東京カランコロンインタビュー ツインボーカルを形成する"根本的に合わない"2人の個性を解く
東京カランコロン・せんせい / いちろー 撮影=風間大洋
「murffin discs」内に発足した新レーベル「TALTO」への移籍と同時に“東京再起動プロジェクト”を掲げ、バンドをリスタートさせた東京カランコロン。シングル2作や東名阪ツアー、新曲お披露目ライブ――と心新たに展開した同プロジェクトを締め括るフルアルバム『東京カランコロン01』が先日リリースされた。男女混声のツインボーカルをバンドの核として再認識することにより、音も言葉もこれまでで最もシンプルなものに。再起動に懸ける凛とした決意がみずみずしく鳴る全13曲(一応、例の問題作含む)は、東京カランコロンがいよいよ、新たなバンドに生まれ変わったのだと高らかに宣言しているかのようである。その喜びを祝しつつ、今回SPICEではいちろー(Vo/Gt)とせんせい(Vo/key)にインタビューを敢行。今となってはメンバー全員同じ方向を向いているが、元々はそれぞれソロ活動をしていたというこの二人、互いの意思をぶつけ合うようなこともきっとあったのでは。二つの個性はいったい、どのようにして交わるようになったのだろうか。正反対のまま同じ夢を目指し続ける、ツインボーカルの歪な輝きに迫る。
――2016年4月の日比谷野外音楽堂でのワンマンはあの時点での集大成的な内容でしたが、あれ以降、メンバーみんなで話し合いをする機会が多かったそうですね。
いちろー:はい。僕が新しいことをどんどん取り入れていくのが好きだったので、それまでは(CD)1枚ごとに「じゃあ次はどういうスタイルでやろうか」「次はこういうフェーズでいこう」みたいなふうにやってたんですけど、野音の前ぐらいの時期からずっと “東京カランコロンとはこういうものである”っていうスタンダードを作りたいって思ってて。どんどん変わっていくものじゃなくて、半永久的にやり続けられるような、聴いてる人が飽きなくて、自分たちでやってても飽きないようなスタンダードを作りたいよねって。
せんせい:本当にバンド結成したばっかりの人たちがやるような話し合いをしましたね。
いちろー:メンバー各々の音楽の趣味の話とか、「こういうのは好きだけど、こういうのはあんまりやりたくない」みたいな話とか。
――そもそもどういう経緯で「スタンダードを打ち出したい」と思うようになったんですか?
いちろー:エイベックスにいた時はまず「結果を出したい」っていうのがあったから、「こうやったらもっと大きいパイに届くんじゃないか」みたいな感じで色々と実験もチャレンジもしてきたんですけど、そうしていくなかで、バンドがどんどん引き算できないような状態になっていって。「これをやってみよう」「あれもやってみよう」って服をどんどん重ね着して、自分たちでも今何を着てるんだかよく分からない状態になってたから、それを一旦フラットな状態に戻すべきじゃないかっていうのは、何となくメンバーみんな感じてたんですよ。
せんせい: 「こういうのもできるからやっちゃえ」っていう感じで器用貧乏になっていって、要らんものがいろいろまとわりついていって。それも楽しかったし、「それでもカランコロンや」って自分たちは思ってたから、それでずーっとやってきたけど、じゃあそこに自分たちの意思があったのか?っていう話で。その時その時の感覚で動いちゃってたんですよね。だから、周りだけはみんな一緒やけど、実は根っこで感じてることの方向が違ってきてた。
――それで今、この『東京カランコロン01』を通して “ツインボーカルであること”を改めてバンドのスタンダードとして提示していますよね。でも『noon/moon』(2016年1月リリースの4thアルバム)は、“歌盤”と“遊び盤”に分かれていた作品だったじゃないですか。そういうふうに、今までは「歌と演奏の遊び心、両方あってこそカランコロン」という温度感だったと思うんですけど、歌の方に絞ることにしたのはなぜでしょうか。
いちろー:うーん…………どうしてですかね?
