東京アンティーク散歩vol.14 渋谷にある”夢をまとうフィッティングルーム” アンティークショップ『ドリアン・グレイ』
東京近郊にある、上質なアンティークショップを巡っていく連載『東京アンティーク散歩』。今回は、渋谷にあるアンティークショップ『ドリアン・グレイ』を紹介する。
女性の永遠の憧れ
上品なヴィンテージのワンピース
女性にとって特別に思い入れの深い服、それはウェディングドレス。なぜなら、ほとんどの人にとって、結婚式でドレスを着るのはたった一度きりだから。
少女のころから映画や本を見ては、ドレスにほのかな憧れを抱く。たとえば、オードリー・ヘップバーンの『パリの恋人』のラストシーン。自分もあんな風に最高のドレスを纏いたいと願い、大人になった今も、その想いは心の片隅にふんわりとシャボン玉のように浮かんでいる。
ところが、いざ結婚式を挙げるとなると、往々にして“夢みていたウェディングドレス”が、実際はこういう感じなのかな、と“現実のウェディングドレス”にとって変わり始める。
けれど、諦めなくてもいい。少女のころからの夢をかなえてくれる素敵な場所がある。渋谷のヴィンテージドレス専門アンティークショップ「ドリアン・グレイ」だ。
奥渋にたたずむドリアン・グレイ
“奥渋”と呼ばれる場所をご存知だろうか。“奧渋”とは、文字通り“渋谷の奥”、東急デパート本店の右脇から代々木八幡方向に抜ける商店街の通称で、個性的なカフェや店舗が並び、地元の庶民性も残る大人っぽいエリアだ。
奥渋の脇道にあるアンティークショップ・ドリアン・グレイは、創業から32年の老舗だ。
オーナーの大村氏は、親しみやすく明るい女性で、こなれた雰囲気に思わず心を開いてしまう。それもそのはず、大村氏は芸能人のスタイリストとして70~80年代に活躍していた。芸能人のスタイリストは、センスの良さや仕事の的確さだけでなく、人の気持ちを理解する臨機応変なコミュニケーション力がなければ務まらないのである。
知る人ぞ知る、芸能人スタイリストの先駆けとなったクリエイター・早川タケジ氏。大村氏は、そんな早川氏のもとで、全盛期の沢田研二やキャンディーズなど、名だたる芸能人のスタイリングに携わった。
特に、沢田研二のスタイリングは演劇の要素を含み、歌を彩る衣装やメイクの奇抜さは常に話題となった。当時は、彼が新曲を出すたびに、どんな振り付けや衣装で歌うか、多くの人々が楽しみにしていた。筆者も、学校の休み時間に女子同士で「昨日テレビ見た?」と盛り上がったものだった。そんな魅力的な仕事をしてきた大村氏が、なぜアンティークドレスの店を開業したのだろうか。
美しいヴィンテージドレスに重なった想い
ドレスの繊細なレースはヴィンテージならでは
「もともと、私は海外の蚤の市や古着が好きで。仕事の合間に休暇をいただいて、フランスに行ったりもしていました。それで、ある時ロスに撮影で行ったんです。ロケバスに乗って街をまわっている時にきれいなウェディングドレスの古着を見かけて、『こんなに美しいドレスがあるのか……』と、海外のドレスに魅力を感じました。それに、私はファッション系スタイリストになりたくて業界に入ったものの、だんだんと流行より自分のセンスを活かしたい、もっと自分の好きなことをしたいと思うようになっていたんです」
好きなことをしたいという想いに、美しいヴィンテージドレスが重なった。好きが高じた勢いで店を出したという。
「親族や友人にずいぶん助けてもらって、この場所に店を出しました。はじめはウェディングドレスを主にするつもりはなかったんです。でも、ロスで見つけたきれいなドレスをウィンドウに飾ってみたら、ある日スタイリストさんが入ってきて雑誌で使ってもらえた。そこから火が点いてお客様が増えました」
結婚式ならではのサムシング・ブルーのアクセサリーも揃う
その人だけの個性的なスタイルを提案
花束のようなハット類
ドリアン・グレイが扱っているドレスは、主に50〜60年代アメリカのヴィンテージ・ドレス。レンタルと買い上げの2種類どちらかを利用でき、直しを入れた場合は買い上げとなる。都合に合わせて選べるシステムだ。
一般的なドレスと比べて、ヴィンテージ・ドレスの魅力とはどんなものなのだろうか。
「昔のドレスは、現代では再現できないものばかりなんです。デザインや生地、アイデアの面白さ。海外のドレスには女性の魅力を引き出す力が込められていて、細く見えるようなカーブなど、女性を美しく見せるための工夫がすばらしいんです」
オリジナルのコサージュやハット類
店内には、ドレス以外にも靴やヘッドドレス、アクセサリーなどさまざまな商品が並んでいる。こうした小物を活用することで、レンタル品を使用した場合でも、一人ひとりのコーディネイトに個性を出せるという。もちろん、大村氏が的確なアドバイスをしてくれる。
「白いドレスに映えるよう、結婚式ならではのサムシング・ブルーのヴィンテージアクセサリーを提案することもあります。たとえばイヤリングとブローチのセットで、奥様には首が綺麗に見えるイヤリング、セットのブローチは旦那様の襟元にと、夫婦で一緒におしゃれを楽しんで頂いたり」
このセンスの良さはまさにスタイリスト。
「人と一緒じゃつまらないですもんね。その人らしさ、個性を活かしたコーディネイトを心がけています」
ユニークなヘッドドレスも各種扱っている
ロマンチックな夢を叶える
美しいヴィンテージドレス カタログでも全体像を確認できる
そんな大村氏が全面協力して作られたムック本がある。『ロマンチックドレススタイル』だ。ページを開くと上品でクラシカルなドレスが並び、まるで映画の世界。この本を片手に店を訪れる女性も多いという。
「着たいドレスがないという人も、ここで見つけられると思います。よく、結婚式を終えたお客様から『あなたらしいね』と皆が褒めてくれたという感想を聞くんです。お仕着せじゃないウェディングドレスだからこそ、より美しくなれると思う。皆さんの幸せの手伝いはとても楽しいし、私自身の力にもなっています」と、大村氏はにこやかに笑う。
ヴィンテージのミュールも扱っている
かわいらしいパーティバッグ
女性の心にふんわりと浮かんでいる夢が、壊れることなく叶う場所、ドリアン・グレイ。
ここで自分らしさを纏う女性は、羨ましいほどに美しく幸運な人だ。
営業時間:12:00~18:00
定休日:日曜日・祝日(8月中旬と年末年始に1週間から14日程休業)
住所:東京都渋谷区神山町4-20
公式サイト:http://www.dorian-gray.net/