国宝、重文だらけ! 運慶が大成した慶派の流れを総まとめする特別展『運慶』をレポート

レポート
アート
2017.10.10

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東京・上野の東京国立博物館・平成館で、興福寺中金堂再建記念特別展『運慶』(会期:2017年9月26日~11月26日)が開幕した。日本を代表するスーパー仏師、運慶(1150年ごろ~1223年)。全国で31体あるとされている運慶作の仏像のうち、22体が本展に集結し、過去最大規模の “大”運慶展となる。運慶の作品だけでなく、父・康慶、息子の湛慶、康弁ら、その潮流となる周辺仏師の作品もあわせて展示し、運慶が日本彫刻史に残した作風の誕生と継承を辿る内容だ。ここでは運慶仏の見どころを中心に紹介しよう。

展示室を使って検証
興福寺北円堂の在りし日の姿を仮説に基づいて再現

本展の一番の見どころといえるのが、高さ2メートル級の国宝6体がそろう一室。奈良・興福寺の北円堂に安置されている、運慶作の「無著(むじゃく)菩薩立像」と「世親(せしん)菩薩立像」(いずれも1212年ごろ)が並び、その2体を囲むように「四天王立像」(13世紀)が四隅に配されている。この「四天王立像」は作者不明で、現在は興福寺の南円堂にあるのだが、もともとどこに安置されていたのかも今のところ不明だ。最近では、北円堂にあったのではないかという説が有力で注目を集めており、そうなると運慶一門の作品である可能性が高くなるという。そこで、これらの像6体が「北円堂にあった」という仮説のもと、実際に並べてみたというわけだ。

運慶作「世親菩薩立像」(1212年頃、奈良・興福寺所蔵)

運慶作「世親菩薩立像」(1212年頃、奈良・興福寺所蔵)

四天王立像(13世紀、奈良・興福寺所蔵、南円堂安置)

四天王立像(13世紀、奈良・興福寺所蔵、南円堂安置)

「無著・世親菩薩立像」は、5世紀のインドで活躍した学僧の兄弟がモデル。もちろん、運慶が実在の二人を見ることはない。だが、じっと見つめていると、静かに語り始めそうな、どことなくもの言いたげな眼差しを感じずにはいられない。この2体が “静”のイメージであるのに対し、「四天王立像」は“動”。多聞天、持国天、増長天、広目天のそれぞれが豊かな表情とポーズで、今にも動き出しそうだ。さまざまな角度からの照明で、四天王たちの存在感をより鮮明に浮かび上がらせている。さらに、それぞれの像の後ろ姿が見られるのも、博物館ならでは。

これらが果たして一堂に北円堂にあったのかはまだまだ研究の余地があるが、この静と動のコントラストは圧巻であり、この顔ぶれでの展示はまさに今、ここでしか見られない。

“生”を宿らせた巧みな表現

運慶が生み出す仏像は写実的で、見た者にその存在を感じさせてくれる。特に印象的なのは、目だ。「無著・世親菩薩立像」や和歌山・金剛峯寺所蔵の国宝「八大童子立像」(1197年ごろ)と対峙すると、その目にはまるで生きている人のような輝きが浮かんでくる。これには「玉眼」と呼ばれる技法を用いており、水晶をレンズのように薄く削り、瞳を描き入れて、仏像の内側から目の部分にはめている。よりリアルな目の表現になることから、運慶も早くから取り入れており、鎌倉時代以降には全国に広まっていった。

その一方で興味深いのは、運慶が全ての仏像で玉眼を用いていたわけではないという点だ。玉眼が広まるまでは、仏像の目は彫りで表現する「彫眼」だった。運慶は玉眼と彫眼を使い分けて目の表現をしているという。初期作など一部を除き、菩薩や如来を彫る際には彫眼が用いられることが多く、人間と菩薩や如来との違いを目で表現したともいえる。

運慶作「毘沙門天立像」(1186年、静岡・願成就院所蔵)

運慶作「毘沙門天立像」(1186年、静岡・願成就院所蔵)

目と共に注目したいのが、筋肉や骨格などの身体の表現。運慶のデビュー作といわれる奈良・円成寺所蔵の「大日如来坐像」(1176年、国宝)は、細かく彫られた立体的な髪の毛、身体に巻きつく衣のひだが美しく、写実的だ。

静岡・願成就院の「毘沙門天立像」(1186年、国宝)は、腰をひねった立ち姿、ほほの部分に見られる顔の表情筋がスマートながらもどこか凛々しい武将を思わせる。

康弁作「龍燈鬼立像」(1215年、奈良・興福寺所蔵)

康弁作「龍燈鬼立像」(1215年、奈良・興福寺所蔵)

それまで肉感のある表現はされなかったため、運慶のリアルな造形は当時かなり新鮮だったはずだ。こうした身体表現は運慶の息子らにも受け継がれ、康弁による「龍燈鬼立像」(1215年、国宝)は本展の中で筋肉表現の集大成ともいえる作品。後ろ姿も忘れずに見てほしい。

そもそも、なぜ運慶はリアルな表現を追求したのか? 大きくは時代の変化が影響しているだろう。乱世となって人々が仏に救いを求め、仏像に「仏は実在する」という存在感を求めた。そうした人々の要望を叶えるように、運慶は仏像の制作に取り組んだと考えられる。また、それまでの美しい仏像とはうって変わった表現ができたのも、貴族の時代から武士の時代へと移り変わっていく過渡期だったからこそ、伝統に縛られすぎずに自身の独創性を開花することができたのではないだろうか。

像内納入品に込められた思い

運慶は、ただ表面的にリアルな仏像を彫って終わり、ではなかった。人々の信仰心に応えるかのように、像内にもこだわり、仏像に魂を吹き込んだ。像内に金箔や漆が施されていたり、心月輪(しんがちりん)や舎利、五輪塔などが収められていたりするのも運慶仏の特徴の一つ。今回、像内納入品やX線CTでの調査結果もあわせて展示されている。像内を神聖な場所として捉え、見えないところも丁寧に仕上げた運慶は、正真正銘の仏師だといえよう。

国宝や重文でないものの方が僅かという、傑作ぞろいの『運慶』展。見るだけでもご利益がありそうな、ありがたい展示をお見逃しなく。

イベント情報
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」

会期:2017年9月26日(火)~11月26日(日)
会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
休館日:月曜日 ※ただし10月9日(月・祝)は開館
開館時間:午前9時30分~午後5時
※金曜・土曜および11月2日(木)は午後9時まで
※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般1600円(1400円/1300円)、大学生1200円(1000円/900円)、高校生900円(700円/600円)
※中学生以下無料
※ 障がい者とその介護者1名は無料(入館時に障がい者手帳などを提示)
※( )内は前売/20名以上の団体料金
展覧会公式サイト:http://unkei2017.jp/

 
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