懐かしさと新しさに出会う、絵本の世界 『ブラティスラヴァ世界絵本原画展』をレポート
ミコロマチコ《オレときいろ》2014年 ⓒmirocomachiko
平塚市美術館で『ブラティスラヴァ世界絵本原画展 絵本の50年 これまでとこれから』(2017年7月8日~8月27日)が開催中だ。スロヴァキア共和国の首都ブラスティスラヴァで2年ごとに開催される『ブラティスラヴァ世界絵本原画展』(略称BIB=Biennial of Illustrations Bratislava)は、芸術性の高い作品や実験的でユニークな作品が集まる、世界規模の絵本原画コンクールである。
絵本原画展というと、親子連れや小学生向けの内容のように思われるかもしれないが、本展は大人が観ても十分見応えのある内容になっている。取材に行った7月中旬は、夏休み前ということもあり、ほとんどが大人の観覧者だったが、原画作品に釘付けになったり、熱心に絵本をめくる姿が、会場のあちらこちらで見られた。大人も魅了する本展の見どころを紹介したい。
会場の外には絵本を手にとってゆっくりと見られる子ども向けスペースも。
子ども時代に読んだ一冊に再会できるかも
日本の絵本50年をふりかえる
本展1部「BIB歴代参加者でたどる〈日本の絵本50年〉」では、瀬川康男、長新太、安野光雅といった日本の絵本画家の草分け的存在による作品が、一堂に集まっている。
赤羽末吉《スーホの白い馬》1967年 ちひろ美術館蔵 ⓒSuekichi AKABA
BIB受賞作品から、筆者も懐かしい絵本に数多く再会を果たした。かつて子ども時代に学校の図書室で読んだり、教科書にも登場したような作品だ。展示冒頭に登場する「ちからたろう(たしませいぞう・絵/いまえよしとも・文)」から、思わず懐かしさで胸がいっぱいになった。こちらは1967年にポプラ社から出版された絵本で、BIBでは金のりんご賞を受賞しているそう。子ども時代はそんなことを知る由もなかったが、ダイナミックな絵柄は深く心に刻まれていたことを感じた。
たしませいぞう《ちからたろう》1967年 刈谷市美術館蔵 ⓒSeizo TASHIMA
原画の近くに絵本が置かれているので、ぜひ手にとって見てほしい
繊細な筆の運び、トリミングでカットされた部分にも
絵本としてアウトプットされる前の原画は、普通目にすることができないので、その繊細な筆の運びや、トリミングでカットされた部分に目を向けると、より原画作品が楽しめるだろう。完成した絵本と見比べて見ると、印刷で再現できなかった表情を見つけ出すことができる。ぜひ展示されている絵本とともに見比べてみてほしい。
飯野和好《みずくみに》2014年
表現・手法も多彩な現代の絵本
本展2部「BIB2015参加作品にみる〈絵本の今とこれから〉」では、より洗練されて、アートに近づいた絵本をみることができる。日本からのBIB参加者は、第一線で活躍する美術家やイラストレーター、漫画家などもいて、表現・手法も多彩だ。
アニメや漫画が子ども向けだけでなく、大人向けのメディアにもなったように、絵本の世界も確実にターゲットを広げた。1部から年代を追って見ていくと、テーマの幅も徐々に広がり、大人がグッとくる作品が増えたことを感じさせる。
松本大洋《かないくん》2014年 ⓒTaiyo MATSUMOTO
100%オレンジ(及川賢治)《スリスリとパッパ》2015年 ⓒKenji OIKAWA
2部ではさらに海外の受賞作品を多数紹介している。イギリス、スペイン、オランダといったヨーロッパ圏に加え、ロシアや韓国・中国などの受賞作品も見ることができる。こちらも日本の作品と同様、子ども向けとは一口には言えない、ユニークで独創的な作品が勢ぞろいしている。
ナタリア・サリエンコ《1・2・3・4・5のおはなし》2014年 ロシア
アンネマリー・ファン・ハーリンゲン《シラユキさん モンスターを編む》2014年 オランダ
日本からは、今回の展覧会フライヤーのメインビジュアルにもなっている、ミロコマチコの作品を、多くの原画とともに紹介している。2015年の金のりんご賞を受賞した作品だ。
ミコロマチコ《オレときいろ》2014年 ⓒmirocomachiko
ミコロマチコ《どうぶつ手帳》2009年 ⓒmirocomachiko
お気に入りの作品に出会えたら
日本の作品であれば、比較的手軽に手に入るのも、絵本の魅力と言えるだろう。絵本の原画を手に入れることは少しハードルが高いが、絵本を購入することならばすんなりできることではないだろうか。
絵本は時代のメッセージ
BIBは、東西冷戦の時代に、各国の文化の架け橋となるべく1965年に創設された背景がある。「絵本の絵は、文章に添える単なる道具ではない。同時代のメッセージを伝え、画家と読者双方の感情と体験を反映したものなのである」とはBIB事務局長の言葉だ。絵本に込められた、時代のメッセージを読み解くのも、大人だからこそできる絵本の楽しみ方と言えるかもしれない。
絵本の50年 これまでとこれから
会期:2017年7月8日(土) ~8月27日(日)
休館日:月曜日
観覧料金:一般900(720) 円、高大生500(400) 円
※( ) 内は20 名以上の団体料金
※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1 名は無料
※65 歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は団体割引
(年齢・住所を確認できるものをご提示ください)
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/20162005_00002.html