って、ガリバー山のところですか?

吉田 ガリバー山……たぶんそうです。あの、ジャブジャブ池がある山。

亀島 ああー、はいはい(笑)。

瀬戸山 お二人は今、おいくつですか?

亀島 僕は30歳です。

吉田 僕は31です。

瀬戸山 ほぼ同世代ですね。

吉田 でも僕、ガリバー山っていう名前、いま初めて聞きました。きっと橋を挟むと、文化が違うんですね(笑)。

瀬戸山 え、橋を挟むだけで!? 面白い(笑)。

亀島さんがガリバー山と呼んでいた築山(多摩市鶴牧東公園)

亀島さんがガリバー山と呼んでいた築山(多摩市鶴牧東公園)

——今回はこの3名のほかにも、プロの役者さんが多く参加されるとか。

瀬戸山 パル多摩の方が、できれば今後、他の地域にもこの作品を持っていきたいとおっしゃっていたので、集中して稽古に参加できる方とつくることにしました。ただ、市民の方に関わっていただく機会も作りたくて、スタッフを募集したり、公募の方も交えてワークショップをやろうと思っています。

——どんなワークショップですか。

瀬戸山 毎週日曜日に多摩ニュータウンのどこかに行って、見てきたものを芝居にしてもらいます。それを本公演でも使わせていただくかもしれないので、お3方にはぜひ、いろんなところに私たちを連れていってほしいです。それこそ初デートの場所とか(笑)。

吉田 僕はよく好きな女の子と、パル多摩の大階段に腰掛けて話してました(笑)。

亀島 プラネタリウムもデートスポットでしたよね?

吉田 ベネッセの上の?

亀島 あれって、まだあるんですか?

浅井 ありますよ(笑)。

瀬戸山 買い物するところもあるし、わりと何でもあるんですね。

亀島 衣食住、だいだいのことはここで済みます。

瀬戸山 そこが良いところで、物足りないところでもあるとオーディションで言われてましたね。

亀島 この町には、人間が死なないためのものは、すべて揃ってる。でも死ななければいいのかというと、人間、そうじゃないじゃないですか。10代の頃は、そこに退屈や物足りなさを感じていたんです。

瀬戸山 「死の匂いがしない」ともおっしゃってました。

亀島 歩者分離もあり、安全で住みやすい。けど多摩センターを出たら、世の中そうはなってない(笑)。そういう、好きから嫌いかも含めて、自分の故郷に対する感情の答えを今回見つけたいです。

多摩ニュータウンに、未来の日本が見える

——浅井さんは、今回の『たまたま』がどんな作品になるといいと思いますか。

浅井 多摩ニュータウンは住みやすくて、パルテノン多摩のような施設もあって、文化も高い。でも子どもの数は減っていて、小中学校の統廃合も進んでいます。今回のような演劇が、それを食い止めるような、若い人を呼び込むツールになるといいなと思います。あと私の友達はみんなシニアなので、同世代にもアピールできたらいいなと思いますね。

——吉田さんはいかがですか。

吉田 多摩センターって、迷走したところもけっこうあると思うんです。僕が住んでいた頃も、「何でそうなっちゃうの?」って思ったりしてましたから。でも、そういうところも含めて、多摩の全部を好きになれるような作品になったらいいなって思います。あとは元住民らしく、細かいツボを突いていきたい。「ああ、それ、あったあった!」って思ってもらえるような(笑)。

瀬戸山 そういうローカルな話ほど、外から見てもワクワクします。「橋を1本渡ったら文化が違う」とか(笑)。

吉田 でもそんな話は、よそにはよそで、あるんじゃないかと思うんですよ。

瀬戸山 そうだと思う。高齢化も多摩だけの問題じゃなく、今、日本中の町が直面している問題。多摩ニュータウンは全国的にもニュータウンの先駆けなので、これからほかの町に訪れることが、もうすでに起きてるわけです。だからほかの地域の人が見ても、自分たちに関係があると思ってもらえる話になるんじゃないかな。

