138年ぶりの夢の再会! 『歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」』開幕レポート

2017.8.2
レポート
アート

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浮世絵師・喜多川歌麿の最高傑作との呼び声が高い「雪月花」三部作。そのうち《雪》と《花》が、7月28日より10月29日まで岡田美術館(神奈川県箱根町)の特別展『歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」』で公開される。浮世絵史上でも最大といえる肉筆画2点が、日本で同時に展示されるのは138年ぶりとのこと。アメリカより里帰りした《吉原の花》と、一時は行方不明となっていた岡田美術館収蔵《深川の雪》が夢の再会を果たすこの展覧会の見どころを、特別内覧会の模様とともに紹介する。

岡田美術館 外観

箱根で再会する《雪》と《花》

会場となる岡田美術館は、2013年に箱根・小涌谷に開館した日本・東洋美術を扱う美術館だ。浮世絵研究で有名な小林忠氏が館長を務め、60年以上にわたり行方が分からず、幻の傑作といわれてきた歌麿の肉筆画《深川の雪》を収蔵していることでも知られている。敷地内では、100%源泉かけ流しの足湯カフェも来場者を楽しませてくれる。

展示会場に足を踏み入れると、突き当りの壁に並ぶ華やかで大きな浮世絵に目を奪われる。そして近づいていく中で、中央の浮世絵だけが、額装であることに気づかされるだろう。それが、今回アメリカ最古の美術館であるワズワース・アセーニアム美術館より里帰りした《吉原の花》だ。本作は22年前にも来日したことがあったが、当時はまだ《深川の雪》の所在が不明であった。今回のように日本で並べて展示される機会は138年ぶりだという。

岡田美術館 展示風景

館長の小林氏は、内覧会の挨拶に登壇すると、この展覧会のきっかけを次のように振り返った。

「《雪月花》という大作を岡田美術館に招き、三部作を同時に観る機会を作りたいという夢をもったのは、2012年2月。三部作のうちの1作、フランスより日本に持ち帰り行方不明となっていた《深川の雪》を岡田美術館のコレクションに加えることができたことがきっかけになりました」

岡田美術館館長 小林忠氏

もともとこの三部作は、栃木の豪商・善野家が喜多川歌麿を招き、依頼したと考えられるという。それを裏づけるように《深川の雪》と《品川の月》 の中には、善野家の家紋“九枚笹”を観ることができる。《吉原の花》は、剥落したのか白い絵の具が重ねられているところが“九枚笹”だったと考えられているのだそう。明治12年、栃木市の定願寺で3点揃って展示されたのを最後にフランスに渡り、それ以降、三作はばらばらの運命を辿ることになった。

今回来日が叶わなかった《品川の月》は、現在、アメリカのワシントンD.C.にあるフリーア美術館が所蔵している。鉄道王チャールズ・フリーアの膨大なアートコレクションにより設立された美術館だが、コレクションをアメリカ政府に贈る条件として、フリーア美術館からの作品の持ち出し、および、他所からの借用を禁止した。そのため門外不出とされている。

(原寸大高精細複製画)喜多川歌麿「品川の月」原本:江戸時代 天明8年(1788)頃 フーリア美術館蔵

小林氏は、フリーア美術館館長が岡田美術館を訪れた際に「そこ(門外不出)を曲げてどうにかなりませんか?」と食い下がったのだという。

「(岡田美術館敷地内の)足湯につかりながら相談しましたところ『弁護士に相談してみます』と言ってくださいました。そして3か月待った結果、『本当にごめんね』という意味のことを英語で伝えられました。《品川の月》はやむを得ず現代の技術により精巧に再現された原寸大での複製となりますが、『雪月花』三部作の雄大なスケールを味わっていただければ幸いです」

