『ベルギー奇想の系譜展』が開幕 ボス、マグリット、ヤン・ファーブルなど、奇想のアーティストが大集結!

レポート
2017.7.26

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『ベルギー奇想の系譜展 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』が、2017年9月24日(日)まで、Bunkamura  ザ・ミュージアムで開催される。現在のベルギーとその周辺地域では、空想を視覚化した幻想美術が15~16世紀のフランドル絵画に始まり、象徴派・表現主義、シュルレアリスム、現代アートへと受け継がれている。「奇想」の系譜をたどる本展では、総勢30名の作家による約120点のコレクションが展示される。プレス内覧会より、その見どころを紹介したい。

ヒエロニムス・ボスに始まる「奇想」のルーツ

ヒエロニムス・ボス工房《トゥヌグダルスの幻視》1490-1500年頃、油彩、板 ラサロ・ガルディアーノ財団 ⓒFundaction Lázaro Galdiano(左は、音声ガイドナレーターを務める声優の速水奨)

ヒエロニムス・ボス工房《トゥヌグダルスの幻視》1490-1500年頃、油彩、板 ラサロ・ガルディアーノ財団 ⓒFundaction Lázaro Galdiano(左は、音声ガイドナレーターを務める声優の速水奨)

「奇想」のルーツは、15世紀から16世紀にかけて活躍したヒエロニムス・ボスである。ボスは、キリスト教を主題とする絵画の中に独創的なイメージを散りばめた。《トゥヌグダルスの幻視》は、死後の世界にまつわる説話を基にした作品だ。巨大な頭部の周辺には、ユーモラスな怪物たちが描かれている。悪夢の一場面を切り取ったようなイメージは、観る者の感性を刺激し幻惑する。思わず見入ってしまう魅力がある。

左:ヘリ・メット・ド・ブレス《ソドムの火災、ロトとその娘たち》製作年不詳、油彩、板 ナミュール考古学美術館 右:ピーテル・ハイス(帰属)《聖アントニウスの誘惑》創作年不詳、油彩、板 ド・ヨンケール画廊

左:ヘリ・メット・ド・ブレス《ソドムの火災、ロトとその娘たち》製作年不詳、油彩、板 ナミュール考古学美術館 右:ピーテル・ハイス(帰属)《聖アントニウスの誘惑》創作年不詳、油彩、板 ド・ヨンケール画廊

16世紀半ばには、ボスの人気が再燃し、「ボス・リバイバル」が起こった。当時制作された絵画や版画には、ボス風の怪物たちが跋扈していた。ピーテル・ハイス《聖アントニウスの誘惑》では、聖人を誘惑しようと蠢く怪物たちの喧騒が聞こえてくるようだ。

左:ピーテル・ブリューゲル〔原画〕ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫板]《激怒》1558年、エングレーヴィング、紙 右:同《嫉妬》1558年頃、エングレーヴィング、紙  どちらもクストディア財団、フリッツ・ルフト・コレクション、パリ

左:ピーテル・ブリューゲル〔原画〕ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫板]《激怒》1558年、エングレーヴィング、紙 右:同《嫉妬》1558年頃、エングレーヴィング、紙  どちらもクストディア財団、フリッツ・ルフト・コレクション、パリ

数々の版画の下絵を描いたピーテル・ブリューゲルは、ボスのモチーフを受け継ぎ、「第二のボス」と讃えられた。「七つの大罪」シリーズでは、異形の怪物や建造物などが画面全体を緻密に構成する。視覚的なインパクトに加えて、ストーリー性のある細部にも注目したい。

「第1章 15-17世紀のフランドル美術」では、ボスとその後継者たちが創造した世界観を堪能できる。キリスト教の伝統を踏襲しつつも、その枠組みから一歩踏み出したモチーフは現代的だ。

産業革命期に興隆した象徴派・表現主義

19世紀、イギリスで起こった産業革命はベルギーにも波及した。労働環境の激変は人間疎外をもたらし、人々は現実逃避を始めた。その逃避先である空想や自己の内面を描いたのが象徴派だ。「第2章 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派・表現主義」は、当時のベルギーに興隆した幻想美術に焦点を当てる。

左:フェルナン・クノップフ《アラム百合》1895年、彩色写真(撮影:アレクサンドル) 右:同《巫女(シビュラ)》1894年、彩色写真(撮影:アレクサンドル) どちらもベルギー王立図書館、ブリュッセル

