齋藤有香理、ブザンソン国際指揮者コンクールで活躍
優勝は逃すも、聴衆&オーケストラから高評価
ブザンソン国際指揮者コンクールと言ったら、日本ではまず何よりも小澤征爾関連で知られているだろう。1959年の第9回コンクールを若き小澤征爾が制し、そこから飛躍した舞台なのだから。「だから」、ということもないのだろうが、その後も松尾葉子(1982年)、佐渡裕 (1989年)、沼尻竜典 (1990年)、曽我大介 (1993年)、阪哲朗 (1995年)、下野竜也 (2001年)、そして近年では2009年に山田和樹 、2011年には垣内悠希と、多くの日本人指揮者が優勝している。
「ブザンソン国際指揮者コンクールの事前選考」動画
もしかすると読売日本交響楽団の首席指揮者を務めるシルヴァン・カンブルランがこのコンクールを制していることはあまり知られていないかもしれない(1974年)。彼のほかにもミシェル・プラッソン(1962年)、ズデニェク・マーカル(1965年)、ヘスス・ロペス=コボス(1968年)など、いまやその実力で世界に知られるマエストロたちもこのコンクールの出身なのだ。日本人以外で近年の注目株を挙げるなら、2014年シーズンからチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の音楽監督を務めるリオネル・ブランギエ、現在26歳だろうか。
さて、今月20日まで開催されていた2015年の第54回の同コンクールでまた日本の若き指揮者が活躍したことが昨日各メディアで報じられた。桐朋学園出身の齋藤友香理(32)が最終ラウンドまで進出、惜しくも優勝は逃したものの聴衆、オーケストラから贈られる最優秀賞を獲得したのだ。
彼女ははじめピアノを学んでのち指揮者に転身、桐朋学園を卒業後ローム ミュージック ファンデーション「音楽セミナー〈指揮者 クラス〉」を受講し、また新日鉄住金文化財団の「指揮研究員制度」で研鑽を積んでいた。現在はドレスデン在住だが、これまで国内のプロ、アマのオーケストラを指揮していたのでその演奏を聴いた方もいらっしゃるだろう。
機会を捉えては小澤征爾に学んだ彼女がこのコンクールから飛躍できるならば、それは近年教育に注力する80歳のマエストロへの良い贈り物となることだろう。受賞後の日本での演奏会はまだ発表されていないが、早晩その指揮に触れる機会も訪れるだろう、その日を楽しみに待ちたい。
なお、今回の優勝はアメリカのジョナソン・ヘイワード、若干23歳。現在はロンドンの王立音楽院に学ぶ彼と、もうひとりの最終ラウンド進出者であるヘルムート・レイチェル・シルバの名もこの機会に覚えておくといいかもしれない。遠からず大きい舞台で活躍することだろうから。今回のリザルトは、齋藤友香理がそんな期待の指揮者のひとりとして挙げられる存在であると自らの力で示したことになる。一つの可能性が開花しようとしていることを喜ぼうではないか。
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さて21世紀の今は、プロムスのラストナイトをマリン・オールソップが指揮し、ハンブルクの歌劇場をシモーネ・ヤングが率い、アロンドラ・デ・ラ・パーラがN響や東京フィルにに登場する時代だ。そして日本でも前述の松尾葉子、そして新田ユリや西本智実、さらには阿部加奈子、田中祐子と女性指揮者が次々と登場している。それを考えれば、遠くない時期に「女性」指揮者とわざわざ断りを入れる必要のない時代になる、のだろう。
きっそそれは避けがたい変化、早晩訪れるものなのだろうから、どうせなら早々にその「時代」が来てほしいものだ。その「時」に音楽は、演奏は変わるのかどうか、ぜひ自分の耳で聴き分けてみたい、そう切望するが故に。