東京アンティーク散歩vol.10 中目黒にある”いにしえの息吹”アンティークショップ『スワロウデイル・アンティークス』

レポート
アート
2017.8.30
中目黒 スワロウデイル・アンティークス

中目黒 スワロウデイル・アンティークス

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東京近郊にある、上質なアンティークショップを巡っていく連載『東京アンティーク散歩』。今回は、中目黒にあるアンティークショップ『スワロウデイル・アンティークス』を紹介する。


おとぎ話に迷い込む

暑い夏の日、筆者はグーグルマップ片手に住宅街をうろつきながら、どう探しても目的地に行き着けないという不思議な体験をした。地元の人にも尋ねるが、みな一様に首を横に振る。東京でこんな経験をするのは初めてだ、、若干途方に暮れた。

仕方なく電話をしてみる。「うちはグーグルじゃたどりつけないんですよ。ホームページの道順を参考にしてください」そんなことがあるの?と驚きながら、くねくねと曲がる道をたどり目印を探す。塀に笹百合が揺れている家を通りすぎる。行き先を暗示しているかのようにイギリス国旗のTシャツを着たご婦人とすれちがう。何だか探検のよう。開き直って面白くなってきたころ、ふと先に最後の目印を見つけ、ほっとして近づいた。

目の前に現れたのは緑に覆われた古い家。入り口にAntiqueと書かれた鉄の看板とOPENのサインを載せた木の椅子。可愛いガラス窓つきの扉の奥にオレンジの灯が透けてみえる。今まで歩いてきた町並みとはまったく違う趣き。道に迷っておとぎ話のような風景に出会った……。

ここが今日ご紹介するアンティークショップ『スワロウデイル・アンティークス』である

スワロウデイル・アンティークスの入口

スワロウデイル・アンティークスの入口

魅力的な椅子達がお出迎え

扉を開けると店内というよりは外国の個人宅のような風情だった。奥のやや広い空間に入ると中心にどっしりとした立派な丸テーブルと椅子が置かれ、壁にも本格的なアンティークが並ぶ。スワロウデイルが主に扱うのは18世紀から19世紀頃のイギリス地方家具である。とくに様々な椅子が魅力的で堅実な姿形からそれぞれの個性がたちこめる。

店主の室田氏は落ち着いたたたずまいの男性だ。自らイギリスの地方を回り、専門家のネットワークで家具を仕入れ、店の奥の工房で修復している。つまりアンティークディーラーであるとともにプロの修復師なのだ。

スワロウデイルが扱うものの中でも代表的な家具は”ウインザーチェア”という椅子である。木の座面に穴をあけ背もたれや脚を直接差し込み組み立てられており、釘などの金属は使わず素材はすべて”木”である。そしてウィンザーチェアはじめイギリスの古い地方家具は様々な形があるという。「僕は昔から18世紀あたりのウィンザーチェアが好きなんです。数が少ないのでなかなか巡りあえないんですが……ウィンザーチェアはじめイギリスの古い地方家具はそれぞれの地方独特の形・特色があるんです。ロンドンの流行が地方で変化していった側面もあります。プリミティブといって、あり合わせの材料で専門職でない人が作ったような椅子もあったりして、とても面白いんですよ。イギリスの地方で見たこともないような家具と出会うのは楽しみなんです」と室田氏が説明してくれた。

 

「何でも自分でやれる」から始まる循環社会

室田氏の祖父は満州鉄道の技術者だった。ていねいな暮らしぶりで手仕事を積み重ねる姿を見て「自分で何でもやれるんだな」と実感したという。そんな祖父を見て育ったせいか、木工が好きになり高校時代は廃材で自分のベッドを作ったというから筋金入りだ。大学で東洋哲学を学んだが卒業後は家具修復の工房で働いたり、個人で家具の修理を請け負っていた。きちんと勉強したいと思っていた矢先、東京に滞在し工房を持っていたイギリス人の修復師に出会い弟子入り。イギリスには家具修復の専門学校や大学まであり、その大学を卒業した人だった。家具修復の学校があるというのは驚きだ。

「イギリスはアンティークを含め循環経済です。伝統が生きていて古い物を引き継ぐ。古い物を使う人がいれば、物を維持する人、私たちのような修復、手入れをする人が必要になる。祖父母や使っていたものを使い続けて壊れたら自分で修理したり、修理に出したり。彼らは必要なものがあればアンティークショップやフェアで買ってきますし、家でも車でも自分で修理する。新しく安い家具を買ってすぐ捨てるようなことはしないんです。」と室田氏。「アンティーク家具は高価にみえて実はリーズナブル。貴重な素材で手間をかけて作られているので、同じようなものを今の時代に一から作れば倍以上のコストがかかります。結果的に高品質な家具を長く使える。捨てなくて済むから合理的なんです。」

 

ひとの一生よりも長いアンティーク家具の命

室田氏に頼んで工房も見せてもらった。パーツに分解されたウィンザーチェアが作業台においてある。座面の穴に背面の木や脚を差し込んで組み立てることがよくわかる。

修復中の家具の一部

修復中の家具の一部

「修復にはそれなりに時間が必要です。一度こんな風にバラバラにしてジョイント部分の古い接着剤をきれいに清掃します。新たに膠で接着して乾燥させる。汚れを取り除く清掃作業や修理したパーツ部分など細部の手入れにも”いい味わい”をどの程度残すかというところにセンスが必要でね。こういう作業をしていると以前修復した人の手仕事の跡をみて面白さを感じることもある。どんな環境で使われていたのかも判ります。」

古い家具には物語があるのだ。修復した人達が共有する無言の物語。

「手がけた家具はどれもこれも思い出深いものばかりです。ひとつひとつに思い入れがある。それに不思議と必要な人のところに行くものなんですよ。売り切れた家具をずーっと覚えていたお客様がいて、ある日その家具を買った人から手放したい、と連絡がきて仲立ちをした事もあります。アンティーク家具はそうやっていろんな人の手に渡って生き延びていく。ここに今あるものも一時的にここにいるだけ。200年、300年と使えるアンティーク家具はひとの一生より長い命です。今は良い材料がなくなってきているので、捨てるのはもったいない。手入れしながら長く使って欲しいと思っています。」

 

小さな冒険の気分で

スワロウデイルはアンティーク販売のほか、手持ちのアンティーク家具の修復も請け負っている。また修復や木工の仕事を目指す若者の工房見学や相談に乗ることもいとわないという。本物の家具と本物の技術に出会える貴重な場所だ。

こうしてみると、店にたどり着くにはグーグルが邪魔なのがかえって魅力だと感じる。

良いもの、本格的なものに簡単に出会えるなんてつまらないじゃないか。

どこかな?ここかな?とアナログ感覚で町の目印を探し、あたりの景色を楽しみながら、冒険者の気分でスワロウデイルを探してほしい。

 

店舗情報
スワロウデイル・アンティークス​

住所:東京都目黒区上目黒3-22-4
営業時間:11:00~18:00(時間延長も可、お問合せください)
定休日:月曜日および火曜日(買付時など臨時休業も時々あります)

公式サイト:http://swallow-dale.com/​
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