レディー・ガガの靴に秘められた日本文化の過去と未来 『舘鼻則孝 リ・シンク』展をレポート 

レポート
アート
2017.8.14
Heel-less Shoes Series 2017

Heel-less Shoes Series 2017

画像を全て表示(19件)

表参道ヒルズ内にあるスペース オーにて、『舘鼻則孝 リ・シンク』展(会期:2017年8月12日~8月20日)が開幕した。

プレスツアーで特別に行われた花魁ショーのようす。本展の世界観が鮮明に示された。

プレスツアーで特別に行われた花魁ショーのようす。本展の世界観が鮮明に示された。

 
11日に行われたプレスツアーで報道陣を前にプレゼンテーションをする舘鼻則孝。

11日に行われたプレスツアーで報道陣を前にプレゼンテーションをする舘鼻則孝。

舘鼻則孝(1985-)は、「古典と現代」をテーマに多様な制作活動を行っているアーティストで、自身の名を冠したブランド「NORITAKA TATEHANA」のデザイナーでもある。

一躍その名が知れ渡るきっかけとなった代表作「ヒールレスシューズ」は、レディー・ガガが愛用していることでも知られ、NYのメトロポリタン美術館に収蔵されるなど、アート作品としても高い評価を得ている。

Heel-less Shoes Series 2017

Heel-less Shoes Series 2017

 
HEEL-LESS SHOES SERIES “Lady Pointe”, 2014 「今までに見たことがないくらい背の高いトウシューズ」という、レディー・ガガからの特別注文で制作された「レディー・ポワント」は、彼女のミュージックビデオ「Marry The Night」に登場する。

HEEL-LESS SHOES SERIES “Lady Pointe”, 2014 「今までに見たことがないくらい背の高いトウシューズ」という、レディー・ガガからの特別注文で制作された「レディー・ポワント」は、彼女のミュージックビデオ「Marry The Night」に登場する。

近年は『イメージメーカー展』(2014)や『呪力の美学』(2016)、『CAMELLIA FIELDS』(2017)などで作品を発表するほか、昨年3月にはパリのカルティエ現代美術財団で文楽公演を開催し、活動の幅をさらに広げている。

本展は、作家として新たな展開を見せている舘鼻が自ら自身のルーツを「RETHINK=見直す」という趣旨で、作品遍歴を辿るとともに、その創作の背景に迫る内容となっている。未発表作品約30点とともに、東京藝術大学在学中より研究課題としていた遊女の浮世絵や写真等の貴重な蒐集品も初公開され、個展としては自身の最大規模のものとなる。

 

日本の美術・工芸・ファッションの現代性を、アーティスト・舘鼻則孝を通して感じることができる本展。無料で提供されるトラヤカフェとのコラボメニューと一緒にぜひ楽しみたい。

レディー・ガガも惚れた名作「ヒールレスシューズ」が誕生するまで

ヒールレスシューズの制作背景を語る舘鼻。

ヒールレスシューズの制作背景を語る舘鼻。

歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ、母は人形作家というルーツをもつ舘鼻が大学で学んだのは、絵画や彫刻、染織だ。日本の伝統的な染色技法である友禅染を用いた着物や下駄を制作するかたわら、洋服や靴を独学で作っていたという。

かねてから興味を抱いていたファッションデザイナーという職に将来を見出し、自分のスタイルを模索するなかで辿り着いたのが「日本らしさ」だ。日本人という絶対に揺らぐことのないアイデンティティー。この「日本らしさ」を武器にすることが世界で認めてもらう近道になる。そんな確信のもとで注目したのが、現代日本の起点となる江戸・明治という時代、そして江戸のアヴァンギャルドとも言える花魁のファッションだった。

明治・大正期の花魁ポストカード 舘鼻則孝所蔵

明治・大正期の花魁ポストカード 舘鼻則孝所蔵

古来より受け継がれる日本の文化を現代へ翻訳してみたらどうなるだろうか。学びの集大成として、卒業制作で舘鼻は遊女の履く高下駄を現代的に解釈した作品を発表した。こうして生まれたのが代表作「ヒールレスシューズ」だ。