最大の浮世絵に、最大の紙

《深川の雪》で興味深いのが、浮世絵史上最大の絵画であるこれだけ大きな作品をたった2枚の大きな紙を継いで描かれている点だ。紙の専門家による調査により、当時、中国から長崎に舶来してきた最大(3m60㎝幅)の画仙紙を使っていることが明らかになったのだという。

喜多川歌麿「深川の雪」江戸時代 享和2-文化3年(1802-06)頃 198.8×341.1cm 岡田美術館蔵

一方で寛政3~4年頃に描かれた《吉原の花》は、8枚の紙を継いで描かれている。

「《吉原の花》が描かれたのは、贅沢を禁じた寛政の改革が特に厳しい時期でした。栃木の豪商・善野家でもさすがに長崎から3mを超える紙を取り寄せることは難しかったのではないでしょうか。それでも日本ではすけないサイズの舶来品の紙が使用されています。当時としては異例中の異例の高級紙に、美しい色彩で描き出された三部作です」

《吉原の花》に描かれているのは、吉原遊郭の大通り。桜が舞う中を、女性や子供が往来する。茶屋の二階には、三味線と花笠踊りを楽しむ客がいるが、いずれも女性ばかり。当時の女性のステイタスの中で最高位とされていた吉原の花魁が、画面の左下を歩いている。贅沢な紙に、贅沢を満喫する女たち。「贅沢を禁止した寛政の改革を諷刺しているのではないか」という解説には、大いにうなずけた。

喜多川歌麿「吉原の花」江戸時代 寛政3~4年(1791-92)頃 186.7×256.9cm ワズワース・アセーニアム美術館蔵

土偶から森本草介まで

特集展示『人物表現の広がり』では、日本、中国においてどのように人物表現が広がってきたかを紹介している。土偶からはじまり、近代の上村松園、鏑木清方、伊東深水、現代写実絵画の巨匠・森本草介までが展示されているが、見逃せないのはやはり歌麿だ。歌麿の肉筆画は世界に40点ほどしか残っていないと言われているが、岡田美術館は《深川の雪》に加え《三美人図》と《芸妓図》も収蔵している。今なら来日中の《吉原の花》を加えた4点の肉筆画を観ることができるので、ぜひ全フロアをゆっくり巡って楽しんでほしい。

岡田美術館展示風景。

喜多川歌麿「三美人図」江戸時代 寛政年間(1789~1801)岡田美術館蔵

専属ショコラティエの新作も

今回の展覧会にあわせ、ミュージアムショップでは新作チョコレート「Okada Museum Chocolate『歌麿・深川の雪』」が発売される。岡田美術館は、専属のショコラティエをおき、過去にも作品にちなんだオリジナルチョコレートを発表してきた。マスターシェフの三浦直樹氏は「ブルガリ イル・チョコラート」のマスターショコラティエとして活躍。ドラマ「失恋ショコラティエ」の監修で注目を集めた。

Okada Museum Chocolate マスターシェフ 三浦直樹氏


<フレーバー>(上段左から)①ゴルゴンゾーラチーズとベーコンチップ、②紫芋と黒胡麻、③和栗と松茸、④ピスタチオとシナモン、 (下段左から)⑤アーモンドミルクとドライアプリコット、⑥クリームチーズとベ リーローズ、⑦白トリュフと南瓜、⑧柚子とフレッシュバジル Okada Museum Chocolate『歌麿・深川の雪』

特別展『歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」―138年ぶりの夢の再会―』は、2017年7月28日(金)~10月29日(日)の開催だ。歌麿をお目当てに、ぜひ箱根に足をのばしてみてほしい。

岡田美術館 展示風景

 
イベント情報
歌麿大作「深川の雪」と「吉原の花」―138年ぶりの夢の再会 ―

会期:2017年7月28日(金)~ 10月29日(日)
会場:岡田美術館
休館日:会期中休館日なし
主催:岡田美術館
所在地:神奈川県足柄下群箱根町小涌谷493-1
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般・大学生 2800円、小中高生1800円
http://www.okada-museum.com/