六本木の2大美術館をフェス感覚で巡る 『サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980 年代から現在まで』レポート

レポート
アート
2017.7.11
リー・ウェン	《奇妙な果実》	2003年

リー・ウェン 《奇妙な果実》 2003年

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六本木の2大美術館、国立新美術館と森美術館の同時開催で、2館初の共同企画展である『サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980 年代から現在まで』(会期:2017年7月5日~10月23日)が開幕した。

「サンシャワー」は「天気雨」を意味し、晴れているのに雨が降っているという東南アジア特有の気象をあらわしている。人口約6億人を抱える、多民族、多言語、多宗教の東南アジア。「サンシャワー」はその東南アジアがたどってきた歴史の変遷、そこで育まれてきた多様な文化が複雑に入り混じる様子を暗に示している。

フェリックス・バコロール	《荒れそうな空模様》	2009年 1000個を超える風鈴が、風に揺れ音を奏でるインスタレーション。

フェリックス・バコロール 《荒れそうな空模様》 2009年 1000個を超える風鈴が、風に揺れ音を奏でるインスタレーション。

2015年に経済共同体となったASEAN(東南アジア諸国連合)は、 現代アートの世界においても活気を呈しており、国際的にも高い注目を集めている。とりわけ今年はASEAN設立50周年にあたる。

本展では、ASEAN10カ国から選ばれた86組のアーティスト、および作品約190 点を9つのセクションに分けて展示。いわば東南アジアの現代アートの集大成ともいえる本展をみれば、その全体像がつかめるのだ。

イー・イラン	《うつろう世界》(「偉人」シリーズより)	2010年 Courtesy: Silverlens Galleries, Makati, The Philippines

イー・イラン 《うつろう世界》(「偉人」シリーズより) 2010年 Courtesy: Silverlens Galleries, Makati, The Philippines

ティン・リン	《アートの生物学》(「00235」シリーズより)	1999年 Courtesy:Martin LeSanto-Smith

ティン・リン 《アートの生物学》(「00235」シリーズより) 1999年 Courtesy:Martin LeSanto-Smith

展示は2館にまたがる形で、国立新美術館にて「うつろう世界」「さまざまなアイデンティティー」「情熱と革命」「日々の生活」「アーカイブ」の5セクション、森美術館にて「発展とその影」「瞑想としてのメディア」「アートとは何か?なぜやるのか?」「歴史との対話」の4セクションとなっている。

東南アジアの現代美術を紹介する展覧会としては、史上最大規模といわれる本展。その準備も大がかりなもので、森美術館チーフ・キュレーター片岡真実が率いる14名のキュレトリアル・チームが2年半にわたり現地調査を実施。ギャラリーやアート関係者など400件を超える訪問で情報をつかみ、東南アジアの現代美術を日本の観客といかにして共有するか、議論に議論を重ね模索したという。

これだけの時間と労力をかけた展覧会はそうそうないだろう。ぜひ美術館に足を運び、そのダイナミズムと多様性を目の当たりにしたいところである。

合同プレス説明会にて。左から国立新美術館長・青木保、森美術館館長・南條史生、国際交流基金理事長・安藤裕康

合同プレス説明会にて。左から国立新美術館長・青木保、森美術館館長・南條史生、国際交流基金理事長・安藤裕康

新旧アーティストが勢ぞろい! 世界初公開の新作も必見

展示のようす

展示のようす

本展に参加するアーティストは3~4世代にまたがっており、次世代に大きな影響を与えたモンティエン・ブンマー(タイ・1953-2000)やロベルト・チャベット(フィリピン・(1937-2013)にはじまり、90年代に注目されはじめたリクリット・ティラヴァーニャ(タイ・1961-)、ウォン・ホイチョン(マレーシア・1960-)、ヘリ・ドノ(インドネシア・1960-)、そして新世代のホープとして期待が高まるホー・ルイ・アン(シンガポール・1990-)、コラクリット・アルナーノンチャイ(タイ・1986-)などと、注目のアーティストが勢ぞろいしている。

コラクリット・アルナーノンチャイ	《おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で歴史で絵を描く 3》	2015年 Courtesy: Carlos/Ishikawa, London; C L E A R I N G, New York/Brussels,BANGKOK CITYCITY GALLERY

コラクリット・アルナーノンチャイ 《おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で歴史で絵を描く 3》 2015年 Courtesy: Carlos/Ishikawa, London; C L E A R I N G, New York/Brussels,BANGKOK CITYCITY GALLERY

また、スーザン・ビクター(シンガポール・1959-)、 ウダム・チャン・グエン(ベトナム・1971-)やアルベルト・ヨナタン(インドネシア・1983-)、ズル・モハメド(シンガポール・1975-)など、本展のために制作された新作や未発表作品も数多く出展され、東南アジアの現代美術の“今”を感じ取ることができる。

なかでも注目したいのが、近年その活躍がめざましいアピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ・1970-)とチャイ・シリ(タイ・1983-)が共同制作した体長8メートルの巨大モニュメント《サン シャワー》だ。

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ	《サンシャワー》	2017年 Courtesy:Kick the Machine Films

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ 《サンシャワー》 2017年 Courtesy:Kick the Machine Films