——まだ準備段階ですが、改めて、瀬戸山さんは『たまたま』をどんな作品にしたいと思っていますか。

瀬戸山 以前、1970年代に多摩ニュータウンに入居した第一世代の方に取材をしたら、当時の町の様子がすごく面白かったんです。まだ駅前にお店が何もなくて、電車も今のように速くない時代。サラリーマンのお父さんたちは朝、まだ暗いうちに家を出て、夜も暗くなってから帰ってきた。でも疲れて帰っても、近くにお酒を飲む店もない。「どうするんだ?」となったときに、どこからともなくラーメン屋台が現れて、お父さんたちが集うようになったそうなんです。あと、20~30代くらいの若い世帯が一気に入居して来たので、野球チームがたくさんできたり、子どものためのお祭りや運動会もできたらしい。

浅井 どんと祭とかね。地域のおじいちゃんおばあちゃんの仕切りで、学校の校庭でどんと焼きを焼いてました。

瀬戸山 そういうことは、最初の都市計画には書いてなかったと思うんです。そんな、人が集まることでできていった計画外のことに目を向けたい。あとはやっぱり、地元の人に「多摩に住んでいて良かった」と思ってもらえるような作品にできたらと思いますね。

——多摩市民でなくても『たまたま』は楽しそうですか?

瀬戸山 都心からも人を呼べるようなものを発信したいですね。この1年くらい多摩に来ていて感じるのは、意外と都心の方からも近いし、空が広くて、大きな公園もあって、パルテノン多摩というすごくいい施設もある(笑)とてもいい街だということ。まだここで演劇を観たことがない人も、足を運ぶ機会になったらいいなと思っています。

【プロフィール(右より)】

瀬戸山美咲

劇作家・演出家・ミナモザ主宰。2001年にミナモザを旗揚げ。現実の事象を通して、社会と人間の関係を描く。代表作に『ホットパーティクル』『指』『エモーショナルレイバー』など。世田谷パブリックシアターのワークショップや、ロンドンバブルシアター『ヒロシマの孫たち』など、コミュニティの人とつくる演劇にも継続的に携わっている。また、蒼井優主演の『アズミ・ハルコは行方不明』(16年)、行定勲監督『リバーズ・エッジ』(18年)などの映画脚本でも活躍中。

亀島一徳

1986年生まれ、東京都出身。ロロ所属。小中高と多摩センターで育つ。ロロには09年の旗揚げから参加し、ほぼ全作品に出演。映像も含め外部作品への出演も多数。近年の主な舞台出演作に、東京グローブ座で上演された『TOKYOHEAD~トウキョウヘッド~』、KUNIO12『TATAMI』、サンボン『口々』、木ノ下歌舞伎『勧進帳』『東海道四谷怪談―通し上演―』などがある。

吉田能

1985年生まれ。東京都出身。多摩市には小学校入学時より20年以上住み続けた。現在、三兄弟トリオバンド「花掘レ」、コントユニット「PLAT-formance」に所属。舞台への楽曲提供、演奏、俳優としての出演など幅広く活動している。主な出演作に『神の左手』(キコ/qui-co.)、『奇跡の年ANNUS MIRABILIS』(趣向)、『ダズリング=デビュタント』(あやめ十八番)など。音楽を担当した舞台に『ダニーと紺碧の海』(藤田俊太郎演出)、手塚治虫生誕90周年記念『Amazing Performance W3』(ウォーリー木下演出)など。

浅井要美

1950年群馬県高崎市生まれ。1987年より多摩市在住。劇団文学座プラチナクラスを卒業、 演劇集団プラチナネクスト所属。主な出演作「善人の条件」「太夫さん」「真夏の夜の夢」「音楽劇 海は天才である」「ベテルギウスが消えるまで」「愛いっぱいの愛を」(パルテノン多摩×FUKAIPRODUCE羽衣)等。また、オペラの進行の語りや、地域では、「絵本の読み聞かせ」「群読の会」で活動している。


【公演情報】

多摩ニュータウン×演劇プロジェクト
『たまたま』
作・演出◇瀬戸山美咲
出演◇浅井要美 浅倉洋介 石田迪子 大原研二 亀島一徳 小林あや  とみやまあゆみ 中田顕史郎 前原麻希 町田マリー まりあ 目次立樹 山中志歩 山森大輔 吉田能 ワタナベミノリ
8/4~6◎パルテノン多摩 小ホール
演劇キック - 観劇予報
シェア / 保存先を選択