せんせい:何でやろ。でも、 「演奏が遊んでる方がカランコロンっぽい」っていうのも捨てたわけではなくて、何か、「そんなことよりも一番大事なのは」っていう感じなんだと思います。例えば、私が鍵盤を弾いて歌を唄う、だから鍵盤も歌もどっちも大事です。でも、その上で「一番見せたいのはどっちなの?」っていう。そういう話し合いを、深く深く、何時間も何日もかけてしてきたんですよ。そこで共通して「やっぱり歌じゃない?」っていうところに落ち着いたんです。
――正直、デビュー当時はカランコロンのような編成のバンドは珍しかったかもしれないですけど、今はたくさん出てきてるじゃないですか、男女ツインボーカルのバンドって。それなのに改めてそこに焦点を当てるのって、結構勇気の要ることだと思うんですよ。
いちろー:僕も正直、獣道だなとは思ってます。やっぱり男の人が歌った方が女の子のファンがつくし、女の人が歌った方が男の人のファンがつくっていうことも分かってるし。実際、エイベックスにいた時も「いちろーボーカルだったら、こういう年代のこういう人にもっと刺さるんじゃない?」「せんせいだったらこういうところにもっと広がっていけるんじゃない?」みたいに期待されてたんですよ。でも何というか……ちゃんとお互いのプレイヤビリティに自信があるからこそ“いちろー盤”“せんせい盤”みたいなお互いの個性を引き出す企画もやったし、「女の子が歌ってたらちょっとオシャレじゃない?」みたいなテンションでツインボーカルやってるわけじゃないんだぞ!っていうふうに、自分たちの中ではずっと思ってて。二人が歌って二つの声が鳴ってるっていう、ミラクルみたいなものを信じたいんですよね。それがマーケット的には獣道だと分かってたとしても。
――今その言葉を聞くことができてとても嬉しいです。というのもデビュー当時からずっと、カランコロンには煙に巻かれてる感じがあったんですよ。だってまず、メンバー名からして――
いちろー:確かに煙に巻いてる感ありますよね(笑)。
――はい(笑)。今はそうじゃないと思うんですけど、以前は「東京カランコロンってこういうバンドですよね」って括られるのが嫌でしたか?
いちろー:あ~、嫌でしたね。よく“おもちゃ箱をひっくり返したような”っていうふうに言われてたんですけど、どっかのテキストでそのフレーズが出てくると「出た出た(笑)」みたいな感じで言ってましたし。
せんせい:うん、「また言うてる(笑)」みたいな感じで思ってた。あと、「カランコロンって〇〇みたいなバンドでしょ?」っていうふうに言い表せないバンドなんやろうなってずっと思ってました。
いちろー:元々僕は、どこかのシーンにどっぷり浸かってる感じが嫌だったんですよ。だからある意味、自分たちでどんどん居場所をなくしていったというか。
東京カランコロン・せんせい 撮影=風間大洋
――なるほど。ちょっとそこに関係する話なんですけど、いちろーさん、『5人のエンターテイナー』(2013年11月リリースの2ndアルバム)のリリース直前のブログで「ノレるだけのバンドではありたくない、でも聴いた人、見た人が思わずココロを、カラダを動かして、手を上げて、声を出してしまう、そんなバンドでありたい」っていうふうに書いてたんですよ。それがすごく印象に残ってて。
いちろー:うわ~、ディグってきましたね、俺の過去を!
――この一節も象徴的ですけど、そもそもいちろーさんの歌詞って「一人でいたくないし、愛してほしい。だけど他人に簡単に知った顔されたくない」みたいな性格のねじれが出ちゃってるじゃないですか。
いちろー:ははははは! 3センテンスで俺を完全に表現された!
――(笑)。だからカランコロンって、ややこしいフレーズや難解なアレンジにこだわりを持つ方向に進んでいったと思うんですけど、そもそもそのねじれってどこ由来なのかな、と。
いちろー:うーん……。多分、中高で全然モテなかったことと、仲の良かった友達の集団が急に自分を無視し始めたっていう二つの事項が、今の俺の状態を作ってるような気がしますね。
――詳細を聞かせていただくことは可能ですか?
せんせい:ふふふ。何か面白いな。
いちろー:いや、怖えよ(笑)。まあ、モテなかったことに関してはそれ以上でも以下でもないんですけど……それで「バンドやったらモテるんじゃない?」と思って、中学校の終わりぐらいにギターを始めたんですよ。そしたら元々バンドをやってたイケイケグループの人たちが「あいつバンドやるとか言ってるよ。調子乗ってんじゃない?」みたいな感じで――まあ本当の理由は分からないんですけど――ある時から急に居ないものとされて。で、イケイケグループの人たちがリア充であんまり勉強してないところを、(自分は)中3の途中からめっちゃ勉強して、進学コースの方の高校に行って、作戦通り別々の学校に進学することができたんですよ。だから高校はわりと楽しく暮らしてたんですけど……やっぱりモテはしなかったですね。でも何か分からないけど、あんまり学校面白くないな~とは思ってて、学校辞めたいな~と。結局辞めはしなかったんですけど、それで学校休んで家で曲作ったりしてましたね。
――その頃ってどういうこと歌ってたんですか?
