『NieR:Automata』を彩ったモーションアクターの存在 川渕かおり・ヨコオタロウに制作秘話を聞く
撮影:大塚正明
近年では空前のヒット作となったPlayStation®4用ゲーム『NieR:Automata』、世界累計出荷・DL販売数が150万本を超えた本作。そのメインキャラクターである「2B」「A2」のモーションアクターを担当したのが女優・ソードパフォーマーの川渕かおり。今回は彼女と『NieR:Automata』のディレクターであるヨコオタロウ氏をお迎えし、モーションアクターとは?という目線から本作やその世界を紐解いてみたい。
――モーションアクターというのはあまり知られていないお仕事だと思うのですが、川渕さんがモーションキャプチャーのお仕事をしたのはいつ頃なんでしょう?
川渕:約 10年程前ですね。『ファイナルファンタジーXⅢ(以下:FF)』のセラ・ファロンという役を初めてやらせてもらいました。
――もともとパフォーマーや女優としても活動されている中で、どういうきっかけでこのお仕事を?
川渕:オーディションですね。『FF13』がかなり大きなプロジェクトだったので、アクターを募集するということでオーディションを受けて、第一希望は、剣を振るうのでライトニングをやりたいなと思って受けたんですよ。でも、受かったのが全く戦わない可愛い妹のセラだったんでギャップが(笑)。可愛い女の子を可愛く演じるというのが大変でしたね(笑)。
――『ファイナルファンタジーXV』も戦わない人でしたね。
川渕:『FF15』で演じたゲンティアナもモーション収録で戦うシーンは無かったですね。
――モーションキャプチャーの現場って、どういう風に収録が行われているんですか?
川渕:ヨコオさんと一緒にやらせて頂いた『NieR:Automata(以下:ニーア)』の現場では、芝居パートとアクションパートが分かれてましたね。
ヨコオ:今作はプラチナゲームズという会社さんと作らせていただいたんですけど、ゲームの構造として、実際遊ぶゲーム部分のモーションと、ムービーでみるイベントとを切り分けて撮っていたんですね。川渕さんには、ムービーイベントの方のパートをお願いした形になっています。
川渕:ご存知の人もいるかもしれませんが、モーションアクターは体にぴったりした専用スーツを着て、反射材のマーカーというものを全身に数十個つけて、光学式カメラでマーカーの移動から体の動きのデータを撮るっていうものなんです。現場のディレクションで言えば、台本があって、お芝居をしてみて、それに対してもっとこうしてって言われる。
ヨコオ:そうですね。はい。
――声優さんが喋っているお芝居をしている。
川渕:台本があるので、先に動きだけ撮って。今回は声優さんに動きを見ながらアフレコをしていただいたんでしたっけ。
ヨコオ:そうですね。先にモーションアクターさんにセリフを喋ってもらって、演技のニュアンスもそこで付けてしまいます。それから、撮った映像をガイドにして声優さんに振るっていうステップを踏むので、最終的な演技についてはアクターさんを見ていればわかるところまで、モーションキャプチャーの時に詰めちゃいます。
――それは想像外でしたね。
ヨコオ:プロジェクトによると思いますよ。僕はそっちの方が撮りやすいというか。
――川渕さんはニーアの現場はどうでした?
川渕:終わらないでほしいと思いました(笑)。
ヨコオ:どういうことなんですか(笑)。
川渕:もちろんディレクターさんの座組によって現場の雰囲気は違うんですけど、ヨコオさんのところは、アクターが出してくる芝居を尊重してくれるんです。今回2BとA2という役をメインにやらせていただいて、2Bって信念があって、任務に忠実で、でもちょっと不器用で奥には愛があって……って感じで自分の中で構築したんです。動きも言葉も発して演じているけど、ゲームのデータになるのは私の動きだけなので、その動きでいかに内側にあるものを伝えられるかっていうのをすごく考えていて。その芝居のニュアンスや動きの生っぽさをそのまま使っていただいたりするので、線のデータだけじゃない部分を大事にしてくれてたなと思います。
「2B」「A2」を演じた川渕かおり 撮影:大塚正明
ヨコオ:アクターさんに演じていただいた段階で「いいね」って終わっちゃうぐらいディレクションしませんでしたね(笑)。どちらかと言えば、技術的な課題を解決するためにこう撮りましょう、とかが一番多かった気がします。演技っていう意味では、声優さんも入りますし、フェイシャルも後でつけるので、現場でギュウギュウに演出を詰めても意味がありませんし。どちらかといえば、演者さんの良さを生かしてその場で撮ったものを、後からどう使うかを考える方が僕には合ってるかな、と思います。
――フェイシャルというのは?