のちにこの「ヒールレスシューズ」は、レディー・ガガの専属スタイリストを務めるニコラ・フォルミケッティの目に留まり、世界中の注目を集めることとなる。すでにメトロポリタン美術館やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に所蔵され、今年の10月にはニューヨーク近代美術館での展示も予定されている。

エッジの効いた作品に光る日本のクラフトマンシップ

伝統を古いままに表現するのではなく、その系譜をベースにしながら現代の新しいスタイルへと昇華させて表現する。これが舘鼻作品の魅力だ。そして、舘鼻作品を語る上で欠かせないキーワードが「工芸」である。

手前がFrozen Boots、奥がEmbossed Painting Series 2017

手前がFrozen Boots、奥がEmbossed Painting Series 2017

作品制作はチームで行なわれ、伝統工芸の職人と制作を共にすることで、モダンでありながらも繊細な表現を可能にしている。

手前がFloating World Series 2014、奥がEmbossed Painting Series 2017

手前がFloating World Series 2014、奥がEmbossed Painting Series 2017

例えば、花魁の高下駄をモチーフにした「Floating World Series」は、特殊な革の染色技法や、左右に吊るされた金の鈴など、日本の工芸的な要素がふんだんに盛り込まれている。

Hairpin Series “The Language of Art”, 2017

Hairpin Series “The Language of Art”, 2017

遊女のかんざしをモニュメンタルな彫刻作品として表現した「Hairpin Series」には、螺鈿細工と漆が用いられ、「Embossed Painting Series」では、アクリルで描かれたペインティングを丸ごと銀でコーティングするという大胆な手法が取り入れられている。

TATEHANA BUNRAKU: The Love Suicides on the Bridge, 2016

TATEHANA BUNRAKU: The Love Suicides on the Bridge, 2016


 
TATEHANA BUNRAKU, 2016

TATEHANA BUNRAKU, 2016


 
TATEHANA BUNRAKU, 2016

TATEHANA BUNRAKU, 2016

そんなチーム舘鼻の技術とセンスが集結したともいえるのが、2016年3月、パリのカルティエ現代美術財団で開催された人形浄瑠璃文楽だ。2日間限定で公演された舞台で、舘鼻は督・演出から舞台美術の制作までのすべてを手がけ、本展では大道具の赤橋から人形のかんざしや下駄まで一堂に展示される。

遊女の煙管から着想を得た「Theory of the Elements」

遊女の煙管から着想を得た「Theory of the Elements」

「「RETHINK」という行為は新しいものを生みだすための物差しの一つ。ただ見直すのではなくて、そこから何を作るかが重要であり、「RETHINK」はあくまでプロセスであって目的ではない」と語る舘鼻。世界で活躍する若きアーティストが新たなステージに飛翔する瞬間を目撃したい。

花魁が華やかに登場! 日本文化の温故知新をその場で体験

特設ミニシアターで舞う花魁。 公演は、13:00、15:00、17:00の1日3公演を予定。

特設ミニシアターで舞う花魁。 公演は、13:00、15:00、17:00の1日3公演を予定。

作品もさることながら、本展には古き良き日本の文化を体感できる仕掛けが施されている。そのひとつが会場内に特設されたミニシアターで、花魁を題材とした舞台公演が行われる。

トラヤカフェとコラボした特設茶屋。

トラヤカフェとコラボした特設茶屋。


 
「あんペーストかき氷」と「あんボーロ」

「あんペーストかき氷」と「あんボーロ」

そしてもう一つが、トラヤカフェ・あんスタンドとのコラボレーションで、会場内に設置された茶屋で、展覧会限定メニューの「いちご味 あんペーストかき氷」と「抹茶味 あんボーロ」を堪能できる。いずれも数量限定、無料で提供され、本展に訪れた際にはぜひチェックしてほしい。

イベント情報
『舘鼻則孝 リ・シンク』展

会期:2017年8月12日(土)~20日(日)
会場:表参道ヒルズ スペース オー(東京都渋谷区神宮前4丁目12番10)
開館時間:11:00~19:00(最終入場は閉場30分前、最終日16時閉場)
入場料:無料
主催:株式会社ノリタカタテハナ
協賛:日本たばこ産業株式会社
協力:TORAYA CAFÉ・AN STAND / 太田記念美術館
ウェブサイト:http://rethink.noritakatatehana.com/
シェア / 保存先を選択