1300年近く守られ続ける、天平の秘宝が一堂に 『第69回 正倉院展』記者発表会をレポート
《伎楽面 迦楼羅》(左斜)
奈良の秋の風物詩ともいえる、奈良国立博物館で毎年秋に行われる『正倉院展』が、今年も10月28日(土)から11月13日(月)の間、同館にて開催される。正倉院宝物が一般公開されるのは、基本的に1年に1度の本展だけということもあり、毎年大盛況となっている。初出陳10件を含む、貴重な宝物58件が公開される『第69回 正倉院展』の見どころを、東京にて行われた記者発表会より紹介していこう。
シルクロード諸国の文化が集結した正倉院宝物
正倉院といえば教科書などにも載っている、あの高床式校倉造りの倉庫の姿がすぐに浮かぶだろう。その正倉に納められていた正倉院宝物は、東大寺大仏の造立を発願した聖武天皇のご遺愛品などを756年に聖武天皇の后、光明皇后が東大寺の大仏に献納したことに始まる。その後、東大寺の儀式で使った仏具や貴族たちの奉納品なども加わり、厳重に保管されてきた。8世紀当時の地中海沿岸、西アジア、中央アジア、中国、朝鮮半島などの各地の文化の要素をうかがわせる国際色豊かな品が多く、「正倉院はシルクロードの終着点」とも言われている。
《金銅水瓶》
そんな貴重な国家的宝物である正倉院宝物は、昭和21年まで基本的に一般公開されることはなかった。現在も基本的には年に一度の本展が正倉院宝物を目にすることができる唯一の機会となっている。『正倉院展』には、約9000件とされる正倉院宝物の中から、毎年60件前後の宝物が出陳される。展示された宝物は原則として、次回の公開まで10年以上期間を開けることになっており、出陳される宝物は毎年変わる。今回の『第69回 正倉院展』では、仏・菩薩への献物と考えられる品々を含めた仏具類や、佩飾品(腰帯から下げる腰飾り)や帯などの腰回りを飾った品々が数多く公開される。
記者発表会では奈良国立博物館館長・松本伸之が登壇し、「毎年3週間弱という限られた期間にのみ、しかも毎年違う内容でご宝物をご紹介させていただくという貴重な機会となっています」と語り、本展の重要性をアピールした。
奈良国立博物館館長・松本伸之
国際色豊かな天平文化を伝える《羊木臈纈屛風》
今秋の『第69回 正倉院展』の出陳宝物の中でも注目なのが、記念切手にも採用された《羊木臈纈屛風》だ。蠟を織物の表面に塗布することでその部分を防染する、ろうけつ染めの技法で、樹下に佇む巻角の羊の姿が描かれている。巻角の羊はササン朝ペルシアの美術でよく登場するモチーフであり、樹下に動物を配する構図ともども、異国情緒溢れる図様となっている。日本で製作されたものと考えられており、西方文化も柔軟に取り入れながら発展していった天平文化の豊かさを知ることができる。
《羊木臈纈屛風》
他にも、他国の文化を受容し花開いた天平文化を象徴するような品々が出陳される。竪形ハープの一種で、アッシリアに源流を持つ楽器・箜篌(くご)の貴重な遺例である《漆槽箜篌》は、明治期に製作された模造と共に展示される。古代に中国、朝鮮半島、日本などで用いられたが、中世以降に姿を消したため、現在では大変めずらしい楽器となっている。
《漆槽箜篌》
《漆槽箜篌 模造》
《緑瑠璃十二曲長坏》は、ササン朝ペルシアを起源とする多曲杯という形をしたガラス製の長楕円形の杯だ。底部から側面にかけてチューリップに似た草花、水草のような植物などが刻まれている。本品は中国で作られた可能性が高いと言われ、西方から中国へと伝わってきた装飾を施した杯は、シルクロードに思いを馳せたくなる一品だ。
《緑瑠璃十二曲長坏》
聖武天皇の暮らしぶりを伝えるご遺愛品
正倉院宝物の始まりでもある、聖武天皇のご遺愛品も本展では見ることができる。天空を2頭の龍が絡み合い、飛翔する姿が表された鏡《槃龍背八角鏡》は、唐で製作されたと考えられている。海外からもたらされた品々に囲まれた聖武天皇の暮らしぶりが垣間見えて興味深い。
《槃龍背八角鏡》
聖武天皇ご遺愛の尺八《玉尺八》も本展では登場する。尺八は本来竹製だが、本品は大理石で作られている。大理石でありながら、節のある竹管を忠実に模している。
《玉尺八》
インド神話を起源とする迦楼羅の面が初出陳
初出陳の中にも注目の宝物がある。《伎楽面 迦楼羅》は、仮面舞踊劇、伎楽(ぎがく)で使用された迦楼羅(かるら)の面だ。伎楽は飛鳥から平安時代に寺院での法楽として盛んに行われたが、その後衰退して途絶えたと言われている。本品の面である迦楼羅は、古代インドの神話に登場する想像上の霊鳥・ガルーダを起源としている。
《伎楽面 迦楼羅》(正面)
今回初めて『正倉院展』の記者発表会が東京で開催された。1年に1度の『正倉院展』の貴重な機会をより多くの人に知ってもらいたいという、主催の奈良国立博物館の思いがあっての東京での発表会だったが、確かに、関西地区はもちろんのこと、その他の地域からも足を運ぶ価値がある展覧会だといえるだろう。今秋は是非会場に足を運び、1300年近くもの間、日本が守り続けてきた正倉院の秘宝の美しさに触れてみてはいかがだろうか。
日時:平成29年10月28日(土)〜11月13日(月) ※会期中無休
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館
閉館時間:9:00~18:00(金・土・日曜日・祝日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,100円(1,000円)、高校・大学生700円(600円)、小・中学生400円(300円)
※( )内は前売/責任者が引率する20名以上の団体料金
※前売券は9月13日(水)から10月27日(金)まで販売
※閉館の1時間30分前から入場できる当日券・オータムレイトや、親子ペア観覧券(前売りのみ)もあります。詳細は博物館HPをご覧ください。
詳細:http://www.narahaku.go.jp/