ヨコオ:フェイシャルっていうのは顔のモーションですね。スタジオでは撮らず開発現場で撮影させていただきました。カメラに顔を固定してしゃべるんですよ。川渕さんの顔だけキャプチャーするみたいな。
川渕:カメラにむかって、なかなか大変でしたけど面白かったですね。
――別なんですね。
ヨコオ:別ですね、一緒に撮れる場合もあるんですけど。
川渕:面白かったのは、モーションアクターとして動きを撮って、そこに声優さんのボイスが入って、今度またボイスを聴きながら、カメラの前で表情を合わせるっていう。
ヨコオ:結構手間になっていますね(笑)。
――ヨコオさんからみた川渕かおりというアクターはいかがですか?
ヨコオ:最初の出会いとしては『ドラック オン ドラグーン3』っていうゲームを作った時ですね。あれはスクウェア・エニックスさんのスタジオで収録したんです。そこで「アクターさん誰がいいですか?」と聞いたら「川渕さんがオススメですよ」って言われて。
川渕:きっかけはそれですね。
ヨコオ:声優さんとかもそうなんですけど、スタジオのおすすめがあれば、その人でいいやって決めてしまいます。キャプチャーを担当されるオペレーターさんのやりとりがありますし、現場がスムーズに回るのがいいなっていうのがありますね。
――実際にご一緒なされて如何でしたか?
ヨコオ:剣の使い方がうまいなっていう、漫画みたいだなって。
川渕:あはは(笑)。
ヨコオ:剣道ではなくて剣舞をやられているので、画的に映える振り方をする方だなって、実際それで、お仕事も引く手あまたですよね。
川渕:とてもありがたいことです。戦う女が多いですけど(笑)。
撮影:大塚正明
ソードパフォーマーの”剣”との出会いは
――そのへんの話も聞けたらと思います、剣との出会いはいつなんですか。
川渕:刀との出会いは『暴れん坊将軍』でしたね。勿論見てる側でしたが、「あ、斬りたいな」と思って。
――それっていくつぐらいですか。
川渕:3、4歳じゃないですかね。ちゃんと剣をやり始めたのは、大学を卒業したあたり。お芝居を始めて、それが時代劇だったんですよ。森蘭丸役をやった時に殺陣ってこういうものなんだなって初めて知って、そこからですね。
ヨコオ:剣道はやっていらしたんですか。
川渕:やってないですね。
ヨコオ:そうなんですね!
川渕:だから試合とかではなくて、いかに斬ってるように見えるか。剣舞を始めたのは、意識が「海外で一人でパフォーマンスをしたい」っていう風になった時に、相手を連れて行くのが大変だし、現地で戦う相手を探すのも大変だなって思って。身一つで海外に行けるのは一人で剣舞だって思って、自分流の剣の振り方を始めたのがきっかけですね。
――特徴的ですものね。振り方が。
ヨコオ:そうですね。いわゆる武道の剣道とは違って、柔らかいなと思ったんですけど。
川渕:確かに。
ヨコオ:たまたまゲームの方のアクションパートもすごく踊っているようなモーションを作ってくださったので、川渕さんとの親和性が強かったと思います。
川渕:めちゃくちゃ綺麗ですね。完成版の2Bの動きが。
ヨコオ:よくできてますよね。
川渕:しかもアクションシーンの生の人間的な動きがちゃんと出てるところが。
ヨコオ:そのあたりはプラチナゲームズさんが作ってますね。プラチナさんってパワフルなキャラクターが多いんですけど、今回柔らかい女性っぽいキャラクターが、踊るような感じでやりたいねって言っていて、全部お任せしました。
――確かに雰囲気は近いですけど、『ベヨネッタ』とはまた違うアクションの作りになっていますね。
ヨコオ:そうですね。
ヨコオタロウ 撮影:大塚正明
――川渕さんにお聞きします、モーションアクターって顔が出ないわけじゃないですか、エンドロールには名前が出てくるとはいえ、アクターとして、海外などでもパフォーマンスをやられている人は、自分の顔を出したいのかなっていう欲求があるのか聞いてみたかったんですが。
川渕:モーションアクターとして、今回のインタビューなどで顔を出したいと思ったのはまた別の意識なんです。例えば一つのキャラクターを作り上げるのに、動きと声とデータを実際にキャラクターに見えるものにするクリエイターの人たちがいて、その中にモーションアクターっていう仕事もあるのをしっかりと知ってもらいたいっていう思いがあったんです。だから、『ニーア』で、モーションアクターとして発売前に「出演しました!」という告知をしていいってお知らせをいただいた時は嬉しかったですね。10年間アクターをやってて、ちゃんと制作サイドの人と、声優さんと同じタイミングでカウントダウンの告知ができるっていうのが初めての体験だったんですよ。
ヨコオ:それは聞いたらよかったんじゃないですか。
川渕:いつ告知していいですかっていうと、だいたい発売後って言われるんです。でも今作は一緒に作って、発売まで、お祭り的に宣伝できたのがすごく嬉しかったですね。
――影の存在的だったものが認知されてきているんでしょうかね。
川渕:モーションアクターっていうお仕事に関しても知られるようになってきましたけど、周りにすごいアクターさんや、声とモーション両方やっているプロフェッショナルな人もいるので、もっとフィーチャーされてもいいのかなっていう気はしますね。