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ	《サンシャワー》	2017年

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ 《サンシャワー》 2017年

高い天上からつりさげられた巨大な像は圧倒的な存在感を放ち、象の上に浮かぶ色の変化する光の円盤がまた作品の不可解さを増幅させている。本作のモチーフになっている白象は、タイでは国王がほかの象と区別し官位を与えるほど神聖視されているそうだ。その特別な存在が浮遊している不思議な光景は、「サンシャワー」という語に込められた東南アジアの両義性を表しているようにもみえる。

宝探しに、タイ料理。見て触れて楽しめる「参加型作品」

本展の特徴として特筆したいのが、来場者の参加によって作品が完成する「参加型作品」が充実している点である。

FX ハルソノ	《声なき声》	1993-94年 パネルの手前には指文字に対応するアルファベットが刻まれたスタンプが置かれ、鑑賞者は自由に紙に押すことができる。

FX ハルソノ 《声なき声》 1993-94年 パネルの手前には指文字に対応するアルファベットが刻まれたスタンプが置かれ、鑑賞者は自由に紙に押すことができる。

アングン・プリアンボド《必需品の店》

アングン・プリアンボド《必需品の店》

スラシー・クソンウォン	《黄金の亡霊(現実に呼ばれて、私は目覚めた)》	2014年 ©2017Surasi Kusolwong

スラシー・クソンウォン 《黄金の亡霊(現実に呼ばれて、私は目覚めた)》 2014年 ©2017Surasi Kusolwong

アングン・プリアンボド(インドネシア・1977-)の《必需品の店》という作品では、来場者はお店に入って中で売られているものを実際に買うことができる。また、スラシー・クソンウォン(タイ・1965-)の《黄金の亡霊(現実に呼ばれて、私は目覚めた)》という作品では、床一面にカラフルな糸が敷き詰められたなかに隠された金のネックレスを探しだし、見つけられた場合はそのまま持ち帰ることができる。

リクリット・ティラヴァーニャ(タイ・1961-)の《無題 1996(ランチボックス)》では、アーティストが準備したお弁当箱を使用したタイ料理のお弁当を美術館内で食べることが可能だ。その様子をインスタグラムにアップし、来場者と他者がSNS上で交流することによって作品が完成するという趣旨になっている。

リクリット・ティラヴァーニャ	《無題1996(ランチボックス)》	1996年 Courtesy:  1301PE, Los Angeles and Gallery SIDE 2, Tokyo Photo: Fredrik Nilsen

リクリット・ティラヴァーニャ 《無題1996(ランチボックス)》 1996年 Courtesy: 1301PE, Los Angeles and Gallery SIDE 2, Tokyo Photo: Fredrik Nilsen

ティラバーニャは《パッタイ》という作品でタイ風焼きそばを振るまうパフォーマンスを行うなど、観客とのコミュニケーションを重視したアーティストで、新たなアートの概念を開拓してきた作家でもある。

美術館とタイカレー。この一見接点のなさそうな組み合わせには違和感もある。しかし、この違和感をもってして、「アート」と「日常生活」の隔たりに改めて気づかされ、ティラバーニャによるアートを普通の生活に引き寄せる目論見にいつの間にやら取り込まれるのである。

関連イベント盛りだくさん。東南アジアがもっと身近に

開催期間中は多彩な関連イベントが実施され、現代美術の枠をこえて東南アジアのカルチャーに触れることができる。

例えば、東南アジア各国の良作・話題作を紹介する映画上映会『スクリーニング「FUN! FUN! ASIAN CINEMA@サンシャワー」』では、それぞれの国の文化や社会状況が反映された映画を通じて、東南アジアの人々が抱く胸の内をビビッドに感じることができる。

あるいは、日本と東南アジアを股にかけ活躍する専門家が東南アジアの現状を語るパブリック・レクチャー『寺子屋サンシャワー』では、東南アジアをこれから知りたい初心者から生粋の東南アジア好きまで、幅広い層の人が関心のあるテーマを入り口に、東南アジアへの知見を深めることができる。

ほかにもトークセッションやアーティスト・リレー・トーク、キュレーターによるギャラリートークからワークショップまで書ききれないほどの課外講座があるので、ぜひチェックしてみてほしい。

イベント情報
サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980 年代から現在まで

会 期:2017年7月5日(水)~10月23日(月)
会 場
※2館同時開催
国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
開館時間:10:00~18:00(毎週金曜日・土曜日は21:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日

森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間:10:00~22:00(毎週火曜日は17:00まで)※入場は閉館の30分前まで
会期中無休

観覧料:
2館共通…【当日】 一般1,800円 大学生800円
単館当日…【当日】 一般1,000円 大学生500円 【団体】 一般800円 大学生300円

※高校生及び18歳未満の方(学生証または年齢のわかるものが必要)は無料。
障がい者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は無料。
学生は身分証等をご提示ください。
団体券は各館で販売(国立新美術館は20名以上、森美術館は15名以上で団体料金を適用)します。

巡回:2017年11月3日(金・祝)~12月25日(月)/福岡アジア美術館

お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
関連プログラム:各プログラムの詳細については、公式サイトをご覧ください。
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