2人の劇作家が3年間かけて書いた「二幕の悲劇」を連続上演
(左)山崎彬/(右)柳沼昭徳
「現代の人々の心の分断を反映した作品」(柳沼)「哀しみそのものよりも他人の哀しみに興味を抱いてしまうことこそが悲劇」(山崎)
昭和初期に建てられた廃校をリノベーションし、現在は複合アート施設として京都のアーティストに幅広く利用されている「京都芸術センター」。京都在住のアーティストの育成にも力を入れているこの施設が、現役劇作家のステップアップを目的に行っている事業が「演劇計画Ⅱ─戯曲創作─」だ。3年間もの時間をかけて1本の新作を書き上げるという、最近の日本の演劇サイクルでは異例のロングスパンとなる試み。その第一弾に選ばれた「烏丸ストロークロック」の柳沼昭徳と「悪い芝居」の山崎彬の作品が、演劇公演という形で文字通りの最終ステージを迎える。
「東京と違ってマーケットに翻弄されず、時間をたっぷり使って考えることができるのが、京都の素晴らしい特徴。今の劇言語がどういうものになっていて、今後どうすればいいのかを考えるために、あえて2人にはオーソドックスな戯曲のスタイルと向き合ってもらいました」とは、主催者の言葉。2人に与えられたテーマは「二幕の悲劇」。この世界の悲しみを表現し、しかも必ず休憩が入る作品…という課題のもと、リーディング形式の試演やシンポジウム、あるいはフィールドワークなども重ねて完成させた。
『新・内山』 メインビジュアル/横田勲
柳沼の『新・内山』は、彼が近年劇団で追求し続けている、ポストバブル時代の生き方を考える芝居の変奏と言えそうな作品。震災と原発問題に揺れる福島県での取材を通して実感した、人々の心の分断とコミュニティーが破壊されていく悲劇を描き出すという。「英雄とか神様とか、一般市民を超越したような存在がいないと悲劇は存在しないと思い、福島の心の分断を反映した“内山”を登場させました。一幕目は現代、二幕目では遠い未来を舞台にします。内山の目を通して、現代社会の悲劇性を再確認していきたいです」(柳沼)
山崎の『また愛か』は、誰もが胸の中に持つ欲望や悪意をストレートに描き出す「悪い芝居」の世界とは、少し違う感触の本になったそう。離婚を目前にして子どもを亡くしたため、別れるタイミングを逃した夫婦をめぐる、いびつだけど“どこにでもある”愛の物語だ。「当事者じゃない人たちが、本人たちの知らない所でどんどん話を膨らませたり、自分よりも苦しんでいる様を見て面白がること自体が悲劇じゃないかと。一幕と二幕で視点が変わる物語になりましたが、一幕で帰らなくてよかったと思うような舞台にしたいです(笑)」(山崎)
『また愛か』
普段作っている芝居は、柳沼は静かで理知的、山崎はにぎやかで衝動的と、非常に対象的な2人。異なった視点と感性から生み出される、2本の「現代の悲劇」がいかなるものになるのか? とはいえいずれの作品も、現代日本が抱える悲しみを直視させられることになるのは確実なので、気合いと覚悟を持って臨みたい。
「演劇計画Ⅱ─戯曲創作─」
柳沼昭徳 作・演出『新・内山』
期間: 10月2日(金)~5日(月)
会場:京都芸術センター 講堂
出演:桑折現、阪本麻紀、今井美佐穂、柏木俊彦、ほか
山崎彬 作・演出『また愛か』
期間:10月24日(土)~11月2日(月)※26・27日休演
会場:京都芸術センター フリースペース
出演:玉置玲央、田中良子、藤原大介、中西柚貴、ほか
料金:前売3,500円 当日4,000円 ※学生は各500円引(両公演とも)
公式サイト:http://www.kac.or.jp/