工芸を通じて縄文・弥生へ思いをはせる 『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』展レポート

レポート
アート
2017.9.13
「お水え」展示会場より こよみ唄巻物(紙漉き:西田誠吉)

「お水え」展示会場より こよみ唄巻物(紙漉き:西田誠吉)

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資生堂ギャラリーでは、2017年8月29日(火)~10月22日(日)にかけて『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』展が開催されている。

資生堂ギャラリーは生活を豊かにするものとして工芸に注目し、美術だけでなく数多くの工芸展も開催してきた。そのようななかで今回は、最も身近な工芸である「紙」に注目。“精神に作用する波動”としての衣服・美術作品・書籍の発行など多岐にわたる表現領域によって国際的な活動を展開するユニット「コズミックワンダー」と、コズミックワンダー主宰の前田征紀と工藝デザイナー・石井すみ子によるユニット「工藝ぱんくす舎」による展覧会を企画した。その展覧会開催に先駆けて行われたオープニングパフォーマンスの模様をレポートする。

「船水会」展示会場より 弥生台

「船水会」展示会場より 弥生台

資生堂ギャラリーに「お水え堂」が出現

コズミックワンダーは昨年、島根県立石見美術館で『お水え いわみのかみとみず』展を開催しており、本展は新作を交えつつその時の展示を再構成したものとなっている。

タイトルにある「お水え」とは、工藝ぱんくす舎によって創案されたパフォーマンス作品で、展示はそのパフォーマンスに用いられる工芸品によって構成。昨年発表されたパフォーマンス「お水え」は、全ての生命の源泉であり紙漉きに欠かせない存在である「水」を飲む場、茶会のように水をふるまう「水会」というアイディアから成り立っている。

「お水え」のパフォーマンスは、激しく波が打つ岩場に「お水え堂」という場を設置して行われたが、今回この資生堂ギャラリーの中にもその「お水え堂」が再現された。パフォーマンスに用いられる道具が工芸品として展示されることでパフォーマンスの痕跡も感じられる展示となっている。

おとかみ/やまうみかわかみ(紙漉き:佐々木誠)

おとかみ/やまうみかわかみ(紙漉き:佐々木誠)

縄文のころからある植物を用いたパフォーマンス

本展では唐津の紙漉師、前田崇治の協力のもと海浜植物・ハマゴウを軸にした新作として「舟水会」も加わっている。

「お水え」に引き続き「舟水会」もまた、茶会に着想を得た水を飲む場の儀式パフォーマンスだ。しかし「お水え」が荒ぶる海の岩場という大自然の力みなぎる場でなされたのに対し、今回はギャラリー内に筏を模した場を用意することで水会の場がつくられていた。

静謐な空気の中、筏を模した台の上で紙衣をまとった席主が茶会のように水をふるまう。その水会で用いられる道具は安田都による土器にハマゴウ染めの楮和紙を貼った水瓶や水碗、川合優によるハマゴウの柄杓、前田尚謙によって編まれたハマゴウの枝による籠……と、ハマゴウがあらゆる形で使われている。ハマゴウは縄文のころより日本にあったとされる植物だ。水に漂い種子をひろげていくハマゴウのイメージがこの展覧会のもうひとつの軸となっている。

筏は茶室を模しているため水をふるまわれる人が3名だけ乗っているが、パフォーマンスの途中で観客席の観客にも梶の葉をまるめてつくられた器を渡し水をそそぎ、水を振舞っていた。

厳粛な儀式の間演奏されているサウンド・アーティストの鈴木昭男氏による音楽は水や風を思わせ、ホワイトキューブのギャラリーの中に大自然の神秘の力を呼び込むようであった。一連の儀式の厳粛さには席主が立ち去りきった後もみな拍手をためらい、鈴木氏が「取り残されてしまいました」と笑いをとって拍手を導く一幕もあったほど。

「船水会」パフォーマンス終了後の筏舟の上の展示物

「船水会」パフォーマンス終了後の筏舟の上の展示物

それぞれの工芸/紙へのこだわり

工芸への取り組みをギャラリーの代表的な活動の一つに挙げる資生堂ギャラリーは昨年、生活と共にある工芸をテーマに、『そばにいる工芸』展を開催していた。それを受けて今年は、より工芸の原点へという想いのもと、紙という身近なものを扱いながら縄文・弥生といった古代へ思いをはせるこの展覧会を開催することになったという。

前田氏は紙というものの役割は物を書く・何かを包む、そういった行為をされることによって完成するが、その前の、“何かが生まれる前の紙のままの状態”に力を感じるという。パフォーマンスでも、まるで巻物を読むかのように、紙を持ち眺めながら音声を発する場面があるが、そこに文字はない。

紙衣(かみごろも)

紙衣(かみごろも)

前田氏は「紙衣(かみごろも)をどのようなときに着るか?」ということを考えたときに、水会のモチーフが降ってきたという。工芸は道具であり、その道具にふさわしい場としてパフォーマンスが生まれ、そのパフォーマンスで使われた道具が展示されているのだ。

展覧会場入り口には「お水え」の記録映像も映写されている。こちらとあわせて展示作品をみることで、展示された工芸という道具が、用途とあわさって、原初的な工芸のあり方が見えてくるのではないだろうか。

展示会場より 「お水え」記録映像

展示会場より 「お水え」記録映像

 
イベント情報
『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』展

会期:2017年8月29日(火)~10月22日(日) 毎週月曜休(月曜日が祝日にあたる場合も休館)
開館時間:平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00
入場料:無料
会場:資生堂ギャラリー(〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階 Tel:03-3572-3901 Fax:03-3572-3951)
主催:株式会社 資生堂
http://www.cosmicwonder.com/
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