いちろー:……めっちゃ憶えてる一節言っていいですか? <生きる意味を探すってことそのものが 僕にとって生きる意味であることに気づいたんだ>。
――何回捻ってるんですか(笑)。その歪みがカランコロンに影響してるんですよ。
いちろー:あ~(笑)。元々カランコロンって、僕がビートルズが好きだったので、みんなで歌えて、音楽的に実験的なバンドがやりたいと思って始めたバンドだったんですよ。バンドやるならそのぐらい、みんなのアイデアが溢れかえってるみたいなバンドをやりたくて。それに何か、カランコロンの立ち位置として、面白いこととかちょっと複雑なことを“やらねばならぬ”みたいに思ってた部分が結構あったんですけど――
――それで、ああいうことをブログに書いたりもして。
いちろー:いや~、そんなこと書いてたんですねえ。まあ『5人のエンターテイナー』の時は俺が暗かったので、そういう気分だったというか。
せんせい:そう。“気分”やったんですよね。気分屋になっちゃってたというか。もちろんそういうふうな曲や歌詞も嘘じゃなかったし、その時はそれが自分の中では正解やと思ってたんですけど、何かそれって自己満に近い表現のしかただったんじゃないかなって。今思うと。
――その時期はバンド的にはどういうことで悩んでたんですか?
いちろー:めっちゃ頑張ってるのに報われないなって思ってました。メジャーデビューしてから10倍ぐらい忙しくなっちゃったんですよ。
せんせい:その頃が一番忙しかったね。
――2013年はアルバム2枚、シングル1枚をリリースしてますからね。さらにツアーもあって。
いちろー:その頃は自分の中の目標値を異様に高くして、自分を追い詰める癖があったんですよ。多分甘く見てたんでしょうね、バンド界を。「これだけやれば結果出るっしょ」みたいに思ってた自分がいて。そこに到達しないことへの不満とストレスで追い詰められていった感じがありますね。それで「自分でバンドを動かすんだ」って、脳みそがさらにオーバーヒートしていっちゃったところもあって。
――そういう時期にお二人で話し合う時間とかとれなかったんですか?
いちろー:なかったですね。もう若干「倒れたらみんな分かるでしょ」って思ってたんですけど、意外と俺、身体は丈夫だから倒れなかった。はっはっは!
せんせい:そう。結構みんな気づけへんもんなんやって思ったのはすっごい憶えてる。いちろーさんがしんどい思いをしてることを誰も分かってくれないことが、私にはめちゃくちゃつらかったし、周りに対してすっごい腹がたってた。でも私といちろーさんは根本的に合わないから、そこで私が出ていってもケンカになるだけやし、かといって「じゃあ誰に助けを求めればいいの?」っていう感じだったから、結局「いちろーさん、大丈夫?」っていうのを曲に書いたんですよ。本人に言うんじゃなくって。
――アルバムごとのコンセプトも影響してはいると思うんですけど、『UTUTU』(2015年1月リリースの3rdアルバム)以降、せんせいの書く歌詞のリアリティが増したのが当時気になってました。
せんせい:あ、でも『5人のエンターテイナー』ぐらいから、東京カランコロンのせんせいが意思を持ち始めたんですよ。あの頃、「自分の思ってることを書きたい」っていうふうに強く思うようになって。
東京カランコロン・せんせい 撮影=風間大洋
――逆に言うと、それまでは求められる役割に合わせに行ってたんですかね?