左:フェルナン・クノップフ《アラム百合》1895年、彩色写真(撮影:アレクサンドル) 右:同《巫女(シビュラ)》1894年、彩色写真(撮影:アレクサンドル) どちらもベルギー王立図書館、ブリュッセル

ベルギーの象徴派を代表するフェルナン・クノップフは、両性具有的人物表現を好んだ。クノップフの作品に登場する美しき人々は、まさにファンタジー世界の住人である。

フェリシアン・ロップス《舞踏会の死神》1865-1875年頃、油彩、キャンヴァス クレラー・ミュラー美術館、オッテルロー

フェリシアン・ロップス《舞踏会の死神》1865-1875年頃、油彩、キャンヴァス クレラー・ミュラー美術館、オッテルロー

象徴派には死の臭いが漂う。たとえば、フェリシアン・ロップス《舞踏会の死神》には、着物のような外套を纏った骸骨が描かれている。ロップスは、この作品を通してキリスト教的な因習に抗った。

左:ジャン・デルヴィル《ステュムパーリデスの鳥》1888年、黒チョーク、紙 ベルギー王立図書館、ブリュッセル 中:同《レテ河の水を飲むダンテ》1919年、油彩、キャンヴァス 姫路市立美術館  右:同《赤死病の仮面》1890年頃、木炭・パステル、紙 フィリップ・セルク・コレクション、ベルギー

左:ジャン・デルヴィル《ステュムパーリデスの鳥》1888年、黒チョーク、紙 ベルギー王立図書館、ブリュッセル 中:同《レテ河の水を飲むダンテ》1919年、油彩、キャンヴァス 姫路市立美術館  右:同《赤死病の仮面》1890年頃、木炭・パステル、紙 フィリップ・セルク・コレクション、ベルギー

ジャン・デルヴィルの作品にも、死人の仮面や鴉、レテ河など、死に関連するモチーフが描かれる。死は、忌むべき生理現象ではなく、人間疎外が進む現世と対になる天国の象徴だった。だから、デルヴィルの作品にはカタルシスがあるのだ。

シュルレアリスムから現代アートへ

「第3章 20世紀のシュルレアリスムから現代まで」では、ベルギーで独自に発展したシュルレアリスムの傑作が展示されている。たとえば、ルネ・マグリットは、モチーフやイメージ、タイトルの意外な組み合わせを通して自らの思想を具体化した。「奇想」と呼ぶべきその作品群は、観る者を思考の迷宮へと誘う。

現代アーティストたちは、彫刻や映像、インスタレーションなど、さまざまな表現形式を採用する。会場入り口に立つ《フランダースの戦士(絶望の戦士)》は、甲虫を材料として制作されたオブジェだ。作者のヤン・ファーブルは、ボスやブリューゲルなど、先人たちの「奇想」を土台にして新たな世界観を構築する。そこからは、母国に対するファーブルの複雑な思いが伝わってくる。

トマス・ルルイ《生き残るには脳が足らない》2009年、ブロンズ ロドルフ・ヤンセン画廊、ブリュッセル(右から、アーティストのトマス・ルルイ、アーティスト・キュレーターのエリック・ワイス)

トマス・ルルイ《生き残るには脳が足らない》2009年、ブロンズ ロドルフ・ヤンセン画廊、ブリュッセル(右から、アーティストのトマス・ルルイ、アーティスト・キュレーターのエリック・ワイス)

身体と巨大な頭部とのアンバランスが目を引くのはトマス・ルルイ《生き残るには脳が足らない》。ルルイは、自らの創作活動について「アーティストは常に考えなければいけません。体は耐えられますが、頭がこんなに大きくなります」と語った上で、「この重い頭をどうしようかと悩んでいる人を描きました」と作品を解説した。異形の彫刻は、多くの現代人が抱える悩みや歪みを象徴している。

500年以上にわたってベルギー美術で受け継がれてきた「奇想」。その系譜をたどる同展で、めくるめく「奇想」の世界を旅してみてはいかがだろうか。

イベント情報
ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

日時:2017年7月15日(土)~ 9月24日(日)
※7/18(火)、 8/22(火)は休館
開館時間:午前10時~午後6時(金・土曜日は午後9時まで)
※入場は閉館30分前まで
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
観覧料:一般 1,500円(1,300円)/高大生 1,000円(800円)/小中生 700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ね下さい。

 
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