せんせい:それまでは何か、ピエロというか、人形やった感じ? フィクションのように書く曲もあるのでモノにもよるんですけど、「東京カランコロンのせんせいやったらこうかもな」っていうふうに作ってた気がします。「せんせいやったら、女々しいことは言わんよな」とか「せんせいやったら、攻撃的なことは歌わないよね」とか。「かわいらしくて明るいのがせんせい」みたいにどんどんなっていきましたね。周りからも、自分からも。
いちろー:確かに『5人のエンターテイナー』の頃まではせんせいが意見を言うこと自体があんまりなかったんですけど、『UTUTU』ぐらいからせんせいがすごく意見を言うようになって。それで(いちろーとせんせいが)揉めるようになったんですよ。そこで初めて「あ、こんなに意見が食い違うんだ」って気づいて。根本的に合わないんですよね、思考が。
せんせい:うん。
――それで何で一緒にバンドやってるのか、すごく不思議なんですけど(笑)。
いちろー:ははは、確かに! そうやって食い違いがどんどんデカくなって、去年ぐらいにもう折り合いがつかなくなって。そうなった時に残りの3人のメンバーが意見を出すようになったんですよ。それで何回も話し合って、今ではみんなが「ああ、そうだよなあ」って納得できるようにもなったし、同じ方向を向けるようにもなりましたね。例えば、2対3で意見が割れたとしても「うちのメンバーが3人もこう言ってるんだから、それを信じて1回やってみよう」みたいな感じになるし、それで上手くいかなければ「じゃあ2人だった方でやってみよう」っていうふうにもできるし。それはみんなが納得した上での選択になるので。
――そうして今作に至るわけですね。いや、「根本的に合わない」と自覚している人同士って、もう互いの意思をぶつけ合うだけですごくエネルギーを消費するじゃないですか。変な言い方になっちゃいますけど、よくそれを乗り越えられたなあと思って。例えばせんせいは、「大丈夫だよ」「それでいいんだよ」と聴き手に寄り添うように曲を書く人じゃないですか。
せんせい:そうですね。私の書く曲には、“救いたい誰か”が絶対そこにいる気がします。それは友達だったり、もう会えなくなった人だったり、あとはお客さんだったりするんですけど――何か、インストアイベントでも握手会でもそうですけど、ライブとかしとったらみんなすっごい愛をくれるんですよね。物でもそうやし、笑顔、表情、身体全体で。だから自分の中に貰った分の愛が溜まってる感覚があって、貰ったものをちゃんと恩返しをしたいっていう気持ちが大きいんです。それはずーっと変わらないですね。
――慈愛に満ちた人ですよね。
せんせい:うーん……多分、私は根っから明るい性格なんだと思うんですよ。自分ではそこまで分からへんけど、マネージャーからも「せんせいはだいたいいつもポジティブやね」って言われるぐらいやから。
いちろー:俺は逆に、お客さんを救おうと思って書いたことは一度もないですからね。俺はやっぱり自分を鼓舞するために作ってるんですよ、ポジティブなことを書いてる曲って。それに、元々ポップスが好きで明るい曲を作りたいっていう。
――何というか、光の国から来た人と闇の国から来た人みたいなレベルで人間性が違うじゃないですか。
いちろー:確かに(笑)。でもちょっとおもろいなと思ったのが、全く違う思考回路なのに、結果的に二人とも “ポジティブなポップス”っていう同じ方向に向かっていってるんだなって。
――そうですね。
いちろー:せんせいと俺だけじゃなくて、5人みんな結構考え方が違うんですよ。でも、掘り下げていけばメンバー全員考え方が全く一緒なんてことはないと思うから、それは多分他のバンドもそうなんじゃないんですかね? そんななかで「こういうものを作りたい」っていう意識をみんなで共有して、「東京カランコロンはこっちを向いてやっていこうよ」っていう方向をみんなで認識できてるのが今なんです。もう「あそこだよね」っていうのを見据えながらやれてるというか。
せんせい:だから今は気分とかじゃなくて“カランコロンとは何なのか”っていうことをすごく考えながら曲を書けてるんですよ。どの曲も東京カランコロンいうか、今までで一番灰汁の無い、透明度の高いアルバムになったんかなって思ってます。
いちろー:自分たち的には、何か生まれ変わったような一枚じゃないかなと思ってますね。ライブも去年と比べたら全く別物になってるので、ちょっと一回観てほしい気持ちがありますし。ゼロスタートの気持ちで、「我々はこういう者です」と自己紹介するようなライブができてると思ってるので。
せんせい:絶対楽しませる自信があるので、安心して来てもらって大丈夫です。
――おお、頼もしいですね。
いちろー:自分たちとしてもちゃんと前に進んでる感じがあるから、やっぱり自信もあるんですよね。だからせんせいの言うこともその通りというか、そういうふうに今、うちのメンバーはみんな思ってると思いますよ。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=風間大洋
発売中
『東京カランコロン01』
価格:¥3,000(税込)
収録曲
1.トーキョーダイブ
2.どういたしまして
3.ラブソング
4.ハッピーエンディング
5.AWESOME FRIDAYS
6.321で
7.ビビディバビディ
8.シークレットランド
9.かさぶた
10.アンサンブル
11.つよがリズム
12.走り出せロンリー
ボーナストラック 中華そば
2017年11月5日(日)北海道 DUCE(ワンマンライブ)
2017年11月11日(土)福岡県 INSA(ワンマンライブ)
2017年11月12日(日)広島県 CAVE-BE(ワンマンライブ)
2017年11月18日(土)香川県 DIME(w/アカシック)
2017年11月19日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO(ワンマンライブ)
2017年11月23日(木・祝)愛知県 APOLLO BASE(ワンマンライブ)
2017年11月28日(火)石川県 vanvanV4(w/モーモールルギャバン)
2017年11月29日(水)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2(w/ONIGAWARA)
2017年12月6日(水)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE(w/ONIGAWARA)
2017年12月9日(土)東京都 WWW X(ワンマンライブ)